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  • date:2026.3.5
  • author:ほんま あき

「笑顔は花のようだ」「美は虫歯」……人が比喩表現を使うのはどんな時?追手門学院大の岡先生に聞いてみた

今回お話を伺った研究者

岡 隆之介

追手門学院大学 心理学部 講師

2013年国際基督教大学卒業。2018年京都大学大学院博士後期課程修了。博士(教育学)。三菱電機株式会社情報技術総合研究所の研究員を経て、2025年4月より現職。人間の言語の運用能力に関心があり、特に比喩表現について心理学的観点から研究を行っている。

「りんごのようなほっぺ」「鬼の形相」「夢みたいな話」など、私たちは日常生活の中でごく自然に比喩を使っている。人間は、どのようなときに比喩を使うのだろうか。比喩について、言語心理学の観点から研究を行っている追手門学院大学講師の岡隆之介先生に話を伺った。

「美が虫歯」の狙いとは? 人間はなぜ比喩を使うのか

まずは言語心理学とはどのような学問なのか尋ねたところ、「人間がどのように言語を獲得し、理解し、産出し、運用するのかを研究する学問と考えられています」と岡先生。たとえば「りんご」という言葉なら、「り」「ん」「ご」という3つのひらがなからなる、赤くて丸い果物を指すとわかり(理解)、「このりんご、おいしい」などと使用することができる(産出)。そして、他者に“伝える”側面をもつ比喩は、言語の「運用」の一形態と考えられるとのこと。

 

「『りんごみたいなほっぺ』と言う時に、赤らんだ感じの頬や小さな子どものような丸みのある頬のことを伝えようとしていて、相手もそれを理解することができます。伝える側も伝えられた側も、りんごのように『食べられるほっぺ』とは思いませんよね。

りんごとほっぺの比喩はよく使われる表現ですが、他の、今まで聞いたことのない目新しい対象についても別の表現を使ってそれを説明できます。なぜこうしたことができるのか、どのような状況で人は比喩を使うのかを明らかにしたいと考えています」

 

比喩について、言語学の分野での研究は多いという。ただ、言語学と言語心理学とではアプローチが異なり、言語学では主に比喩の構造や特性を言語観察によって研究するのに対し、言語心理学では比喩表現をどう理解して使うのかなどに着目し、実験的・実証的に明らかにしようとするのだという。

 

「言語学の観点からは、比喩を使う理由として、3つの仮説が示唆されています。いろいろなことを一度に簡潔に伝える(簡潔性仮説)、比喩でしか伝えられないことを伝える(表現不可能仮説)、より鮮やかなイメージを伝える(鮮明性仮説)。心理学の観点からは、聞く人の興味を引いたり、類似点を強調したりするためなどに比喩を使うと考えられていています」

 

ちなみに、岡先生の印象に残っている比喩は、三島由紀夫が『金閣寺』の中で用いた「美とは虫歯のようなもの」だとか。

 

「美が虫歯なんて、やっぱり文学者はすごいと思いました。何か引っかかっていて気になっているけど、なかなか取れないようなものを表しているのでしょう。一見すると意味不明なんですけど、読者に『どういうこと?』と思わせて読み進ませることができたら、もう作者の勝ちですよね。まさに、聞く人の興味を引くという比喩の目的通りです」

伝えたいことが多いほど、比喩を使いたくなる?

岡先生は、ここ3年ほどは人がどんな時に比喩で言い換えるのかを大切なトピックとして扱っているとのこと。特に着目しているのは、「~のようだ」「~のごとし」などの語を用いて名詞を名詞で例える表現法(直喩)と、「笑顔は花だ」のように、ずばりと言い切る表現法(隠喩)だ。

 

「『りんごのような頬』『笑顔は花』など、直喩または隠喩が何らかの名詞と組み合わさった表現を、人がどう理解して産出しているのかを研究しています。

私が行った研究はとてもシンプルで、『言い替え課題』と読んでいます。言語学では先ほど紹介したような3つの仮説が提案されてきましたが、どんな時にどれくらい比喩を使うのか、比喩の使用量を予測する研究はあまり多くなかったんです」

 

岡先生が行った実験の内容は、例えば「彼女の笑顔は美しい」といった文章を提示し、最も適切な言い換え表現を4つの選択肢から選んでもらうというもの。

選択肢の1つは「彼女の笑顔は花だ」といった比喩表現、もう1つは「彼女の笑顔は素敵だ」など意味は通るが、たとえを用いていない字義表現、他の2つは「彼女の笑顔は海だ」など意味の通らないもの(フィラー選択肢)。つまり、実質的には比喩表現と比喩ではない表現の2択になっている。

