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  • date:2020.8.18
  • author:藤原 朋

ドローンで山岳遭難者を捜索!近畿大学によるQRコード付き登山用小型シェルターとは?

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「山ガール」なんて言葉が流行ったのは、もう10年ほど前のこと。今では登山は、老若男女が気軽に楽しめるレジャーとして定着しています。

でも気軽に出かけたその先で、もしも道に迷ってしまったら?急な悪天候で遭難してしまったら?そんな「もしも」の時に活躍する最新アイテムが開発されたと聞いて、お話を伺ってきました。

数100m先の遭難者を見つけて個人を識別

今回取材するのは、近畿大学理工学部と日本山岳救助機構合同会社が共同開発した、QRコード付き再帰性反射マーク(M-bright)を印刷した小型シェルター。いったいどんなアイテムなのでしょうか?近畿大学の前田佳伸教授にwebでお話を伺いました。

特殊なQRコードがつけられたM-brightプリント・ピコシェルター(左)。ポンチョとして着用する際はこのように(左)

特殊なQRコードがつけられたM-brightプリント・ピコシェルター(左)。ポンチョとして着用する際はこのように(左)

前田佳伸教授(電気電子工学科)

前田佳伸教授(電気電子工学科)

 

まず再帰性反射マークという言葉が耳慣れませんが、「身近なところにもありますよ」と前田先生。たとえば高速道路にある反射板も同じ仕組みで作られていると言います。

 

「車のライトが当たると光を照射した方向に反射するという仕組みで、今回の再帰性反射マークも同じです。サーチライトを搭載したドローンから光を当てると、再帰性反射マークが光を反射するため、遭難者の居場所がわかるんです。このシステムによって、数100m先にいる遭難者を見つけることができます」

 

なるほど、光の反射を使って捜索するんですね。QRコードが付いているのはどうしてでしょうか。

 

「このQRコードには、私が理事長を務めるNPO法人光探索協会が付与した個別識別番号が付けられていて、登録者の情報が管理・保管されています。ですので、数100m先にいる遭難者が誰なのか、個人を特定することが可能になります」

 

「たとえばこのTシャツは…」とお話しながら、前田先生が画面越しに着ているTシャツを見せてくれました。

その胸元にはQRコードが!

その胸元にはQRコードが!

こちらがそのQRコード再帰性反射マークTシャツ。光の照射があると虹色に。照射なしだと右のように、マークがあることも一見してわかりづらい

こちらがそのQRコード再帰性反射マークTシャツ。光の照射があると虹色に。照射なしだと右のように、マークがあることも一見してわかりづらい

 

「このTシャツは2018年にクラウドファンディングを行った際に、支援者へのリターンとして作ったものです。ライトを当てるとQRコードが七色に光って、個人を特定できます」

 

クラウドファンディングの告知が登山雑誌に掲載され、記事を見た日本山岳救助機構合同会社の方からオファーがあったことが、今回の共同開発のきっかけだそうです。今回はTシャツではなく小型シェルターという形になったんですね。

 

「この小型シェルターはすごくコンパクトに畳めて、しかも軽いので、非常用として携帯するのに便利です。天頂部を吊って設営すると、中に2人まで待避することができます。また、ポンチョとして着用することもできるので、雨具や防寒具の予備としても使えます」

新技術の登場で山岳救助の現場が変わる!

さらに、これまでの山岳救助で使われていた既存の技術との大きな違いがあると前田先生は語ります。

 

「たとえば山岳用の電波を使った小型発信機。これも大変有効なんですが、電子機器なので電池が切れると使えません。転倒した時に遠くに飛んで行ったり、岩にぶつかって壊れたりする可能性もあります。そういった場合のひとつの補助として使えると考えています」

 

たしかにこのシェルターなら、充電の心配もなく使えますね。ちなみに悪天候の時は使えるのでしょうか?雪や雨の中でも使用できるのか気になるところです。

 

「光が透過する環境であれば使えるので、雪や雨が降っている中でもある程度は大丈夫です。あとは、条件がそろえば水の中でも使えます。電子機器だと水に浸かってしまうと無理ですが、これは水中の捜索も可能なんです。山岳遭難者の多くは川や沢で亡くなると言われているので、そのような捜索にも有効です」

