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  • date:2020.10.8
  • author:安倍川モチ子

未完の作品を現代技術で復元!東京造形大による「ダ・ヴィンチ没後500年 『夢の実現』展」

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レオナルド・ダ・ヴィンチの未完作品などを、現代の研究と技術で復元する世界初のプロジェクト――なんともワクワクする展覧会「ダ・ヴィンチ没後500年 『夢の実現』展」が東京富士美術館で開催中です(2020年9月1(火)~11月29日(日))。

絵画、彫刻、模型などさまざまな復元作品が並ぶ

絵画、彫刻、模型などさまざまな復元作品が並ぶ

 

この展覧会は、東京造形大学の学生や卒業生、専門家も含めた約100人が力を合わせた一大プロジェクト。原画に手は加えられないため、ヴァーチャルで復元した16点の絵画作品を中心に、ブロンズ製騎馬像や巨大建造物、工学系発明品などの縮小模型や3DCG作品が展示されています。

 

そこで、本プロジェクトの指揮をとられた東京造形大学教授・美術史家の池上英洋先生に、プロジェクトの裏話や見どころなどを伺いました。

100名以上が参加したヴァーチャル復元プロジェクト

レオナルド・ダ・ヴィンチは世界的に有名な芸術家ですが、実は生涯に残した作品数はとても少ないのが特徴だそう。作品のほとんどが未完成に終わっていたり、欠損していたりしていて、完全な姿で現存するものは4点しかないと言われています。

池上英洋教授。教授を含め7人の指導教員も携わった

池上英洋教授。教授を含め7人の指導教員も携わった

 

「後世の美術家や学者、特にレオナルドの作品を保持する国では、完成品をなんとか知ることができないかと、さまざまな研究を続けてきました。日本は作品を保持してはいないのですが、美術史研究のレベルが高く、盛んな国の一つ。私自身も研究家の一人として、没後500年記念の年に何かをやりたいと考えていました。そこで、今の技術ならレオナルドがかつて描いた夢の実現ができるのではないかと思ったのが、このプロジェクトを始めたきっかけです」

 

その作業内容を簡単に説明すると「まずはレオナルドの技法や作風を学び、その作品が本来なら、どんな風に完成するはずだったのかを勉強します。次に、原画のデータを専用ソフトに取り込んで、他の作品などをよく観察し、使われたであろう色を点で重ねていきます」

 

「レオナルドはゴッホのように筆跡がわかる作風ではないので、色を重ねるだけでも気が遠くなるような作業です。こういった地道な作業の積み重ねで、色鮮やかな絵として蘇るのです。そんなヴァーチャル復元の強みを最大限に活かして、500年前にレオナルドが目指した作品を疑似体験しようとしていきました」

 

プロジェクトは2、3年生から参加を募りましたが、1、4年生の中からも「単位はもらえなくてもいい」と意欲的な学生の参加があったそう。

 

「まず美術史学の勉強を2カ月間しっかりと行いました。レオナルド自身についてもそうですが、時代背景や文化、トレンドを知ることで、なぜ作品が未完成のままに終わったのか、どんな作品にしたかったのかを推理し作業できるようになります。反対に言うと、この辺りの事情をわかっていないと復元作業はできません。その後は、絵画・彫刻・建築機械・メディア(展覧会の設営やPR等)に担当を分け、プロジェクトを進めました」

 

「教員と学生が『ああでもない、こうでもない』と、夏休み(昨年)返上で熱く議論しながら作品を復元する様子を見て、『レオナルドの生きた時代の工房も、同じだったのかもしれない』と感慨深かったです」

ヴァーチャル復元した「ラ・ジョコンダ(モナリザ)」と池上教授。作品には学生たちの努力や熱意も加わっている

ヴァーチャル復元した「ラ・ジョコンダ(モナリザ)」と池上教授。作品には学生たちの努力や熱意も加わっている

考察と推理でヴァーチャル復元

いよいよ展示スペースへ。美しい作品に囲まれて、一瞬でテンションが上がります。

『受胎告知』などの傑作の復元が並ぶ。修復内容と修復前との違いがわかる説明パネルも

『受胎告知』などの傑作の復元が並ぶ。修復内容と修復前との違いがわかる説明パネルも

 

最初に目に入るのが『ジネヴラ・デ・ベンチ』。メディチ銀行の番頭格だったベンチ家の娘を描いたものです。

復元版『ジネヴラ・デ・ベンチ』

復元版『ジネヴラ・デ・ベンチ』

 

現存する本作は、度重なる洪水により、下1/3が切断され正方形。右は作品の裏面

現存する本作は、度重なる洪水により、下1/3が切断され正方形。右は作品の裏面

 

復元する際のヒントになったのが、モデルが同じとされるレオナルドの師ヴェロッキオが手掛けた彫刻『花束を持つ婦人』と、この作品のために描かれた手のデッサンの2点です。これらから、失われた1/3部分を推理して復元作品が完成しました。

