ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2022.11.24
  • author:三木鞠花

楽器を通して時間や地域を越えた旅に出る〜武蔵野音楽大学楽器ミュージアムの楽器コレクション

2021年にリニューアルオープンした武蔵野音楽大学楽器ミュージアムは、昭和42年に日本初の楽器博物館としてオープンして以来、卒業生のネットワークや寄贈品などによって、コレクションが拡大してきたそうです。これまで同大学入間キャンパスにて展示されていた収蔵品も江古田キャンパスに集約され、武蔵野音楽大学楽器ミュージアムが誕生。2022年4月より一般公開が開始されたことを知り、行ってきました。

お出迎えしてくれたのは「東洋と西洋の融合」というミュージアムのテーマに最適な和風の絵が描かれたプレイエル社製のピアノ

お出迎えしてくれたのは「東洋と西洋の融合」というミュージアムのテーマに最適な和風の絵が描かれたプレイエル社製のピアノ

 

楽器を見るだけではなく、楽器の歴史を学ぶ

「鍵盤楽器展示室」「管弦打楽器展示室」「日本の楽器展示室」「世界の民族楽器展示室」の4つに分類・展示されています。

まずは、鍵盤楽器展示室。楽器の歴史や成り立ちに沿って、ピアノの前身・クラヴィコードから進化系のパイプオルガンまで、さまざまな楽器が登場した順に並んでいます。どのような経過をたどって現在のピアノになったのか、鍵盤楽器の歴史が手に取るようにわかります。時代の変化とともに、演奏する場所が宮廷からサロンや一般家庭に変わり、形や音域、音量など、ピアノも変化を遂げてきました。その変化途中のキリンピアノやリラピアノは、とても面白い形をしています!

キリンピアノ(1820年頃、ウィーン) 大型のグランドピアノが増えるなか、家庭用にとコンパクトなピアノが作られるようになりました。グランドピアノを縦置きにしたキリンピアノは、動物のキリンに見た目が似ていることからその名が付けられました

キリンピアノ(1820年頃、ウィーン)
大型のグランドピアノが増えるなか、家庭用にとコンパクトなピアノが作られるようになりました。グランドピアノを縦置きにしたキリンピアノは、動物のキリンに見た目が似ていることからその名が付けられました

リラピアノ(1830年頃、ベルリン) 音楽の神アポロンが弾いていたリラという竪琴が正面に携えられています

リラピアノ(1830年頃、ベルリン)
音楽の神アポロンが弾いていたリラという竪琴が正面に携えられています

筆者が感激したのは、クララ・シューマンが所有していたグランドピアノ。19世紀ドイツを代表する作曲家シューマンの妻・クララは、ピアニストや作曲家として活躍しました。彼女が所有していたピアノは、生涯で2台のみ。その貴重な1台がこちらにあるのです! もう1台は、クララの生まれ故郷であるドイツの資料館に置かれています。

こちらのクララのピアノは、武蔵野音楽大学で展示される前には、2年もの歳月をかけて修復されたそうで、現在は演奏も可能な状態になっています。ちなみに、音色を聴くことができる公開講座もあるそうです。

 

そして、ナポレオン3世の結婚祝いにイギリスのヴィクトリア女王から贈呈されたアップライトピアノにも、目を引かれました。1852年、ナポレオン3世は皇帝に即位し、翌1853年にスペイン貴族ウージェニーを皇后に迎えました。歴史的な出来事を、楽器を通して感じることができて、胸が高鳴りました(※歴オタではありません)。

クララ・シューマン愛用のグランドピアノ(1871年、ドイツ) 現代のサイズでいうと、コンサートホールで使用される大型グランドピアノと同じくらいだそうです

クララ・シューマン愛用のグランドピアノ(1871年、ドイツ)
現代のサイズでいうと、コンサートホールで使用される大型グランドピアノと同じくらいだそうです

写真6

 

ナポレオン3世の結婚祝いのアップライトピアノ(1853年、イギリス) 足にブドウのような飾りが施されるなど、細部のこだわりがすごい!

ナポレオン3世の結婚祝いのアップライトピアノ(1853年、イギリス)
足にブドウのような飾りが施されるなど、細部のこだわりがすごい!

