2015年11月に開催された、大阪大学と大阪音楽大学とのコラボコンサート。そこでは人が意識せずデータを取るために、爪デバイスやセンスチェアといった装置(ユーザインタフェース)が使われていました。
今回はこのコンサートで使った装置の開発者であり、さまざまなインタフェースの研究、さらにその先にある『無意識コンピューティング』の実現をめざす、大阪大学の伊藤雄一准教授の研究室を訪ねてきました。
前回の記事「世界初!阪大×大阪音大の境界をこえる音楽会!」はこちら。
そもそもユーザインタフェースとは?
インタフェースとはものごとの境界となる部分すべてを指す言葉。なかでもユーザインタフェースは、人とコンピュータが情報をやりとりするためのインタフェースのことを指します。
こう言うとよく分からない難しいものという印象を持ってしまいがちですが、パソコン用のキーボードやマウス、スマートフォンのタッチディスプレイ、ATMの操作画面にテレビ、マイクなど、これらすべてがユーザインタフェース。最近では身振り手振りで入力できるKinectや、AppleWatchのような身につけるものも出てきています。
私たちとコンピュータの仲立ちをするところ、それがユーザインタフェースです。
新しい形のインタフェース
伊藤雄一准教授の研究室では、これまでのユーザインタフェースをさらに発展させた新しいインタフェースを開発しています。
「スマートフォンは指で画面に触れることで操作できますが、本当に画面の中にあるアイコンなどに触っているわけではありません。私たちとコンピュータの情報の間はガラスという隔たりがあります。なので目を閉じてスマートフォンを触っても、自分が何の情報に触れているのかわかりません。この境界を曖昧にして、『情報に実際触れる』というのが、私の研究している新しいインタフェースです。より直感的に、目だけでなく五感で情報のやりとりをすることが目標。さらにこれらのインタフェースを応用して『無意識コンピューティング』の実現をめざしています」
形のない情報に触る?!いったいどういうことなのか。
実際いくつかのインタフェースが研究室にあるとのこと。こちらを実際に使用させていただきました。
触れるディスプレイ「FuSA2 Touch Display」
まずはこちら。一見すると白い毛皮のようですが、これが実はディスプレイ。
毛の一本一本はすべて光ファイバー。見た目がふさふさしているので、人の「なでたくなる」気持ちをくすぐります。この、思わずなでたくなる見た目であることが大切なのだそう。
もちろん見た目だけではなく、実際なでることもできます。触った感じは、少し固めの動物の毛のような触り心地で、触っているととても気持ちいい!
映像は後ろからプロジェクタで投影し、触ることでディスプレイに埋め込まれたセンサが情報を読み取り、映し出されている映像がリアルタイムに変化します。
「展示会でも、このディスプレイは人気者で、立ち止まってなでる人が多いです。人の行動をこの見た目で誘うんです」と伊藤先生。
例えばサイネージ広告などでの応用が考えられるとか。
「デジタルサイネージなどはもう珍しさもなくなって、あまりまじまじ見なくなりました。けれどこれは近寄りたくなる。そうして立ち止まって、さらに触ってもらえることで広告を見てもらう機会が増えるのではと思います」
さらに触ることで別の動きを加えるなど、今後の展開が気になります。
感情を入力!「Emoballoon」
そしてこちらが風船型入力デバイス。風船にはマイクと気圧センサが取り付けられ、なでたりたたいたり抱きしめたりすることで色が変化します。
感情や意図を、抱きしめたりたたいたりという動作で入力できるものとのこと。離れた場所にいる人とのコミュニケーションに活用したり、ぬいぐるみに内蔵することで子どもの感情を読み解いたりと、さまざまなことに応用できるそうです。
そして、個人的に気になったのがこちら。
紙をめくる動作で電子書籍を操作できるデバイスです!
もともとはぱらぱらマンガを電子書籍で再現できないかという発想から生まれたそうです。本をめくる動作をすると、それに応じて画面の電子書籍のページがめくられていきます。持っている手元のデバイスでもモーターが回転するため、本当に手で紙をめくっている感覚で使えます。スピードも指で自在に調整。さらにめくるスピードを変えると内容が変化!
「今電子書籍は本のページをそのままデータにしたものがほとんど。もっとデジタルらしいギミックがあってもいいのではという発想で作りました。見たい情報を探す場合、印刷された紙をぱらぱらめくって探すことは実はとても検索性が高い方法なんです。そしてデジタルならではのギミック。この両方をミックスしたデバイスなんです」
その他、情報を「水」という物質で表示する結露ディスプレイ、音楽会でも使用された「Sense Chair」、ブロックの積み方を記録する「Stack Block」などなど……どれもこれも見たことのないデバイスばかり。
こちらがStack Block。積み上げたブロックの形がリアルタイムで表示される。
「子どものころ、曇った窓ガラスに指で落書きしたことありますよね?だめだと言われてもつい落書きしたくなる。結露ディスプレイはその原体験を利用して触れてもらうことが目的です」
このように、人の経験や五感から思わず触ってしまったり、知らず知らずの間に使用していたりというのが先生の考える新しいユーザインタフェースの特徴。これらは人に違和感を与えず目的を達成したり、人の生活に溶け込んだインタフェースとして役立ちます。
とはいえ、インタフェースはあくまで入出力の部分のみ。
先生がめざすのはこのようなインタフェースを使い、人が意識せずにコンピュータに触れる「無意識コンピューティング」にあるとのこと。
次回は未来の技術、無意識コンピューティングについてお届けします。
(後編はコチラ)