 

また、これまでの山岳捜索はヘリコプターからの目視によるものが多かったそうですが、やはり人間の目で見つけるのは至難の業。今回のシステムでは光を能動的に当てることによって、より高い確率で遭難者を発見できると考えられています。さらに、ドローンで捜索できるので、有人のヘリコプターによる二次遭難の危険性も回避することができます。

 

お話を聞けば聞くほど画期的なアイテムですが、「アイディア自体はそんなに難しいものではないんですよ」と前田先生。最も苦労したのは、システムの有効性を示すことだと語ります。

 

「有効性を証明するため、何度も実証実験を行いました。たとえば今年1月には、六甲山スノーパークで実験を行い、雪の降る環境でも光が透過すれば十分に認識できることが判明しました。スキー場の方が面白がって実験の様子をツイートしてくれたので、けっこう話題になりました」

 

 

QRコードというか全身が光っていますよ…!「これは共同研究をしているメーカーが実験用に特別に作ってくれた、全身を再帰性反射材で覆ったつなぎのウェアです。200m先でも明々ときれいに見えるでしょう?」と笑顔で話す前田先生。雪の中で全身が七色に光る光景はなかなかシュールです(笑)。

きっかけはマグロから?意外な開発エピソード

ところでこの再帰性反射材を使った光探索システムは、どのようにして生まれたのでしょうか?開発のきっかけを伺うと、意外な答えが返ってきました。

 

「もともとこのシステムは、宇宙マグロプロジェクトという計画から生まれたものなんです。海面近くを回遊するマグロなどの魚の生態を究明するため、魚に再帰性反射材を装着して追跡するという計画です。地上から400km離れた人工衛星からレーザーを照射して、魚を追尾することを構想しています。そのための基礎データを取得するため、来年には10cm四方の超小型人工衛星を打ち上げる予定です」

宇宙から追跡するというなかなか壮大なプロジェクト…!

宇宙から追跡するというなかなか壮大なプロジェクト…!

 

近大といえばマグロ、というイメージがありますが、ここでマグロが登場するとは思いませんでした。このプロジェクトのための技術を、山岳救助に応用したものだったんですね。他にもいろいろな分野に活用できそうです。

 

「このシステムは迷子探しにも応用できると考えています。たとえば2025年に開催される大阪・関西万博において、世界各国から訪れる子どもたちに再帰性反射材のQRコード付きワッペンなどを付けてもらえば、迷子になった時に光探索システムで捜索できます。他にも徘徊老人の捜索やペットの迷子探しへの活用も期待できます」

 

前田先生いわく、この技術を一言で表すと「遠くのQRコードを読む技術」。今までQRコードといえば、電子マネーの決済などの際に携帯電話をかざして読み込むというイメージしかありませんでしたが、数100m先でも読めるとなると、これまでとは全く違った新しい使い方が生まれてきそうです。

 

なお、今回開発された登山用小型シェルター・M-brightプリント・ピコシェルターは、8月20日から日本山岳救助機構合同会社のWebサイトにて発売予定。「個別識別QRコードタイプ」13,050円(税込)、「同一QRコードタイプ」12,550円(税込)となっています。また、より気軽に持てるものを、とハンカチタイプも同時に発売されます。

QRコードお守りハンカチバンダナ(3300円税込)  。遭難時には頭や腕に巻いたり、リュクサックや石を包み込んで空が見える場所に設置することによって、遭難場所を知らせる目印にすることもできる

QRコードお守りハンカチバンダナ(3,300円(税込)) 。遭難時には頭や腕に巻いたり、リュクサックや石を包み込んで空が見える場所に設置することによって、遭難場所を知らせる目印にすることもできる

 

「本格的に登山をする方には小型シェルター、家族での気軽な登山や小さな子ども向けにはハンカチタイプ、と考えて2タイプ用意しました」と前田先生。どちらも小さく畳めるので、リュックの片隅に入れておけばいざという時に安心ですね。近い将来、山に登る時にはQRコード付き再帰性反射マークを使ったアイテムを携帯することが当たり前になるかもしれません。


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