国民的体操として知られるラジオ体操。第1と第2に加えて、実は「第3」があるのをご存知ですか?ラジオ体操の変遷の中で幻と化してしまったのですが、龍谷大学の安西将也教授(社会学部 現代福祉学科)と井上辰樹教授(社会学部 コミュニティマネジメント学科)が2013年に復刻。新型コロナウイルス感染拡大抑制のための外出自粛やテレワークで運動不足が懸念される中、自宅で気軽にできる運動として、今、注目が集まっています。そこで、復刻の立役者・安西先生にwebにてお話を伺いました。
キツイけどクセになる!驚きの効果と楽しさ
ラジオ体操は1928年、国民の健康増進のために作成され、放送が開始。1932年に第2、1939年に第3もスタートしますが、1946年、GHQの干渉で放送中止に。すぐに二代目のラジオ体操第1、第2、第3が放送されたものの短命に終わります。1951年、現在の私たちが知っている三代目ラジオ体操第1、第2の放送が始まりますが、なぜか第3は三代目が作成されたのかもわからず、姿を消してしまったのです。
そんなラジオ体操第3を復刻させたのは、公衆衛生学が専門の安西先生と運動生理学が専門の井上先生に、2013年、滋賀県東近江市から「こころとからだの健康づくり事業」への協力依頼があったことがきっかけです。
「健康づくりには適度な運動と正しい食生活が不可欠ですが、運動は楽しくないと継続・定着が難しい。何かないかと考えていた時、頭に浮かんだのがラジオ体操第3。あの体操に3番目があったのかと、人々の好奇心をくすぐると思いました」
お話を聞いた安西将也教授。健康教育や老人医療費分析などの研究を行う
第3の存在は知っていたものの、動きや曲は不明だった安西先生は、リサーチを開始。偶然、龍谷大学瀬田キャンパスの隣にある滋賀県立図書館で、『新しい朝が来た‐ラジオ体操50年の歩み-』(簡易保険加入者協会)という文献に二代目ラジオ体操第3の図解を発見。井上先生が運動を一つひとつ再現しました。
しかも音楽は、どういう訳か音源のみがYouTubeにアップされており、なんと安西先生の娘さんが“耳コピ”で採譜・演奏しました。
二代目ラジオ体操第3の図解。レトロなイラストがかわいい!
蘇った二代目ラジオ体操第3は11種・16の運動で構成され、「第1、第2とは違って、アップテンポでハードです」と安西先生。
百聞は一見にしかず。筆者、二代目ラジオ体操第3をやってみました!
龍谷大学のWEBマガジン「Mog-lab(もぐらぼ)」のYouTubeチャンネルにて公開されている動画を観ながらチャレンジ!
まずはピアノの音に合わせて足踏みから。あれ、簡単と侮っていたら、腕を振りながら膝を屈伸、体を大きく曲げる、回すといった負荷の掛かる運動が連続。しかも、疲れてきた後半に手脚を大きく広げるジャンプが。屈伸しながら腕を横、上、前、下と素早く動かす運動は体も頭も大混乱。何とか最後まで持ちましたが、日頃の不摂生に加え、コロナの影響でここまで体力が落ちているとは…。
身体をダイナミックに、素早く動かす動きがいろいろ
体験してわかったのですが、動きも音楽もユニークで、ハードなのに楽しく、適度に汗をかけて、すっきりできるのです。
「二代目ラジオ体操は運動強度が高く、有酸素運動も筋力トレーニングもバランスよく含まれています。さらに体温が上がることで免疫力アップにも効果的。コロナ予防も期待できます。導入した自治体や企業でのデータを検証すると、生活習慣病やうつ病、体重などの改善効果も実証。やってみた皆さんからは自然と笑いが起き、ストレスも発散できます」
くわしい検証データこちら(龍谷大学Mog-lab)
現代病も社会問題にも効く。まさに蘇る運命にあった!
