京都大学にて一般に向けた超人気の講座があると聞き、11月9日(金)国際科学イノベーション棟にうかがい、受講してきました。
「京大変人講座」と名付けられたこの講座は、日本最高学府による最先端の研究をトークショー形式で楽しく伝えるもの。京大では「変人」はホメ言葉。昨今、社会ではイノベーションが叫ばれていますが、イノベーションは普通では思いつかないようなことを実現する人……つまり変人が起こすものです。そんな変人たちを許容し集結している京大で、変人たちの考えや研究に触れられるのが、この講座の醍醐味なのです。ちなみに京大変人講座はシリーズ化されており、過去の講座や新しい講座への申込はコチラ。
「蟻」という漢字のごとく、アリは義理人情に厚い
第9回目となった今回のテーマは「母vs娘の生物学 仁義なきアリ社会の掟 ハタラキアリは何を求めて働くのか?」。講師は、昆虫学・生態学を専門とする人間・環境学研究科の市岡孝朗教授。市岡教授は主に東南アジアの熱帯雨林に生息する昆虫の生態や生物間の相互作用を解明されています。ナビゲーターは、コメディアン、書家としても活躍する越前屋俵太さん。俵太さんは第1回目からナビゲーターを務めており、筆者のような凡人のために絶妙なツッコミを入れ、内容をよりわかりやすくしてくれる、ありがたい存在なのです。変人教授陣(注:京大で変人はホメ言葉!)と俵太さんの掛け合いの面白さもこの講座の魅力のひとつです。
昆虫を愛してやまない市岡孝朗教授
京大変人講座の名物ナビゲーター、越前屋俵太さん
講座はまずアリの生態の解説からスタート。誰もが知っているアリですが、市岡教授によると、繁殖や労働におけるカースト制、情報伝達、組織化された集団行動といった高度な社会を構築している、とても賢い虫なのだとか。また、アリはいろいろなタイプに分類され、例えば、共生アリと呼ばれるアリは植物に営巣し、植物につくアブラムシなどから蜜を採取。営巣する植物を食べようとする他の昆虫や動物から守る用心棒の役割を果たしています。外敵の攻撃によって命を失うアリもいて、「アリは虫へんに義と書くぐらいですから、義理堅いんですね」という俵太さんに、筆者をはじめ受講者は「なるほど」と納得。また、蜜を採取するためアブラムシを乳牛のように世話をする牧畜アリ、餌であるキノコを栽培する農耕アリも。アリにもさまざまな業種があるようです。
会場は大盛況。毎回、欠かさず参加するファンも多いとか
講座のお題もなにやら面白そうなものばかり
姉より妹? ドロドロの女王争い!
アリの働きに感心している中、講座はテーマの核心部である母vs娘の話へ。小学校の理科で習ったと思いますが、アリの産卵は女王アリのみ。講座の前半でも「アリ社会は繁殖や労働におけるカースト制」と市岡教授が解説されていたので、働きアリは女王アリの産卵と子孫繁栄のために労働していると思いきや、実はコロニー(アリの巣)の中は、ドロドロしているというのです。
アリは繁殖、遺伝形態が特殊で、女王アリ=母親と、オス=父親が同じ姉妹間でも、血縁度といって遺伝子を受け継ぐ割合が異なり、妹が高いそうです。妹が繁殖する方がより濃い遺伝子を残せるため、姉は働きアリとなる運命なのですが、なかには「自ら繁殖しようとする姉もいるのです」と市岡教授。女王である母と新女王候補である妹たちは姉を監視し、時には集団で襲いかかって姉の産卵を妨害することもあるとか。なんて恐ろしい…。「まるで大奥の世界ですね」という俵太さんに、「このドロドロがたまらないという研究者も多いですよ」と市岡教授。確かにドロドロ系の小説やドラマって、結構ハマってしまいますよね。
軽妙な二人の掛け合いで、何度も会場に笑いが巻き起こる
働きアリが労働に求めているのは自分の幸せ
ドロドロのアリ模様を繰り広げつつ、懸命に働くアリたち。その利他性や献身性、組織的かつ効率化された社会システムは人間も見習うべきと思ったのですが、「利他行動は人の見解で、なかにはさぼっているアリ、何もしないアリもいるでしょう。結局、アリは採餌や繁殖など利己性で働いているのです」と市岡教授。
「人間の方が、利他性が強いかもしれませんね。とくに日本人は会社のため、家族のためと働き過ぎです。先生も本当は虫取り網を持ってジャングルを駆け回っていたいでしょ?」という俵太さんに、「そうですね!」と即答する市岡教授。虫好き少年がそのまま大人になったような笑顔が印象的でした。
この後もアリの奥深い話が続き、時間がいくらあっても足りないため、講座は一旦お開きに。会場をキャンパスのレストランに移し、変人講座恒例の懇親会「変人BAR」に突入。お酒も交えながら、変人たちの話は尽きないのでした。
変人BARは、京大変人講座の生みの親、酒井 敏教授の挨拶からスタート
美味しい料理とお酒を楽しみながら、たくさんの参加者が講座の余韻にひたる
講座を受講してみて、アリの生態解明に取り組む市岡教授の変人パワー(注:京大で変人は…以下略)と、おなじみの某TV番組の探偵時代から変わらない俵太さんの面白さに感銘を受けました。
また、小さなアリの高度な社会にびっくり。サボっているアリがいたり、サスペンスドラマのような骨肉の争いがあったりと、アリに人間(?)っぽさを感じました。どこかで懸命に働くアリを見つけたら、「ご苦労さま」と労いの言葉をかけたくなるかもです。
「京大変人講座」では、今後も京大が誇る変人たちが続々と登場し、俵太さんと共に研究内容を楽しく、わかりやすく紹介してくれます。知的好奇心の刺激に、ぜひ受講してみてください。