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  • date:2020.6.16
  • author:蔵麻子

あり得ない「ぼかし」をつくる視覚拡張メガネを大阪大学が開発。SFの世界がまた一歩現実に!

図1

デジタル一眼カメラや、スマホのカメラ機能に搭載されている「ぼかし」機能。これを使うと、肉眼では見ることができない「見せたいものだけを鮮明にフォーカスした」写真が撮れますよね。大阪大学の研究チームが開発した《Illuminated Focus(イルミネイティッド フォーカス)》は、この「ぼかし」機能を私たちの肉眼で使えるようにした視覚拡張メガネ。研究に取り組んだ岩井先生に、詳しい話を伺いました。

 


岩井先生◉お話を聞いたヒト

岩井大輔 先生

大阪大学 大学院基礎工学研究科 准教授。研究領域はAR、VR、プロジェクションマッピング。学生たちと共に「熱プロジェクションマッピング」「顔へのリアルタイムプロジェクションマッピング」といったさまざまな研究プロジェクトに取り組み、世界に発表している工学博士。

 


 まずは具体的にどうボケるのか、動画を見てみました。

2020年2月に発表されたIlluminated Focus。論より証拠、ということで、その機能を紹介した動画を見せてもらうことに。

 

肉眼ではあり得ない超人的な見え方ができることが、いくつかの応用例とともに紹介されています。

肉眼ではあり得ない超人的な見え方ができることが、いくつかの応用例とともに紹介されています。

 

動画を見ていると、Illuminated Focusを装着してトランペットを演奏している男性が登場。

彼の視線の動きに合わせて、楽譜の必要な箇所のみくっきり見えている様子が紹介されています

決められたテンポに従ってくっきり見える領域が移動するよう設定されています。これでテンポをキープしながら演奏することができます

 

「このように、Illuminated Focusを応用すれば、特定の領域のみをシャープにそれ以外をぼかすことで、作業に集中させたり特定のモノに人の注目を誘導することができます。その他にも、絵画などの2D画像を立体的に浮き上がらせたり、さらには顔のシワやシミを消すことも可能です」

 

シミが消える…!? と思わず浮き足立ってしまいました。先生によれば、「カメラなどのソフトで肌をキレイに補正する技術はあれど、それを肉眼で実現するのはかなり難しい技術」なのだとか。

譜面の時とは逆に、意図したモノや場所にボケを作り出す応用法。対象をモーションキャプチャーで追跡しボケを加えるなどの活用が期待されています

譜面の時とは逆に、意図したモノや場所にボケを作り出す応用法。対象をモーションキャプチャーで追跡しボケを加えるなどの活用が期待されています

 

動く人のシミやシワをリアルタイムで消すのは大変だけど、ぼかすなら比較的簡単なのだそうです。

仕組みを聞いてみました

この発明は「超人的なぼかし機能を肉眼に実装できるデバイス」だと聞いてきたのですが…。一体どういう仕組みのものなんでしょう。

 

「Illuminated Focusは、高速にピントを合わせられるETL(電気式可変焦点レンズ)メガネと、その動きに連動したプロジェクタを組み合わせた視覚拡張システムです。

仕組みを簡単に言うと、くっきり見せたい場所とぼかしたい場所それぞれに、プロジェクタから異なるタイミングで光を当て、高速で度数変更可能な特殊なETLメガネと連動させることで、特別なぼかし効果のある視界をつくり出します。さらにそれを1秒間に60回という速さで繰り返すことで、肉眼で違和感なくリアルタイムの視界として認識できるのです」

こちらの特殊なメガネとシンクロするハイスピードプロジェクタを使って実現

こちらの特殊なメガネとシンクロするハイスピードプロジェクタを使って実現

 

なかなか文系女子である筆者には難しいお話…。つまりIlluminated Focusは、レンズの度数の強さを高速に変えている画像を、1秒間に60枚ずつ作って再生するという、パラパラ漫画やセル画アニメのようなことをしているということですか?

