2025年10月18日(土)、大阪大学のイベント『五感をシゲキ、未知のマナビ体験!』が、ららぽーとEXPOCITYにて開催されました。情報工学や医学など、最先端の研究の魅力を体験イベント、ミニレクチャー、展示などを通じて楽しみながら学べるブースが19も集結! 子どもから大人まで「へぇ!」「すごい!」と感心しきりだった当日の様子をレポートします。
脳が錯覚を起こすと……?
最初に訪れたのは、情報科学研究科 バイオ情報工学専攻のブース『錯覚で発見しよう、感覚の謎!』です。置かれていたのは、謎の装置。「持ち上げて、強めに握ってみてください」と言われ、その通りにすると……。

前に引っ張られる!!
まるで誰かに力強く手を引っ張られているかのようです。しかし、機械は手のひらの中で振動しているだけ。驚いていると、スタッフの方が「これが人間の錯覚なんですよ」と、ニヤリ。秘密は、装置の中に仕込まれた“おもり”です。おもりをある方向に短い時間で強く動かし、そのあと逆方向にゆっくり戻すという非対称な動きを繰り返させることで、脳が「引っ張られている」と錯覚するのだと言います。この不思議な感覚、文章だけだとなかなか伝わらなさそうで悔しい……!
研究は、さまざまな分野に応用が期待されているとのこと。例えば、ゲームコントローラーに組み込めば釣りのゲームで実際に大物を釣ったときの手応えを感じられるようになります。また、装置を携帯端末に組み込めるほどの大きさにすれば、視覚障害がある人に避難する方向を伝えることができるようになるかもしれません。
さらに、隣にはブロックチェックとボーダーが印刷された用紙が置かれていました。普通にさわると平面ですが、「スマートフィンガー」と呼ばれる装置を指先につけると……。

でこぼこになった!!
装置を外してもう一度さわると、やっぱり平面です。なぜ……? それは、爪の上に小さな振動装置を取り付け、指でなめらかな面をなぞっている最中に特定の振動を与えているから。これによって、脳が「表面に凹凸がある」と錯覚してしまうのです。
これまで触覚を再現する装置は、ものにふれる指の腹側から刺激を与える方法が主流でしたが、そうすると現実のものにふれた感覚が失われてしまいます。そこで、大阪大学では「爪の上から刺激を与える」という方法を取り入れたそう。これにより、指の腹側では現実のものの感触を、爪側からは仮想の感触を同時に感じられるようになるのです。
この装置は、タッチパネルを操作した際にクリックした感触を返すインターフェースとしても活用が期待されているのだとか。未来の技術は、すぐそこまできていることを実感しました。
希少な「月の砂」とご対面
次に向かったのは、理学研究科 宇宙地球科学専攻の『赤青メガネや顕微鏡で「月」をみよう!』です。赤青メガネを通して大画面の映像を見ると、目の前には月面がすぐそこに! 近い将来は宇宙旅行が身近になり、人類の生活圏が月や火星へと拡大する未来社会がくるといわれています。月はまだまだ遠い存在に思えますが「実際に降り立つとこんな景色が広がっているのかな」と、楽しい妄想を繰り広げられました。

大人も子どもも目を輝かせて、何度ものぞいていました

月隕石の展示も
なかでも感動したのは、旧ソ連の無人月探査計画「ルナ計画」で採取に成功した「月の砂(レゴリス)」です。肉眼ではよく目をこらさないと見えないほど小さな粒ですが、顕微鏡を通すとしっかりと確認できました。


思わず「おぉ……」と声をもらす人続出
何億年もかけてできた月の砂が今ここにあると考えると、壮大なロマンを感じずにはいられません。月の砂はさまざまな「資源」としても注目を集めているので、これから宇宙の研究がどうなっていくか楽しみです。

地球から月までの距離は、地球約30個分と教えてもらいました
狙いを定めて“がん”に照射!
ひときわ行列ができていたのは、医学系研究科 医学物理学研究室の『がんを正確に狙い撃ち ~第六感を研ぎ澄ませ!』です。日本人の3人に1人が“がん”で亡くなるといわれている現代。“がん”の三大治療法「手術療法」「化学療法(抗がん剤治療)」「放射線療法(放射線治療)」のうち、放射線療法を研究しているのがこちらの研究室です。
肺や肝臓にできた“がん”は呼吸に伴って数cmほど動いてしまうので、正確に放射線を照射する技術が必要です。そこで、“がん”に必要な量の放射線を照射する難しさを、ゲーム感覚で体験してみます。

