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  • date:2023.3.16
  • author:柳智子

好きな音楽を聞くと、心と体に何が起こる? 樟蔭美科学研究所で聞く「音楽とストレス緩和」

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好きな音楽を聞いて心を揺り動かされたり、気分が良くなったり。音楽でストレスが和らぐことは、ふだんの生活でも感じることが多いもの。ヴァイオリンやピアノの演奏鑑賞とともに、音楽が人の心理や生理に与える影響を音楽生理学などの視点から考えるという樟蔭美科学研究所シンポジウム「音楽とストレス緩和」が大阪樟蔭女子大学(東大阪市)で行われ、足を運んでみました。

樟蔭美科学研究所は2020年に大阪樟蔭女子大学により設立され、学問分野を横断して美に関連する研究やイベントが行なわれています。

 

シンポジウムの前半はたっぷりと一時間、ヴァイオリンとピアノ演奏の鑑賞です。ヴァイオリンの演奏は大阪樟蔭女子大学客員教授の日比浩一先生、ピアノは同大学特別講師の鈴木華重子先生。

曲目は無伴奏ソナタ(バッハ)、タイスの瞑想曲(マスネ)、ロマンス(ベートーベン)など、この日のテーマに合わせて穏やかな曲を中心に選んだとのこと。うっとりと聞き入ってしまいました。

 

音楽ですっかりいい気分になったところで、音楽が心や体に及ぼす作用についての講演「音楽のちから」が同大学准教授の豊島久美子先生より行われました。

豊島先生の専門は音楽生理学、音楽心理学、行動内分泌学。ホルモンや神経伝達物質などの測定・分析などを通じて脳のはたらきを研究しています。

豊島先生

 

音楽を聞くとワクワクしたり、元気が出たり、切なくなったり……と、さまざまな感情が動きますが、こうした心の動きは、学術的には「情動」と呼ばれます。情動は全身で味わう感覚がありますが、情動をつかさどる部分は脳にあり、「心のはたらきは脳のはたらきと言うことができます」と豊島先生。

 

では、音楽を聞くと脳にどんな変化が起こるのでしょう。音楽は、生命の維持や本能行動、情動に関わる脳の「大脳辺縁系」とよばれる部分に働きかけ、なかでも好き嫌いなどの感情に関わる部分(扁桃体)、記憶を貯めておく部分(海馬)を活性化させたり沈静化させたりすることがわかっています。音楽が、生命維持の中枢近くに働きかけるというのは興味深い話です。

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脳がはたらいているとき、脳内の神経細胞から神経細胞へと情報を伝える過程で生化学物質(神経伝達物質)が重要な役割を果たしています。わたしたちの“心の動き”もそうした反応によって左右されているのですが、それを引き起こす元になっているのが、ホルモンです。「音楽に感動している時には、脳をはじめとした体全体でホルモンがあふれ出ています」(豊島先生)。

 

音楽を聞くことと関わりがあるホルモンにはさまざまなものがありますが、そのひとつが「コルチゾル」とよばれるホルモンです。コルチゾルはストレスを感じると増え、心拍数を上げたり血圧を上昇させたりと、危険な状況に対処するために必要なホルモンですが、長期にわたってコルチゾルが高い状態がつづくと、うつ状態になったり、神経細胞がダメージを受け認知機能が低下したりすることがわかっているそうです。

 

音楽を聞く前後で、ストレスを表すコルチゾルがどう変化するかを示したのが、下のグラフです。

(講演スライドより)

講演スライドより

 

赤い丸印に注目すると、聞く前(白い棒グラフ)と比べ、聞いた後(グレー)にコルチゾルの数値が下がっていて、ストレスが低下していると分かります。

ちなみに、緑の印はストレスを与える恐怖映画を見たときの値です。男女ともに数値が上がっていますが、その映像に音楽と組み合わせて見せた場合(赤印と緑印の間にあるグラフ)、ストレスは上がるものの、ある程度上昇がおさえられることがわかる結果となっています。

 

自分で演奏した場合はどうでしょうか?

(講演スライドより)

講演スライドより

 

上のグラフは、左から「能動的な音楽活動(ピアノ演奏)」「書道」「造形(粘土塑像)」(一番右は「なにもしない場合」)のコルチゾル値の変化を表したものです。それぞれの活動を専攻している人を対象にした実験結果とのことで、どの活動にもストレスを減らす効果がみられますが、音楽活動による下がり具合が顕著です。

 

楽器の演奏ができなくても心配(?)ありません。歌を歌うことにも同様の効果があるようです。

(講演スライドより)

講演スライドより

 

上のグラフは高齢者の音楽活動(合唱)によるコルチゾルの変化です。もともとのコルチゾル値が低い人(青)も高い人(ピンク)も減少していますが、特にもともと高い、つまりストレスが高い状態にある人での効果がきわだっています。また、一人ではなくみんなで演奏するということも、ストレス緩和の効果が高いとのこと。

 

音楽と関係のあるホルモンとして、このほか性ホルモン(テストステロン、エストロゲンなど)についても紹介されました。性ホルモンには生殖に関するはたらきだけでなく、神経細胞を保護したり、ストレスで傷ついた神経細胞を修復したりする作用があるそうです。加齢によりこのホルモンが減少すると、認知機能や意欲の低下などにつながりますが、音楽を聞くことによりこのホルモンが適切なレベルに調整されるとのこと。音楽を聞くと元気になることはふだんの生活でも感じることですが、傷ついた神経細胞を修復する作用まであるとは驚きです。

どんな音楽に効果がある? ジャンルは?

この後、会場からの質問に答える形で登壇者全員によるフリーディスカッションが行われました。

音楽の好みは人それぞれで、「嫌いな音楽を聞いたら、かえってストレスがたまるのでは」と気になりますが、豊島先生によると、こうした調査では事前に参加者一人一人の音楽の好みを聞きとり、本人が好む音楽を聞いてもらって調査しているとのこと。

また、かつては「モーツァルトの音楽を聞くとIQが上がる」という説がありましたが、現在では否定されています。モーツァルトが好きな人には効果があるかもしれませんが、モーツァルトだから良いというわけではなく、「その人にとって強い感動を引き起こす音楽であるかどうかが重要」というお話でした。

フリーディスカッションの様子。ファシリテーターは客員教授の北尾悟先生。

 

「プロが演奏する場合と、一般の人が趣味で演奏する場合、ストレス緩和効果に違いはあるのでしょうか」という質問に対しては、ヴァイオリンの日比先生とピアノの鈴木先生が、演奏家としての立場から「職業だからこそのストレスがある」と話し、豊島先生も、プロが仕事として聴衆に向けて演奏する場合は、趣味の演奏とは明確にちがう調査結果が出ると解説。この辺りのちがいは興味深く感じます。

 

♪  ♪  ♪

 

このシンポジウムにむかう途中、電車の中でついウトウトとするような状態でしたが、音楽を聞いて神経細胞が修復されたためか頭も体もスッキリ、別人のように元気になって会場を後にしました。理屈を抜きにしても音楽は楽しいですが、ちょっと調子が悪いな、ストレスがたまっているなと思うとき、今回知った「音楽のちから」を思い出したいと思います。

 


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