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  • date:2025.8.5
  • author:山田玲子

ナマケモノ研究で知られる奈良教育大学 村松大輔先生共同主催 のイベント「ナマケモノフェスティバル in奈良 2025」で、本物のナマケモノを知る。

2025年6月28日(土)と29日(日)の2日間、奈良県にある県営平城宮跡歴史公園天平みつき館で、「ナマケモノフェスティバル in奈良 2025」が開催されました。ナマケモノフェスティバルが奈良で開催されるのは昨年に続いて2回目。主催と運営は、奈良教育大学自然環境教育センター特任准教授の村松大輔先生と、ナマケモノに関するイベント企画や情報発信を行う「ナマケモノ研究所」が務めています。

イベントの内容は、ナマケモノの行動や生態を紹介する展示をはじめ、さまざまな分野のクリエイターによるオリジナルナマケモノグッズの販売、主催者によるトークショーなどもりだくさん。研究者自らが主催・運営するアカデミックなイベントとあって、ナマケモノの魅力をいろいろな角度から知ることができそうです。

2日間で300名以上のナマケモノ愛好家が参加した、イベントの様子をレポートします!

 

ナマケモノ愛にあふれた販売ブース&展示コーナー

現地のレポートを行う前に、主催者の一人である村松先生のご紹介を。

動物行動学が専門の村松先生は、野生のナマケモノを研究しています。アマゾンの生物多様性保全プロジェクトに参加した経験をもち、その際は、アマゾン熱帯林に生息する野生のノドジロミユビナマケモノを24時間体制で観察し、追跡調査を行いました。日本では数少ないナマケモノ研究者の一人として、メディアへの出演経験も豊富です。「ナマケモノに関するアカデミックな知識を多くの人に知ってほしい」という考えから、このイベントに携わっているそうです。

アマゾンで現地調査に入る村松先生(写真提供:村松大輔)

野生のノドジロミユビナマケモノ(写真:村松大輔)

 

取材班がお昼過ぎに到着すると、すでに会場はたくさんの方でにぎわっていました。小さな子どもから年配の方まで、幅広い年齢層の人が集まっている印象です。受付からL字型にずらっと並んでいるのは、作品販売ブース。イラスト、ぬいぐるみ、アクセサリーなど、多種多彩なグッズが並んでいますが、モチーフはほぼすべてナマケモノです。ナマケモノへの愛を作品で表す出展者も、それを買い求める来場者も、みなさん笑顔で幸せそうな空間でした。

ナマケモノをモチーフにしたグッズがところ狭しと並ぶ

 

販売ブースの先にあるのは、さまざまなポスターが掲げられた展示コーナーです。

カラフルで目を引くのは、ナマケモノに関わる豆知識のポスター。「後肢よりも前肢が長い」「毛に藻が生えていることがある」といったナマケモノに関する知識が、シンプルな文章とイラストで紹介されています。複数の作家さんがイラストを担当しているので、作品として鑑賞するのも楽しい掲示です。

イラストでわかりやすく描かれたポスター

 

村松先生が解説してくれたさまざまなナマケモノの知識を作家さんたちに提示し、描きたいものを選んでイラスト化したそうです。作家さんたちとのコラボレーションともいえるポスターについて、村松先生は次のように話します。

「豆知識に合わせた絵が見せられるという点で、やはりイラストは強いですね。ナマケモノは丸くなったままほとんど動かない動物なので、このような企画に合う写真はなかなか用意できません。作家さんたちのイラストのおかげで、分かりやすい内容になったと思います」。

豆知識のポスターは展示コーナーでも一番人気。熱心に眺める子どもや、写真を撮る人の姿がたくさん見られました。

 

このほか、村松先生の研究を紹介した「ノドジロミユビナマケモノの生活」や「野生ナマケモノの省エネ戦略」のポスター、生態や文化など、ナマケモノに関するさまざまな問題を解いていく「ナマケモノ共通テスト2025」のポスターも掲示されていました。

初心者からマニアまで、いろいろな方が楽しめるコーナーでした。

村松先生自らレクチャーしてくださる姿も!

 

主催者によるトークショーでは、聴講者から質問が続出!

14時からは、村松先生とナマケモノ研究所のハチ川所長による「はじめてでもわかるナマトーク」が開催されました。5分前になると、トークスペースに老若男女の聴講者がどんどん集まり、補助いすが出るほど盛況に。Xで「ただのなまけもの」というイラストを毎日更新しているイラストレーターの「とりあたま」さんも飛び入りで登壇し、3人によるトークショーが始まりました。

トークショーは、オンラインでもライブ配信。写真左から、とりあたまさん 、村松先生、ナマケモノ研究所のハチ川所長

 

◇まずはナマケモノの基礎知識を紹介。

「はじめてでもわかる」というイベント名に沿って、まずはナマケモノの基礎知識が紹介されました。

ナマケモノには、前肢に2本の爪をもつフタユビナマケモノ科と、3本の爪をもつミユビナマケモノ科があること。フタユビナマケモノも後肢の爪は3本であること。

ミユビナマケモノ科には、ノドチャミユビナマケモノのほか、喉が白いノドジロミユビナマケモノ、体が小さなヒメミユビナマケモノ、タテガミのような黒い毛が生えているタテガミナマケモノの4種がいること。

