大人も子どもも多くの人が大好きなスイーツ。一口食べた瞬間、とてもしあわせな気持ちになりますよね。このスイーツを対象とした日本初の学問が2018年4月より帝塚山学院大学で展開されていると聞き、取材に伺いました。
登録商標取得。心理学ではかつてない着眼点
スイーツを学ぶというと、レシピや商品開発、マーケティングと思いがちですが、帝塚山学院大学のそれは異なります。
学問名は「スイーツ心理学(R)」。スイーツ(甘い食べ物、デザート)を対象とし、心理学の知識や手法を活用して、ポジティブな感情を喚起する仕掛けを考案する、帝塚山学院大学が独自に創造した学問領域なのです。
「スイーツ心理学(R)」を設立し、ゼミで教鞭を執っているのが、今回取材に伺った人間科学部心理学科教授・大本浩司(だいもとひろし)先生です。
新たな切り口の心理学。その可能性について話す大本先生
大本先生は、産業分野で心理学の知見や手法を活用し、大手メーカーや研究機関などで、音声対話インタフェースのパーソナリティ設定や設計・評価技術、心理学の多様な手法を用いての利用実態調査、UX(ユーザーエクスペリエンス)の分析、開発思想の明確化など、人間中心の機器やサービスの研究開発に携わってきました。
そんな大本先生が心理学の学問対象にスイーツを選んだ理由は、「甘いものを食べると脳のエネルギー源になるといった脳科学的な知見はあるのですが、これほど多くの人がしあわせな気持ちになれる物質であるにも関わらず、心理学の学問の中で研究対象として選ばれることが少なく、基礎研究から応用研究まで幅広く取り組むことで今までにない新しい心理学の学問領域を開拓できると考えたからです」といいます。
例えば、スイーツをプレゼントされるとうれしい、しかもかわいい箱に入っていたりすると喜びもおいしさもアップしますよね。また、何か粗相があった時、菓子折りを持って謝罪にいきますが、高価なもの、重みを感じるものだと、謝罪の気持ちがより伝わるともいわれています。こういった心理的効果について「味覚だけではなく、社会的な文脈の中でスイーツの効用を明らかにしていく」というのが、大本先生のねらいです。
スイーツでポジティブになれる訳を探求・把握できるように
ゼミでは学生たちがさまざまなスイーツを取り上げ、味はもちろん、パッケージや原材料から受ける印象、食べる前後の感覚・感情などを細かく検証し、スイーツの価値を評価していきます。もちろん、この時、実食が必須で、有名店の高級スイーツが登場することもあるとか。なんともうらやましい限り!学生さんたちも実食はかなりうれしいようで、スイーツは学びのモチベーションアップにも役立っているようです。
ケーキを前に心理評価を行うゼミの様子]
こうして考察した価値・評価内容を基に心に及ぼす影響を把握するための物差しとなる「心理尺度」を開発・確立することが「スイーツ心理学(R)」の大きな目標のひとつ。
「スイーツに特化した心理尺度を確立できれば、一人ひとり異なり、曖昧だったスイーツが心に作用する影響を明確に把握できることはもちろん、どのような状況でどのような消費者がどのような心的価値を求めているのかを踏まえたスイーツの開発、パッケージデザイン、空間づくりにも活用できるのではないか」と大本先生は期待を寄せます。
学部も人も街も巻き込めるスイーツのすごいポテンシャル
大本先生がスイーツを選んだのにはもう一つ大きな理由があります。
「スイーツは、学部・学科を越えての連携、地域活性化、社会貢献を実現する、非常に強力なツール、コンテンツだからです」。
実際、「スイーツ心理学(R)」では他学部・他学科と連携し、地域貢献を目指すプロジェクトも実施。その第一弾が大阪・帝塚山に本店を構え、大学ともゆかりのある老舗和菓子店「福壽堂秀信」とのコラボレーションです。
