ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2019.5.7
  • author:南 ゆかり

大阪大学×大阪ガス「アカデミクッキング」で学ぶ熟年夫婦クライシス回避法

近頃、熟年夫婦の離婚が増えており、同居20年以上の夫婦の離婚率は18%にものぼっているのだそうだ。夫の言動が原因で妻の心や体が不調になる「夫源病」を提唱して注目される、大阪大学大学院人間科学研究科招へい教授・石蔵文信先生の講義に加え、さらに先生おすすめ「男のええ加減料理」の実技も体験できるという「アカデミクッキング vol.67」に参加してきた。

 

ちなみに「アカデミクッキング」は、食や料理を切り口に教養を身につける大阪大学と大阪ガスによる人気コラボ講座。ほとぜろでは、これまでに幾度となく取材しているので、過去記事に興味がある方は、ぜひこちらも合わせてチェックして欲しい。

熟年離婚の本当の理由

石蔵先生は、中高年男性に多い生活習慣病やメンタル疾患を「男性更年期障害」として、大阪市内の病院で現在も外来診療を続けている。診療の場で先生の話を聞くうちに、付き添いで来られた奥様の更年期障害の症状が治まってしまうこともあったとか。そんな先生が、熟年夫婦が定年後の長い期間ストレスのない良好な関係で過ごせるよう、まずは夫婦の相互理解のポイントを医学的見地から講義してくれた。

講義風景

メディアにもよく登場する石蔵先生は話が上手で面白い

 

先生が最初に取り上げたのは、東京でセレブが住むと言われる世田谷区に患者の多い「世田谷病」について。定年後、お金やプライドがあるため「二度目の勤め先」を選り好みし、結局家に居ついてしまった夫によって妻がノイローゼになるというケースを、そう呼ぶのだという。「老後はちょっと貧乏がいい。お金がないと週に3、4日は働きに行くから、夫は健康になるし妻も楽。老後の問題はお金や健康だけでなく、むしろ夫婦関係や居場所づくりのほうが重要だ」と、先生は注意を喚起する。

 

さらに話題は、夫婦関係の問題点へ。「われわれ夫は、いつ頃から嫌われるようになると思います?」と先生の問いかけに参加者から笑いが漏れる。シングルマザーを対象にした調査では「子どもが0~2歳のときに離婚した人が一番多い」などのデータや、育児を妻に押し付けることで夫婦不和が起こる「産後クライシス」の問題を指摘。「熟年離婚は急に起こるのではなく、30年以上前から我慢してきて積もり積もったものが60歳ぐらいでドーンと爆発する」と結論付けた。

 

先生が示した「熟年離婚の理由ベスト20」にはちょっと驚いた。浮気、酒癖、暴力、借金、これら「いかにも」な理由は4~7位。これよりどんなすごい理由があるのかとみると、3位「甲斐性がない」、2位「暴言を吐く」、1位「家事を手伝わない」だった。これが離婚の原因になるのかというラインナップではあるが、つまりはそれが積み重ねである証なのだろう。「奥さんは、昔つらい目に遭わされたことを執念深く根に持っておられる、そう思っておく必要があるんです」

離婚イメージ

離婚理由1位は、浮気でもDVでもギャンブルでもなかった!

上から目線は厳禁

「夫源病」は、夫の何気ない言動や存在そのものが原因となる。夫は、多くの場合、それが妻にとってストレスを与えているとは気づいていないのだ。たとえば、どんな言動が問題なのかについて、先生は例を挙げて説明する。

 

「一番問題なのは、上から目線で接すること。『おい』『おまえ』と呼んだり、『メシまだか?』と言ったりすると、奥さんは『家政婦扱い』に感じてしまいます。このような態度は、最近、夫から妻へのモラル・ハラスメント(モラハラ)とも認識されるようになってきました」。その他、妻が外出するときに「どこいくの?」「何時に帰るの?」「俺のメシどうなってんの?」と精神的に圧迫したり、家計簿のチェック、趣味に同行したがるなどもNG。「対等な一個人として見ていますか、ということですね」。妻が専業主婦だと特に「食わせてやっている」という意識になるのが問題だと、先生はいう。

 

「これを改善する方法はとても簡単です。奥さんを名前で呼んでください」と先生。「『ママ』『お母さん』という呼び方も問題。妻からすると、『あんたを生んだ覚えはない』となります。甘えるんじゃない、子どもじゃないんだからと。だから、名前で呼びましょう。対等感が出てきます」

夫の依存が妻には重荷

上から目線よりも、さらに根が深そうだったのが、夫が妻に依存している問題だ。老後を迎えた夫と妻が相手に対して求めるものは何かを比較したデータがちょっと怖い。

 

