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  • date:2022.11.8
  • author:三木鞠花

大学ミュージアムの役割とは?~学内外の橋渡しとなる慶應義塾ミュージアム・コモンズの取り組み

9月2日に慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)で開催されたKeMCo Talk 3「#ちょっとKeMCoまで——大学ミュージアムってどんなところ?」に参加して、大学ミュージアムという存在についてお話をうかがいました。登壇者は、慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師の本間友先生、松谷芙美先生、所員の長谷川紫穂さん、学芸補の山田桂子さん。登壇者と距離が近くて親しみやすい雰囲気のなかで進められました。

いざ、KeMCoについて学びます! 配布された付箋にKeMCoに関する質問を書いて休憩時間に提出し、講演会の後半に質疑応答の時間が設けられました

いざ、KeMCoについて学びます! 配布された付箋にKeMCoに関する質問を書いて休憩時間に提出し、講演会の後半に質疑応答の時間が設けられました

 

大学ミュージアムと美術館の違いは収蔵品の収集方法にあり!

まずは、イベントのタイトルの通り、「大学ミュージアムとはどんなところなのか」をテーマに、深掘りしていきます。今回のイベントは、「大学ミュージアムという存在が一般にはあまり知られていないのではないか」という着眼点から企画されたそうですが、なぜ大学ミュージアムの印象は漠然としているのでしょうか?

 

※以降「」はすべて登壇者のコメント

「普通の美術館では、もっと作品の印象が強いのではないでしょうか? 美術館の顔になるような作品・コレクションがある。あの作品を見たいからあの美術館に行こう! と考えますよね。しかし、大学ミュージアムは、コレクションが前面に出ないのが特徴なので、普通の美術館と同じ捉え方をすると、わかりにくくなってしまうのです」

 

たしかに、大学ミュージアムがどのような作品を所蔵しているのか、あまり想像できないですね。そもそも、大学ミュージアムの所蔵品って、どういう経緯で所蔵品になるのでしょうか。

 

「一般的に、美術館にはコレクション・ポリシーがあって、“こういうコレクションを築いていきます”という方針のもと、購入や寄贈の受け入れを検討していきます。でも、大学ミュージアムには、基本的にコレクション・ポリシーがないことが多いです。大学ミュージアムの所蔵品は、大学に多岐にわたる専門領域があるなかで、研究や教育に必要ということで集められたものや、卒業生からの寄贈など、人とのつながりによって蓄積されたものなのです」

 

コレクション・ポリシーの有無は、美術館と大学ミュージアムの大きな違いの一つですね。ここで、大学ミュージアムの課題も浮き彫りになるわけです––受動的に集まったコレクションをどう展示するか?

 

誰かがポリシーをもって集めたものではない、大学ミュージアムの収蔵品をどう見せていくのか、どう新しい文脈を作って展示していくのか。この観点から企画に取り組んでいるのは、大学ミュージアムの特徴でもあると感じました。

トーク会場はエントランスからすぐのロビー。入りやすさ、親しみやすさへの工夫が見られます

トーク会場はエントランスからすぐのロビー。入りやすさ、親しみやすさへの工夫が見られます

 

大学ミュージアムではその大学の研究・教育のあり方やこれまでの歩みがわかる!

普通のミュージアムと違ってコレクション・ポリシーがなく、収蔵品は研究・教育活動を通して集まってきたとのことですが、では、このような収蔵品をもつ大学ミュージアムの特色は、どのような点なのでしょうか。

 

「大学ミュージアムに行くと、その大学で今行われているさまざまな研究や教育のあり方、あるいは、それまでその大学がどういう活動をしてきたのかわかります」

 

ある研究を他学科の教員や学生に伝え、さらに一般のお客さんにも伝えるということですね。まさに学内と学外の両方における橋渡しのような存在となっているように感じました。

 

「展覧会のプログラムは2〜3年前に決める美術館が多いですが、KeMCoでは大学内の動きを見て、柔軟に企画しています。決めすぎないことで、旬のトピックを扱うことができるんです」

 

大学内の旬のテーマを選定するという点においても、その大学における研究の状況が反映されていますね。ただ作品を鑑賞するだけでなく、その大学における研究の動向も感じられるのが大学ミュージアム。新たな視点を学んだので、これから大学ミュージアムを訪れる際にも注目してみたいと思います!

