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  • date:2023.6.13
  • author:中野祐子

キャンパスがまるごと遺跡! 大阪大学豊中キャンパス内の古墳群をツアーで巡ってきた

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みなさんは「マチカネワニ」をご存知でしょうか。約45万年前のワニ類で、1964年5月、大阪大学豊中キャンパス理学部校舎の建築現場から全身の化石が出土。キャンパスの所在地である待兼山(まちかねやま)から「マチカネワニ」と命名されました。しかし豊中キャンパスで見つかったのは、ワニだけではないというのです。そんな豊中キャンパスを巡るツアーが開催されると聞き、参加してきました。

当時の姿はそこにはない。だからこそ遺跡を見るには「想像力」が必要

今回、参加した「探訪 待兼山 ~豊中キャンパス遺跡ツアー~」は、キャンパス内にある古墳巡りのほか、大阪大学総合学術博物館見学、ミニ講座も組み込まれた豪華な内容。ツアーガイドは大阪大学埋蔵文化財調査室で発掘調査を行っている特任教授の禰冝田佳男先生と助教の上田直弥先生です。ツアーは、総合学術博物館の見学からスタートしました。

博物館の建物は国の登録有形文化財。入場無料で観覧可能

博物館の建物は国の登録有形文化財。入場無料で観覧可能

 

上田先生によると待兼山は、大阪府の豊中市・池田市・箕面市にまたがる千里丘陵にある標高73.3mの山のことで、一帯を待兼山と呼んでいるそう。この待兼山一帯からはマチカネワニだけでなく、多数の遺跡が見つかり、「待兼山遺跡」として豊中市等の遺跡台帳に登載。一帯の面積の大半を占める豊中キャンパスでは、弥生時代から江戸時代までの遺構や遺物が今も次々と発見されていると言います。

 

 

博物館内にはキャンパスから発掘された埴輪や土器などがずらり。もちろん、すべて本物で、考古学ファンでなくても見入ってしまいます。すると上田先生から、「これから実際の遺跡や古墳をご案内しますが、発掘調査中の写真や遺跡・古墳のジオラマを見て、全体のカタチなどを頭に描いておいてくださいね」とアドバイスが。その言葉に改めて写真やジオラマを確認。いよいよ遺跡巡りに出発です。

待兼山遺跡から出土した馬形埴輪と馬曳形埴輪

待兼山遺跡から出土した馬形埴輪と馬曳形埴輪

発掘された遺跡の当時の姿をジオラマで精巧に再現

発掘された遺跡の当時の姿をジオラマで精巧に再現

 

最初に案内されたのは学生の駐輪場。「あれ?ここが遺跡?」と不思議に思っていると、「ここが1998年に発見された待兼山5号墳です」と上田先生。駐輪場の工事に入る前の調査で、古墳時代の5世紀後半に築造された直径15mの円墳であることが判明したと言います。この下に、博物館にあった写真やジオラマの遺跡が眠っているなんて。「考古学では想像力が大切です。博物館で見た資料を現場で照合しながら想像を膨らませると、遺跡の見え方が変わってきませんか」と上田先生。

今は駐輪場となっている待兼山5号墳。右奥で拡声器を持って説明しているのが上田先生です

今は駐輪場となっている待兼山5号墳。右奥で拡声器を持って説明しているのが上田先生です

 

駐輪場をよく見ると、カーブに沿ってレンガが敷かれています。上の写真でもおわかりいただけるのではないでしょうか。上田先生によると、これが円墳の場所を示しているとのこと。ここで必要なのが、想像力。確かに、博物館で見たジオラマを頭に思い浮かべると、円墳全景や地中に埋まる遺構などをイメージすることができました。ツアーの最初に博物館を訪れたのは、出土品を見学するだけでなく、当時の様子を思い浮かべるために必要なステップだったんですね。

