ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2024.4.4
  • author:蔵麻子

純粋に学問をしたい研究者よ集まれ!全国キャラバン『3QUESTIONS』スタート!

「問い」をもとに学術的対話を楽しむイベント『3QUESTIONS

全国キャラバン『3QUESTIONS』とは、研究者の「問い」にフォーカスした、研究ポスター発表イベントです。最大の特徴は、全国各地の研究者が匿名で「問い」を立てること。あえて匿名にすることで、所属組織や肩書、専⾨分野などで内容を判断してしまうことを防ぎ、先⼊観ゼロの状態で純粋な学問的対話を行うことをめざします。しかも「全国キャラバン」と銘打っているように、このユニークなイベントは、2024年・2025年の2年間をかけて、北海道、東北、北信越、関東、東海、関西、中国、四国、九州・沖縄の全9箇所で順次開催する予定をしています。

 

ほとんど0円大学もメディアパートナーとして協賛している『3QUESTIONS』とは、どんなイベントで、どんな狙いや想いのもと生まれたのか。3月3日〜6日に開催された第1回目の『中国3QUESTIONS』の手応えとともに、企画者である公益財団法人国際高等研究所 客員研究員(本務:京都大学学際融合教育研究推進センター准教授)の宮野公樹先生にお話を伺いました。

『中国3QUESTIONS』では、中国地方の大学を中心とした16組織(37部局)・56名もの研究者がポスターを出展。「問い」を見にきた来場者は4日間でのべ252名にものぼった

『中国3QUESTIONS』では、中国地方の大学を中心とした16組織(37部局)・56名もの研究者がポスターを出展。「問い」を見にきた来場者は4日間でのべ252名にものぼった

研究支援というより、学問をする場をつくりたかった

『3QUESTIONS』では、研究者たちの「問い」が書かれた研究ポスターを会場内に展示し、その「問い」に何かを感じた来場者が付箋にコメントを書いてポスターに貼ることで対話を行います。

 

そもそもこの独創的なイベントは、どのような狙いで企画されたのでしょうか。宮野先生にたずねると、「⼤学なのに『学問』がしづらくなっている状況をなんとかしたい。その想いが根本にあります」と話します。

 

現在の大学は、事業戦略立案やKPI設定、ガバナンス強化、大学ランキング対策などに多大な時間を費やしており、研究者たちも常に成果創出のプレッシャーにさらされています。しかしそれでは学問の土壌がどんどん枯渇し、先細りの未来しかなくなってしまうと宮野先生は危機感を募らせます。

 

「論文生産や資金獲得ばかりフォーカスされていますが、大切なのは研究者としてのピュアな『問い』を磨きあい豊かにしてゆくという、学問としての本来の営みです。しかし現状では、こういった 学問の灯火を単独の大学で守ることは困難です。ならば全国規模で学問を掘り起こし、いろんな大学や研究機関が手を取り合い、守っていくしかありません。全国には、ピュアに『問いを磨きたい』と考える研究者たちが多く存在するはずです。僕自身のホームは京都大学なのですが、彼・彼女らに出会うためにも全国行脚をしようと考えました」

インタビューに応じる宮野先生。今回はオンラインで対応してもらった

インタビューに応じる宮野先生。今回はオンラインで対応してもらった

 

研究推進や学術的コラボレーションをめざすイベントは数あれど、『3QUESTIONS』は一線を画すと宮野先生は強調します。

「僕はこのイベントを、研究支援のためのものとは1ミリも思ってないんです。純粋に学問をする場を作りたかった、それだけです」

 

学問をする場というと、学会をはじめとした研究者コミュニティを想像しがちです。しかし、宮野先生の描く学問の場とは、それとは異なります。

 

「学会に参加しているだけではね、同じ村の住民とばかり話しているようなものですよ。本来の学問とは、深掘りすればするほど根源的な『問い』に近づくもの。つまり、研究の進展はもとより、深化していくのであれば、決してタコツボ化するのではなく、結果として学際的につながっていくわけです。このイベントでは、分野を超えて多様な人と対話することで、本来の学問の在りように気づくきっかけになればいい。だからこそ『3QUESTIONS』に参加する研究者には、根源的な『問い』の提示を求めています。より多くの多様な人々が反応できる『問い』を立てられてこそ、研鑽につながるからです」

『中国3QUESTIONS』では、どの付箋にもコメントがぎっしりと書かれていた。根源的な「問い」だからこそ、意見や感想が浮かぶのだろう

『中国3QUESTIONS』では、どの付箋にもコメントがぎっしりと書かれていた。根源的な「問い」だからこそ、意見や感想が浮かぶのだろう

「不思議」を「問う」と面白い

『3QUESTIONS』の企画の根幹といえるのが「問い」です。この「問い」を伝える研究ポスターでは、以下の3つの質問に答える形で、研究者たちは自分の考えを発信します。

 

質問1「わたしが追っている不思議」

研究者としての核心や原点にある『問い』(テーマ)を、自身にとっての「不思議」という形で答えます。

 

質問2「これまでやってきたこと、やろうとしていること」

前例・類似研究に軽く触れつつ、自身の研究活動や目標、狙いどころ、攻め方について紹介します。

 

質問3「みなに問う!」

これからしたいことや、現在抱えている苦労や難点、投げかけてみたい質問や求めたいアドバイスなど、みなに問いたいことを記します。

 

「質問1で『研究テーマ』ではなく『不思議』を聞いているのがミソなんです。専門のラベルが貼られる前のプリミティブな『問い』を投げかけることが、分野を超えた対話につながります」

 

このような工夫を思いついたのは、『3QUESTIONS』の前身であり、宮野先生が10年ほど前から取り組んできた『京大100人論文』の経験があったからだと言います。

