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  • date:2026.2.19
  • author:児嶋美彩

離れていても通じ合う、双子の不思議な“同時イベント発生現象”って? 大阪青山大学の松田葉子先生に聞いてみた

今回お話を伺った研究者

松田葉子

大阪青山大学 看護学部看護学科 教授

大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。助産師として不妊治療専門病院に勤務し、多胎児家庭の育児支援に携わった後、大学講師を経て2023年より現職。専門分野は精神看護学、母性看護学、および双生児研究。離れた場所にいる双子の間に発生する「同時イベント発生現象」のメカニズム解明に取り組み、国内外の学会で双生児の心理行動解析などの研究発表を行っている。

「ことあるごとに会話がシンクロする」「クセが同じ」「お互いに考えていることがわかる」……など、双子にまつわる不思議なエピソードを聞いたことはありませんか。そして「単なる偶然」として受け止めていませんか。正直に言うと、筆者はそうでした。しかし大阪青山大学の松田葉子先生は、こうした双子の不思議な現象を、調査データをもとに研究しているといいます。ご自身も双子だという松田先生。さっそくお話を伺うことにしました。

「双子の同時イベント発生現象」の謎

そもそも、先生が双子を研究しようと思ったのはなぜなのでしょうか。

 

「私自身も双子で、姉と話すときは、ほかの人と話すときとは違う脳の部分を使っているような感覚がありました。以心伝心というべきなのか、相手が何を思っているかがなんとなくわかるから、考えなくても言葉が出てくるんですよ。また、離れていても同じようなことが同時に起こる現象も頻繁に体験していました。学生時代まではそれが特別なことだとは思っていませんでしたが、意識していなかっただけかもしれません」

 

大学卒業後、助産師としての勤務を経て双子の研究をはじめた松田先生。双子の間で同時に同じようなことが起きる現象を実証しようと考えます。

 

「双子は単胎出生児(一度の出産で一人のみ生まれてくる赤ちゃん)に比べるときょうだい間の親密度が高く、特殊な現象が起きやすいと考えられています。たとえば、同じタイミングで体調を崩したり同じ部位に痛みを感じたり……。これは世界中で確認されている現象なのですが、それを十分に体系化した研究はほとんど行われてきませんでした。そこで、双子の間で同時に起きる不思議な現象を『双生児間の同時イベント発生現象』と題して、研究してみようと思ったのです」

 

そう話す松田先生は、2023年9月から2024年9月にかけて『「双生児間の同時イベント発生現象」に興味がある方』という文面で双子の協力者を募り、男性5名、女性4名の合計9名にアンケートをとることに。その結果、協力者全員が「同時イベント発生現象」を体験していました。「自分自身にも身に覚えがあった方々が興味を持って下さったと思います」と松田先生。

調査には、幅広い年齢層の方々が参加。「独自言葉」は、双子の間だけで通じる言葉や表現(後述)

 

双子の親密さについても調べたところ、全員が幼少期に仲が良かったと回答。「1歳8カ月の頃、双子の妹が熱性けいれんを起こした数分後に姉もけいれんを起こした」「8歳の時に弟が公園で転び、3針縫った。別の場所にいた自分(兄)も、そこまでの衝撃ではないが、同じところを怪我したかのように同時に痛みを感じた」などの体験が寄せられています。

おお、まさに「これぞ双子!」と感じさせるエピソードですね。でも、やっぱり「偶然」なのではと思ってしまうのですが……という筆者に対し、松田先生は「実は、双子研究の権威といわれるカリフォルニア州立大学のナンシー・L・シーガル博士の研究でも、同じような結果が報告されているんですよ」と、教えてくれました。

 

ナンシー博士の研究によると、生後6ヶ月で離れ離れになり、一人はカトリック教徒として、もう一人はユダヤ教徒として育てられた双子は、異なる環境で育ったにもかかわらず同じようなクセや習慣があったのだといいます。

 

「ほかにも、離れて育った双子同士の再会場面を一卵性と二卵性で比較した研究では、一卵性のほうが再会時のコミュニケーションがスムーズだったという研究報告もあります。私の調査でも、同時イベントを体験した9名中7名は一卵性でした。同じ遺伝子を持つ一卵性は特に不思議な現象が起きやすいのではないかと思うんです」

 

一卵性の双子が同じ趣味をもっていたとかクセが似ていたというのは、偶然ではなく遺伝学で説明できる部分もありそうですが、松田先生が研究をしている「同時に痛みを感じる」といった“同時イベント”は、遺伝学だけでは語れない何かがありそう。偶然じゃないとしたら、一体、二人の間には何が起きているんでしょうか。

 

「その謎を解き明かすには、調査対象をもっと集めていかなければと考えています。たとえば、幼少期からそこまで仲が良くなかった双子ばかりを集めたら結果は違うのか、など。同時イベント発生現象の定義も、もっと明確にしていきたいですね。まだまだ知りたいことはたくさんあります」

 

うーん、謎は深まるばかり。

双子だけの言語「ツイントーク」とは?