フタユビナマケモノ科には、日本の動物園で見られるフタユビナマケモノと、全体に色が薄めでクリーム色の爪をもつホフマンナマケモノの2種類がいることなどが説明されました。

3人によると、「タテガミナマケモノを知っていたらマニアかも」とのこと。他のミユビナマケモノにはない肉球をもっていたり、逆に、他のミユビナマケモノのオスにはあるスペキュラムという背中の模様がなかったりと、少し変わった種だそうです。ココナッツのような頭も独特で、たしかに他のナマケモノとは雰囲気が違うかも。「市販のグッズでタテガミナマケモノは見たことがない」とのことでした。

 

ナマケモノの基本を解説した後は、質問コーナーへ。前回のイベントで好評だったということで、たっぷり時間が設けられていました。次々に挙がった質問の中から、いくつかをピックアップして紹介します。

 

◇質問1:木にぶら下がる姿が印象的なナマケモノ。木の摩擦で、爪が削れたり薄くなったりしないのでしょうか?

村松先生「ナマケモノが木にぶら下がる姿を描いたイラストは多いのですが、実は、彼らはほとんど木にぶら下がりません。1日の約8割をじっと座って過ごしているので、ぶら下がるシーンは珍しいぐらいです。だから、長時間ぶら下がることによる摩擦で爪が削られることはないと思います。ただし、爪の先が何かにぶつかって薄く剥がれることはあります」

 

◇質問2:ブラジルへ行く以外に、ミユビナマケモノに会う方法はありますか?

村松先生「たしかに、今の日本でミユビナマケモノに会うことはできません。ただし、ミユビナマケモノは中南米の広い地域に分布しているので、生息地へ行けば割と簡単に会えると思いますよ。日本から近い地域でいうと、たとえばコスタリカとか。片道1日半ぐらいかかりそうなので、そんなに近くないかもしれませんが……(笑)。ところで、日本国内でミユビナマケモノを飼育しようとしたことは、過去に何度かあるようです。ただし、残念ながらいずれもすぐ亡くなってしまったそうです。ミユビナマケモノの飼育は難しく、彼らが生息していない地域では、いまだに飼育に成功した例がありません。『食べられるものが限られているからではないか』『体に生える藻に秘密があるのではないか』と考える人もいますが、いずれも証明されているわけではなく、理由は分かっていません」

 

◇質問3:ナマケモノのことを調べたいと思ったのですが、参考書が少なくてびっくりしました。インターネットで検索しても、間違った情報を掲載しているサイトが多く……。正しい情報を集める方法はありますか?

村松先生「私の場合は、学術文献に特化した検索エンジンGoogle Scholarを利用することが多いです。100%信用できるわけではないですが、英語の論文は比較的正しい情報が多いように思います。科学雑誌の情報も、ある程度は信用できるでしょう。ただ、いずれも専門的な内容ですから、気後れする方もいるかもしれませんね。もう少し気軽に情報収集ができたら良いのですが……。そういう方のためにも、今回のイベントがお役に立てればと考えています。誰でも気軽に参加できる場で、ナマケモノの正しい知識を楽しく学んでいただければ嬉しいです」

 

約1時間の質問コーナーは大盛り上がり。子どもから大人まで、たくさんの聴講者が手を挙げて質問を投げかけていました。トークショーは15時半に一旦終了。イベント閉場後の17時からはナマケモノファンどうしが交流を行う時間も設けられていました。

質問コーナーでは、大人から子どもまでたくさんの手が挙がる

 

ナマケモノの魅力と正しい知識を、もっと多くの人に

ポスター展示とトークショーで、ナマケモノに関する幅広い知識を吸収することができました。同時に、日本ではナマケモノを正しく知る機会が少ないという事実も知ることができました。会場内を歩く村松先生をつかまえて、熱心に質問する人たちの姿が印象に残っています。「もっとナマケモノを知りたい!」という意欲を感じました。

研究者やマニアの心をつかみ、作家の創作意欲を刺激する、魅力でいっぱいのナマケモノ。今後はファンがさらに増えていきそうです。それに応じて、ナマケモノの勉強や研究ができる機会も、もっと増えていくことを期待しています。

 

☆もっとナマケモノについて知りたい方は、

ほとんど0円大学編集部が編集・構成した『先生! なぜその生きものに惚れたんですか? 生物学者10人の研究ものがたり』(玄光社発行)をぜひ手に取ってみてください。

8月26日発売、ただいま絶賛予約受付中です! 村松先生の研究に迫ったインタビューも掲載されています!

 

☆東京でも「ナマケモノフェスティバル 2025」を開催決定!

「ナマケモノフェスティバル 2025」
【日時】2025年9月22日(月)12:30~18:00、23日(火・祝)10:30~16:00
【会場】綿商会館 6F(東京都中央区日本橋富沢町8-10)
【入場料】600円(小学生以下は無料)
https://x.com/namafes_yeah

 

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