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  • date:2020.4.14
  • author:田中聡子

珍獣図鑑(1):もっと知りたくなる。オオグソクムシの形と仕草と心に夢中

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今回お話を伺った研究者

森山 徹

信州大学 繊維学部 准教授

神戸大学大学院自然科学研究科知能科学専攻博士後期課程修了。三菱電機株式会社を経て、研究者の道へ。研究分野は比較認知科学、動物行動学、心と意識の科学。研究課題はオカダンゴムシとオオグソクムシの心理学・認知科学、ミナミコメツキガニの社会創発実験、モノの心理学の構築。
著書に『ダンゴムシに心はあるのか』(PHPサイエンス・ワールド新書)、『オオグソクムシの謎』(PHPエディターズ・グループ)、『オオグソクムシの本』(青土社)、『モノに心はあるのか』(新潮選書)など。


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、誰にも振り返られなかった生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う新連載企画「珍獣図鑑」をスタートさせます。
研究者たちは未知の生き物といかに遭遇し、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。もちろん、基本的な生態や最新の研究成果も。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。
記念すべき第1回目は「オオグソクムシ×森山徹准教授(信州大学)」です。それではどうぞ。(編集部)


 

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神秘に満ちた深海生物「オオグソクムシ」。古代生物を彷彿とさせ、巨大なダンゴムシのようなインパクトのある外見だが、正面から見ると意外と愛らしい顔に和む。一部の人々から「かわいい〜」となぜか人気が出て、さらには「食べてもおいしい」と話題になり、数年前から知る人ぞ知る存在に。


今回は、そんなオオグソクムシの生態、そして「心」(!)を研究する信州大学の森山徹准教授にお話を伺った。

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運命は突然に。ダンゴムシ研究の流れで偶然出会う

オオグソクムシやその仲間であるダイオウグソクムシが、インターネットやマスメディアを通じて脚光を浴びはじめるのは2010年代のこと。森山さんがオオグソクムシと出会ったのは、まだそれほど名前が知られていない頃だった。果たして森山さんはオオグソクムシといかにして遭遇したのか。まずは出会いのきっかけを教えていただいた。

 

「出会ったのは、2007年の冬くらい。それまで私は、ダンゴムシをメインに研究してきました。ちょっと行き詰まった時、『次、何やろうかな?』とインターネットで『ダンゴムシ 歩行』とか適当に検索していたんですよ。それで偶然ひっかかったのがダイオウグソクムシでした」

 

ダイオウグソクムシは、深海に住む大きな節足動物。一見ギョッとする見た目だが、現在では子どもたちからも熱い支持を集め、水族館の人気者になっている。とはいえ当時は違ったようだ。

 

「今でこそ水族館で見かけますが、その当時は聞いたこともなかったです。検索で見つけたのが『ダイオウグソクムシを初展示!』という、新江ノ島の水族館の記事。『ダンゴムシの仲間』と書いてあったので、すぐに水族館に電話して見に行きました。

ダイオウグソクムシは、水深1000mほどに住み、体長40cmほどあります。深海生物なので光に弱く、分単位で光を与えるだけで死んでしまうことがある。大きい水槽がいるし、水温が0度近くじゃないといけない。『その環境は作れないしなぁ。研究は無理か』と諦めかけたんです」

 

ダイオウグソクムシの研究は難しいことがすぐにわかった。しかしその巨大な深海生物が鎮座する水槽の近くを見ると、別の何かがいたという。

 

「ふと隣を見ると10cmくらいのがいたんですよ。それがオオグソクムシでした。オオグソクムシは、250~550mのところに住んでいて、ダイオウグソクムシほど光にも弱くない。しかも日本で獲れる。これなら研究できそうだと」

 

初めての出会いで、運命に導かれるように研究への道は開かれた。森山さんの第六感が反応した。

 

「彼らの存在を知ったからには研究しようと即断でしたね。インターネットで『オオグソクムシ 研究』と検索すると、首都大学東京(現:東京都立大学)の黒川信先生の名前がヒットしました。すぐ会いにいき、どうやって飼育するのかを教えてもらいました。

その後『漁師さんにわけてもらうから、今度三浦半島の三崎漁港に付いてきて』とお誘いいただき、初めてオオグソクムシを手にしました。それが2008年春のこと。オオグソクムシとの出会いから半年後ですね」

 

オオグソクムシが泳ぐ姿を撮影

 