 

「大学だから研究者がいる、学生がいる。語り口をわかりやすくして、若い世代に向けて研究者の考えなどを伝えるよう心がけています」

 

とはいえ、大学の研究分野のなかには、どうしても難しいイメージを抱いてしまう分野もあります。企画展を開催することで、そういった分野を一般向けにわかりやすく伝えることもしているのだとか。こういった工夫や配慮があるのも、大学ミュージアムならではだと感じました。

 

KeMCoが学内の横のつながりを深め、さらに地域との絆も深めていく

KeMCoの新設時の課題・懸念点として、「KeMCoの活動が見えにくい、伝わりにくい」点が挙がっていたそう。学内でさえもKeMCoが何を目指して、どのようなことに取り組んでいるのかなかなかわかってもらえず、情報発信の難しさを感じたそうです。

 

「学内でもお互いに何をしているか全然知らない。慶應の中でさえ存在しているディスコミュニケーションをなんとかしたいというのも、モチベーションになりました」

 

そのため、一般に向けた情報発信を目指しつつ、学内のいろいろな部署との関わりを重視してイベントを企画することによって、学内のコミュニケーション強化にも努めているとのこと。たしかに大学で行われている研究は幅が広くて、自分の専門外のことについてはなかなか知る機会や興味をもつきっかけがないように思います。

それぞれが和気あいあいとKeMCoの取り組みについて語ってくれました

それぞれが和気あいあいとKeMCoの取り組みについて語ってくれました

 

KeMCoでは、開設から1年半で5〜6の企画展を開催しましたが、これまでの展覧会では、すべて大学の収蔵品(慶應の一貫校を含む)を中心に展示してきました。展覧会以外にも、先生やデザイナーと組んでワークショップなどの企画も行っています。KeMCoオリジナルグッズを学生が考えるワークショップや、各研究部門が持っている文化財を写真に撮るイベントなど、ユニークなイベントが目白押しです。いずれもKeMCo外の方たちと協力する貴重な機会となっています。

 

こういった企画に欠かせないのが、学生スタッフから構成されるKeMCo Members(KeNCoM)の存在で、全学部を対象に募集して集まったメンバーが、ポップに楽しめる体験コーナーを作るなど、企画展ごとに活躍しているそう。学生も企画者として参加することによって、専門性と一般向けのバランスを、調節することに成功したのですね。

 

また、企画展「精読八景」では、8つの研究分野(研究所や専攻など)からの展示によって構成されていました。異なる研究室の先生方が、一緒に作品を出すことで、自然とお互いの研究の進捗を話すように! 学内のコミュニケーションの場になっていることを実感し、これを地域にも広げていきたいと感じたそうです。

 

「慶應には一貫校がたくさんあるので、大学以外の教育機関と一緒に活動することが可能です。人と人との交流が広がる場となっていて、このような交流の場こそが、コモンズという名前の由来にもなっています。ミュージアムには作品があって、その作品を中心に話題が広がることもあります。人間関係の難しさを作品が中和してくれるように思います」

 

休憩を挟んで、後半は質疑応答の時間です。参加者からさまざまな質問が寄せられ、まさにKeMCoの活動を一般に知ってもらう場となっていました。今後どのようなイベントを企画していきたいですか?という質問が複数人から挙がりました。

 

「地元コミュニティとの関わりを深めていきたいです。例えば、こぢんまりとした、慶應の歴史を生かしたイベントで、大学の授業とも展覧会とも違うものを企画したい。展示作品を囲んで先生の話を聞く夕べのような、少人数でじっくりと濃密な時間を過ごせるようなイベント。親密な会話をすることは、コモンズという名の目的でもあります。一方的に発信するのではなく、人と人との交流を大切にしたいと思っています」

KeMCoの案内表示は、よく見ると、“閉じていない”独特なフォント。みんなが入れるオープンな場所であるようにという願いが、こんなところにも込められています

KeMCoの案内表示は、よく見ると、“閉じていない”独特なフォント。みんなが入れるオープンな場所であるようにという願いが、こんなところにも込められています

 

