ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2019.4.11
  • author:南 ゆかり

言葉の力。神戸女学院大学が伝えたかったメッセージとは。

「女は大学に行くな、」の衝撃

2018年4月、神戸女学院大学が出した交通広告が話題をさらった。同大学のスクールカラー「濃青色」に白一色の文字が潔い電車のドア横広告。「女は大学に行くな、」という衝撃的なコピーに引き付けられて最後まで読むと、4月の入学シーズンにふさわしい、大学生を励ます熱いメッセージだということがわかる。

 

「女は大学に行くな」なんて言われた時代に比べ、今は、自由に学び進路を選択できる。正解がない時代だから迷いも葛藤もあるだろうが、学ぶ自由の幸福を、忘れないで大切にしてほしい。シンプルなデザインだけに、言葉の力がダイレクトに伝わってくる。

 

これを見た人たちが、SNSで「泣きそうになった」「グッときた」「かっこいい広告」などと感想を寄せ、一気に拡散した。この広告を担当した学長室課長・樽本裕見子さんと学長室広報・松本崇さんは、「インターネットニュース、新聞、そしてテレビと取材に来られ、SNSの拡散力をまざまざと見せつけられた思い」と語る。だが、そもそもは、この広告は出す予定ではなかったという。

神戸女学院大学_松本さん

「想像以上の反響だった」と、学長室広報・松本さん

伝統校にしかできない発信

「副産物といったらいいでしょうか」。スクールカラーに白文字のみのメッセージ広告は2017年度に3回、それだけの予定だった。だが、その3回目、2018年3月掲出予定の広告を作る際、コピーアイデアの一つだった「女は~」が目に留まったのだ。

 

「これは面白いと思いました。入学を迎えた学生さんたちに大学で学ぶことの意味をアピールしたい。伝統校にしか出せない広告になるのではないかと思ったのです」

神戸女学院大学_樽本さん

広告への手応えを語る、学長室課長・樽本さん

 

2018年は神戸女学院大学が新制大学として設置されて70周年にあたる年。3月25日が認可日で、3月の広告は、「新制大学設置認可70周年」がテーマの一つだった。同大学は1875年に宣教師たちが開いた私塾をルーツとしており、高等教育機関として認められることは長らく関係者の悲願であった。また、東京女子大、津田塾大などと並んで新制大学として認可された最初の女子大学の一つであり、関西では関関同立とともに最初に認可された。

 

考えてみれば、広告でジェンダーを語れるのは、女子大の特権といっていい。女性活躍推進法施行など「女性」は旬の話題でもあったが、女子教育の長い伝統があるからこそ「女は大学に行くな、という時代があった。」というコピーにも血が通う。

 

新制大学設置認可70周年という節目の年だからこその意味が際立つ。学ぶ意味を問い、これから大学で学ぶ人に向けたメッセージになれば。「うちしか出せない、今しか出せない、出したいと心から思いました」。担当者の熱意が執行部にも伝わり、予定になかった4月の広告を打つことになった。

 

結果的に良い評価が多かったとはいえ、もちろん、否定的な反応もあった。「専業主婦はだめだというのか」などの怒りの電話もかかってきた。中には、同じことを親に言われて大学に行けず、自分で稼いだお金で大学を出たので、これを読んで心が痛んだという人もいたという。出す前からある程度のマイナス評価は想定しながらも、あえて、女性がひっかかるような言葉を使った。そう聞いてメッセージを読み返すと、学びは生き方につながるのだと、改めて思う。その本質を思い出そう、と問題提起するのにエッジが必要なのは、確かにそうだろう。

リベラルアーツを形に

とはいえ、「女は~」の、真っ向勝負で切れ味がいいテイストは、2017年度の交通広告全体に共通している。この交通広告では、大学ブランディングから生まれた新しいタグライン(ブランドのキャッチフレーズやスローガン)をモチーフにして、大学の認知度をアップすることをめざしていた。

 

