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  • date:2026.1.8
  • author:岡田千夏

天文学と歴史的建築群にワクワク! 京都大学の花山天文台特別公開に行ってみた

京都・清水寺の裏山にたたずむ京都大学大学院理学研究科附属天文台・花山天文台。この歴史ある天文台は、全国にある京都大学の施設を公開するイベント「京大ウィークス」の一環として、毎年秋に一般公開されています。去年は大雨警報発令で残念ながら中止となりましたが、今年は雲一つない絶好のイベント日和! 宇宙と歴史を体感しに、花山天文台へ行って来ました。

 

今も愛され活躍する昔ながらの“手動”望遠鏡

特別公開では、敷地内にある本館、別館、太陽館、歴史館を自由に見学できるほか、太陽観察体験やミニ講演、4次元デジタル宇宙シアター(4Dシアター)の上映などプログラムも盛りだくさん。

1929(昭和4)年に建てられた花山天文台の本館

 

まずは、花山天文台の象徴ともいうべき直径9mのドームが輝く本館へ。この本館をはじめ別館、歴史館は昭和初期に建てられたもので、歴史的に貴重な建築群でもあります。そうした歴史の重厚感と天文台のドームという非日常性が相まって、本館はソワソワするような特別感のある空間が広がっています。レトロな雰囲気が漂う折り返しの多い階段を登ってドームにたどり着くと、空に向かってそびえる口径45cmの屈折望遠鏡の姿がありました。これは、国内の屈折望遠鏡では3番目の大きさだそうです。

 

ドームでは望遠鏡についてスタッフの方の解説を拝聴。1929年に花山天文台ができた当初には直径30cmのレンズを使った望遠鏡が設置されていましたが、1968年に第3代台長の宮本正太郎博士がもっと天体をよく見たいということで現在の45cm望遠鏡に換えられたのだそうです。「望遠鏡はレンズが大きいほどよく見えますが、屈折望遠鏡ではそのぶん筒の長さも長くなってしまいます。そのため、もともと30cm望遠鏡のために作られた設備での取り回しが難しくなってきました。そこで筒を切って鏡を入れて光を反射させ、筒の上部の接眼レンズから覗くという珍しい形の望遠鏡になりました」

45cm屈折望遠鏡。移動式の階段またはリフトで上がって、筒の上部にある接眼レンズから覗きます

 

接眼レンズまではかなりの高さがあるので、昔は移動式の階段、今は電動リフトで上がって観測します。そのリフトも古くなってしまったので、現在クラウドファンディングで支援をお願いしているそう※。1968年当時のままの望遠鏡は、いまも昔ながらにロープを手で引っ張って動かすのだと、実際に動かしてみてくれました。手動で望遠鏡を星の位置に動かした後は、おもりが落ちる力を利用した「重力時計」という仕組みで、星の動きを追尾します。「望遠鏡の命といえるレンズと鏡はほとんど劣化しないので、今もこの望遠鏡でいろいろな天体を見ることができます」とスタッフさんは言います。

※特別公開を開催した1週間後に、終了しました。多くの方々にご協力いただき、当初の目標を遥かに上回るご支援をいただきました!

 

前出の宮本正太郎博士はこの望遠鏡を使い20年以上にわたって火星をスケッチし、火星に吹く風を発見するなど大きな成果を上げました。三千枚を超える宮本博士のスケッチは、写真よりも詳細な火星の模様が描き込まれています。火星の大気のゆらぎによって写真ではぼんやりとした像としかとらえられないのに対し、宮本博士は長時間火星を見続けることで、大気の揺らぎが止まるわずかな瞬間を見極めていたのではないかとスタッフさん。まさに人間の目と脳のなせる技です。宮本博士のスケッチは、ドームの階下にある展示室に展示されています。

花山天文台が作られた1929年当時、日本にはドームを作る会社はなく、本館および別館のドームは川崎造船所(現 川崎重工)が船を作る技術で作りました

望遠鏡の架台には、約10年にわたり花山天文台を応援するためのチャリティーコンサートを開いた世界的音楽家の喜多郎さんのサインや、同じく世界的ロックバンド「クイーン」のギタリストで天文学者のブライアン・メイさんのサインがあります

花山天文台で一番高い場所に位置する本館ドームからは、天文台の全景はもちろんのこと、京都市南部や遠くは大阪の高層ビル群が望めます

 

別館と太陽館では太陽を観測

続いて、もうひとつのドームがある別館へ。別館は本館よりも小さく、こぢんまりしたドームへと至る狭くて急な階段を登っていくのは、まるで木の上に作った秘密基地に続く梯子を登っていくようで、ワクワクが止まりません。

こぢんまりとした別館の建物

 

別館のドームに設置されているのは、18cm屈折望遠鏡です。現在、太陽観測に使われているこの望遠鏡は、今から115年前の1910年に京都大学がハレー彗星観測のために購入したドイツのザートリウス社製のもの。あまりにも古いため今ではもう部品が手に入らず、壊れた部品は手作りして直しているのだそうです。

 