 

「100人論文も基本的な形式は『3QUESTIONS』と同じなんですが、主となる問いが『あなたの研究テーマをわかりやすく書いてください』でした。これだとどうしても専門用語が多出するポスターになってしまう。そこで今回は『どんな不思議を追っていますか?』に変えました。そうすると例えば細胞のタンパク質がどうのこうのではなく、『私は細胞のあの動きが不思議でしかたないんです』というような発表になり、読んだ人も『どういうこと?』と問いただしたくなる。不思議を問うことで、分野を越えて対話できる余地・余白ができるわけです」

研究テーマではなく「不思議」を問うからこそ、来場者も興味が湧きやすい。『中国3QUESTIONS』では、日を追うごとにポスターに色とりどりの付箋が貼られていった

研究テーマではなく「不思議」を問うからこそ、来場者も興味が湧きやすい。『中国3QUESTIONS』では、日を追うごとにポスターに色とりどりの付箋が貼られていった

 

では、実際にどんな『問い』が出されたのでしょうか、一部紹介しましょう。

 

  • ●過去のこと?人びとが戦場にいくとき
  • ●人は3m20㎝の跳び箱を跳び超えられないのだろうか?
  • ●現代社会の倫理を叩き上げる
  • ●明日の地球とサンショウウオ
  • ●いやな“におい”は何故鼻につくのか?
  • ●刑務所を出た人も生きていく。 など

 

素朴でいて多様、「どういうこと?」と問いたくなるようなテーマが並びます。なお『中国3QUESTIONS』でのすべての『問い』は、「開催報告」サイトに掲載されているので、興味のある方はこちらもご覧ください。

 

『中国3QUESTIONS』開催報告サイト 

 

そして、これら研究ポスターに質の高いコメント付箋が貼られるように、イベント2日目に宮野先生は会場に「コメントの心得」という三箇条を貼り出しました。

A3印刷_コメントの心得b

「初日に貼られた付箋を見ていると『いいね』や応援コメントばかりで、それはそれでいいのですが、これだけじゃいかん、もっと真剣な対話を促さなければ!と慌ててつくりました。会場のムードが心地良すぎたのかもしれないです(笑)」

 

発見や気づきのある対話をつくるには、単に迎合するのではなく、自らの価値観や考えをもって「問い」をフラットに受け止めることも必要です。会場の状況を見て細やかに場をアップデートしていくことで、イベントの質はさらに上がっていったようです。

企業にとっても価値のある、研究者との対話

「協賛企業を巻き込んだグループ・セッションも実に面白かったです。今回は4企業から『問い』をいただき、僕がファシリテーターとなって、それぞれ5名ほどの研究者と企業の方に入ってもらいセッションをしました」

 

グループ・セッションは、研究ポスターの発表と並ぶ『3QUESTIONS』の目玉となる企画です。たとえば、広島電鉄提供の「都市という複雑系、あなたの専門からはどう考える?」という問いからは、定住ではなくそもそも人の移動ありきでまちづくりを考え直す「流動を前提とした都市開発」というアイデアが出て盛り上がりました。

グループ・セッションの様子。登壇者たちは専門分野が異なり初対面だったが、どのセッションも大いに盛り上がった

グループ・セッションの様子。登壇者たちは専門分野が異なり初対面だったが、どのセッションも大いに盛り上がった

 

「企業の方たちもとても喜んでくれて、『社内でどんなに議論しても出てこない意見です』と、メモをたくさん取られていました。僕らにとっても、企業の方が学術の対話にも価値を感じてくれるのだと知ることができ、うれしい発見でした」

 

今後は研究者と企業を上手くマッチングさせるシステムも構築したいと宮野先生は話します。研究ポスターやセッションを見て、「この人と対話してみたい」と思ったら、運営を通じて研究者とコンタクトできるようなシステムです。これまでの共同研究とはまた違う発想や関係性で、企業と研究者をつなげられるようになるかもしれません。

大学が横につながり、学問の灯火を守る機運を

『中国3QUESTIONS』を振り返って宮野先生は、「来場者から『知の展覧会みたいですね』という感想をいただきました。素敵なコメントでしょう?」と笑顔を見せます。

 

「小学生も付箋にコメントを書いてくれていて、可愛かったですね。保護者の方の感想もとてもよかったです。『自分の子供が大学生になる前に今の大学を変えたい。だから参加しました』と書かれていたんです。本来の学問とは開かれたもので、大学人だけのものではありません。そういった学問の在り方を、イベントで具現化できたのは良かったです」

 

『3QUESTIONS』の開催費用は、企業からの協賛金やクラウドファンディングによる一般の方からの支援によって大部分がまかなわれています。たくさんの人が支援を寄せてくれているという事実からも、大学や学問への危惧と期待が広く社会に共有されていることを感じます。

 

今後、『3QUESTIONS』は残る8地域へと順次キャラバンを続けます。さらに開催地ごとに、研究ポスターや付箋コメントをまとめた冊子を制作する予定です。今回、会場の空気を冊子に反映させようと、編集者とデザイナーが京都からわざわざ現地に訪れたと、宮野先生は冊子への力の入れようを語ります。

 

「次回の開催地は北海道、東北、北信越あたりを考えています。9月・10月頃に開催できればよいなと考えてはいるものの、まだほとんど白紙です(笑)。会場として立候補したい大学さまの応募を、ぜひお待ちしています」

 

日本全国をキャラバンしながら、大学や研究者の在り方に一石を投じ、本来の学問をする機運を産み出そうとする『3QUESTIONS』。ほとんど0円大学も、このチャレンジングな取り組みを応援したいと思います。

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