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  • date:2020.5.26
  • author:谷脇栗太

URA が推薦する、注目の研究者

【第4回】ナノ構造で光を操る。常識を覆す無限の可能性で社会を照らす「ものづくり」

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高島 祐介

徳島大学大学院社会産業理工学研究部 助教

2012年徳島大学工学部電気工学科卒業、2016年日本学術振興会 特別研究員DC2、2017年同博士課程修了。2017年日本学術振興会 特別研究員PD、2018年徳島大学大学院 社会産業理工学研究部 専門研究員、2019年2月より現職。研究テーマはナノ構造の光デバイス応用。徳島大学研究クラスター「光センサー機能一体型紫外発光ダイオードの開発」のクラスター長を務める。

この研究に注目している人

花房 世規

徳島大学 研究支援・産官学連携センター 産官学連携部門 特任助教

高島先生は今年で30歳と研究者の中では若手ですが、光に関するユニークな研究が国内外の学会で評価されており、学内では研究クラスター長としてプロジェクトを率いるなど、まさに今注目の研究者です。研究内容は「ナノ構造で光を制御する」というもので、センサー技術や医療機器などさまざまな工業製品への応用が可能なため、産学連携の観点からも大いに活躍が期待できます。学部時代から徳島大学に籍を置く生え抜きの研究者で、地元愛が強い側面も。実は私と高島先生は学部時代からの親しい友人でもあるのですが、自分に厳しく他人に優しい人柄も彼の魅力だと思います。

Q. 光を制御する研究をされているとうかがいました。具体的には、どんな研究をされているんですか? 

僕の研究を紹介する前に、光の基本的な性質について少し説明させてください。普通、光は黒いものに吸収されたり、鏡に反射したり、水の中で屈折したりと、光が当たる物の性質によってさまざまな振る舞いを見せますよね。こうした振る舞いは、ある波長の光が物質に当たった時に光と物質内の電子が相互作用することで引き起こされます。これには物質の表面や内部の分子や原子の並び方が関係していて、これらの性質は通常、それぞれの物質に固有のものです。光の波長は約数百nm(ナノメートル:1nmは10億分の1メートル)であるのに対し、原子の間隔は約0.1nm程度と波長に比べ十分小さいため光と物質の相互作用はナノスケールの世界で平均化されて屈折率や光の吸収として私たちの生活に深く関わっているわけです。

 

そこで僕の研究では、物質の表面に光波長と同程度のナノサイズ構造(ナノ構造)を人工的に作ってやります。光と同等程度のナノ構造では、構造の場所によって光の感じ方が異なるため、通常の物質に光が当たった時とは異なる振る舞いを見せます。これを利用し、光に対して自然界に存在しないような性質を作り出したり、物質の性質にとらわれずに光を制御したりすることができるのです。たとえば、ナノ構造を使うことで金を赤や緑などに見せるようなこともできるんですよ。こうしたナノ構造を目的に合わせて設計・検証し、さまざまな産業に活用することをめざしています。

 

ナノ構造で光を制御する仕組み

ナノ構造で光を制御する仕組み

 

僕が特に力を入れているのは、紫外、あるいは深紫外という、可視光線よりも波長の短い領域です。紫外線は物質に吸収されやすい性質を持つため、工業分野への応用には、「いかに光の損失を低減できるか」といったことが課題の一つでした。それならば物質の元々の性質に縛られず、ナノ構造を駆使して物質への吸収率自体を制御してやることで紫外線の活用の可能性が広がるのではないかと考えたのです。

 

光は波長によって全く異なる性質を持ち、さまざまな用途に活用されていますが、紫外線には殺菌などの効果があります。現在、徳島大学の他の先生方と協力し、LEDとナノ技術を組み合わせて医療分野へ活用する研究を進めているところです。具体的には、紫外線を集光するLEDを内視鏡に取り付け、患部に照射することで、メスを入れずにウイルスやがん細胞を検知・除去することができるデバイスへの展開をめざしています。

Q. 非常に汎用性の高い研究だということがわかりました。
先生は光の研究のどういったところに魅力を感じていらっしゃるのですか?

ナノ構造で光を制御する研究の魅力は、光と物質の相互作用は変えられないというこれまでの常識を覆せることです。僕は昔から他人と違うことをやりたがる性格で、学校のテストでも「100点じゃないなら0点がいい。他の人が取らない点を取りたい」と考えるような学生でした。研究に関しても、最初からやれるとわかっているようなことはやりたくなかったので、基本的な性質についても解明されていない点が多い光というテーマは自分にぴったりだと思っています。紫外線の吸収率をナノ構造で変えるという研究も、難しいと考えられていたからこそ挑戦したいと思ったんです。実際、最初の頃は、学会で発表してもあまり注目されませんでした。それでも諦めずに結果を出していくと、少しずつ他の研究者の方々からアドバイスや評価を頂けるようになってきました。今でも学会の質疑応答はいつも白熱しますね。