年季の入った18cm屈折望遠鏡ですが、今も現役で、毎秒1枚の間隔で太陽表面の撮影画像を取得し続けています。「太陽表面で起こる爆発が研究対象です。爆発で地球に到達する電磁波放射や高エネルギー粒子は電波障害やGPS障害を引き起こしますから、こうした障害を予測できるようにしたいと研究しています」とスタッフさん。太陽の撮影は今でこそデジタルですが、昔はフィルムカメラが使われていたため、ドームには隠し部屋のような小さな暗室もあります。まさに科学と歴史の面白さが一度に味わえる興味深い場所なのです。

18cm望遠鏡が取得し続ける太陽の画像データ

 

太陽の撮影のほか、別館では黒点観測も行われています。11.5cm望遠鏡でとらえた太陽の像を白い板に映し出し、そこに紙を重ねて黒点を写し取っていきます。黒点観測の歴史は古く、400年前のガリレオの時代がはじまりだといいます。花山天文台でも一日1枚黒点を観測・記録しており、この日は特別公開イベントということで、黒点のスケッチ体験に熱心に取り組む参加者の姿も見られました。

白い板に映し出された黒点をスケッチして黒点観測の体験をする参加者

 

花山天文台にあるもう一つの太陽観察施設が太陽館です。太陽館は、メインの建物に細長い部屋が飛び出したような変わった形をしていますが、実は建物全体が大きな望遠鏡になっています。別館では太陽の表面画像や黒点観測などいわば“見た目”の観測が行われているのに対し、太陽館で観測されているのは、太陽光の波長です。屋外にある2枚の鏡で反射させた太陽光を、望遠鏡の筒の部分にあたる細長い部屋を通して集め、「分光器」と呼ばれる機器でいわば虹のように光を波長ごとに分けます。波長を調べることで、太陽表面の温度や存在する元素などさまざまな情報がわかるのだそうです。

この2枚の鏡で太陽光を反射させて、望遠鏡の筒にあたる部屋に取り入れます

 

さらに、4次元デジタル宇宙シアター(4Dシアター)では、宇宙の旅のプログラムを鑑賞。3Dメガネによる立体映像(3次元)と時間の流れ(1次元)で4次元の宇宙空間を体験できます。プログラムでは天文アウトリーチ学生団体「あすちか」の学生さんの案内で、京都の夜空から宇宙へと飛び出し、地球から遠く離れた深宇宙へ。銀河の集まりである銀河団のさらに集まりである超銀河団が砂粒くらいに見える宇宙の果てまで気の遠くなるような旅をして、再び地球へと戻ってきました。

 

日本の天文学の発展に貢献

花山天文台での観測データを使った研究についてのミニ講演が行われるということで、会場である本館の図書室へ。ミニ講演を担当するのは、太陽物理学が専門の浅井歩准教授。

本棚に天文学の洋書が並ぶ図書室でのミニ講演

 

まず浅井准教授は花山天文台について紹介。「京大が持っている3つの天文台の一つで、太陽や月、火星、金星といった太陽系の天体観測で世界的な成果を上げています。また、アマチュア天文学の聖地ともいわれているほか、昨年度には日本天文遺産に認定されました」

 

浅井准教授が取り組んだ研究とは、太陽のエネルギーが放出される爆発現象「太陽フレア」についてのもの。別館の18cm望遠鏡で撮影された大きなフレアのデータを詳細に解析し、強いエネルギーが解放されている場所では磁場の強度がとくに強いということを突き止めました。「この論文を発表したとき、別館の18cm望遠鏡はすでに購入から90年が経っていて、国際会議で『90歳の望遠鏡で撮ったデータです』と紹介すると、拍手喝采が起こりました。それほど世界的にも珍しいことなのですが、望遠鏡が古くても良いデータは得られ、科学研究に役立てることができます」

 

講演後、浅井准教授に今回の特別公開についてお話を伺いました。花山天文台が設立された1929年当時、「大学の持ちものは選ばれたエリートのためのもの」という考えが根強かった中で、初代台長を務めた山本一清博士は、積極的に一般の人たちを迎え入れて天文学の啓蒙を推進したそうです。そのスピリットが今も根底にあり、年一回の特別公開が続けられていると浅井准教授。「山本博士の啓蒙活動が、それまでは海外から買うしかなかった望遠鏡の国産化の礎になったと聞いています。私のフレアの研究がうまくいったのも、そうした土壌で育った観測者の方が良いデータを取ってくれたからだと思っています」。特別公開の見どころについては、日本天文遺産に認定された建物や、スタッフみんなが頑張って取り組んでいる出し物などを楽しんでほしいと話しました。

歴史館に設置されている「子午環」と呼ばれる特殊な望遠鏡。歴史館には他にもさまざまな装置が展示されています

 

秋晴れの空の下、親子連れやシニア世代のご夫婦などさまざまな参加者の皆さんは、木々に囲まれた天文台の敷地を散策し、思い思いに施設や体験プログラムなどを楽しんでいるようでした。花山天文台特別公開は、天文学や歴史が好きな人にはとくにおすすめの一石二鳥のイベントです。また来年の特別公開まで待てない! という方には、土日公開 (有料)も開催されていますので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

 

(編集者:稲田妃美/ライター:岡田千夏)

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