コラボレーションでは「若い人にもっと和菓子のおいしさ、魅力を知ってほしい」という福壽堂秀信の思いを叶えるため、お店がこだわりを持つ自家製あんを題材に、情報メディア学科・佐藤安専任講師がキャラクター「あずきんちゃん」を作成。あずきんちゃんは、“あずき大好き”と、童話の『赤ずきんちゃん』を掛け合わせた造語で、人格心理学が専門の心理学科教授・西川隆蔵先生がキャラクターのパーソナリティを設定。あずきんちゃんのストーリーや世界観を構築するため、おばあさんやオオカミ少年のペロくんも登場。佐藤先生を中心に情報メディア学科の学生たちも協力してアニメーションやプロジェクションマッピングも完成させました。
さらに食物栄養学科・福田ひとみ教授と勝川路子専任講師の指導のもと、食物栄養学科の学生が考えたアイデアを基軸にあずきを使った「あずきんちゃんプリン」「あん珈琲ゼリー」「フルーツ羊羹」「学院まんじゅう」という帝塚山学院スイーツを福壽堂秀信と共同開発。商品開発にあたっては、学内コンペが行われ、心理学科の学生も参加したそうです。
4種類の帝塚山学院スイーツが登場する「あずきんちゃん」のオリジナル絵本(4巻完成済み)
全学あげてオリジナルキャラクターやコラボ商品を使い、福壽堂秀信の創業70周年にあたる 2018年11月25日(日)、帝塚山本店にて「あずきんちゃんフェスタ」を開催。食物栄養学科の有志の学生が参加して開発したプリンとゼリーを販売したところ、大行列ができ、あっという間に完売。あずきんちゃんのアニメーションやプロジェクションマッピングも公開し、商品がもつ世界観をさらに盛り上げました。さらに、小さなお子様が「あずきんちゃん」の塗り絵も楽しめるようにしたことで、これまで福壽堂秀信へ訪れることがなかった新たなお客様を呼び込む要因になったのです。
カルシウムやたんぱく質が豊富な牛乳プリンをベースに、食物繊維のあるこしあんをプラスした「あずきんちゃんプリン」
限定パッケージの「もちもちどら焼き」も完売
学生募集や大学知名度アップの柱にも!
あずきんちゃんのアニメーションや絵本などのコンテンツは、「スイーツ心理学(R)」を広めるため、オープンキャンパスなどでも活用され、「あずきんちゃんプリン」「あん珈琲ゼリー」「フルーツ羊羹」の実食を伴う心理評価についての体験講義も実施。大本ゼミの学生たちは、あずきんちゃんの世界観の中でいただくスイーツの心理評価にどのような影響があるのか、高校生や保護者へのアンケート調査も行いました。これらを基に、ゼミ生の一人、久保真夏さんは卒業研究を実施する予定です。
卒業研究に取り組む久保真夏さん
「産業心理学に興味があったのですが、対象が大好きなスイーツということに惹かれましたね。ゼミでは自分で食べたり、見つけたりしたスイーツを評価して、ゼミ専用のサイトにインスタっぽくアップしたり、心理学の知見を取り入れながら9コマ漫画で紹介したりと、ゼミ課題もおもしろいんですよ」と久保さん。こういった調査・分析・考察・発表のプロセスは「スイーツだけでなく、将来、他の対象にも役立てることができます」と大本先生はいいます。
スイーツを食べながら、楽しく学べて、将来につながる知識が身につくなんて、筆者もゼミを受講したい!また心理学には、ネガティブな感情をどう解決していくか考察するというイメージを持っていたのですが、ポジティブな感情をさらに導くという「スイーツ心理学(R)」の明るい学びも素敵だなと思いました。
3月のオープンキャンパスでは特別にスイーツ心理学(R)のブース展開を行った
「スイーツ心理学(R)」が掲げるテーマ《おやつと心の、ふしぎな関係》が解き明かされること、学生さんたちの学びや地域・社会とのコラボレーションによって、しあわせを運んでくれるスイーツがたくさん登場することを心待ちにしています!