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  • date:2020.11.12
  • author:三浦彩

珍獣図鑑(6):ファニーな見た目でクールに滑空! どこにも属さねぇ孤高の奇獣・ヒヨケザル

今回お話を伺った研究者

辻󠄀 大和

石巻専修大学 理工学部 生物科学研究科 動物生態学研究室 准教授

農学博士。東京大学大学院 農学生命科学研究科 博士後期課程 修了。京都大学霊長類研究所 助教、ボゴール農科大学 客員研究員、中京大学 非常勤講師などを経て、2020年4月より現職。学生時代から宮城県・金華山島でニホンザルの生態学的研究を続け、学位取得後は調査対象を国内外の哺乳類に拡大。主な研究テーマは、食物供給の年変動と哺乳類の生態の関係、哺乳類による種子散布、哺乳類の混群現象、哺乳類の基礎生態の地域変異。日本生態学会、日本哺乳類学会、日本霊長類学会、国際霊長類学会などに所属。著書に『与えるサルと食べるシカ』(地人書館、2020年)など。


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、誰にも振り返られなかった生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う連載企画「珍獣図鑑」。

研究者たちと生き物との出会いから、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。そしてもちろん基本的な生態や最新の研究成果まで。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。

第6回目は「ヒヨケザル×辻󠄀大和准教授(石巻専修大学)」です。それではどうぞ。(編集部)


マレーヒヨケザル。親のお腹のあたりから顔を覗かせているのは子ども

マレーヒヨケザル。親のお腹のあたりから子どもが顔を覗かせている

サル、ムササビ、コウモリ…どの仲間でもない“皮翼目”

これまた今まで存じ上げなかったものの、ビジュアルインパクトは相当にハイレベル。お猿さんチックな顔立ちに、ムササビやモモンガよりも生々しい膜が張られたおからだ。木から木へ、さぞ颯爽と滑空できそうな雰囲気だけど…いったいヒヨケザルって何者なんですか?

 

「サルという名前がついていますが、サルではありません。研究者の間でも、どのグループに入れるか長らく混乱していたらしく、霊長目(サル目)やツパイ目と一緒にしていた時代もあったようです。しかし遺伝子を使った最近の系統解析により、ヒヨケザルの仲間だけで独立させ、皮翼目という扱いにされています。同じく滑空する哺乳類である齧歯目のムササビやモモンガよりはサルと近縁で、飛行をする翼手目のコウモリとは大きく違います」

 

ヒヨケザルのことを英語では、フライングリーマー(空飛ぶキツネザル)とも言うんだとか。やはり外国の方にも、お猿さんっぽく見えるんですねぇ。その皮翼目には何種類いるんでしょう。

 

「2種類とされていて、1種は私が研究対象としているマレーヒヨケザル。マレー半島やスマトラ島、ジャワ島やボルネオ島など、東南アジアの比較的広い範囲に暮らし、インドシナ半島のベトナムやラオスにも小集団がいるようです。もう1種がフィリピンヒヨケザル。名前のとおり、フィリピンの島々にすんでいます」

サルではない

サルではない

Let’s滑空生活! 航空力学的にも理にかなった形態に進化

なんだか孤高の進化を遂げたっぽくてかっこいい。空を飛ぶことで、効率のいい生活を送れるメリットがあったんでしょうねぇ。とはいえ、どれぐらい飛べるものなんでしょ。

 

「電波発信機をつけて行われたシンガポールの研究によると、最長で136mもの飛行距離を記録したようです。私たちが行ったジャワ島での調査では、平均で32.6m。最長で252mという数値が出ましたが、直接目撃したデータではないので、短距離を何回か飛んだのかもしれません。いずれにせよ、100m以上は飛べるようです。母親は意外と大きな赤ちゃんを抱えたまま飛ぶので、大変だと思います」

 

100m以上とは、かなりの飛びっぷり! 飛ぶための膜、皮膜がここまで発達している哺乳類はほかにいないんだとか。念ずれば通ずってこと? 進化のパワーすごいですね。

 

「航空力学的にも空を飛ぶのに理にかなった構造だと、アメリカの研究者が報告しています。皮膜は指と指の間、尻尾と後ろ足の間にもついているんですが、なるべく風を受け、飛行距離を稼ごうという進化の産物なのかなと。指と指の間の膜を動かすことで進行方向を変えられるらしく、尻尾と後ろ足の間の皮膜は、上下に振ることで飛行距離を1~2割も稼げるそうです」

滑空するマレーヒヨケザル

滑空するマレーヒヨケザル

 

とびきり大きなお目めも、飛行中、木にぶつからず目的地へ正確に着地できるように発達したんじゃないかとのこと。足も樹上生活に適した形状なんだとか。

「前足はかぎ爪になっていて、後ろ足はウサギやカエルのようなイメージです。前足をガッチリと木に引っかけ、後ろ足でピョンピョンとジャンプしながら登っていく。ある程度高いところまで来ると、手足を思いっきり開いて滑空します。前歯はクシのようにギザギザしているんですが、その機能はまだわかっていません。木をかじって樹液を出しているのではという研究者もいますし、毛づくろいで役に立っているかもしれませんし。まだまだ謎の多い動物なんですよ」

夜行性だし昼間でも見つけにくい…研究者泣かせな高嶺の花?