同じ古墳でも場所によって景色も時代もさまざま

遺跡を見る方法を知り、実践したところで、次に向かったのは待兼山2号墳です。実は今回のツアーには、普段は整備されておらず立ち入りが難しいこの待兼山2号墳も含まれているとのこと。普段は入れないエリアということでワクワク感が高まってきました。「ここからが古墳の頂に向かう道です。いつもはうっそうとしてサルやイノシシが出没することもある結構な登り道です」と上田先生。その言葉通り、勾配はきつめで、まさに獣道です。

ちょっとしたトレッキング気分が味わえる古墳の山道。今回のツアーのために、調査に携わる学生さんが草刈りをしてくれたそう

ちょっとしたトレッキング気分が味わえる古墳の山道。今回のツアーのために、調査に携わる学生さんが草刈りをしてくれたそう

 

慎重に足を進めると少し開けた場所に到着。待兼山山頂にほど近い尾根の頂上です。ここには大きな石碑が建っていました。「石碑は、大正天皇の待兼山行幸の記念碑です。当時、ここからは一帯を見渡すことができました」と上田先生。さらに待兼山2号墳や同じ尾根上にある1号墳からは埴輪や土器だけでなく、鏡や貴重な石材でつくった腕飾りといった豪華な副葬品が出土しているため、有力者の古墳であると説明がありました。ここに眠る人や大正天皇がご覧になった、今とはまったく違う景色はいかに……。最初に学んだ想像力を膨らませながら、古墳の頂きに立つという日常にない体験に心躍るひとときでした。

古墳の頂に建つ大正天皇の行幸碑。普段は見ることができないので、前も後もぐるりとチェック

古墳の頂に建つ大正天皇の行幸碑。普段は見ることができないので、前も後もぐるりとチェック

 

待兼山2号墳を下りて向かったのは、キャンパスの中央にある中山池です。「この池の東側には上山池という池もありましたが、現在は埋め立てて学生交流棟が建っています。上山池周辺からは生活に用いる土器などを焼いた窯跡が発見されています」と上田先生。

この池の奥、右側に建つ白い建物が学生交流棟。かつての上山池だった地です

この池の奥、右側に建つ白い建物が学生交流棟。かつての上山池だった地です

 

待兼山一帯では現在までに5つの古墳が発掘され、めずらしい土器や副葬品も出土しています。また、キャンパス内からは弥生時代に人びとが暮らしていた集落跡、奈良時代から江戸時代までのお墓の跡も発見されていることから、「待兼山一帯は太古の昔から人びとが生活し、有力者の埋葬地としても尊ばれていたため、この上山池周辺に土器をつくる窯があったのではないか。さらに、キャンパスの近隣地域からも窯跡や遺物が出土していることに鑑みると、待兼山を含む千里丘陵一帯が土器の一大生産拠点だったのではと考えられます」と上田先生は推測し、調査を進めているそうです。まだまだ謎の多い古代の暮らしについて、たった一つの土器の欠片やわずかな窯の跡に解明につながるヒントがあることを知り、少しですが、研究の奥深さ、面白さに触れた気もしました。

 

ツアーは終盤にさしかかり、現在はテニスコートになっている待兼山3号墳、大阪大学大学院基礎工学研究科附属極限科学センターが建つ待兼山4号墳を歩いていると、「この辺りの土手や木の根元は、雨で表面の土が流されると、土器の破片や埴輪が見つかることがあるんですよ」と、ツアーを一緒に巡ってくれた調査室の学生さんが教えてくれました。埴輪がひょっこり現れるとは! そのかわいい姿を想像していると、「この道は一般の方も行き来できるので、もし何かを見つけた時は触らず、持ち帰らず、調査室に必ずご一報を」と切に参加者にお願いする上田先生に、ツアー一行は了解しつつ笑いに包まれました。遺跡は遙か遠い昔の縁もゆかりもないものではなく、たとえ姿は見えなくても、今も街や地域のすぐ近くに存在するものだと実感しました。

この落ち葉の下で土器や埴輪が眠っているかも。ロマンをかき立てられます

この落ち葉の下で土器や埴輪が眠っているかも。ロマンをかき立てられます

 