動く“がん”を10秒間追いかけて照射します
間違えたところに照射しないよう、狙いを定めるのが難しい! 「あ~!また失敗した」と笑いながら、ふと「実際の治療だったらこんなこと言えない……」と我に返り、ゾッとしました。お医者さんの技術はやはりすごい。

思っていたより苦戦しました
本来は、金属マーカーを“がん”の近くに固定し、その動きをX線透視画像で追尾することで照射しているそうです。

ブースでは放射線療法の仕組みについても解説してもらいました。身体を切らずに治療ができるため全身への負担が少なく、手術が難しい部位の治療にも効果が期待できるそう。近い将来、こうした研究によってがん治療の技術が進歩したら「日本人の3人に1人」という表現は変わるかもしれません。研究を進めている皆さんに、改めて敬意を表したくなりました。
工学の基礎のひとつ「固体力学」を工作感覚で体験
3階では基礎工学研究科固体力学グループによる編み紙教室が開催されていると聞いて、行ってみました。

こちらのブースでは編み紙が持つ「構造を強くする」という性質を通じて、目には見えない力や変形がどのように起きているかを追究する「固体力学」の基本を体験できます。紙を編み、立体的に加工する編み紙は、強度を高める技術としてさまざまな構造物に応用されているそうです。早速、好きな色の紙を2枚選んでパーツごとに切り離したら、交互に組み合わせていきます。

平面の紙が、段階を追うごとに少しずつ立体になっていきます。「こんな編み方をしたら破れないかな」と不安になる私の横で、すいすいと手を動かす子どもたち。恐れない大胆さも必要だ!と、苦戦しながらようやく完成したのがこちらです。

達成感を味わえました
平たい紙のままだとペラペラなのに、編み上げて立体になると強度が出ました。簡単には曲がらず、ちょっとした小物なら余裕でのります。一見すると工作遊びですが、編み方を変えることで、強度や柔軟性も変えることができるそう。

編み紙のパターンはこうして作られているそうです
「固体力学とは……」といわれると小難しく感じてしまいますが、初心者が工作で楽しめるようなところにも学問が関係していると思うと、一気に見え方が変わって楽しくなります。
まだまだ研究にふれたい!
基礎工学研究科 社会ロボット学グループのブースでは「無人島で3日間過ごすとしたら何を選ぶか」といったトークテーマで、ロボット「テレコ」とお話ができました。まるで友達のように話すテレコと参加者の様子は、未来のコミュニケーションの形を見ているようです。

表情がコロコロ変わってかわいい!

こちらのキャラクターは「コミュー」。研究室にはテレコ以外にもさまざまなロボットがいます
また、大阪大学グローバルキャンパス(箕面キャンパス)のブース『ことばと文化の博覧会』では、教員の方々が現地で買い集めてきた世界の民族衣装がたくさん用意されていました。各国の文化と絡めてどんなときに着る衣装なのかを聞くと、よりその国を身近に感じられます。

サイズもさまざま
こちらはインドネシア・バリ島の衣装です。寺院での祭礼や冠婚葬祭など、特別な機会に着用されるそう。クバヤと呼ばれるレースやシフォンのブラウスに、豪華な刺繍が施された布を腰に巻くのがポイントです。

クメール文字とハングル文字のどちらかを使った、オリジナルネームバッジ作りにも挑戦しました。

クメール文字はカンボジアの公用語

「クメール文字は書くのが難しい」と、ハングル文字をチョイス
工学や宇宙、医療など――難しそうに聞こえる分野も、実際にふれてみると驚きと発見の連続で、自分の生活につながっていることを改めて実感した今回のイベント。この研究の先にはどんな未来が待っているのか、想像するだけでワクワクします!

阪大の公式マスコットキャラクター「ワニ博士」のグッズもたくさんありました
(編集者・ライター:児嶋美彩)