野原 隆司
セッション4「健康長寿のための運動について考えよう」座長
枚方公済病院病院長、循環器専門医。京都大学医学部卒業。日本心臓リハビリテーション学会理事、京都大学循環器内科臨床教授、心臓リハビリテーションガイドライン班長を歴任し、心臓病患者の運動療法の基礎を確立した。
運動は心臓の働きをよくし健康長寿を支える大黒柱。
運動が好きな方も嫌いな方もおられると思いますが、人間はなぜ運動をするのでしょうか。答えは、人間が動物だからです。動かない動物はいないし、うまいものだけを食べている動物もいません。たとえば、キリンはあれだけ背の高い体全身に血液を循環させるために高血圧なのですが、それでも元気に生きているのは、走り回っているからなのです。
人間も、もともと運動するようにつくられている身体なのだから、いいも悪いもなく運動しなければならない。なのに、車やエレベーターなど文明の利器をつくりだし動かなくなってしまったことで健康を害しはじめました。自分で自分の首を絞めているのです。
とはいえ、一旦便利を手に入れてしまった現代人にとって、運動がどうよいのかがわからないとなかなかやる気にならないのもわかります。実は、想像以上にいろいろなことによいので何からお話しすればよいか迷うのですが、循環器専門医としてまずは「心臓にいい」ということを知っていただきたいと思います。
運動をすることで血管が拡がり、血液の流れがよくなって、これが心臓の機能を改善します。また、運動が副交感神経を活性化させることも重要なポイントです。交感神経が活発だと、心拍数や血圧を上げる物質が分泌され心臓に負担がかかるのですが、運動をすることで副交感神経の働きが優位になると心臓への負担は減っていきます。
心臓病の患者さんの治療にも運動がいい。30年ぐらい前まで、心筋梗塞になった患者さんは1ヶ月間動かしてはいけないと言われていました。私たちはその当時から心臓病患者さんの運動療法を提唱しよい成果を上げてきました。今では、運動療法は保険診療となり、心筋梗塞の手術をした人でも3日間も寝たきりにはさせない、というところまで医療の常識が変化しています。
運動の素晴らしさを語る野原先生。
運動によって筋肉から出る物質がリスクから守ってくれる。
もう一つ、運動をすると筋肉を維持増強できることも大きなメリットです。筋肉を使うことで、身体にとってよい、さまざまなホルモンのようなサイトカイン物質が出てくることがわかっており、それらを総称して「マイオカイン」と呼ばれています。メタボリックシンドローム予防によいマイオカイン、骨粗しょう症防止のためのマイオカイン、他にも糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの防止に役立つマイオカインが出てくることがわかっています。
筋肉は、身体を支えるという役目があるだけではなく、サイトカイン産生臓器として身体を病気から守ってくれているわけです。運動をしたらスリムになって肥満が解消されるから健康になる、というだけではないのです。運動をして筋肉を維持したり増やしたりすることは、今や、もっと積極的な病気の予防であり治療になることがわかっています。
意外に手軽に取り入れられる運動習慣。運動で病気予防を。
では、どのような運動をしたらよいのでしょうか。苦しくなるような運動をやる必要はなく、歩くので十分です。ただし、ただ歩くだけでは筋肉が太らないので、たとえば5分早く歩いて、5分普通に歩く、というふうに繰り返すといいでしょう。あくまでも、自分なりのペースで歩くことが大切。ニコニコと隣の人と話せるぐらいのペースがいいと言われています。
そういえば、速足で歩くことは動脈硬化の予防にもいいんです。すぐに血管を拡張する物質が出てくるので、それを習慣にすると血管を柔らかい状態に保つことができます。この物質の出をよくする薬もありますが、動脈硬化になってから薬を飲むくらいならその前に予防として歩いた方がよっぽどいいですよね。
今回、私が座長を務める「健康長寿のための運動について考えよう」セッションでは、このように、運動や健康についてまだ多くの人にはあまり知られていないことをいろいろとお伝えしたいと思っています。これからは、運動で病気を予防する時代。特に、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満、メタボ、運動不足といったリスクが重なる人は、運動で病気を遠ざけない手はないでしょう。健康寿命を延ばす運動を、想像しているよりもずっと手軽に暮らしに取り入れる方法についてもお教えします。講演者はみな運動療法に力を入れてきたスペシャリストばかりで話も面白いので、運動をやらずにはいられないという気持ちになってもらえるのではないでしょうか。嘘だと思ったら、ぜひご視聴ください。お待ちしています。
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