クロマグロの養殖と商品化に成功し、マグロ界を席巻した近大マグロ。その近畿大学水産研究所のレストランでは、交雑魚「キンダイ」が食べられます。鯛といえば、マグロと並んで高級魚。しかし、馴染みのあるマダイではないというのです。いったいどんな魚なのか確かめてみました。
しっかりとした歯ごたえと濃厚な風味
近畿大学水産研究所で育まれ、見事、立派な体格になって卒業した魚たちは、大阪と銀座のレストランで供されます。クロマグロは皆さんご存知の通りですが、交雑魚の「キンダイ」も見逃せません。鯛というと桜色に輝くマダイを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、キンダイは違います。イシダイの縞模様とイシガキダイの斑点模様の両方が体表に現れて、見た目で分かり易い交雑魚です。
味わいはというと、普通のマダイは、半透明の白身がプリプリしていて、非常に弾力に富んだ食感が特徴です。でも、キンダイは、まったり滑らかな食感でありながら、歯ごたえも十分に楽しめる魚。プリプリではないけど、ムギューという弾力がたっぷり感じられるのです。舌にまったりと絡みつく濃厚な旨味と磯の香りが口中に広がるのも特徴のひとつ。マダイは、どちらかというとあっさりした風味で、味わいよりも食感に優れていますが、キンダイは、味にも深みがあるのです。刺し身に添えられているもみじおろしのピリッとした風味との相性も良し。もちろん、近大卒の証である「卒業証書」も添えられています。
キンダイの卒業証書。こちらで提供される魚にはみんなこの卒業証書が授与されている
レストランでは「キンダイ」の刺し身がいただけるのですが、近大が厳選した和歌山名物の日本酒、「紀州五十五万石本醸造」や「高野山般若湯聖」、白ワインなどスッキリ辛口の酒が合うそうです。
「実学の精神」に基づいた魚の養殖
近畿大学水産研究所は1948年(昭和28年)に和歌山県西牟婁郡白浜町に誕生しました。
近大には、世の中の役に立とうという「実学の精神」が息づいていて、水産研究所でも、交雑魚の養殖研究や近大マグロのような多くの人に喜ばれる魚の養殖を進めてきたのです。
店内にあるパネル。白浜にある養殖場の様子を垣間見ることができる
養殖場の様子(提供:近畿大学広報室)
交雑魚の養殖は限りない可能性が広がる
交雑魚の養殖では、違う種類の魚の卵子と精子を掛け合わせるのですが、そのひとつがキンダイの養殖です。
実は、キンダイの養殖は、1975年(昭和50年)に成功し、「雑種の養殖法」について特許を取得しました。イシダイはイシガキダイに比べて繁殖力が強く、イシガキダイはイシダイに比べて成長が早いという特徴があり、両者の良い面を受け継ぐ交雑魚としてもってこいの魚だったのです。そこからさらに研究を進めてキンダイが商品化されたのですが、現在の課題はより早く成長させること。1kgになるのに4~5年かかってしまうので、一般に広く出回るような量産化は難しいそうです。
弾力に富み、旨味がたっぷりのっているキンダイ。今後、普通の鮮魚店でお目にかかれる日が来るかもしれません。また、近畿大学水産研究所では、他の交雑魚研究も進められているのですが、その可能性は無限の広がりを見せています。