遺跡を市民が享受し、保護・継承するために必要なこと

90分を超える充実のツアーを終えた一行は、豊中キャンパスの文法経本館にゴール。同館内の教室で、禰冝田先生のミニ講座を受講しました。

 

禰冝田先生によると、待兼山一帯は、大阪平野から古代にあった河内湾につながる瀬戸内海ルート、キャンパス近隣の猪名川水系を使った日本海ルートの交通上の中継地点として重視されていたとのこと。そのため、多くの有力者の拠点になっていたと言います。なるほど。さきほどのツアーの際、待兼山古墳群は有力者の古墳との説明がありましたが、出土する豪華な副葬品だけでなく、こういった背景からも推測できることがわかりました。

 

また、待兼山が平安時代に編纂された『古今和歌六帖』にある和歌に詠まれたり、「みなさんよくご存知の『枕草子』にも登場しています」との禰冝田先生の説明に、学生時代に国文学を専攻していた筆者は知らなかったとびっくり。無知を反省しつつ、かの有名な『枕草子』にも登場する待兼山の山頂付近まで到達できたことに、なんだか感慨が深まります。

禰冝田先生のミニ講座ではマチカネワニ発掘時のお話も

禰冝田先生のミニ講座ではマチカネワニ発掘時のお話も

 

禰冝田先生の話は景観や大阪大学との関係まで幅広くおよびました。「待兼山は “里山”の雰囲気を今に残していることも特徴です。歴史的・文化的遺産、そして里山景観としても価値のある待兼山を後世に受け継ぐには、みなさんの意識や協力が必要。文化財とは自治体や大学のものではなく、市民のもの。文化財の価値を見出し、保護するには、大学だけでなく市民のみなさんの力が必要です」とミニ講座を締めくくりました。

 

この後、禰冝田先生と上田先生にそろってお話をうかがうことができました。上田先生によると、今回のツアーには、小学生から88歳の方まで、70名近くの方が参加。考古学ファンだけでなく、近隣の方も多かったと言います。「キャンパス内で工事などを行う際、調査室が事前調査を行っています。発掘された埋蔵文化財を保護するほか、情報発信をするのも私たちの役割。大阪大学のシンボルである待兼山遺跡を多くの方に知っていただきたいと、今回のツアーを企画しました」と上田先生。禰冝田先生は「ミニ講座でも申しましたが、文化財は市民のみなさんのものです。こういったツアーをきっかけにそれを理解いただけるといいですね」と、改めて文化財のありかたについて触れました。

 

ミニ講座を受講して、この待兼山古墳は、貴重な文化財であると同時に、現在どんどん失われている里山でもある知り、近隣住民がいかに守り、後生に受け継いでいくかが必要になってくるのでは?という思いを抱いた筆者。「文化財、そして、豊かな自然を守るためにも発掘調査を行い、さまざまな機会にみなさんに向けて発信して、知っていただくことも私たち調査室の役割です」と上田先生は答えられました。

「上田先生(左)は遺跡をよく発見する幸運の持ち主なんですよ」と禰冝田先生(右)

「上田先生(左)は遺跡をよく発見する幸運の持ち主なんですよ」と禰冝田先生(右)

 

ツアーを通じて、見えない遺跡を想像して理解するヒントや、待兼山が『枕草子』に出てくるといった知識が得られ、今までよりも身近な存在に感じられるようになった古墳や遺跡。一方で、単に太古のロマンに酔いしれるのではなく、禰冝田先生、上田先生がおっしゃるように、古墳や遺跡の存在をもっと知って意識し、貴重な文化財、豊かな自然として、守っていく役割を私たち市民が担っていることに気付かされました。私たちが生まれるずっと前の人たちが生きた証、作り上げたものなのですから、無下にはできないですよね。大阪大学はもちろん、古墳、遺跡を巡るようなツアーや講座があればまた参加したいと思いました。


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