 

「そうです。高速で処理されているから、焦点が変化やプロジェクタからの照明でチラつかず、特定の物のみボケているように知覚されるんです」

 

ちなみにアニメだと、自然に動く映像を表現するには1秒あたり24枚程度のセル画が必要。Illuminated Focusはその約3倍の情報量をリアルタイムで処理しているんですね。

でもなぜ「ぼかす」にこだわったの?

ユニークな発明のIlluminated Focusですが、そもそもどうしてこんな一風変わったメガネを作ったのかが気になります。

 

「そもそも私はAR(拡張現実)の研究をずっとしていまして」と岩井先生。ARといえば、ポケモンGOのように、現実空間にバーチャルな映像が出てくる技術ですね。

 

「ARは、現実の空間に情報を追加していくのが基本の技術です。でもある時ふと『追加しすぎると、便利だけど煩わしくないかな?』と。そこから『情報を消していく…存在感を削るARがあってもいいのでは』と発想して生まれたのがIlluminated Focusです」

矢印や案内板などの情報も、盛り込まれ過ぎだと人を混乱させてしまいます

矢印や案内板などの情報も、盛り込まれ過ぎだと人を混乱させてしまいます

 

なるほど・・・!逆転の発想ですね。でもどうして「消す」ではなく「ぼかす」にこだわったんでしょう。

 

「消す技術はDiminished Reality(隠消現実)という、すでにある程度研究が進んでいる分野。私もプロジェクションマッピングを用いて活用法を研究してきましたが、例えば街の写真を撮る時に歩いている人だけを消す、というのがリアルタイムでできてしまう」

 

ARってそんなところまで進化してるんですか!と驚く私に、先生はうなずきます。

 

「ええ、今やARの技術はフェイクとリアルの差がどんどん縮まっています。でもだからこそ『消してしまって大丈夫?』という考えに至ったんですよ。例えば壁をARで消してしまうと、歩く人がぶつかってしまう危険性がある」

 

完全に消すのではなく、そこにあることはわかる…ぐらいにぼかして存在感を薄めた方が安全じゃないか、と先生。消すこともできるけれど、「ぼかす」にこだわったのは、その方が現実的に使いやすいからなんですね。

視覚拡張デバイスで、私たちの暮らしが変わる?!

さまざまな応用法が期待されている視覚拡張デバイスIlluminated Focus。ただ、今の段階では、プロジェクタとセットなので屋内だけの使用に限定されてしまいそう。ウェアラブルにコンパクト化することはできるのでしょうか。

 

「可能ですよ。すでに名刺サイズのプロジェクタが開発されているので、身に付けられるサイズのものは開発できるでしょう。また、室内の照明器具をプロジェクタにしてしまうことで、今回紹介した『ぼかし』への視野拡張だけでなく、モノを消したり、AR本来の用途である情報の表示まで色々できてしまう部屋で暮らす…。そんな未来もそう遠いことではないかもしれません」

 

本棚にある書籍の表紙をARでチェックできるという技術も、先生の研究室で開発された

本棚にある書籍の表紙をARでチェックできるという技術も、先生の研究室で開発された

 

まるでVR(バーチャルリアリティー)の世界に入り込んだようですね。

 

「その通りです。そもそも私たちの研究は『VRでやれることを現実世界で再現しよう』という発想から始まっています。VRはアニメやゲームの表現としては素晴らしいけれど、現実ではない仮想空間。それを実生活で体験できるようにしたいんですね」

 

バーチャルで終わらせず、現実で役に立つものを研究したいと語る岩井先生。その背景にあるのは「研究とは、地に足のついたものであるべき」という想いです。

 

「私たちの研究室から生まれた発明が、実生活を徐々にでもサポートしていくようにしていきたいですね」という先生に、科学者の誠意を感じた今回の取材でした。先生の研究室では、今回紹介したもの以外にもたくさんの研究プロジェクトに取り組まれています。AR、VR、プロジェクションマッピングに興味がある人はぜひ研究室WEBサイトのチェックを。


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