4月1日、快晴。エイプリルフールであり、多くの大学で入学式が挙行される日だ。今年は、前々から評判の近畿大学の式にお邪魔させてもらうことに。近大OBであるつんく♂さんプロデュースでの5年目。よく言われている「ド派手」というだけじゃなかった、感動の式の模様をレポートする。
圧がすごい。7,200人の入学式
関西にある12学部と短大や大学院の入学生が対象の入学式は、東大阪キャンパスにある「近畿大学記念会館」が会場。その周辺、最寄りの長瀬駅、八戸ノ里駅からの道は、スーツ姿の男女であふれる(わりと、大げさでなく)。
保護者らしき方もたくさん見かけた。しかし、保護者はキャンパス内の別室でビデオ列席。部屋はいくつか用意されていたが、なかには満席の札が出ているところも。今年の新入生約7,200人。ボリューム感が、会場に着く前からかなり放出されている。
さらに、高揚感を覚えてしまったのが、8,000人収容の会場に足を踏み入れた時だ。薄暗い内部は、まるでライブ会場。ステージ上には、たぶん光を当てると変化するんだと思う、クリアな感じのオブジェが飾られ、背景には2つのフロントスクリーン。左右にはLEDの大モニターが2つ。完全にライブ前気分に陥る。暗いなかで行われる入学式なんて、生まれて初めてだ。
アイドルパフォーマンスでスタート
アリーナ席から階段席へ、会場は、徐々に新入生で満杯になった。8割方、入ったか、というタイミングで、ステージ上に漫才コンビ・霜降り明星が登場。「スプーンに映した小栗旬」の粗品さんとボケ担当で近大文芸学部OBせいやさんが、得意の近大ネタを中心に会場を盛り上げる。これが前座。
ワクワクと笑顔でいっぱいになる新入生たち
カウントダウンとともに開会のアナウンスで、いよいよ入学式がスタート。なんと、トップはKINDAI GIRLSのパフォーマンスだ。KINDAI GIRLSとは、2014年から始動した入学式のために結成される学生パフォーマンスユニットで、入学式につんく♂さんが作詞・作曲したオリジナルの楽曲を歌って踊る。
新入生も含めて25人のメンバーが在籍するKINDAI GIRLS2018
今年の楽曲は、「Free Your Imagination!」。メロディも歌詞もさすがはつんく♂さんというか、帰りには口ずさんでしまっているぐらいのポップさ加減。でいながら、歌詞は入学式のテーマをド直球に表現したものだ。
夢って止まらない
誰だって無限大
自信がなけりゃ つければいいじゃん
ればいいじゃん
地球の未来は
僕らの手にある
Let’s free your imagination! Yeah
歌詞をよく聴いてみると、学生アイドルユニットが超頑張りを見せるパフォーマンスは、やっぱりこの入学式のスタートチューンにふさわしいんだなと、妙に納得してしまう。ちなみに、入学式当日、KINDAI GIRLSの初CDがリリースされ、会場ではGIRLSによる手売りもやっていた。中身は、「Free Your Imagination!」をはじめ過去のも併せた入学式オリジナルソングで、タワーレコードやAmazonでも手に入る。
先生はアカデミックガウン姿
これ以降、プログラムは続いていくのだが、とにかくどこを切っても、いわゆる入学式「らしくない」。司会は近大卒業生の“あの”DJマーキーさんと、高知さんさんテレビアナウンサーの石井愛子さん。ご両人はやはりプロ、よくマイクに乗る声でエンタメな雰囲気を盛り上げていく。「これは入学式なのか」と途中で何度も思うのは、この声のせいでもある。
もちろん、学長式辞をはじめとする、らしいプログラムもあるのだが、これも趣向がある。式辞で登場した学長・細井美彦先生は、シックなアカデミックガウンで正装。学部長の先生たちも、紹介されると同じくアカデミックガウン姿で現れて、何かしらのウェルカムポーズをしてからひな壇を降りてくる。「Welcome! よく来たね」と手を広げて新入生を迎えるその気持ちが伝わるようで、その道では素人の先生方なのに見事なパフォーマンスになっている。
