自治体と使用目的を選んで寄附ができる「ふるさと納税」。
テレビコマーシャルなどで目にするほか、返礼品にご当地の産品を受け取れることでご存知の方も多いはず。
ふるさと納税の申請は、年末に向けてこれからがハイシーズン。というのも、ふるさと納税は年度ではなく、年ごとの申請なので、12月31日が近づくにつれて、申請が増加していくのです。かくいう筆者も、12月の駆け込み申請が毎年の恒例行事(まったく自慢できませんが、大晦日に申請したことも……)。
今年はもう少し早く申請しようと、ふるさと納税のリサーチをスタート。そこで思ったのです。「大学に関係したふるさと納税って、ないの?」
調べてみると、返礼品に大学由来の商品が返礼品に使われているほか、ふるさと納税の制度で大学に寄附ができる自治体が意外とあるじゃないですか! 中でも目に留まったのが、今年4月から大学への寄附を導入した京都市。さっそく、京都市役所に話を聞きに行きました。
レトロ建築が美しい京都市役所
“ちょっと面倒”という思いをふるさと納税が取り除く
お話をお聞きしたのは、大学との地域連携を担当している京都市総合企画局総合政策室・大学政策課長の中小路正憲さんと、大学企画係長の東祐大さんです。
ふるさと納税のチラシを持つ中小路さん(左)と、大学との取り組みをまとめた冊子を手にする東さん(右)
今回、京都市で話を聞きたかった理由は2つ。
1つは「さとふる」「ふるさとチョイス」といった「ふるさと納税サイト」から寄附ができ、返礼品がもらえること。実はふるさと納税で特定の大学に寄附できる自治体はいくつかあるのですが、「ふるさと納税サイト」を導入し、さらに返礼品がもらえてしまうのは珍しいのです。そして、もう1つの理由は、大谷大学、京都女子大学、京都橘大学に“指名寄附”ができること。京都市には多くの大学があるのに、なぜこの3大学なのかが不思議だったのです。
まずは、大学への寄附に“ふるさと納税サイト”を導入した理由から。京都市もほかの自治体同様、産業振興や景観保全、子育て支援など全部で23種類の使いみちを用意しています。その中にあるのが3大学への寄附。ほかの自治体で大学を指名した寄附はほとんど見かけませんが、なぜ京都では導入しているのでしょう。
「京都市はこれまでにもふるさと納税をいただいてきましたが、市民が他の自治体に寄附をする金額の方が多い状態が続いています。そこで京都市では、2020年度からふるさと納税の取組を本格的に見直し、返礼品も拡充しました」と中小路さん。
テコ入れのために、返礼品に京都肉やおせち料理・京料理のお食事券、伝統産業品などを用意するなど、その力の入り方は相当なものです。
京都市HPから、ふるさと納税返礼品のイメージ。その数1,713件!(2021年11月4日時点)。 5,000円以上の寄附で返礼品が受け取れます
さらに中小路さんは続けます。「京都市には37の大学・短期大学があり、市の人口の1割に相当する14.7万人の学生が学ぶ“大学のまち・学生のまち”です。市をあげてふるさと納税への機運が高まったことをきっかけに、大学支援にも活用することにしました」
でも、それぞれの大学も寄附を受け付けていますよね。なぜ、市が窓口に ?