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オオグソクムシの「心」に迫る

オオグソクムシと出会った森山さん。気になるのはその研究テーマだが、なんとオオグソクムシをはじめとする生物やモノの「心」の研究を進めているというのだ。しかし、そもそもムシやモノに本当に「心」があるものなのだろうか。

 

「『心』を辞書で引くと、『あらゆる精神活動のもと』と書いてあります。しかも人限定。ちなみにこれは東洋思想に限った話じゃなく、ケンブリッジディクショナリーでも『知、情、意のもと』とあり、やはり人に関するとある。日本だろうが、英語圏だろうが、『心』は精神活動のもとと考えられています。そして、『人』に関するものとされている。

しかし、犬を飼っている人に『犬には心がない』といったら怒るでしょう。虫好きの人なら虫に心があると思っている。それに、人の場合でも、何らかのアクシデントで精神活動に支障をきたした人には、心がもうなくなってる、とは言えないでしょう。倫理的にそんなことを他人に言ってはいけないからという意味ではなく、対峙した時にそんな風には見えないということです」

 

だとしたら「心」とは、何なのだろう。オオグソクムシをきっかけに考えさせられる。ムシやモノにも心があるという森山さんは、「心」というものをどう捉えているのか?

 

「精神活動のもとというより、対面で接した時に、こちらの予測できないようなことをする可能性、つまり『予測不能性のもと』が『心』だと思っています。その観点から言えば、ダンゴムシもオオグソクムシも、『心』を持っている。その予測不能性をどうやってうまく引き出すのかが研究になるのです」

 

そうか。「心」とは相手ありきで見えてくるものなのか。誰かと誰か――いや、何かと何かが接する時に、予測不能性のもと=「心」が発動するのだ。

 

「オオグソクムシの心を知るためには、ただ行動を見てふむふむと納得するのではなくて、手を出してみて、予測不能性を引き出す。ただし、突然火をかざしてどんな突飛な逃げ方をするかを見るとかではなく、あくまで自発的に引き出すんです」

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オオグソクムシは「心」を持っている

オオグソクムシの「心」は、見えたのか。森山さんは、オオグソクムシから何を感じ取ったのだろう。

 

「ひとつの研究成果があります。単純といえば単純ですが、何しろほとんど知見がない。世界を見渡してもオオグソクムシの行動をメインに研究しているのは恐らく私の研究室くらい。

ただ、オオグソクムシの神経の研究をしている研究機関は結構あるんです。そこからの話で、飼育している水槽の砂を掘ったと聞いたんですよ。ほとんど生態がわかっていないので、穴を掘るということだけでも重要な発見。そこでは体長ほどの穴を掘ったそうです。

私はそれをとっかかりにできると思ったんです。さらに調べていくと、体長の6倍ほどの巣穴の化石があると知りました。化石なんて大昔の話だけど、オオグソクムシが住む深海底250~550mの環境はそうそう変わるわけではない。となると、今でも体長の6倍は穴掘りをするはずだと推測しました」

 

さすが研究者。ほんの少しのヒントから、思考を深めていく。次にどんな手を打ったのか。

 

「ここからどうしようかなと(笑)。でも、よくよく考えてみると、飼育してる環境は深海底とは違うなと思いまして。深海底って暗くて、殺伐とした風景が広がり、鯨の骨などが点在している。それに、深海底には、海のさまざまな生物の死骸がふってくる。その死骸の肉をオオグソクムシは食べています。そういうところでも、やはり捕食者はいるわけで、安心して住もうと思えば、穴を掘って身を隠す必要がありますよね。

穴は穴でも、姿や動きを察知されたら食べられてしまうから、深めの縦穴だろう。さらに入口が見えない方がいいから、骨がごろごろしているような場所の方がいいはずだ。そんなふうに推測しながら、オオグソクムシに穴を掘らせる研究をすることにしました。

砂だと穴の中が見えないので、水槽の中に直径60cm、深さ40cmの大きな寒天を作り、オオグソクムシをおいて、背中が隠れるくらいに海水を注ぎました。最初は、確かに体長ほどしか掘りませんでした。次に、寒天の上に骨などに見立てたパイプを数本おきました。すると、体長の3倍くらいの穴を掘ったのです」

 

すごい。仮説を積み重ねて、本当にまだ誰もみたことがないであろうオオグソクムシの行動を引き出したんだ!

