書店バイトをしていて思ったことがある。本はその人の内面を垣間見れてしまう、と。
おにぎりをレジ袋に入れるのとはちょっと違う。手にした本のタイトルで、お客さんの興味や悩みなんかがちょっとわかる。
そんな力を持つ「本」を通じて人と出会い、交流を深める取り組みが「まちライブラリー」だ。
蔵書0冊の本棚からスタートし、参加者自らが書いたメッセージ付きの本を持ち寄り、本棚に“植本”(寄贈)することでライブラリーを育てていく活動だ。礒井純充氏(森記念財団啓発普及部長)によって提唱され、オフィスや個人宅で誰でもオーナーとしてライブラリーを始めることができる。今では大阪府立大学I-site なんば他、全国約180カ所(2015年6月現在)に広がっている。
2015年4月には、立命館大学大阪いばらきキャンパスに「まちライブラリー@OIC」がオープン。ライブラリーを支えるスタッフやサポーター会員の市民が常駐し、ワークショップなどの企画を行っている。
サポーター会員(有料登録)になれば本を借りることも可能
開設前の様子。ここに日々本が植本され唯一の本棚ができあがっていく
「まちライブラリー@OIC」にとって初めての大規模イベント「第1回植本祭」では、22のワークショップが行われた。テーマは「美味しいビールの理由」「大阪万博」など、本と関係あるの?という内容も並ぶ。ただし、参加するにはテーマにまつわる本を一冊持ってくるのがお約束。参加者どうしで自己紹介&持参した本について伝え合う。
すると不思議なことに、最初は緊張した面持ちの参加者たちが、本を介すとあっという間に打ち解けていく。同じテーマで集まったはずなのに、自分とは違う切り口、考え方、思いを聞きながら、ぐんと距離が縮まっていくようだ。
ワークショップが終わると「まちライブラリー@OIC」へ植本。1グループ4~10人程度と小さいながらも「また集まりましょう!」とわきあいあいとしたコミュニティができあがっていった。
200人を超える参加者が集まった
絵本がテーマのグループ。自分では見つけられなかった名作に出会えることも!
2年をかけ開設に取り組んできた服部利幸教授(同大政策科学部)は、参加者に「目が学生のようにキラキラしておられた。市民のみなさまが主体となって、ご自身の学生時代のようなキャンパスにしていただければ」。提唱者の礒井氏も「隣の人が持ってきた本を見て、なぜこの本を持ってきたのか?その人の思いを受け止めてみてほしい。ぜひこれからも今日の出会いを大切に」と呼びかけた。
2015年5月開催のイベント「いばらき×立命館DAY」でも「まちライブラリー@OIC」が開放され、市内外から多くの人がつめかけた。
トークショーで礒井氏は「郵便局の数は昔から2万ほど。これはだいたい日本中どこでも郵便物が出せる数」と例にあげ、本屋は1万に減ってしまっていることを指摘。「街に大きな書店はありますが、何が問題かというと子どもたちが行きにくい。小さなライブラリーを少しずつ増やしたり、そこに本を一冊でも寄贈することで、若い世代に本を通じて人と交流する機会をもってもらえる」と語り、市民の小さな一歩の積み重ねが、大きなうねりにつながることを伝え、イベントを締めくくった。
参加者の感想を聞く礒井純充氏(左)と服部利幸教授(右)
京都や明石のライブラリーオーナーも集まり、自身の経験を語った
「まちライブラリー@OIC」は、オープン前から市民などの協力を得てワークショップを何度も開催。オープンから2ヶ月がたった現在、会員(登録有料)は200人に。0冊だった蔵書も400冊を超えたが、まだまだ受付中だ。
大切な本は、見知らぬ人との心を開く鍵になってくれる。茨木市近隣の人は「まちライブラリー@OIC」へ行くもよし、地元で探すのもよし。本を持って新たな出会いを探しに出かけてみては?