「大学からは、個人の方からの寄附に、より力を入れていきたいといった意見を聞いており、また、個人の方からは、大学への寄附は手続きが難しいといった意見を聞いています。そこで、ふるさと納税サイトで間口を広げ、個人で寄附をする方の負担を軽くしようと考えました」
たしかに、大学に直接寄附する場合、まず浮かぶのは「面倒だな」という気持ち。というのも、ふるさと納税も大学への直接寄附も、所得控除や税控除がありますが、大学への直接の寄附は確定申告が必要。ふるさと納税サイトからの寄附は、ネット通販のように気軽な上に、会社員がふるさと納税をする場合、ほとんど手続きが不要なのです(条件があるのでご確認を)。
ちなみに、中小路さんによると「大学への寄附は全額、大学が使いみちを考えて使うことができます。一方、ふるさと納税は自治体が窓口なので、京都市の場合、大学と締結した協定の内容に沿って寄附が使われます」というように、同じ寄附でも大学での使われ方に違いがあるそう。2021年3月の連携協定では、大谷大学、京都女子大学、京都橘大学と連携協定を締結。大学の地域貢献や学生のまちづくり活動にふるさと納税を活用することが発表されました。
約30年前から“大学のまち”を育て続けてきた京都市
ここでもう1つ聞きたかったのが、大谷大学、京都女子大学、京都橘大学に“指名寄附”ができること。京都市はこの3大学と連結協定を締結し、このふるさと納税の取り組みを進めています。37大学もあるのに、なぜこの3大学なのでしょうか。
これは東さんが教えてくれました。
「京都市では、市内の全大学・短期大学が加盟する『大学コンソーシアム京都』と協働で、『学まち連携大学』という事業を促進してきました。この事業は、地域連携活動に取り組む大学を支援するもので、平成28年から第1期として4年間、6大学を採択し、活動を後押ししてきました」
その活動は、地域連携型教育プロジェクトの実施や社会貢献、学生の地域連携活動拠点の確保など、各大学が特色をいかしたもので、内容はさまざま。今回、ふるさと納税の使いみちとして指定できる大谷大学、京都女子大学、京都橘大学の3大学は、この「学まち連携大学」と関係があったのです。
さて、3大学のふるさと納税の使いみちには「大学のまち京都・学生のまち京都を応援」と表示されています。先ほどからの話では、京都が大学のまちであることは納得なのですが、では「大学のまち京都・学生のまち京都」というのは、いったい……?
京都市HPから。大学名の後に「大学のまち京都・学生のまち京都」という言葉が続きます
「キャッチフレーズのようなものです。“大学のまち京都・学生のまち京都”のもと、地域活性化に取り組む学生や、中学生、高校生に京都の大学をPRする学生など、大学のポテンシャル、学生のチカラで、京都市の盛り上げに携わっていただいています」
“大学のまち”というビジョンは、平成5年(1993年)に誕生。約30年という歴史があるのには驚きです。「工業等制限法(工場や大学の新設を制限する法律)により、市内にあった大学が新学部を設置する際、京都市外に流出し、危機感を抱いたのがきっかけです。普通、大学同士は“商売敵”というイメージを持たれるかもしれませんが、京都市はみんなで盛り上げようという空気があるんです」と東さん。
大学の枠を超えた多くの取り組みを教えていただく中で、筆者が興味を持ったのが「京都世界遺産PBL科目」。京都市にある世界遺産を教材に授業が行われ、単位が取得できるというもの。歴史のまち京都ならではの、スペシャルな学びですよね。学びも課外活動のサポートも、とにかく手厚いのが印象的でした。
京都市政に大きく影響!? 「3/4」と「2割」という数字
「新型コロナによって、オンライン講義が増えましたが、京都での学びを大切にしたい。そのために、安心・安全なキャンパスを目指していきますし、それが京都というまちの安心・安全につながります。そして、学生生活が終わっても、京都市で住んでほしい、働いてほしい。それが市の目指すところです」と東さん。
大学との協働から、市の行政活動に関わるミッションへと、話が壮大になってきましたが……。
「京都市には2つの数字があります」と、中小路さんが話を引き取ります。その数字とは、3/4と2割。「京都の大学に通う学生のうち、3/4は京都以外の出身。そして2割が京都で就職されます。ということは、8割は京都府外に出ていってしまうのです」
東さんも「卒業後に京都市で働いてほしい、住んでほしい。できれば子育てもしていただきたい。京都市の成長戦略として、若者に選んでもらえるまちを、これからも目指していきたいと思います」
ふるさと納税をつかった大学への寄附を聞きに来たはずが、京都市の大学連携にそんな重要なミッションが隠されていたとは。最後に、ふるさと納税を活用した大学支援の今後の展望は?
「ほかの大学の声を聞きながら、対象大学を拡大したい思いはあります。それから返礼品。ゆくゆくは、大学由来の商品やサービスを導入できれば。京都の大学を卒業された方が手掛けるアイテムもいいですね」
寄附を集めるのはもちろん、ふるさと納税を活用して、京都市が「大学のまち」を印象づけ、盛り上げようとしていることを実感。ふるさと納税という手札も増え、“大学のまち京都・学生のまち京都”はまだまだ進化しそうです。