 

「寒天においしそうな匂いを付けたわけでもない。硬さを調整したわけでもない。パイプをおいたら長く掘ったということは、オオグソクムシは、ちゃんと環境を察知して穴を掘ることができるということです。障害物があれば、その環境を深海のようだと察知し、理にかなった穴を掘る。『知性』を持っているということです。

これは発見でした。ただ、私がもっと感心したのは、何も障害物がなければ短い穴を掘る、という点です。捕食者にすぐに見つかってしまう短い穴。そんな役立たずの穴を掘ってしまうことこそ、観察者の予想を裏切ること、つまり予測不能性です。私の考えでは、それこそが『心』なのです。

さらに言えば、生物の行動は、いちいち『生存のため』、『子孫を残すため』といった目的と結びつけられて捉えられてきました。人間らしくする理由、言葉を使う理由、文字を持つ理由とかも、最終的には生き延びるため、子孫を持つためだってね。でも私は、すべてがそうだとは思わないんです。もっと場当たり的に行動しているでしょって思っています。

この研究成果は、2011年に論文として発表しました(※1)」

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今まさに、世紀の大発見への入り口に立つ

森山さんの研究は続く。話を伺って特にワクワクしたのは、「大発見」につながる可能性を持った現在進行形の研究のことだった――森山さんとオオグソクムシの最強タッグは、予想もしない方向へと進み始めた。

 

「今まさに研究途中のものがあります。私は途中でも言っちゃう派なので言っちゃいますが(笑)。実は、色々研究をしてきて、手詰まりになって、『オオグソクムシはもういっかな、もうやめようかな』と思ったんですね。でも、『もう一回だけ奴らのことを考えてみよう』と。
水圧が30~50気圧かかる、人間ならぺっちゃんこになるような深海で暮らしているのに、1気圧の地上に引き上げてきて研究室の水槽でも生き延びられるわけです。そんな屈強な彼らだから『ちょっとしたことで、陸にあがっちゃうんじゃない?』という話になった。

そこで早速、水の中に石でスロープをつくり、だんだん上がっていける仕組みにしたんです。するとほんとに陸に上がってきて、また水に帰っていきました。この行動は、ほかの研究者に話したら『冗談だろ』といわれるレベルのことです」

 

研究者は、こういう葛藤の中で進んでいくのか。オオグソクムシの心に向き合い、彼らの身になって考える森山さんだからこそ、こういう発見ができるのだろう。

 

「水際に何匹かがずらっと並んで、数匹が陸にふっと上がってはまた戻っていく。
深海生物の行動ではないですよ。さらに、水中じゃないところに何日か滞在できるんですが、それも結構ポイントです。もちろんエラ呼吸ですし、自然界なら、陸に出たら食われる危険も増すし、下手したらカラカラになって死んでしまうかもしれない。それなのに、そういう行動がみられたのは、まさしく意外でした。

でも、単に意外というだけではありません。生物がナン十億年前に生まれたのは海の中で間違いない。そして、進化の過程で陸上進出した動物がいた。それは節足動物だと言われています。オオグソクムシも節足動物です。彼らの上陸行動は、初めて陸に上がった節足動物がどんな気持ちだったのかを研究するきっかけになるということです。

これは『心と進化の研究』に繋がると感じ、現在古生物の研究者と共同研究を進めています。
現在のところ、最古の上陸動物は、『アパンクラ』というオオグソクムシのような形をした節足動物です。私たちが始めたのは、アパンクラの心を探る研究なのです。

化石の状況から、アパンクラは水際に住んでいたことがわかっているが、化石からは、陸に上がったときの気持ち、心はわからない。オオグソクムシは、今まさに陸へ上がろうとしているわけだから、彼らの気持ちは調べることができます。陸に上がるやつと上がらないやつもいて、個体差、個性があるのもおもしろいですね。

初めて陸に上がった動物の心を探る『心と進化の研究』は、世紀の大発見につながると感じています」

 

陸に向かって歩いていくオオグソクムシの姿

 

註------------
※1 森山 徹: 変異行動からの眺め. 比較生理生化学 28: 273-277, 2011.

https://doi.org/10.3330/hikakuseiriseika.28.273

 

【珍獣図鑑 生態メモ】オオグソクムシ

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甲殻類の一種。全長約10cmで、等脚目の日本最大種。ダンゴムシの親戚で、節にわかれている体のつくりの基本は一緒。足は左右7本ずつで計14本。第一触角2本、第二触角2本。主に深海底250~550mほどに分布。死肉食で、「海の掃除屋」ともいわれる。

 


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