修復のヒントになった2つの作品の説明パネル

修復のヒントになった2つの作品の説明パネル

 

作品の裏側にも注目です。失われた部分については、赤外線撮影写真によって明らかとなった「VIRTUS ET HONOR(徳と名誉)」という文字がヒントになりました。

 

この言葉を当時インプレーザ(標章:モットー入りの象徴的図案)にしていたのが、ヴェネツィア大使ベルナルド・ベンボという人物。おそらく絵の注文主だったのでしょう。ベルナルドのインブレーザが元になっていたと仮説を立て、復元作業が行われました。

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裏面の復元は世界初の試み。右が「VIRTUS ET HONOR(徳と名誉)」と書かれた下書き。とても自然に復元されている

 

今回の展覧会の目玉のひとつと言っても過言ではないのが、『ラ・ジョコンダ』ことモナリザです。

復元と本作のコピーとが並べて展示してあり、違いをしっかりと確認できる

復元と本作のコピーとが並べて展示してあり、違いをしっかりと確認できる

 

コピーを改めて見てみると、経年劣化で黄ばんでいて、作品自体にヒビが入っています。復元では、できるだけこれらを取りのぞいていますが、この作品はレオナルドが15年もの長い年月をかけて手を加え続けた作品だといわれており、完成した時には多少のヒビが入っていただろうと推測されています。そのため復元にもうっすら絵の具のヒビ割れが確認できます。

 

また、本作に爪は描かれていませんが、赤外線を通して見える下書きには描かれていました。その点もしっかり再現してあります。

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本作のコピーの手(左)と復元した手(右)

レオナルドの画家以外の才能も堪能

レオナルドは、彫刻家、軍事技術者、建築家としての一面も持っています。

こちらは苦労して設計したにも関わらず、1499年のミラノ侵攻によりつくることができなかった『スフォルツァ騎馬像』。

1493年に馬だけの粘土像を完成させていた

1493年に馬だけの粘土像を完成させていた

 

当初は、史上最大の大きさと、両前脚を上げた二脚接地ポーズの巨大騎馬像にしたいと考えていましたが、像の重さを支えることが難しいとわかり、三脚接地に変更。ところが完成の一歩手前で戦争がはじまってしまい、使用するはずだった青銅が軍事用にまわされ完成には至りませんでした。時代に翻弄された結果、日の目を見ることができなかった騎馬像ですが、今回の復元では当初の二脚接地ポーズで世界初挑戦しました。

 

池上教授は、「これが完成していたら、私たちはレオナルドを彫刻家として認識していたでしょう」と語ります。そう言えてしまうくらい、彫刻史の中で重要な意味を成し得ていたであろう作品なのでしょう。

 

チェーザレ・ボルジアに仕え、都市計画や武器の製造にも携わったレオナルド。実にさまざまな武器や発明品の手稿を残しました。しかし技術・コスト面の問題から、ほとんど実用化されることはありませんでした。

「ヤスリ製造器」。当時は武器を作るための道具から作る必要があったため、水力を使って自動でヤスリを造れる仕組みになっている

「ヤスリ製造器」。当時は武器を作るための道具から作る必要があったため、水力を使って自動でヤスリを造れる仕組みになっている

 

建築設計案『大墳墓計画』(左)と『集中式聖堂』(右)の縮小模型。作品づくりの過程が記録された学生制作のムービーも

建築設計案『大墳墓計画』(左)と『集中式聖堂』(右)の縮小模型。作品づくりの過程が記録された学生制作のムービーも

 

最後は、誰もが知っている『最後の晩餐』です。

『最後の晩餐』。復元したデータを真っ白な壁面に投影

『最後の晩餐』。復元したデータを真っ白な壁面に投影

 

ミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の壁に描かれた本作は、保存環境の悪さや顔料の剥離、カビなどによる劣化が激しく、20世紀後半に大規模な修復作業が行われました。劇的にきれいになったのですが、長い年月をかけて欠損してしまった部分や顔料が隔離してしまった部分は元に戻せません。色彩だけでなく、そういった部分もイキイキとした絵に蘇りました。

色の濃淡も細かくとても繊細

色の濃淡も細かくとても繊細

 

お皿の上にある魚まで鮮明にわかる

お皿の上にある魚まで鮮明にわかる

 

この瞬間の一人ひとりの表情だけでなく、ぶどう酒、魚、パン…モチーフが一目瞭然です。さらに『最後の晩餐』の絵の中に入れるというVR体験も可能。登場人物たちが並ぶ位置に立って歩くことができる、スペシャルな体験が待っています。

 

ここでしか見ることのできないヴァーチャル復元作品は、2020年11月29日(日)まで。現代の技術がかなえた、レオナルド・ダ・ヴィンチの夢―かけがえのない作品たちをお楽しみください。


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