髙橋 裕子
セッション2「もっと知ろう!たばこの健康被害と禁煙のすべて」座長
医学博士。京都大学医学部卒、京都大学大学院医学研究科修了。京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学特任教授、京都大学医学部附属病院 呼吸器内科 禁煙外来担当医、国立病院機構 京都医療センター・臨床研究センター客員室長。禁煙マラソン主宰、日本禁煙科学会(JASCS)理事長、日本きもの学会(JKA)会長なども務める。
循環器系への影響が大きいたばこの煙。加熱式にも要注意!
たばこは、がんや脂質異常症(高脂血症)などの疾患からメンタルに至るまで、心身に対し幅広い害を与えます。とくに循環器系に対しては、自分が喫煙していなくても受動喫煙であっても影響は大きく、受動喫煙防止条例の実施によって心筋梗塞での入院が40%減少し、条例を撤廃すると入院数が元に戻ってしまうことが2004年に報告されています。逆に禁煙のメリットを感じやすいのも循環器系です。がんは発病率のリスクが非喫煙者と同じになるまで禁煙後15~20年かかりますが、高血圧や不整脈などの改善は1年以内に実感できるケースも多くあります。
近年、大流行しているのが加熱式たばこです。厚生労働省による「国民健康・栄養調査」では、すでに2018年の時点で、加熱式タバコの利用率は喫煙者の約3割にも上り、20~30代の男性では併用も含めると50%を超えています。製造元は軒並み有害物質90%カット、95%カットなどと謳っていますが、ニコチンの含有量は紙巻きたばことほぼ同じですし、発がん物質の中には逆に増加しているとの報告もあります。決して安全ではありません。受動喫煙がないかのように勘違いされ、これまでベランダ喫煙だったのが家の中で吸うようになったという話も聞きますが、呼気にも有害物質は含まれます。きっぱりと禁煙していただきたいものです。
たばこや禁煙に関わる知識には知られていないことや誤解も多いと、髙橋先生。
さらに身近になった禁煙外来。保険診療で禁煙がより容易に。
保険診療で禁煙治療ができるといっても、成功率は低く苦労の連続だろうと、喫煙者の多くが思い込んでいるようです。いわゆる「自力でがんばる」禁煙では、成功率は10%以下と言われています。しかし、保険適用の禁煙治療は、2018年の全国調査で成功率はおよそ80%。決して成功率の低いものではありません。ぜひ禁煙治療を受けていただきたいと思います。
とはいえ、禁煙によるデメリットを懸念して禁煙しないという人もいますね。不安要素は大きく分けて二つ挙げられます。一つは、体重増加。以前に禁煙したときに体重が10キロ以上も増えてしまったという話も聞きます。またもう一つは、禁煙で元気がなくなるプチ鬱と呼ばれる状態や、ニコチン切れでイライラして仕事や家族関係に支障が出るといった心配です。しかし最近の薬はニコチン切れを軽くしてイライラを抑えますし、ニコチン切れが引き起こす食欲増進も軽減されます。
現在日本国内で認可されている禁煙の薬は3種類で、「ニコチンガム」「ニコチンパッチ」「バレニクリン(チャンピックス)」です。このうちニコチンガムとニコチンパッチのうち用量の少ないものは薬局でも購入できます。内服薬のバレニクリン(チャンピックス)と、ニコチンパッチは医師を受診しての禁煙保険診療で入手します。それぞれの薬に特性がありますので、医師や薬局で相談して使用するようにしてください。
非喫煙者にも知ってほしい! 若い世代から広げたい禁煙の輪。
この度の一般公開企画で私が座長を務める「もっと知ろう!たばこの健康被害と禁煙のすべて」では、たばこの煙と心臓病の関係、加熱式たばこの危険性、禁煙外来の現状、体重増加や心のケアに留意した禁煙支援などについて、4人の先生方にお話いただきます。
2006年に禁煙治療が保険適用となり、禁煙外来の数は飛躍的に増えました。しかし、「意地でもやめないぞ!」という頑固な喫煙者も大勢います。そういう人たちにこそ正しい情報を把握していただきたいのですが、なかなか正しい知識が伝わりません。非喫煙者のみなさまが正しい知識を得て、それを家族や同僚に伝えることで、喫煙者のみなさまにも正しい知識が伝わってゆきます。ぜひここで得た情報を、ご家族や同僚など大切な人に伝えていきただきたいと思います。
この4月から健康増進法が全面施行され、受動喫煙対策はマナーからルールへと変わりました。禁煙についての情報は高齢になってからも重要ですが、これからの社会を担う若い人たちに加熱式たばこの利用者が多いことは非常に懸念されます。乳幼児の誤飲などの問題もあります。若い人たちや子育て中のパパママ世代の人たちたちにも、喫煙禁煙についてぜひ正しく理解していただき、若い世代が率先して禁煙の輪を広げる社会にしていただきたいと願っています。
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