夫の要望にあって妻にないのは「共通の趣味など持って一緒に過ごしたい」「家や家庭のことに関心を持ってほしい」、その逆で妻の要望にあって夫にないのは「お互い干渉しないで自由に暮らしたい」「自分の身の回りのことは自分でしてほしい」「家事を分担してほしい」。夫は「家にいて2人で楽しく過ごしたい」と寄り添っているのに、妻は「私は私で外で楽しくやりたいから、自分のことは自分でやって」と愛想のかけらもない。「これはある意味、水と油。ここが一番のネックだとわかった」と先生。どちらかが折れざるを得ないが、先生の長い治療経験からすると、妻の願いをかなえたほうが熟年離婚の予防にはかなり有効だという。

 

愛媛県の先生が3千人を5年間追跡調査して、老後に夫と暮らす妻はそうでない妻に比べて死亡率が2倍になるという物騒な結果も出ている。「高血圧や糖尿病でもそれほど高くないので、夫は、妻に健康被害を及ぼす非常にパワフルな因子です」。夫の依存は妻に負担をかけており、そんな夫は妻に先立たれると非常に危ない。「だから、家事を覚えて自立することが大事。家事の中でも、毎日しなければならない料理を覚える効用はここにあります」

講義風景2

衝撃的な事実に、時に笑いが、時にざわめきが会場を包む

男の意地を取り戻す料理

夫が家にいるようになった妻にとって、とくに負担なのは昼食だ。妻の昼ご飯は前の晩や朝のご飯の残りであり、おなかがすいてなかったらお菓子を食べて終わり。ええかげんな時間にええかげんなごはんを食べている。サラリーマンだった夫のほうは、12時から1時にご飯を食べる習慣が40年ぐらい続いている。悪気はないが、11時ぐらいになると妻に「今日の昼ごはんは何?」と聞いてしまい、11時半ぐらいになると暇だから食卓に座って待ってしまう。家電が充実している現代は、午前中の早い時間に家事が終わる。午前10時頃から晩御飯の準備をする午後4時ぐらいまで妻の時間だったのが、夫が定年したことで、この時間が侵害されてしまうのだ。

 

そこで先生は、妻が用事で出かけたいというなら、「出ていくなら出ていけばいい。俺のメシは自分でつくる」と言えるように料理を覚えようとすすめる。料理や身の回りのことをちゃんとできるようになったら、妻は「この人はひょっとしたら私がおらんようになっても生きていけるのでは」という危機感を持つ。危機感を持つと人は優しくなる。「俺の昼メシはどうするんや」と泣きつくのでなく、男の意地を取り戻して自立しよう。だから、料理教室なのである。

食の自立をめざして

先生の講義が終わり、実技にとりかかる皆さん。メニューは、一人キムチ鍋。料理教室は何人かのグループで人数分を作るのが一般的だが、今回は1人ずつ土鍋が配布され自分の鍋料理をつくっていく。自立が目的の料理なんだから、そうでなくっちゃ。

 

料理は初めてという方もいらっしゃるようで、はたから見ていると緊張感のようなものが感じられる。というか、とにかく黙々と料理に取り組んでいる感じなのだ。この静けさが、女性の料理教室とは全く違う眺めだと大阪ガスの担当の方からうかがった。

調理風景

和気あいあい、とはまた違う雰囲気で調理は進む

 

鍋に水を沸かしている間に、材料を洗って切って、沸いたら鍋に入れて、火が通ったら調味料を入れる。先生は「僕の料理は、『なんやこれ、なめとんのか』というぐらい簡単」とおっしゃっていたが、確かに、初心者らしい方でも戸惑いは少ないように見えた。結構あっという間に仕上がってしまった。

調理風景1

味つけは「キムチ鍋の素」のみ。この潔さが初心者にはうれしい

 

できた方から別室で試食。皆さん、アツアツでおいしそうな一人鍋を、ご飯と一緒に平らげていく。食事中に少しお話をうかがってみると、みなさん、石蔵先生のお話に少なからず衝撃を受けたよう。「うすうすは感じていたことだが、文字にして並べられるとショック。でも納得はできた」という方や、「退職直後は外に出ようと意識していたが、だんだん家にいる時間が長くなっている」と話される方もいらっしゃった。「これから週に一度ぐらいはやれたら」と意欲的な方も。料理経験のある方からは「一人前ってこんな分量なのかと勉強になった」という感想もあった。

試食風景

料理語の食事は、先生も一緒に。料理も終えて会場は少し和やかな雰囲気に

 

生物学的に言っても、子育ての終わった熟年夫婦はそもそも危機なのだろう。夫婦でいる必要がもうそれほどないのであれば、そこから夫婦で過ごす意味を2人で作っていかないといけないのかもしれない。その最低条件として、自立と尊重は欠かせないんだろうなと思う。石蔵先生、男性に優しい料理をこれからもどんどん紹介してください。

 

取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂

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