聞けば聞くほどめちゃくちゃ特徴的だし、人気の研究対象っぽいけど、そうでもないってことですか。飛び回って暮らしているなら、かなり目立ちそうですけど…。

 

「夜行性ですし、日中は木にぶら下がっているかしがみついているかで、ほとんど動かないんですよ。木に溶け込むような場所で休んでいるから、枝の一部や木の実などにしか見えなくて、地元の人もほとんど知らないはず。私の調査地は観光客も多いレクリエーション林ですが、真下を素通りしていく人が大半です。研究が進んでこなかった理由の一つに、発見の困難さがあるかと思います」

日中、木にしがみついて休んでいるマレーヒヨケザル(昼間はほぼこのポーズ)

日中、木にしがみついて休んでいるマレーヒヨケザル(昼間はほぼこのポーズ)

 

その形態的な特徴は19世紀頃の文献にも記載されてはいたものの、行動については謎だらけ。最初に論文が出たのも1990年頃と、超最近なのだとか。

 

「30ヘクタールの森林に20匹ほどが暮らしているのは確認したものの、生息域全体の個体数もまだ不明のまま。系統についてはそれなりに論文が出ていますが、行動や生態に関する論文は、調べたところ10本もなさそうです。調査対象とされた場所も、今まで4カ所しかありませんからね。私自身、サルの研究が本業ですし、ヒヨケザルだけを専門に研究している人は、たぶんいないと思います」

きっかけは偶然。愛くるしさとカッコ良さにギャップ萌え

まったく知らんかった我がことは棚に上げつつ、そんなにも研究が進んでいなかったとは…。となると、辻󠄀さんはヒヨケザルの研究を、いつから何キッカケで始められたんでしょ。

 

「2010年から断片的にデータをとるようになり、本格的に研究を始めたのは2015年からです。ジャワルトンという、葉っぱを食べるリーフモンキーの仲間の調査をするためジャワ島の自然保護区へ行ったとき、アシスタントとして雇ったレンジャーの趣味がヒヨケザルの観察だったんですよ。森林の動植物に詳しい、とても有能なアシスタントだったんですが、ヒヨケザルを見つけると調査そっちのけではしゃぐはしゃぐ(苦笑)。集中してよと注意していたんですが、何回も繰り返されるうち私までヒヨケザルに愛着が湧いてきて…。見た感じ鈍くさそうなのに、空を飛ぶときはめちゃくちゃかっこいい。そのへんのギャップも魅力でした」

向かって右が辻󠄀さん。左はヒヨケザル観察が趣味というジャワ島でのアシスタント

向かって右が辻󠄀さん。左はヒヨケザル観察が趣味というジャワ島でのアシスタント

 

ジャワルトン。葉を食べるサル

ジャワルトン。葉を食べるサル(リーフモンキー)

専門は、サルをはじめとする哺乳類の採食生態。その一環として赴いた調査で、ヒヨケザルと出会ったってわけですね。

 

「あとからわかったんですが、比較的、ヒヨケザルが高密度にいる調査地だったんですよ。サルとヒヨケザルって、食べるものが結構かぶっているから、潜在的には競争関係にあるはずなのに、両者が共存できているメカニズムも面白いなと」

 

ヒヨケザルは葉食性で、若葉が好き。植物の葉や若い果実を食べています。報告されているのは今のところ39種類だそうですが…。

 

「まだ情報が少なく、食べ物についての論文も3つしかないんですよ。私の調査地で見つけた9種類のうち、4種類ぐらいは新しい食べ物でしたし。新しい発見がどんどんあるのも、未知の動物を研究する面白さですね」

マメ科の植物の若葉を食べるマレーヒヨケザル

マメ科の植物の若葉を食べるマレーヒヨケザル

生態がわかっていないと捕獲も一苦労。虫取り網で悪戦苦闘!

主な研究手法は観察。先述の飛行距離は電波発信機を使って調査したってことですが、どうやって取りつけたんですか?