高い効果に加えて、幻のラジオ体操第3復刻という話題性からメディアにも取り上げられ、「やってみたい」だけでなく、「二代目ラジオ体操第3はハードなので、同じように楽しくて高齢者や障がい者もできる体操はないの?」との要望も寄せられたそうです。
「そんな時、初代ラジオ体操第3の図解が掲載された新聞記事と、音楽の入ったレコード盤を別々の方から寄贈いただいて。これは復刻しなければと思いました」
資料の古さゆえに労力を要した初代の復刻でしたが、動きや音楽はスローで、二代目のように跳躍運動がなかったことから、座ったままでもできる内容でした。
安西先生のもとで新聞記事とレコードが出会ったのも、初代が要望に応えるやさしいものだったことも何だかドラマティックですね。
初代ラジオ体操第3の図解掲載新聞。お持ちの方がいたとはびっくり!1936(昭和11)年の貴重な資料だ(寄贈:埼玉県越谷市在住 植田誠 氏)
こちらは1939(昭和14)年大日本國民体操(初代ラジオ体操第3)管弦曲 ビクター体育レコードSP盤(寄贈:京都府伏見区在住 吉池一郎 氏)
初代ラジオ体操第3もやってみました!
初代ラジオ体操第3については、DVDが龍谷メルシー(株)に電話をすると購入可能です。
ラジオ体操誕生のきっかけや特徴が書かれた解説リーフレットも入った初代バージョンのDVD。安西先生いわく「いい声なんですよ」とべた褒めの井上先生によるオリジナル号令もぜひ聴いてほしい
さっそくチャレンジしてみると、確かに二代目よりも動きがスローで、肩や腰、背中がほどよく伸びて気持ちいい~。ゆっくりですが、頭で考えることが必要な動きもあります。また、運動の一つ、ボート漕ぎは民謡の振り付けみたいでおもしろく、「漕い~で」「漕い~で」という井上先生のややゆるめの号令にも思わず笑ってしまいました。
右の2枚がソーラン節を思い出させる、特徴的なボート漕ぎの動き
「初代は動的ストレッチ効果が高く、肩コリや腰痛の改善、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)予防、脳の活性化、さらにフレイル予防にも役立つはずです」
フレイルとは加齢によって、筋力が低下、家に閉じこもりがち、食欲減退など心身が衰えて、健康な状態から介護が必要な状態に移行する中間の状態のこと。フレイルに陥らないためには適度な運動や脳の活性化などが重要で、現在さまざまな取り組みが推進されていのですが、初代で楽しく運動して、介護状態や認知症を防げれば、当人はもちろん、家族にとってもこれほどいいことはありません。
「現在、要介護者だけでなく、家族や施設職員など支援者の慢性的な心身の不調解消のエビデンスを示すため、初代・二代目ラジオ体操第3によるメンタルヘルスケアの共同研究にも取り組んでいます」と安西先生はいいます。
STAY HOMEにラジオ体操第3を
さまざまな疾病や症状の改善を叶える初代&二代目ラジオ体操第3。
「国家事業だったこともありますが、戦前、戦後間もなくに、これほど効果的なプログラムが作られていたことが素晴らしいです。また、緊急事態宣言は解除されましたが、以前とまったく同じ生活というわけにはいきません。いわばギブスをはめて家で安静しているのと同様で、年齢を問わず、心身に影響を及ぼします。こういったコロナによる二次被害防止、新たな健康づくりにおいても、ラジオ体操第3を活用していただけたら。第1、第2などと組み合わせて行うとさらに効果的。運動に選択肢があることも飽きずに継続できるコツです」と安西先生。
新型コロナウイルスという経験したことのない感染症、それによって強いられる事態を70年以上前の体操が手助けしてくれるとは。今の状況の改善だけでなく、心身の健康や将来に向けて、販売中のDVDはもちろん、龍谷大学の学生さんや一般の方が「やってみた」動画も参考に、ラジオ体操第3を習慣にしませんか。