硬軟取り混ぜた切り口で医療研究の最前線を紹介
全国の大学が発行する広報誌をレビューする「大学発広報誌レビュー」。今回とりあげるのは、大阪大学大学院医学系研究科が発行する広報誌『DOEFF(ドゥーフ)』です。
同研究科は「ヒトの生命現象を解明する」研究を行い、大阪大学医学部附属病院と連携。その起源は国内初の官立病院として1869年(明治元年)に設立された「大阪仮病院」で、源流は江戸時代末期に緒方洪庵が開いた適塾にさかのぼります。DOEFF(ドゥーフ)という広報誌の名は、かつて適塾の塾生たちに親しまれた蘭和辞典の通称に由来するとのこと。
冊子の表紙も中身もしっかりとした厚手の紙で、長く手元において読めそうな造りです。
最新号(13号、2024年3月発刊)
表紙に目次が掲載されていますが、ゴシック体から軽快な手書き風文字までさまざまなフォントで作られたタイトルロゴがそのまま使われていて、硬軟取り混ぜた内容を予想させます。
表紙をめくると、「アートな体躯(からだ)」の文字と、漆黒に浮かぶ蛍光色。
写真に写っている細長いものは線虫で、ところどころで光る粒状のものは線虫の体壁筋にあるタンパク質だそう。
次の見開き(下の写真)右ページに掲載されているのは、ウイルス感染により血管オルガノイド(ミニサイズの立体組織)に形成されたという血栓の画像。画集のようにしっかりとした紙に印刷されていることもあって、「現代アートです」と紹介されても納得してしまいそう。
下は、8ページにわたる「超常識」という記事。常識を超えた新しい医療の形を提示するというコンセプトの記事で、最新号のテーマは「認知症」。5名の医師が、それぞれの専門分野における最新の研究を一般の人にもわかりやすい言葉で紹介しています。
認知症は今のところ根治療法はなく早期発見が重要とされますが、認知機能の検査は時間がかかり、受診者に大きな負担がかかります。この記事で紹介されているのは所要時間約3分、タブレットさえあれば受診者の目線の動きだけで認知機能を検査できるという画期的な検査方法。認知症のプログラム医療機器(※)として国の承認を得て、実用化に向けて前進したことが掲載されています。
※プログラム医療機器……医療機器の機能を持つプログラムが搭載された記録媒体のこと。高血圧の治療用アプリなどもその一種。疾病の診断に用いるものと、治療に用いるものの2種類がある。
別の医師が紹介するのは、多職種の専門職チームが専門職の視点で患者さんの生活環境を整えたりIoTを導入したりする見守りシステムの構築など。こちらは精神科の臨床医で、「病気を正しく診断するだけでなく、患者さんの気持ちに寄り添い、生活を支えていくことが重要」と述べています。
ちょっとした息抜きの記事も。下は「医者の不養生」ならぬ「医者の不養生」(「不」が打ち消されています)。親しみやすいタッチのイラストとともに、多忙な医師の「元気の素」を紹介。ふだんの心がけや、専門分野に関連したアドバイスも参考になります。
このほか、キャリアを積んだ医師がこれまでの研究人生を語る「ドクターの肖像」、今、注目のキーワードを解説する「医療のフロントラインを語る5つのキーワード」という記事があり、いずれも専門的な内容が一般の人向けに理解しやすく紹介されています。
さまざまな切り口で「一般の人に最新の知見をわかりやすく」「長く手元において読まれるものを」という意気を感じる誌面。医療や健康に興味のある方にとっていろいろな発見があり、「もっと知りたい」という気持ちになりそうな広報誌です。