 

ちなみに、ピアノの見方には、いろいろ注目ポイントがあると思います。例えば、昔の人は楽譜の横に蝋燭を立てて明るく灯して演奏していたため、譜面台の隣には蝋燭立てがあります。この蝋燭立てや譜面台が、ピアノによってだいぶ違うので、見比べると面白いです。

 

楽器ミュージアムでは、お気に入りのデザインを見つけてみましょう! 今では黒塗りのツルツルしたピアノが一般的ですが、昔のピアノには1台1台に個性があって、見ていて飽きません。

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個性豊かなピアノたち。お好みの年代や国を探してみてください

個性豊かなピアノたち。お好みの年代や国を探してみてください

 

歴史を学べるのは、ピアノだけではありません! その隣の展示室では、歴史的変遷がわかるように弦楽器と管楽器が展示されています。ハープ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスがずらりと並んでいて、圧巻の光景です。なかには、とても小さな手乗りサイズのピッコロヴァイオリンや、ラッパ付きスケルトンヴァイオリンなど、初めて見る変わり種も。

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弦楽器の展示風景。ラッパ付きの弦楽器は、録音技術がまだあまり発達していなかった時代に、音を集めるために製作されたそう

弦楽器の展示風景。ラッパ付きの弦楽器は、録音技術がまだあまり発達していなかった時代に、音を集めるために製作されたそう

 

木管楽器のコーナーも、フルートやオーボエ、ファゴット、クラリネットが古いものから年代順に並んでいるので、木管楽器がそれぞれどのように進化していったのかを学ぶことができます。金管楽器のコーナーでは、ホルンのご先祖様やセルパンといううねうねした楽器など、見た目がユニークなものが目白押し。セルパンはフランス語で蛇を意味します。見た目がその名の通りすぎますね! 日本における楽器製作のルーツも展示されていて、日本管楽器株式会社によって1936年に作られた日本初のスーザフォーンも見ることができます。

木管楽器の展示風景。各楽器がどのような進化を遂げいていったのか、1列にわかりやすく並べられています

木管楽器の展示風景。各楽器がどのような進化を遂げいていったのか、1列にわかりやすく並べられています

ホルンの先祖である動物の角を使った角笛や、ホルンの前身のひとつであるポストホルン(18〜19世紀に郵便馬車の発着を知らせるために使われていた小型のホルン)も展示されています

ホルンの先祖である動物の角を使った角笛や、ホルンの前身のひとつであるポストホルン(18〜19世紀に郵便馬車の発着を知らせるために使われていた小型のホルン)も展示されています

ヘビのような見た目のセルパン。低音が出せる楽器です

ヘビのような見た目のセルパン。低音が出せる楽器です

 

日本の楽器の美しさに触れられる貴重なコレクション

武蔵野音楽大学楽器ミュージアムのすごいところは、西洋楽器にとどまらず、日本をはじめとする世界中の楽器を見られること。なんと、西洋楽器のコレクションは所蔵品全体の約半分にすぎません。

「日本の楽器展示室」では、まず、歌舞伎の舞台を再現したスペースと琵琶、木魚、三味線などのコレクションが迎えてくれました。

 

1番の見どころは、水野佐平コレクション。水野佐平は、「もっと日本の音楽大学で邦楽を学んでほしい」という強い想いを抱き、邦楽器研究を極めました。戦争中は自身の楽器コレクションを疎開させて守り抜いたんだそう。東は武蔵野音楽大学に、西は大阪音楽大学にそれぞれ寄贈しました。これらは、戦禍を生き延びた貴重なコレクションです。日本の楽器を守り、普及させたい——そんな情熱を感じ、自分も日本人として、もっと邦楽について知りたいと興味がわいてきました。

歌舞伎で使用される楽器を展示

歌舞伎で使用される楽器を展示

日本における琵琶の歴史は7〜8世紀まで遡ります

日本における琵琶の歴史は7〜8世紀まで遡ります

三味線とその材木が並べて展示されています

三味線とその材木が並べて展示されています

水野佐平コレクションの展示風景

水野佐平コレクションの展示風景

 

螺鈿や珊瑚で彩られた美しい飾り箏は、足を止めてじっくり鑑賞したくなります。これらは、嫁入り道具として代々大切に受け継がれてきたものです。製作されたのは、1844年(天保15年)。ピアノの展示でも装飾に注目してきましたが、日本の繊細な細工はまたひと味違っています。楽器との調和も取れていて、ため息の出る逸品です。

