ナレッジキャピタルで開催されている大人のための教養講座『「超」学校 MOU-ICHIDO もういちど自分進化論』に、音楽&物理学の授業がお目見えした。テーマは電子楽器テルミン。今回、テルミンといえばこの先生という、大阪大学サイバーメディアセンターの菊池誠教授が登壇した。教授によれば、テルミンには他のどの楽器にもない特殊性あるというのだが、それは一体…!?
今回の講座は「電子音楽の物理学 過去から来た未来の音テルミン」。少し早めに会場に着くと、音響テスト中の菊池教授の姿があった。生でテルミンを聞くのは人生初!文字ではなんとも書きづらい、ふわわ~~ん(?)とどこまでも広がっていくような、少し二胡にも似た不思議な音が響いていた。
テルミンは1920年代にレフ・テルミンという物理学者が生んだ世界最古で最初の電子楽器だ。ある年代の音楽好きなら、レッド・ツェッペリンの「Whole Lotta Love(胸いっぱいの愛を)」でジミー・ペイジがひいていたと記憶している方も多いだろう。
実は菊池教授もレッド・ツェッペリンから興味を持ったそうで、演奏歴は20年近く。趣味の範囲とはおっしゃっていたが、ロックデュオandmo'でその腕前を披露している。
初めて間近で見たテルミン!2つのアンテナ(矢印)と手の距離によって演奏する
テルミンは、縦のアンテナで音の高低を(手を近づけるほど高い音に)、水平のアンテナで音の強弱を(手を近づけるほど小さい音に)コントロールできる。「鼻歌のように自由に何でもできるところが魅力」と教授。熟練の技が必要そうだが、手とアンテナの距離を微妙に調節すれば、他の楽器と同じようにドレミの音階も可能だし、手を揺らせばビブラートも表現できる。
男女問わず50名ほどの参加者が集まった
菊池教授はまず、音とは、楽器が音を出す仕組みとは、というお話を「振動」「共振」といった物理用語も織り交ぜて解説。その中でもテルミンは、管楽器と同じ仕組みを持っているという。
例えば、ビール瓶で想像してみよう。瓶にふーっと息を吹き込んだとき、自分が音程を作っているわけではないのに、ある一定の音が鳴るという現象がある。息によって空気中に伝わったたくさんの振動は、目には見えないが瓶の中をいったりきたりしているらしい。その中で、打ち消し合ってしまう振動と、生き残る振動(=固有振動)があり、その生き残った振動が音程となって私達の耳に届いている(=気柱共鳴)。
この「気柱共鳴」を電子の力によって起こすのが電子楽器なのだが、仕組みをつくるには「コイル」「抵抗」「コンデンサー」の3つを組み合わせた「共振回路」が必要だ。しかし「当時は1920年代で、ラジオがようやく出てきた時代。いい部品がなかったことを逆手にとった」と教授。そこで「コンデンサー」の一部として回路に組み込まれたのが「人間」だった。
味のある教授の手書き解説
あらゆる製品に使われている電子部品「コンデンサー」は、電気を通すもの同士の間に、電気を通さないものを挟んだものだ。
「テルミンのアンテナは電気を通します。人間の手も電気を通します。アンテナと人間の手の間にある空気。これは電気を通しません。これがコンデンサーの役目を果たしているんです。つながってないじゃないか、と思うかもしれません。しかし人間は決まった電気をもっているので、回路の中に組み込まれるんです。テルミンの前に立つだけで」。
菊池教授の手とアンテナがコンデンサーに
人間が回路の一部!?なんだか信じられないが、教授は「当時はこれしか作れなかったんだと思います」とのこと。電子ピアノやシンセサイザーといった電子楽器には、技術の進歩により人間は組み込まれていない。特殊な構造を持っているのは今もテルミンだけだ。それがむしろ新鮮で、妙に引き付けられてしまう魅力なのかも。
そして、この回路だけでは大きな音にならないため、振動数が近い2つの電気信号を同時に流すと起こる「うなり」現象を使う(ラジオと同じ原理)ことで、テルミンは音を出しているという。
講座の最後を飾ったのは、菊池教授のテルミン演奏。『蘇州夜曲』『G線上のアリア』…ゆったりとした音楽にテルミンの音はぴったり。何もない空気中で、教授の手と指が繊細に動き、音が奏でられていく。まるで魔法を使っているようにも思える。
でも、講義で学んだ回路図を頭に浮かべてみれば、ぼんやり音楽を聞くときとはまったく違ったおもしろさがあった。
普段、教授はサイケデリックな曲を演奏されるそう!!今回は特別
高校ではもはや選択しなかった物理…。久々に目にした電子回路図におののきながらも、少しは仕組みが分かった気がする。物理ってこういうことを考えるものなんだとやっと気がついたような(恥)。苦手だったことこそ、もう一度学んでみるのが『「超」学校MOU-ICHIDOもういちど自分進化論』の醍醐味かもしれない。