ロケ地情報が、大変なことになっている。ネットで検索すると、そのロケ場所がどの作品の誰のどんなシーンに使われたかという詳細な情報が、放映されたらすぐという感じのタイミングでアップされている。それだけ、ロケ地ツーリズム人気が高まっているのだと思うが、確かに、映画やテレビで観たあのシーンが手の届くものとして存在するのは魅力。映像クリエイターが探し出して撮影するぐらいだから、雰囲気がいい場所も多い。
大学キャンパスもロケ地として以前からよく使われ、学園ものに限らず多くの作品に登場する。空間が広いし、歴史的建造物など圧巻の存在感を持つ建物があることに加え、キャンパスには日常から隔絶された雰囲気が漂うからなのかもしれない。
ロケ地として多用されるキャンパスは数あるが、なかでも京都駅近く西本願寺のすぐ隣りにある龍谷大学大宮学舎は、筋金入りのロケキャン(筆者造語。「ロケ適キャンパス」ぐらいの意味)の一つ。今まで数多くのオファーを受けて映画やテレビドラマのロケが行われてきた。筆者は、1978(昭和53)年のドラマ「横溝正史シリーズⅡ」のエンディングタイトルで舞台となった大宮学舎の“誰知らぬ場所”な感じをよく覚えている。
ライトアップされた姿も美しい(火曜・木曜のみ)
1639年開学の龍谷大学は貴重な文化遺産の宝庫だが、なかでも創設の地、大宮学舎は、複数の建物が重要文化財に指定されるというレアな存在だ。1879(明治12)年に建てられた大教校(西本願寺の教育施設)の建物がほぼ完全な形で現存し、本館、正門、旧守衛所は1964年に、北黌(ほっこう)・南黌(なんこう)、渡り廊下は1998年に国の重要文化財に指定された。ちなみに「黌」とは学校や校舎を表す言葉。現在の教室棟である。また、本館は「擬洋風建築」というのだそうで、石の柱のように見えるが実は木の柱に石材を貼ったもの。北黌、南黌も含め、西欧風と東洋風がまじりあった不思議な風情がある。
行ってみるとわかるのだが、歴史的建物が群としてあると漂う空気が違う。ロケではそういう素材としての良さをさらに強調して、建物そのものだけでなく建物前の広場や間の道まで使った大掛かりなレトロ設定をやってのける。映画「幕末高校生」や「柘榴坂の仇討ち」では、アスファルトの道を覆って土を撒いたり、馬を走らせたり、雪を降らせたり、裏方さんやエキストラなど総勢200~300人がかりのタイムトリップ的撮影になったという。撮影規模の大小にかかわらず、数分のシーンの撮影に1日や2日かけるのはよくあることで、授業の邪魔にならないよう早朝に撮るのも当たり前。朝の散歩の途中に「あっ、ロケやってるやん」とラッキーなご近所の方もいらっしゃる。
北黌・南黌はいつもは教室だが、撮影時は役者やスタッフの控え室に
建物の中でも人気があるのは本館。外観は、映画「るろうに剣心」の陸軍省、ドラマ「遺恨あり~明治十三年最後の仇討~」の東京上等裁判所など、明治政府の役所によく設定されている。内部の応接室や階段も明治時代の建築物らしい重厚感にあふれているが、現代劇のオファーも多い。ドラマ「スペシャリスト2」など刑事ドラマに頻出するほか、映画「舞妓Haaaan! ! !」では京都市長室になったりも。本館ではないが、映画「娚の一生」ではある先生のリアル研究室がそのまま主役の大学教授の研究室として使われたとか。
重厚感のある内装。緊張感のあるシーンが撮影できそう
大宮学舎は一般の人でもキャンパス内に入って、建物をじっくりと眺めることが可能。建物内は残念ながら入れないが、素晴らしい建築の姿は外からでも十分堪能できる。正門のイギリス製門扉や本館の窓に使われている装飾など、細部まで見飽きることがない。龍谷大学ホームページには、学内で過去に行われたロケの情報が掲載されているので参考に。