 

とはいっても、僕もはじめから光に興味があったわけではなく、学部時代は結晶成長を扱う研究室に所属していました。具体的にはLEDの素材になるものの結晶を作る研究で、僕は作った素材をLEDとして光らせ、その光を評価する担当でした。LEDというとスイッチ一つでピカッと光るイメージがあるかもしれませんが、一から作ったLEDを光らせるのは本当に大変で、なかなか光らないんです。1年ぐらい試行錯誤を繰り返していたある日、深夜まで残って実験していると、ついに青く光ったんですよ。その光がとてもきれいで、今でも鮮明に思い出せます。光の研究やものづくりが面白いと思えたのはその時からですね。

学会でも着実に実績を重ねる。写真は応用物理学会2019年春季学術講演会Poster Award受賞時の様子

学会でも着実に実績を重ねる。写真は応用物理学会2019年春季学術講演会Poster Award受賞時の様子

 

Q. 高島先生は学部からずっと徳島大学に在籍されていますね。徳島への思い入れも強いとお聞きしています。大学の魅力や地域での活動についてお聞かせいただけますか?

徳島大学の魅力は、頑張る人をとことん応援してくれるところです。アイデアが面白いと思ってもらえると、僕のような若手であってもちゃんと拾い上げてもらえます。学内で複数の研究者が特定のテーマを共同研究する研究クラスターという枠組みがるのですが、僕は現在あるプロジェクトのクラスター長としてプロジェクトをまとめる役割をさせていただいています。構成員は僕よりもずっと年上の先生ばかりですが、やりづらいとはまったく感じません。若いからだめ、じゃなくて、むしろ若いんだからどんどん挑戦して失敗しなさい、とサポートしてくれる気風があるんです。

 

地域での活動ということでは、特に若い人にものづくりや考えることの面白さを伝えるアウトリーチ活動に力を入れています。地元の高校生を対象に出前授業を積極的に行っていたら、これをきっかけに光の研究に興味を持ってくれる高校生がでてきました。今度は、そんな高校生たちに大学に来てもらって、実際にLEDを作って光らせる授業も行いました。今は助教という比較的自由がきく立場なので、高校生から直接連絡をもらって、少人数の体験授業を開催することもあります。研究者って一般の人からするとちょっとハードルが高いように感じるかもしれませんが、実は僕、高校の時は成績があまり良くなくて、下から数えた方が早いぐらいだったんですよ。だから今の高校生にも「自分が研究者なんて…」と思わずに、まずは研究の楽しさを知ってほしいと思って取り組んでいます。自分で作ったLEDを光らせるという体験は、僕自身が研究者を志した原点でもありますから。

地元の高校での出前授業の様子

地元の高校での出前授業の様子。高校生のキラキラした目が印象的だ

 

Q. ご自身の大学での経験が未来の研究者を育てることに繋がっているのですね。最後に、今後の研究の展望や目標をお聞かをせいただけますか?

論文や学会発表などアカデミックな実績の積み上げと、製品開発などの社会実装、この二つを両輪にして進んでいきたいです。若手研究者はどうしても論文をたくさん出していくことが求められるのですが、個人的にはそれだけで満足してはいけないと思っていて、現在は企業との共同研究にも着手しています。ゆくゆくは特許取得などにも挑戦したいですね。

 

先ほどは紫外線LEDにナノ構造を実装して医療分野に活用する研究を紹介しましたが、他にも光ナノ技術が実装できる分野は多岐に渡ります。たとえば、光を使って磁場を観測する研究も進めています。磁場の観測には電気を使うのが一般的ですが、環境によっては電磁波の影響を受けてノイズが入りやすいことが課題でした。光で磁場を観測できるようになるとそうした影響を回避できるので、宇宙空間や原子炉などさまざまな環境での活用が期待できます。

 

どんな分野であれ、研究を通してものづくりをしているという意識を大切にしています。理論研究にとどまらず実際にさまざまな場所で人や社会の役に立てるよう、光の可能性をどんどん広げていきたいですね。

「研究者としても教育者としても、型にはまってしまうと新しいものは生み出せないと思うんです」と高島先生。ストイックな研究姿勢と柔軟な思考で未来を切り拓いていく姿が眩しい

「研究者としても教育者としても、型にはまってしまうと新しいものは生み出せないと思うんです」と高島先生。ストイックな研究姿勢と柔軟な思考で未来を切り拓いていく姿が眩しい

 


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