 

「非常にシンプルで、日本から持って行った虫取り網に竹竿を何本もつけ、10mほどの長さにして生け捕りにしました。運動神経がないと難しく、なかなかうまくいかないんですよね。この手の調査では麻酔銃を使うのが一般的なんですが、ヒヨケザルの場合、まだ生理機構がわかっていないので、下手に使うと死んじゃう恐れがある。原始的ですが網を使った生け捕りがいいと、先に捕獲したシンガポールの研究者から助言をもらいました」

電波発信機をつけて調べた結果、行動圏は1.2~5ヘクタールぐらいだとわかっているんだとか。同じぐらいの大きさの動物なら、行動圏はもう少し広くなるはずだそうで…。

 

「恐らく葉っぱを食べる性質に関係していると思われます。別の研究者が同じくジャワ島のココヤシ農園で調べた報告によれば、メスが1.3ヘクタール、オスが1.8ヘクタール。メスには縄張りがあって排他的だけど、オスの行動圏は重なっているので、オスとメスとで土地の使い方が微妙に違うと考えられます。その生活空間のなかで、オスとメスがどうやって出会い、子どもを残しているのかも非常に興味深い。ちなみにいつ行ってもお腹に赤ちゃんがいるのを見かけるので、一年を通じて繁殖しているのは間違いありません。今後は繁殖システムについても明らかにしていきたいです」

マレーヒヨケザルの親子

マレーヒヨケザルの親子

単独性だと言われているヒヨケザルの社会性に迫りたい

オスとメスの関わり合い方も謎だけど、どうやらほかの生き物たちとの関係性も謎なようで…。

 

「調査をしていると、鳥やリスなど、結構いろんな動物が近くにやってくるんですよ。例のリーフモンキーとは比較的良好というかニュートラルな関係で、よく一緒にいるんですが、アグレッシブなカニクイザルがやってくると、なぜか慌てて逃げ出すんです。相手によって行動を変えるのも面白いなぁと思っていて」

リーフモンキーとマレーヒヨケザル。よく一緒にいる

リーフモンキーとマレーヒヨケザル。よく一緒にいる

 

カニクイザル。彼らが来るとヒヨケザルは逃げ出してしまう

カニクイザル。彼らが来るとヒヨケザルは逃げ出してしまう

 

マレーヒヨケザルと共存する動物たち。左上から時計回りに、キタカササギサイチョウ、マレーセンザンコウ、ルサジカ、ジャワオオコウモリ、インドオオリス

マレーヒヨケザルと共存する動物たち。左上から時計回りに、キタカササギサイチョウ、マレーセンザンコウ、ルサジカ、ジャワオオコウモリ、インドオオリス

 

聞けばヒヨケザルの社会的行動についてはほとんどわかっていないんだとか。

「1本の木に4匹の個体が一緒にいることは記録しているんですが、これが親子なのか兄弟なのかカップルなのか、全然わかっていないんですよ。もしかすると情報交換をしたり、一緒に何かを食べていたりしたのかもしれません」

 

実はもともと好きではなかったサルの研究も、その社会的行動から興味をもち始めたという辻󠄀さん。

 

「大学時代に上野動物園で行っていたボランティア活動の担当が、たまたまニホンザルの猿山だったんです。最初はうるさくて苦手だったんですけど、群れの中に仲の良い者や牽制し合う者、特定の相手のご機嫌をとる者がいたりして…。ただのサルの集まりと思っていたのが有機的なグループに見えてきて、面白く感じるようになったんです。ヒヨケザルは現状、単独性の動物だと言われていますが、私自身はサルのように複雑で高度な社会性をもっているのではと考えているので、それを検証したい。これからも調査を続けて、マイナーながらも面白い、ヒヨケザルの魅力的な部分をどんどん広めていきたいですね」

パガンダランの森林

マレーヒヨケザルが多く棲むパガンダランの森林

 

最後に、マレーヒヨケザルの独特な「排泄」の様子を捉えた映像を(閲覧注意?)。おしりの皮膜をペロッとめくりあげ、先っぽにある肛門から排泄する。お腹のあたりにいる子どもにも注目。

【珍獣図鑑 生態メモ】ヒヨケザル

図鑑用

皮翼目(ヒヨケザル目)に属する哺乳類で、フィリピンヒヨケザルとマレーヒヨケザルの2種のみが現存。体長は30~45cm、体重は1~2kgほど。東南アジアの熱帯林で樹上生活を送る。前足のかぎ爪と後ろ足のジャンプ力で木に登り、全身に張り巡らされた皮膜を使って100m以上も滑空する。夜行性で、若葉や若い果実などを食べる葉食性。母親は折り畳んだ皮膜の中に子どもを入れて育てる。

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