お寺の境内にショップ&カフェが登場
京都のあるお寺に、若者が集まっているらしい。
噂の場所は、京都・四条河原町の繁華街からほど近い場所にある本山佛光寺。ここに2014年11月、「ロングライフデザイン」をテーマにしたセレクトショップD&DEPARTMENTがオープンした。以来、寺の檀家や寺社仏閣巡りに訪れた年配層はもちろん、地元の若者までが足しげくここを訪れているという。
実はこの店舗の正式名称、『D&DEPARTMENT KYOTO by 京都造形芸術大学』という。
D&DEPARTMENTといえば、毎日デザイン賞受賞のデザイン活動家・ナガオカケンメイ氏が立ち上げた、デザインとリサイクルを融合したプロジェクトショップ。ロングライフデザインをテーマに「その土地に長く続くモノ」を紹介し、物販・飲食・出版・観光を通じて地域の魅力とその土地らしさを見直す活動を展開している。
直営店は東京店・富山店・大阪店・福岡店だが、D&DEPARTMENTの思想に共鳴した地域の有志とのパートナーシップも6店舗ある。京都店は京都造形芸術大学がパートナーとなった、10番目のD&DEPARTMENTなのだ。
本山佛光寺。境内の「和合所」と呼ばれる棟がショップに、「茶所」だった場所がカフェとなった。内装を手がけたのは京都造形芸術大学の教授でもあるgrafの服部氏
ショップ店内。中央で取り扱っているのが京都のロングライフ商品。小津安二郎監督が作品中で使用した清水焼や、玄米茶発祥のお茶屋の茶葉などのアイテムが並ぶ
デザインを通じて寺というコミュニティや観光が若返る
この京都店、D&DEPARTMENTの中でも一風変わった存在だ。
芸大がパートナーというのも異色だが、お寺の境内という立地も初の試み。
「お寺に出店すると決まって、一番びっくりしたのは僕らです」と笑うのは、京都造形芸術大学4回生の山﨑修平さんだ。彼は『D&DEPARTMENT KYOTO』の立ち上げに関わった学生スタッフの1人。
「でもお寺って立地は面白い。お寺ってなんだろうって考えたとき、今でこそ寺離れが進んでいるけれど、昔はお寺が地域のコミュニティだったんだと彿光寺の方から教えられました。『D&DEPARTMENT KYOTO』は、お寺の夢とD&DEPARTMENTの夢が合体した場所なんだと思います。老若男女がここにやってきて、ロングライフデザインて何だろう、お寺って何だろうと考える場になっているんです」。
D&DEPARTMENTの定番商品は人の生活に密着しているロングセラーアイテムだ。そこに京都店では、独自の京都セレクトを追加。この店を訪れた地元の年配者が「懐かしい!昔家にあったわ!」と喜ぶ京都のロングライフデザインであったり、お寺に関係するアイテムが並んでいる。取材した日も3名のお客さんが購入して行った念珠は、『D&DEPARTMENT KYOTO』の隠れたヒットアイテムだ。
山﨑さんは京都セレクトへの想いをこう語ってくれた。
「僕らは作り手を訪ねてまわり、ロングライフデザインにはその土地のストーリーがあることを知りました。そしてストーリーを知ることで、僕らはいつの間にか京都のいろんなところを旅していたんです。この体験で得たストーリーを、僕らは『D&DEPARTMENT KYOTO』で店員としてお客様に伝えています。モノを通じてお客様とつながり、お客様にも京都セレクトをきっかけに、京都の作り手や産地を訪ねる旅をしていただけたらいいなと思うんです」。
ナガオカケンメイ氏に、鈴木松風堂の和紙を使った和雑貨をプレゼンする山﨑修平(右)さん。鈴木松風堂は紙で筒(紙管)を作ることを発明した創業121年の老舗だ
世の中の意識をデザインで変える
デザインやモノ作りを学ぶ芸大生の学びの場としても機能している『D&DEPARTMENT KYOTO』。私たちは、次々に新しいモノを消費し続ける暮らしが、本当は豊かではないことに気づき始めている。また、自分たちが住む街や故郷が、本来の個性を失ったリトル東京でいいのかという疑問にも。『D&DEPARTMENT KYOTO』は、古き良き物の価値と継承しつづける努力を知る誇り高き京都で、地域の個性を守り育てることの意義を私たちに教えてくれている。
次回、『D&DEPARTMENT KYOTO』の仕掛人であるナガオカケンメイ氏をインタビュー。京都における同店のミッションと、次代のクリエーターに伝えたい想いを紹介する。(後編こちら)