 

「『彼女の笑顔は美しい』の言い換えでは、84%の人が『彼女の笑顔は素敵だ』という表現を選び、比喩を選んだ人は16%しかいませんでした。この結果は直感的にも理解しやすいと思います。素敵だと表現できるなら、わざわざ比喩を選ばなくてもよいと考えますよね。

 

ところが、『笑顔』を説明する言葉が多くなると状況が変わってきます。『彼女の笑顔は美しく、明るい』さらに『彼女の笑顔は美しく、明るく、華やかだ』と、形状語の数が増えるほど比喩を選択する率が上がるのです。形状語が1つの場合、比喩を選んだ人は16%でしたが、形状語が2つになると31%に、3つになると41%にまで上がりました」

さらに、「彼女の笑顔は美しい」という表現を自由に言い換えて記述する課題でも、形状語が多くなるほど比喩表現が増える結果を得たという。「人が比喩を使いたい状況とはどんな時だろう?と考えて研究してきましたが、この実験によって『これもあれも、こんなことも言いたい』と、伝えたいことが多い時に比喩が使われやすいことがわかってきました」

 

確かに、いろいろなことをひと言で表せるのは便利だ。コンクリートの打ちっ放しで直線的で光と影に特徴があって……と長々と説明するより、「安藤忠雄の建築みたい」と言う方が手っ取り早く伝わるだろう。

 

岡先生はこの実験で、隠喩と直喩による違いも調べている。「彼女の笑顔は花だ」という隠喩の代わりに「彼女の笑顔は花のようだ」という直喩表現を選択肢に用いたところ、比喩を選んだ割合が格段に増加。形状語が1つの場合でも31%、形状語2つで38%、3つになると62%もの人が比喩を選んだそうだ。

「欧米の研究でも、隠喩より直喩の方が使用頻度が高いとされています」と岡先生。隠喩でズバッと言い切るより、比喩表現だとわかるように「~みたいな」と表現する方が、使用のハードルが下がるのかもしれない。

生成AIは人間と同様に比喩を使いこなせるのか

小説でも歌詞でも日常生活の中でも、いたるところに比喩表現が見られ、私たちはごく当たり前に比喩を受け止め、そして使っている。ただ、すっかりお馴染みになったChatGPTのような生成AIでは、あまり比喩が使われていないように思うが、生成AIは比喩を使えないのだろうか。

 

岡先生は、生成AIの専門家ではないのですが、と断った上で「あえて比喩で説明する価値や理由、意図があるかどうか。それが、人間と生成AIの違いなのではないかと思っています」と話した。生成AIをはじめとする大規模言語モデル(LLM)は、尋ねられたことに対して誤解のないようにピンポイントで回答するよう学習している。その意味では「比喩はリスクのある表現」とのこと。人間同士ならもし間違って伝わったとしても訂正や補完しやすいが、LLMでは何度もやり取りするより簡潔に伝えることを重要視しているのだ。

 

「ただ、私はそれが人間と生成AIの能力の差だとは思っていません。間違ってもよいから比喩で答えて、と生成AIに言えば、人間もびっくりするくらいきれいな比喩を生成する可能性は十分にあると思います。そうした指示によってではなく、自然と出てくるような比喩、自発的に使う比喩については、人間と生成AIとで違いがあるのではないでしょうか」

人間がどのように比喩を生み出しているかを明らかにしたいという岡先生。その先には、言語モデルや生成AIなどの“機械”も視野に入れている。例えば、何らかの機械に前述の「言い換え課題」を行った場合でも、人間と同様の結果になるのか気になっているという。

 

「人間のように自発的に比喩を使ったり、新しい比喩をつくったりする機械やプログラムは、どうすればできるのだろう、と。『笑顔』と『花』の類似性を数値で表すような言語モデルを使って、『笑顔は美しい』と言われた時に『花だ』と発想するプロセスを機械で再現できるか、といったことをやっていきたいと考えています」

 

岡先生は産学連携にも大いに関心があり、比喩の基礎研究を深めることは大切にしつつ、言語心理学者として今の社会とどう向き合えるのかを考え、広くいろいろな方に刺激となるような研究をしたいという。

 

先生の話を聞いて、何気なく比喩を使っているつもりでも無意識のうちに何らかの狙いがあったのだなと気づくと同時に、比喩を理解することは人間を理解することにつながり、さらには技術発展の基にもなる可能性があると改めて思わされた。AI革命が加速するといわれている今。「美とは虫歯」を超える比喩をつくって人間を楽しませてくれる生成AIに、いつか出会えるかもしれない。

 

 

(編集者:柳 智子/ライター:ほんま あき)

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