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  • date:2016.3.18
  • author:椎木伶奈

「AR津波ハザードマップ」はこうして生まれた

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アプリが生まれた場所、関大の水災害研究室とは

先日、大学アプリレビューvol.7で取り上げられた「AR津波ハザードマップ」。このアプリ開発で要となったのが、関西大学の津波災害に関する研究力だ。そこで今回改めて、開発に携わった教授に話を伺うことに。早速、研究室へと赴いた。

JR高槻駅から徒歩数分の場所に堂々と構える、関西大学高槻ミューズキャンパス。2010年開設というまだ新しい建物且つ、都心のオフィスビルかマンションを思わせるようなスケール感&洗練された佇まいに圧倒されつつ足を踏み入れる。ここは社会安全学部のキャンパスであり、ここで教鞭をとる高橋智幸教授によって、水災害研究室(高橋ゼミ)が開かれている。水災害研究室はその名の通り、津波や高潮、洪水など、水に関連した災害を対象に、防災・減災の研究を行う場所だ。

日本の津波におけるエキスパート、関大に現る

学生たちが卒業論文提出に向けて白熱している中、にこやかに迎えてくれた高橋教授。そもそも教授は、なぜ水災害の防災研究者となったのだろうか。

関西大学社会安全学部 高橋智幸教授

関西大学社会安全学部 高橋智幸教授

 

「私は山形県に生まれて、最上川を遊び場にして育ったんです。川が好きで、高校卒業後は東北大学に進学し、河川の研究に取り組みました。そこで初めて、津波というものの存在を知ったんです。それから研究を進めれば進めるほど、自分の好きな川が人の命を奪ってしまうような自然災害を減らしたいという思いが募って。大学卒業後はそのまま大学院へ進学し、東北の津波研究に携わりました。その後、京都大学の防災研究所に移って南海トラフ地震による津波の研究に取り組み、さらに秋田大学へ移って日本海側の津波について研究しました。こうして日本全域の津波研究を終えたところで、ちょうど2010年、関西大学に災害研究を行う新学部ができるということで、こちらに来ました」

正に、日本中の津波を知りつくした高橋教授。満を持して、関大が誇る日本初の社会安全学部/大学院社会安全研究科に着任したのだ。

なぜスマートフォン向けアプリを作ったのか

高橋教授が行う水災害の防災研究とは、具体的にどういうものなのか。まずは、津波や洪水がどのように街を襲うのか、あらゆるデータを収集し、コンピュータ上でシミュレーションを行う。また、実験室にある装置を使って人工的に津波を発生させ、どのような現象が起こるのかを調べる。さらに、実際に災害が発生すれば被災地に赴き、どのようなメカニズムでどのような被害が起きたのかを調査する。そして、こうした研究成果を論文にまとめ、学会で発表するのだ。しかし、高橋教授は言う。

「学会で発表するということは、研究としては成果を出せたということになります。でも、私が行っているのは防災研究です。そう考えると、結局実際に被害を受ける一般市民の方々にまで研究の成果が届かなければ、防災研究の成果としては不十分なのではないか……年々そう思うようになりました」

理学的な現象を探る分野の研究とは違い、防災研究は現象を明らかにすることはもとより、被害を減らすことが最大の目的である。同じ研究と言っても、目的によってめざすべきゴールが違ってくるという、当たり前だけれども重要なことを、改めて教えられた気がした。

「そこで私の研究室では、研究成果である防災情報を、しっかりと自治体の防災担当者や一般市民の方々にも活用してもらえる方法を考えようということになりました。そして着目したのが、ここ数年で広く普及したスマートフォンです。AR技術を活用した、直感的に分かりやすく、危険が伝わりやすい防災情報のアプリを開発すれば、いざという時に誰でも活用できますし、普段から、わざわざ防災情報を調べないような人にも、少しは興味を持って見てもらえるのではないかと思いました」

このアプリ開発がスタートしたのが、学部1期生が3年生になり、高橋ゼミに所属した2012年。高橋教授はコンセプト設定までで、設計などの実作業は学生主導で行われた。この前年である2011年には、あの東日本大震災が発生している。研究するだけではなく、その成果を確実に一般市民にまで届けなければならないという使命感は、高橋教授もゼミ生たちも、きっと並々ならぬものだっただろう。

未来の防災に向けて

アプリリリース後も、防災情報を広く一般市民に届けるためのチャレンジを続けている高橋教授。例えば、現在力を入れているのが「津波リスク可視化ツール」。これは、建物の倒壊や火事など、複雑に絡み合うさまざまな津波のリスクを、自由自在に組み合わせて机上にCGで再現し、スマートグラスを装着した複数人で共有できるというものだ。また、津波が迫ってくる様子や高さ、浸水の早さ、深さがバーチャル体験できる、ヘッドマウントディスプレイ型の「避難訓練支援ツール」もある。これは小中学生を対象に開発中のもので、完成した暁には、現在の何から逃げているのかよく分からない状態から、襲ってくる相手をきちんと分かって逃げられるという状態になり、よりリアリティのある避難訓練が行える。

リスク可視化ツール

リスク可視化ツール

マーカーとヘッドマウント型ディスプレイを使うことで、机上で津波の危険度を共有できる

マーカーとヘッドマウント型ディスプレイを使うことで、机上で津波の危険度を共有できる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小中学生に向けた避難訓練支援ツール。ヘッドマウントディスプレイによって実際津波が襲ってくる映像を見ながら訓練ができる

小中学生に向けた避難訓練支援ツール。ヘッドマウントディスプレイによって実際津波が襲ってくる映像を見ながら訓練ができる


こういった防災研究の他にも、時間スケールの長い災害として、サンゴの再生など水に関わる環境問題にも取り組む水災害研究室。今後さらなる研究の発展に、是非とも注目していきたい。
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研究所内で珊瑚の飼育も。潮流で発電できる機械を使い、珊瑚の成長を促進するそう

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