全国各地、さまざまな大学で行われているビジネスコンテストやプロジェクト発表。学生のやるものだしと侮っていませんか?
大学の研究は最新科学を扱うものも多く、その研究力と学生のアイディアが商品化につながった例も多数あります。今回はそんな大学のもつ研究を活かす方法を考える、関西大学の文理融合プロジェクト「AjiCon」を訪ねました。
関西大学で毎年開催されている「AjiCon」は文理融合型イノベーション対話プログラムであり、とくに「食のイノベーション」をテーマに同大学の理工系学部のもつ研究成果(シーズ)とビジネス系学部の対話により事業化に向けたアイディアを創出するプログラムです。
ほとゼロでも紹介した「和neチャージS」も実はこのプログラムから誕生した成果のひとつなんです。
参考
アスリートのための冷凍餅!? 関大×和菓子屋の技の結晶「和ne チャージS」【前編】
アスリートのための冷凍餅!? 関大×和菓子屋の技の結晶「和ne チャージS」【後編】
もしかしたら次の大学発商品をいち早く見つけることができるかも……?! と思い、「AjiCon」に参加しました。
今回使用されたシーズに関わる関西大学化学生命工学部の河原秀久教授
AjiConの総括を行う関西大学商学部の西岡健一准教授
今回最終プレゼンに参加したのは7組。活用するシーズとしては同大学化学生命工学部河原秀久教授の「不凍タンパク質※」「不凍多糖※」「接着タンパク質※」「過冷却促進物質※」の4つのシーズ。この中から1つ以上のシーズを選択し、事業化をめざすプランを発表します。
食のイノベーションをめざすというテーマから、会場には広く食品を取り扱う会社の関係者がたくさん集まっていました。
※「不凍タンパク質」 カイワレ大根由来の物質で、氷再結晶化を抑制し、冷凍による品質劣化を抑えます。
「不凍多糖」 エノキダケ由来の物質で、不凍タンパク質同様冷凍による品質劣化を防ぎます。耐熱・耐酸性に優れます。
「接着タンパク質」 エノキダケ由来の物質で、添加量により食品の堅さ調節に役立ちます。
「過冷却促進物質」 あん粕など食品加工廃棄物から抽出されるもので、物質の氷結そのものを制御します。
「AjiCon」ではそれぞれのグループが7分間発表し、参加者の投票によりチャンピオンが決まるシステムです。今回発表されたのは以下の7つ。
タイトル | 提案した新しい食べ物 | 概要 |
E.T.~Eating Technology~ | アレルギー表示対象27品目を除いたアレルギーフリーケーキ | 接着タンパクや米ゲルを使用し、おいしくてアレルギーフリーかつ、腹持ちがよくローカロリーなケーキを考案。 |
モチがやきもち | もちもち食感のアイスクリーム | 餅による窒息事故の多くが高齢者という点に着目し、餅のような食感を楽しみつつ、溶けることで窒息を防ぐアイスを考案。接着タンパクを使用し、食感をより餅に近づけている。 |
わたしのおひさまパン~地味に有米(うまい)~ | 米粉パンの欠点を補った米粉パン | ぱさぱさしやすい・傷みやすいなどの米粉パンの欠点を接着タンパク・不凍多糖を使用して克服。さらに缶入りパンにすることでデザインの多様性や非常食としての機能も付加した。海外展開も視野に入れたプランを考案。 |
おからのチカラ~もったいない改革~ | 栄養のあるおからを使ったアイスクリーム | 廃棄されるおからの活用方法としておからを使ったアイスクリームを提案。おからの食感を改善するために不凍タンパクと接着タンパクを使用。栄養価が高くておいしい、さらにカロリーもおさえた新商品について発表。 |
がんばるあなたへ、落ちないクッキー | 新しい栄養機能食品 | 忙しい社会人をターゲットに、オフィスで手軽に食べられる新しい栄養機能食品を考案。シチュエーションごとに商品を複数展開する。接着タンパクを使用して、クッキーの「ポロポロと落ちる」欠点を改善。パッケージを変え受験生向けの展開も可能に。 |
大豆のある生活~あなたに寄りソイたい~ | 豆乳や米ゲルを使ったアイスケーキ | 豆乳や米ゲルを使用したローカロリーで栄養のあるアイスケーキを考案。接着タンパク・不凍多糖・不凍タンパク・過冷却促進物質を使うことで、冷凍しても品質が落ちないようにした。健康に関心の高い層をターゲットに健康志向のカフェなどを中心に展開を企画。 |
「問題のアレ」が生まれ変わって社会良くしちゃった話 | あんこを使った新しいスイーツと新聞社のネットワークを活かした商品展開企画 | 和菓子は人気だがあんこが不人気という点に目をつけ、酒粕とあんこ、接着タンパクを混ぜて食感を軽くした新しいスイーツを考案。さらに新聞社のもつネットワークを活用し、企業向けに配達し展開する案を発表。 |
どれもとてもよく考えられていて、質疑応答では実際の展開を見据えた質問も多く上がりました。
私がとくに興味深かったのは、缶のデザインを変えることでさまざまな市場展開を狙った「わたしのおひさまパン」。缶入りパンは既にありますが、米粉を使うことで小麦アレルギーに対応したり輸出や非常食としての展開も見据えた点がおもしろいなと感じました。
また、「大豆のある生活~あなたに寄りソイたい~」では、シーズを活用することで「和菓子を輸出するときに問題になる抹茶の退色を防ぐ」というアイディアがあったのですが、こちらは海外向けの和菓子展開を扱う方から高い評価を受けていました。
さらに最近注目されている「米ゲル」など新素材を活用している企画が複数あったことも驚きでした。会場には米ゲルを製造している企業の方が参加されており、米ゲルの活用法として前向きに検討したいという意見もありました。
プレゼンテーションの様子
チャンピオンに輝いた西岡ゼミC班「おからのチカラ~もったいない改革~」
正直、思っていた以上に見応えのある発表でした。
こういった大学の学生が活躍するビジネスプランコンテストなどは各大学で盛んに行われています。
各地で開催されているビジネスプランコンテストなど(一部)
そうはいっても学生でしょうと思わず、興味があるものがあれば一度足を運んでみるがおすすめです。今後この中からどんなものが生まれるのか、注目していきたいと思います。