大阪・河南町にキャンパスを構える大阪芸術大学は、14学科と多くの学科を持つ総合芸術大学だ。今回は文芸学科で出版・編集を専門とする長谷川ゼミにお邪魔した。そこで行われているのは『我樂多文庫』という雑誌の制作。一体どのようにして制作は進められているのだろうか。今回ほとゼロでは、『我樂多文庫 第九集』が発刊されるまでを追いかけて取材させてもらうことになった。
『我樂多文庫』とは
『我樂多文庫』とは年に1冊、2~3月に出版される雑誌で、これまでに8冊刊行されている。毎年、ゼミ生(4回生を中心に1~3回生までの希望者が集まっている)によってテーマが決められ、企画、制作が進められる。「男子力」「文芸学科大解剖」「あべ天―芸大生の阿倍野・天王寺―」といったテーマが過去には取り上げられてきた。そんなゼミをまとめているのが長谷川 郁夫教授(文芸学科 学科長)だ。
「基本的には学生が主体となって動く。私は、学生たちが道に迷いそうな時に助け船を出しているだけ」と長谷川先生。
長谷川 郁夫教授(文芸学科 学科長)
何を隠そう、わたしもこのゼミの出身なのだが、確かに長谷川先生は学生が立ち止まってしまった時に助言をくれ、その助言をもとに学生が動き出すというパターンでゼミが回っていた。
今年の『我樂多文庫』はどんなテーマで制作をすすめているのか伺うと「十八歳選挙権」だという。
「それってすごく大変なんじゃないですか?」と、長谷川先生に聞くと「大変だから学生には辞めろって言ったんだけどね(笑)。学生たちが、みんなすごいやる気で、『じゃあやってみな』ってスタートしたんだ」
私がお邪魔した日にはすでに企画がほぼ固まっていて、取材に出ている班もあった。
テーマである「十八歳選挙権」を軸に、若者が抱える問題である「ブラックバイト」「ヘイトスピーチ」「マイナンバー」「奨学金破産」などについて誌面づくりを進めているそう。
取材を控え、真剣に資料を読む学生たち。彼女たちは取材で広島まで行くんだとか
面倒くさくてついつい逃げたくなってしまうような問題に、真正面から向かっていく学生たち。それに対して本気で檄を飛ばす長谷川先生。
「そういえば、ここは教室じゃなくて編集室だったなあ」とゼミで学んでいた頃を思い出した。
小さな教室から、大きな社会に向けて発信
コミュニケーションツールとしてSNSが発達し、誰もが簡単に情報を発信できるこの時代。だが、SNSには大きく欠けているものがあると思う。
“読者”を意識すること。
私がこのゼミで得た最も大きなものは、この意識だった。簡単に情報を発信できるからこそ、読者の存在をついつい見落としてしまいがちになる。実際、受け取り手がどう感じるのかを二の次、三の次にしてる文章を見かけることも少なくない。“読者”の存在、当たり前のことを理解しようにも、これがなかなか難しい。
そんな中で、長谷川ゼミではどのように書けば分かりやすいのか、どうすれば伝わるのかを第一に考え、制作活動を進める。
今回のような難しいテーマならば尚更、“読者”を意識しないとやりにくいだろうな、と思いながら、学生の様子を見ているとその辺りは重々承知のよう。まずは自分たちが取材内容を徹底的に理解しないと、と入念な下調べを重ねていた。
情報収集の方法は図書館、インターネットなど。さまざまなものを駆使する
大阪芸術大学は都会からは離れ、交通の便が良いとは決して言えないところに位置している。そんな山間の小さな教室で行われている編集会議が生み出す『我樂多文庫』。「18歳選挙権」という大きなテーマを掲げた第九集は、制作を務める学生にとって大事な一冊になることはもちろん、社会にとっても若者を知る貴重な一冊になることを願っている。
教室から見える景色。都会から離れ、緑に囲まれていることがよく分かる
次回の「学生が作る本格雑誌『我樂多文庫』@大阪芸術大学」は10月頃に取材敢行予定! (どれほど制作が進んでいるのか、私も楽しみである)