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  • date:2021.5.27
  • author:ほんま あき

“中西医結合”とは? 立教大の公開講座で中国のコロナとの闘い方を知る

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的感染拡大が始まってから、すでに1年以上。しかし、いまだに多くの国では感染拡大が収まらないばかりか変異ウイルスまで流行する事態になっています。そんな中、「新型コロナウイルスと闘う-日本と中国から見る医療、こころ、養生」というオンライン公開講座が開かれると聞き、興味をひかれて申し込んでみました。

中医学と西洋医学の併用で重症化を抑えた中国

オンライン公開講座が開催されたのは2021年4月17日(土)。日本ではまさに第4波の真っ只中で、東京や大阪では3度目の緊急事態宣言も間近か?というタイミングでした。今回の公開講座は、立教大学心理芸術人文学研究所の主催で、中国からは実際にコロナ治療に携わった中医師、大学で気功を研究する専門家、上海在住の日本人中医師が、日本からはコロナ禍による精神面への影響を論ずる精神医学者が参加。それぞれの発表の後、参加者たちによるパネルディスカッションの時間が取られました。ちなみに、日本では馴染みのない言葉ですが、中医学とは中国の伝統医学のこと。日本の漢方のルーツは中医学です。

なお、講演は日本語・中国語の逐語通訳付きで行われました。

 

図1

オンライン公開講座 スライド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


<パネリスト>

上海中医薬大学附属曙光病院呼吸科主任教授 張 煒 氏

上海気功研究所所長 李 潔 氏

上海藤和クリニック、中国伝統医学医師 藤田 康介 氏

北里大学医学部精神科学教室非常勤講師(3月まで主任教授) 宮岡 等 氏

<司会・コーディネーター>

立教大学現代心理学部教授 香山 リカ 氏

立教大学心理芸術人文学研究所所長 加藤 千恵 氏


 

最初に発表を行ったのは上海中医薬大学附属曙光病院の中医師、張煒(チョウ・イ)氏。上海市新型コロナウイルス対策専門家チームメンバーなどを務め、新型コロナウイルス感染症の治療、予防に携わってきました。

図2_1

上海中医薬大学附属曙光病院呼吸科主任教授 張 煒 氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

張氏によると、「中医学の発展史は疫病と闘う歴史」とのこと。中国最古の医学書とされる「黄帝内経」にも感染症の記述があり、最近では2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や2009年の新型インフルエンザ、2015年のMERS(中東呼吸器症候群)など、さまざまな感染症に対応してきた経験があると話します。新型コロナウイルス感染症に対しても、有効な中医薬や処方を開発し、アップデートしながら治療に用いてきたといいます。

 

張氏の話には、どのような症状の患者に対してどのような中医薬(日本でいう漢方薬)を投与したかなど具体的・専門的な内容が多く、なかでも印象的だったのは新型コロナウイルス感染症に対する中国の姿勢でした。「中西医結合による治療法を活用したことで効果を上げてきた」と張氏。中医学と西洋医学がタッグを組むことで死亡率や重症化率を低く抑えることができたというのです。

「コロナ治療については、中医・西医それぞれの長所、役割があります。西医には人工呼吸器やECMO(エクモ)、抗ウイルス薬などがあり、中医は解熱、臓器や胃腸の保護などに大きな役割を果たし、悪化を防ぐことができます」。中西医結合という考え方の下、未知の感染症と闘い、結果を出したことが非常に興味深く感じられました。

東京より人口の多い上海市でも、現在は市中感染ゼロに

続いて発表したのは、気功の専門家、李潔(リ・ケツ)氏です。中医における精神・心理疾

患のとらえ方や要因、診断などを解説した他、不眠症や不安障害、うつの症状が気功を活用することで改善したという実験結果を紹介。また、李氏によると、コロナ治療でも回復期のリハビリとして気功や太極拳が役立てられているそうです。

図2_2

上海気功研究所所長 李 潔 氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上海市在住の中医師、藤田康介氏は、現地で体験した中国のコロナ対策について詳細に語りました。上海市は人口約2400万人と東京より人口が多く、大分県と同じくらいの面積を持つ市。武漢からは新幹線で3時間40分ほどの距離にあります。

 

上海市では、2020年1月にロックダウンを始めた後、状況に応じてレベルを下げていきました。「3月には1級から2級へ、5月には2級から3級へと、徐々に解除していきました。現在はほぼ日常生活が戻り、会食も旅行もできます。2021年2月4日以降は市中感染もありません」と藤田氏。日本でも報道されたように、中国のロックダウンはすべての交通機関の停止や道路封鎖、検温の義務化、厳しい外出制限といった厳格なもの。それにより、一時は多くの感染者数を出しながらも早期の収束につなげ、その上で、水際対策を徹底して続けることで新たな感染者を防いでいます。市内・国内で感染を抑えるだけでなく、外から持ち込ませないことがいかに大事かを痛感する話でした。

 

また、藤田氏によると、中国の対策のポイントは「早期の発見・報告・隔離・診断・治療と、患者や医療資源・専門家・治療の集中。軽症の段階から把握して中医薬を使うこと」。無症状患者にも投薬するというから驚きです。住宅地やビル単位で細かくリスクを判定し、封鎖を行うという話も印象的でした。

 

また、中国ではスマートフォンアプリがウィズコロナ時代の生活に大きな役目を果たしているそうです。一つは過去2週間に滞在したエリアを自動的に記録し表示することができるアプリ。もう一つはPCR検査結果や治療状況などを記録・表示できるアプリで、将来的にはワクチンの接種状況にも対応するといいます。この2つのアプリを活用することで、感染拡大を防止しつつ、ホテル宿泊や移動がスムーズに行えているようです。

 

最後に発表した宮田等氏は、自殺者数の増加や感染者を責める傾向など、日本の特徴について話しました。日本はもともと自殺者数の多い国ですが、コロナ以降、特に30代以下の女性の自殺者数は昨年に比べて74%も増加しているとのこと。「原因はよくわかっていませんが、在宅・リモートワークが増え、家族と接する時間が増えたことが、かえってストレスになっているのかもしれません」

 

ディスカッションではパネリストの議論の他、参加者から質問も。「コロナ治療で鍼灸を使うことは?」という質問に対しては、「鍼灸で治療する例もあります。武漢でも鍼灸による治療を行い、症状の改善に効果があったと報告されています」と張氏。

 

中医学というと古いイメージがありましたが、実は常に進化を続けて新しい疾患にも対応できていることに驚きました。また、新型コロナウイルス感染者が初めて確認された中国では、新規感染者数を2桁台にまで抑え込めているのに、日本では連日数千人もの新規感染者が発生しており、強制力のある強い対策が取れないもどかしさとデジタル施策の遅れを改めて感じさせられました。

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