忍びの者と書いて忍者。いやもう、この単語だけでも昂奮してきますよね。忍者といえば、甲賀流忍者を擁する(擁する?)滋賀出身の自分でさえも先に思い浮かべるのが、伊賀流忍者の里、三重県伊賀市です(ごめんなさい…)。
そんな忍者タウンで2012年度から開かれているのが、「忍者・忍術学講座」なる公開講座。なんとソソる講座名でしょう。主催は、三重大学と上野商工会議所、伊賀市が連携した「伊賀連携フィールド」の忍者文化協議会。伊賀の「忍者文化」に着目した地域活性化の取り組みの一環として始まり、月に1回、市民講座として開催されてきました。しかしコロナ禍により、2020年2月を最後に一時中断。2020年6月からはYouTube配信となっていましたが、この4月に会場開催が復活! YouTubeでの公開も継続され(バンザイ!)、世界中どこからでも無料で受講できます。
▼アーカイブも大充実!「忍者・忍術学講座」のページ
https://www.human.mie-u.ac.jp/kenkyu/ken-prj/iga/kouza.html
今年度前期のテーマは「忍者学研究の展開」。4月から9月にかけて全6回、定員40人の予約制で行われます。4月23日に行われた第1回は、三重大人文学部の山田雄司教授による「米国議会図書館所蔵史料からわかった忍者」。翌週に公開された動画をウキウキで視聴したので、その内容を講座で使われたスライドともに、ちょっぴりご紹介します!
米国議会図書館には、日本より日本の忍術書が豊富にある!?
写真はワシントンD.C.にある米国議会図書館。
米国議会図書館は、蔵書数2,200万冊以上、所蔵資料の総点数1億7,000万点以上を誇る世界最大の図書館で、日本語の蔵書もなんと70万冊以上。明治以前の日本古典籍も4,800点余、15,000冊もあるそうです。第二次世界大戦中や戦後、アメリカが旧日本軍からが接収した史料も多く、そのなかには日本に現存しないものも少なくないんだとか。山田教授らはコロナ禍前の2019年8月に訪れ、忍術関係の史料を調査。そこで確認したものの一部を今回、紹介してくださいました。
まずフィーチャーしたのは、『武教全書正解』。17世紀後半の兵法家・山鹿素行(やまがそこう)が著した『武教全書』についての注釈書で、19世紀になってからまとめられたものです。将軍の選び方や、武者に必要な素養などなどを解説するなかに、「斥候」や「用間」(今で言うスパイ?)といった、忍びにまつわる項目も……。複数の巻にわたり、そのいくつかは日本の図書館にもありますが、まとまって所蔵されているのは米国議会図書館だけなのだそうです。なんたること!
『武教全書正解』のなかでも、黄色の内容が米国議会図書館に所蔵されているもの。画像は巻九「斥候」の表紙で、真ん中に押されているのは陸軍士官学校図書印。
忍びの採用担当者必見! 理想の忍者像とは? お役立ち暗号情報も!
『武教全書正解』の巻十二「用間」では、忍びとは何ぞやから解説がされています。忍びは敵方の内部にまで入り込み、秘められたさまざまな情報を調査する難しい職務なので、どんな人を選ぶか、人選が非常に大事だと説いています。敵国に居住して内情を探るには、町人だの浪人だのに姿形を変える必要があるので、町人に扮するなら、町人の所作や行動など、すべて知ってなきゃいけない。だから知識が豊富で人格的にも優れていることが大切なのです。
さらに忍びにふさわしい人物は、「外愚にして内に辨才智恵ある者」だとキッパリ。
見るからに立派で優れている人だと敵が警戒しちゃうから、外見からは駄目そうな人だな~と思わせて、だけどその内実は優れていることが重要とのこと。運動神経も体力もいるけど筋骨隆々だと変装しにくいし、華奢で「大丈夫か?」と思われるぐらいの人がいい。なんなら卑しく見えるぐらいの人を選ぼう!と謳われていました。
また、密書を敵に取られてもバレないようにするための暗号の作り方も紹介。たとえば7人の仏、七仏を使うパターンなら、イロハニホヘトを毘婆尸仏(びばしぶつ)、チリヌルヲハカを尸葉仏(尸棄仏=しきぶつの漢字を間違えて書いちゃっているのもご愛敬!)に、相当させ、ロなら「毘婆尸仏の二」てな感じでつくりましょうと。イロハ順でなく五十音順でもできますよ、なる親切過剰な補足までも!
さらには、文字と文字の間に関係ない文字を入れて文書をつくる方法やら、漢字を「へん」や「つくり」だけで書いちゃう方法やらも紹介。後者は、たとえば「敵」なら「商」だけ、「討」なら「寸」だけとかになるわけですが……山田先生もおっしゃっていたとおり、もらった人が果たして解読できるのかどうか、もはや脳トレの世界です。
ほかにも敵がたくさんやってくるときは「山」、あまり大勢じゃないときは「川」みたく、あらかじめ決めておいて送るノウハウも伝授。
火や水を使って紙の文字を浮き上がらせるあぶり出しや水出し、運ぶ際の文書の隠し方なんかも書かれていました。密書の伝達は大変だ!
日本にはない忍術書が、まだまだ海外に眠っている!?
それから『武教全書正解』以外にも、中国古代の兵法書の内容を抜粋してまとめた『智謀抜萃』(ちぼうばっすい)などを紹介。たとえば、鉄蒺蔾(てつしつり)=鉄のマキビシのくだりは、中国の『武備志』にも同じ絵や文が出てきていて、ここからそのまま写したかどうかは不明だけど、中国のものから引用しているのは確かだとわかります。
写真上が『智謀抜萃』。写真下の『武備志』と同じ内容が記されている。
しかし! マキビシを撒く姿の部分が謎。下の画像を見てのとおり、イラストが明らかに日本人……。こちらの典拠は、まだわかっていないんだそう。まだまだ研究途中だということにもワクワクしますね。
右手に竹筒を持ち、左手でマキビシを撒いてる人物が、どう見ても日本人。
忍術関係の史料は、アメリカだけでなくドイツなど各国に点在しているそうで。今回紹介してくださったもののように、これまで確認された日本の忍術書にはない記載もまだまだあるので、さらに研究を進めたいと山田先生はおっしゃっていました。
今回の分を含め、過去に配信された動画もYouTubeのチャンネルに残されているので、ぜひご覧ください。翌日、人に言いふらしたくなること間違いなしです。会場受講の予約は、原則、月初めから開催日の8日前まで。上野商工会議所で受付されているので、チャンスがあれば忍び込んでみませんか(要予約で!)。