KeMCoは誰でも入れる交流の場だと知ってもらいたい

講演会終了後、本間先生に改めてお話をうかがいました。今回のイベントは、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

 

「地域の方にKeMCoを知ってもらうにはどうしたらいいかというのをずっと考えていました。慶應の教職員・学生しか入れない場所だと思っていたという声もあって、入り口のところに『お入りください』と書くなど、掲示では伝えているつもりでいたのですが、やっぱりそれだけでは不十分だと思いました。こういうトークイベントを開催して伝えたほうがいいなと思い、企画しました」

KeMCoの入り口には「ようこそ、KeMCoへ。どうぞお入りください」の文字が

KeMCoの入り口には「ようこそ、KeMCoへ。どうぞお入りください」の文字が

 

大学ミュージアムって思っていたよりオープンな場所なんだ! と知ってもらえたらいいですよね。今日のイベントは、思っていたより距離も近いですし、そういった意味でも親しみやすいですね。

 

「場所にも少し工夫があります。KeMCoには教室や会議室もあるので、そちらで開催してもいいのではないかとも思いましたが、やっぱり入り口のほうが入ってきやすいかな? と思ってこちらにしました。あとは、スライドを使って活動紹介などをしてもよかったのですが、向かい合って話をした方が距離感が縮まるのではないかと思い、この形にしました」

専任講師の本間先生。専任講師、特任助教ほか、5名の現場スタッフと事務スタッフ、その他に学生スタッフがいます

専任講師の本間先生。専任講師、特任助教ほか、5名の現場スタッフと事務スタッフ、その他に学生スタッフがいます

 

今後の企画でおすすめイベントは?

 

「2023年1月に、新年の干支であるうさぎの展示を開催することになっています。泉鏡花は、お母さんからもらったうさぎの置物をとても大切にしていて、たくさんうさぎを集めていました。この鏡花のうさぎコレクションと、他にも学内にあるうさぎに関するものを展示します」

 

うさぎだけで一つの展覧会ができるとは! 慶應義塾の収蔵品の幅の広さと豊富さに驚きました。

 

「これから秋冬は展覧会が中心になります。KeMCoを建てるときに行われた発掘調査で弥生時代の竪穴式住居跡が出土したのですが、2023年3月には、その発掘の調査結果を少し工夫した視点で紹介する展覧会も予定しています」

 

地域の方たちも興味を持ちそうですね。

 

「担当の先生方とは、出土した置物や遺構を中心にどんな展示をつくるか相談しています。どこからが遺物? 昨日、私が捨てたカップ麺も遺物になるの? 遺物って何?! を考える展覧会にもできたらと思っています。現代美術のアーティストともコラボレーションしたいです」

 

イベントを通して、大学ミュージアムと普通の美術館の違いや大学ミュージアムの特徴、そしてどのような役割を果たしうるのか、全体的に理解を深めることができました。具体的にKeMCoの取り組みや今後の抱負も聞くことができて、大学ミュージアムの今後の可能性に期待が膨らみます! 大学ミュージアムは、大学の研究に興味をもつきっかけや地域の方たちとの交流の糸口になるよう、学内外の橋渡しとして重要な役割を担っているのです。

 

10月17日からは「大山エンリコイサム Altered Dimension」展を開催。大学ミュージアムをぜひご体感ください!

 

「大山エンリコイサム Altered Dimension」

会期:2022年10月17日(月)~12月16日(金)

月火水= 11:00–17:00、木金= 11:00–19:00 [土日祝休館]

※特別開館|11月5日(土)、12月3日(土)11:00–18:00

※臨時休館|11月7日(月)、12月5日(月)

 https://kemco.keio.ac.jp/all-post/20220820/

「Altered Dimension」展のための試作 ©️Enrico Isamu Oyama Photo ©️Katsura Muramatsu (Calo works)

「Altered Dimension」展のための試作
©️Enrico Isamu Oyama
Photo ©️Katsura Muramatsu (Calo works)

FFIGURATI #314, 2020  ©Enrico Isamu Oyama Photo ©Shu Nakagawa

FFIGURATI #314, 2020
©Enrico Isamu Oyama
Photo ©Shu Nakagawa

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