新タグラインは、「私はまだ、私を知らない。」というもの。神戸女学院大学はリベラルアーツを教育の特色にしており、幅広い教養を身につけて社会に出たときの土台をしっかりと作るというところに重きを置いている。まさにその特色を正面から言い切っていて、「何にでもなれる」という教養を磨くことのメリットをアピールしたタグラインである。資格取得系の学部がもてはやされ、就職という出口ばかりに注目した大学選びが一般化する昨今、勇気ある訴求といってもいい。

2018年3月広告-2

神戸女学院大学の70周年を機につくられたタグライン

 

だからなのか、教学理念の一つとしてゆるぎないリベラルアーツをアピールするのに、女子大の広告らしからぬ「文字だけで勝負する」という方法を選んだところに、気概のようなものが感じられる。「私たちとしても斬新だった」と担当者は言う。同大学の校舎はヴォーリズ建築の重要文化財で、その魅力から多くの広報物にも活用してきたのだが、この時は封印した。

 

2017年6月に電車のドア横を飾った第一弾の広告。いろいろな問いかけの中、ひときわ大きなフォントサイズで迫ってくるのは「学問は、就活か。」。これを見て、「確かに、そうだよね」と思ったのは私だけではないだろう。卒業生からは「よくぞやってくれた」と電話があったという。

2017年6月広告

 

続いて11月にも同様に、問いかけ型の広告を打った。今度は、「労働は、時間か。」という問いかけに年齢を併記した。下は19歳から上は83歳まで、それぞれの世代が抱くかもしれない葛藤を代弁し、学び続けることの大切さを発信した。さて、年齢の数字は何を示しているだろうか。答えは、素数だとか。その理由は「人生は割り切れないから」だと聞いて、再び「そうだよね」と思う。

2017年11月広告

 

2018年3月には、卒業シーズンとあって「人生は、いつだって途中だ。あなたの卒業が、いい通過点でありますように。」というメッセージとタグラインで、中吊り広告で電車をジャック。そして4月の話題作の登場となった。

2018年3月広告-1

 

さらに、2018年12月には、一転、全面に卒業生の写真を使った電車のドア横広告を掲載する。雰囲気は柔らかくなったが、メッセージは一貫してリベラルアーツである。それぞれ自分が想定していなかったことに、今熱中している卒業生が登場する「わからないから、おもしろい。」シリーズだ。新制大学設置認可70周年記念誌として発行した卒業生20人のインタビュー集からピックアップした卒業生で、記事の詳細は公式HP掲載のデジタルブックで読むことができる。

2018年12月広告-1

すべての女子学生にエールを

一連の交通広告で、「インターネットを通じた波及力の大きさを感じるとともに、一番響いているのは、学生、教職員、卒業生など関係者だったことにも驚いた」と担当者。スタンスを明確に宣言した広告が、大学に対する誇りにつながったのだろうと推測している。

 

もっとも、学生向けにはさまざまなメッセージをすでに発信し続けている。卒業生のインタビュー集は先輩たちの生き方から学んでほしいと学生向けに作ったものであり、新タグラインができたときにはその意味を説明し幅広い教養を身につけようと啓蒙するリーフレットを作って配布もしている。

学生向けツール

在学生に配られたインタビュー集『Stories』と、啓蒙リーフレット『私はまだ、私を知らない。』

学生向けツール中面

『Sotries』には、神戸女学院大学出身の、あの有名アナウンサーのインタビューも…

 

「学生が主役ですから」と担当者は言うが、そのまなざしがもしかしたらこれらの大学広告の一番の魅力になっているのかもしれない。どの広告でも、コピーは学生を励ましている。自学だけでなく、あらゆる女子学生(もしくは学びたい女性すべてかもしれない)に学びの価値を示して、エールを贈り続けている。「これからも、本学の学びの姿勢をアピールし続ける」とのこと。どんな言葉の力で学ぶ女性たちを励ましてくれるのか、今後も楽しみにしていきたい。

 

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