 

平安時代〜鎌倉時代製作と推察される笙もとても貴重です。笙やケースに施された竹の絵が美しい! 京都の印籠蒔絵師によって描かれたものなんだそうです。「三味線のストラディヴァリウス」と評される名器も見られて、とても満足して次の展示室へと移ります。

1844年(天保15年)に製作された箏。お花は螺鈿、オレンジ色の実は珊瑚で施されています

1844年(天保15年)に製作された箏。お花は螺鈿、オレンジ色の実は珊瑚で施されています

12〜14世紀に製作された笙。江戸時代の皇族・伏見宮邦永親王の筆によって、ケースの内側に銘「節摺(ふしずり)」と記されています

12〜14世紀に製作された笙。江戸時代の皇族・伏見宮邦永親王の筆によって、ケースの内側に銘「節摺(ふしずり)」と記されています

 

楽器で世界旅行に出かけよう!

「世界の民族楽器展示室」に入ると、雰囲気がガラリと変わります。東アジア、南アジア、東南アジア、西アジア、北アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、オセアニアに分かれていて、その地域に行ったような気分を味わうことができます。楽器を通して世界一周できるというのは、なかなか貴重な経験ではないでしょうか。人形や演奏風景の写真も展示することで、イメージが膨らむように工夫しているそうです。

「世界の民族楽器展示室」の入り口。まずは東アジアと東南アジアからスタート

「世界の民族楽器展示室」の入り口。まずは東アジアと東南アジアからスタート

 

見たこともないような不思議な楽器がたくさん! どれも音を出すための楽器ですが、ふんだんに施された装飾に地域ごとの差が表れていて、雰囲気がまったく異なります。目で見るだけでも十分に楽しむことができるのです。

 

まず注目したのは、馬頭琴。教科書に載っていた『スーホの白い馬』に出てきた、あの馬頭琴です! はじめて実物を見ましたが、想像以上に馬らしさ全開。木で馬の頭を形作り、色付けして……ほかの民族楽器もそうですが、本当に手が込んでいますよね。そして、見た目だけでなく、弦も弓の毛も馬の尻尾でできているそうです。

写真23

『スーホの白い馬』なつかしい! 馬のなんとも言えない表情がいいです

『スーホの白い馬』なつかしい! 馬のなんとも言えない表情がいいです

 

ロシアの大きめの弦楽器バラライカ、ウクライナのバンドゥーラ、ノルウェーのヴァイオリンに似たハーディングフェレなど、弦楽器もさまざまな種類が展示されています。アルゼンチンのアルマジロでできたギターもありました。食用にもなっていたアルマジロへの愛着があったのでしょうか。

ヨーロッパの民族楽器の弦楽器コーナー

ヨーロッパの民族楽器の弦楽器コーナー

アルマジロの皮でできたギター。その地域の生活に密着した特徴的な材質が使われているのも、民族楽器の面白いところ!

アルマジロの皮でできたギター。その地域の生活に密着した特徴的な材質が使われているのも、民族楽器の面白いところ!

 

もっとも見慣れない楽器が目立ったのは、アフリカ。とくに、スリットドラムと呼ばれる打楽器と特産物のひょうたんを使った楽器の数々。スリットドラムは太い木を少しずつ丁寧に削って作られたもので、中心を空洞にして、上面に隙間(スリット)が入れられています。叩くときっとよく響くんだろうなぁと、想像が膨らみます。

ひょうたんはアフリカ原産で、食器や炊事道具や衣服など、日用品として多用されてきました。楽器にも利用されていて、木琴や打楽器、マラカスなど、その種類の多さに驚かされました。

スリットドラム

スリットドラム

写真28

ひょうたんの原産地がアフリカとは知りませんでした。世界最古の栽培植物です

ひょうたんの原産地がアフリカとは知りませんでした。世界最古の栽培植物です

 

楽器博物館と聞くと、もしかすると西洋楽器のイメージが強いかもしれませんが、邦楽に特化した展示スペースや民族楽器のコーナーなど、古今東西、あらゆる楽器を一挙に見ることができる貴重な機会でした。ぜひ楽器を通して、時間や地域をまたいだ大冒険をしてみてください。

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