シックなアカデミックガウンで学長・細井美彦先生が登壇
学生代表の堂々としたパフォーマンス
受験者からの人気が急上昇、2018年度入試で5年連続志願者数全国私大トップを記録した近畿大学ならではの演目もある。「今年の入試を振り返ってみましょう」というアナウンスで、各学部の入試倍率がスクリーンに映し出される。カウントアップ式にだんだんと倍率の高い学部へと順に発表され、そのたびに拍手と歓声があがる。いわば「きみたちはこんなに厳しい競争を乗り越えてきた」と贈られるエールに、新入生の心が反応していく。
在学生たちの歓迎も、一味違った。在学生代表として登場した学友会連合会委員長・田中祐弥さんのスピーチは、ヘッドマイクをつけてステージを縦横無尽に動き回るスーパープレゼンテーション。ビデオ映像を交えて、大学生活の充実度や楽しさ、キャンパス施設の便利さなどがたっぷり紹介された。また、在学中に全員が長期留学を経験するのが売りの国際学部の、ただ今留学中の学生たちとも生中継でつないだ。
Apple新製品発表か、TEDかという感じの、在学生代表・田中さんのスピーチ
アメリカと台湾をつないだライブ中継。それぞれ仲良しの留学生友だちと登場
これらの歓迎に応えた入学生総代・林幸穂さんの宣誓も堂々としたもの。彼女は、合格が決まった後に近大で自分がやりたいことをSNSで発信し、それが大学関係者の目に留まって、総代に選ばれたのだとか。
「化粧品の天然成分開発に関わり、海外でも活躍したい」と夢を語る農学部の林さん
スモークにキャノン砲に紙吹雪
中盤を過ぎると、フィナーレに向かって一気に加速。ゲストのBeverlyさんの曲披露の後につんく♂さんの祝辞、続いて各クラブの在校生とKINDAI GIRLSが登場して、つんく♂さんのギターに合わせて校歌斉唱。
「笑われるほどでっかい目標を立てよう!」と祝辞を贈るつんく♂さん
客席の新入生たちが立ち上がり、肩を組んで校歌を歌う
そして、新入生7,200人が紙飛行機を飛ばすという最後のパフォーマンス。いつのまにか桜の花びらの形をした紙吹雪が一斉に舞い始め、さらにキャノン砲がドッカーンと打たれるのと同時にジェットスモークが噴出、空からはキラキラの紙テープがヒラヒラと舞い降りてきた。いやこれが入学式なら、やっぱり、うれしいんじゃないか。
カウントダウンに合わせ全員が紙飛行機を思いっきり飛ばす
つんく♂さんは、式終了後のインタビューで「最高のエンターテイメントになった」と感想を述べ、会場から出てきた新入生たちは顔を紅潮させて「楽しかった」と話していた。入学式で新入生を笑顔にするにはどうしたらいいのか、徹底的に追求したらこうなるのだろう。このイベントの裏にどれだけの人が動いたのか。YouTubeにアップされた「平成30年度近畿大学入学式ダイジェスト」によると、バックステージ設営に動員したスタッフの数、なんと、1,200人! ちなみに、紙吹雪は4㎏とか。
桜の花びらの形をした大量の花吹雪が新入生の前途を祝う
前座から2時間超の式だったが、長さを感じさせない。入学生たちにとっては、これが人生に一回きりの大切なメモリアルだということを気づかせてもらえたはず。それはやはりハッピーなことではないか。圧倒的な同期のボリュームが頼もしかったかもしれないし、先輩たちのパフォーマンスにつながりの温かさを感じたかもしれない。粛々と進行する儀礼的な入学式が、新入生の心に響くんか? 主役は彼らだ。常識をぶっこわせ、これが近大じゃ! そんな声が聞こえた気がした、ガツンと来る入学式だった。