もともと看護師を志し、大学の看護学科を卒業後、助産師として不妊治療に力を入れている病院で働き始めた松田先生。不妊治療を行うと双子を授かる確率は自然妊娠よりも高まるため、病院では双子を産み育てる親のサポートチームが組まれていました。自身も双子ということからチームメンバーに加わった松田先生は、多くの多胎児家族に接したり、双子に関する資料を読んだりしているうちに、かつての体験は双子特有のものだったのかもしれないと思うように。

そんなときに、双子の研究を専門に行っている先生が大阪大学にいらっしゃる事を知り、「きちんと研究してみたい」と、大阪大学大学院への進学を決めたのだといいます。

 

そこで松田先生が出会ったのが『ツイントーク』という双子独自の言語でした。ツイントークとは、双子の間だけで通じる言葉や表現のこと。周囲にはまったく伝わらないのに双子同士だけが理解できるのが特徴で、世界各地でツイントークを操る双子の例が報告されています。

 

「この独自言語には大きく分けて3パターンあるといわれているんです。1つめはコップを指して「はな」と言うなど、既存の単語に別の意味をもつ言葉をあてはめる、暗号のようなもの。2つめは、単語の音を省略したり言いやすい言葉に置き換えたりなど、既存の言葉を崩すパターン。双子は互いの言葉を真似し合う傾向が強いので、一方が崩した音をもう一方が真似ることで通常とは異なる言語で会話をするといわれています。

そして、最後が、いわゆる“宇宙語”です。周囲はまったく理解できない、何の意味も持たないような言葉なのに会話が成立している双子って、結構多いんですよ。ただ、3歳前後で消失してしまうので宇宙語が聞ける期間は限られています」

 

宇宙語といわれるだけあり、これもまた言語化しにくいと松田先生。ただ、世界的に有名なツイントークとして、両親の英語と祖母のドイツ語を融合させ、スタッカートの強いリズムで独自の造語や特殊な文法で会話をしていた双子の事例があるそうです。

 

「ツイントークはあくまで私が師事した先生の研究テーマのひとつだったため、独自のテーマを追究しようとたどり着いたのが、現在取り組んでいる双子の同時イベント発生現象です。でも、先ほど紹介した調査で、同時イベントを体験した方の約半数が、過去に独自の言語を使っていた傾向が見られたんですよ。何か関連があるのかもしれないので、これも深掘りしたいですね。ツイントークは音声データ解析によってある程度数値化できるので、そうしたデータをもとになんらかの糸口が見えないかと思っています」

 

もしかしたら、二人だけの共通言語から生まれる親密度の高さが、同時イベントにもつながっているのでしょうか。ますます謎は深まります……!

一筋縄ではいかない双子研究

双子の間には言葉にしづらい不思議な絆があることは、これまでの話でよくわかりました。双子ではない筆者が、その感覚を味わうことはきっと無理……。でも、だからこそ、なんでそんなことが起きるのか理由を知りたい気持ちが増す一方です。

 

「実は、研究者たちの間でも、双子の不思議な現象を解明することは難しいとずっと言われているんです。それでも、きっと偶然では片付けられない何かがあるはずだと、世界中の研究者たちが今日まであらゆる視点から研究を続けています」

 

ツインリサーチセンターを擁する大阪大学に加え、慶応義塾大学にはふたご行動発達研究センターがあるなど、国内外問わず、双子研究に取り組む研究者は多いそう。数々の研究で双子の間に起こる不思議な現象を事実として確認できているのに、長い年月をかけてもその理由の解明にはなかなかたどり着けないとは。双子の謎、恐るべし。しかし、だからといって「解明できない」とは絶対に言わないのが松田先生です。今後は、物理学など視野を広げて研究することも可能性として考えているそう。

 

「かつて、ラジオの電波が『目に見えない音を飛ばすなんてありえない』と思われていた時代がありましたよね。いま私たちが不思議だと感じているこの現象も、もしかしたら理解できる日が訪れるかもしれません。言葉を超えた双子のコミュニケーションの謎が解明できたら、もしかしたら双子に限らず人と人の関わりの研究にも役立てられるのではないかと思うんです」

 

そんな松田先生は、ご自身の母親が育児によって産褥精神病になった経験を持っています。「双子の親は育児が本当に大変で、うつになる人も多いんです。双子研究が、親の負担を軽くすることにつながればという思いもあります」。

「癒やしアイテムは欠かせない」と話す先生の研究室には、ぬいぐるみが!

 

偶然かもしれないけど、偶然じゃないかもしれない――小さな疑問を起点に研究によって解き明かされてきた現象は、世の中にたくさんあります。今は謎に満ちた松田先生の双子研究が、今後どのように発展していくのか。不思議な現象に答えが出るその日を、楽しみにしています!

 

「謎が多すぎて研究をやめようと思ったこともあったのですが、私自身も双子だから、この運命からは逃れられないようです(笑)」

 

 

編集者:柳智子/ライター:児嶋美彩

 

公開講座のお知らせ

大阪青山大学 令和7年度後期公開講座「双生児間で生じる不思議な現象について」

日時 令和 8 年 3 月 6 日(金)10:30 ~ 12:00
講師 松田 葉子 大阪青山大学 看護学部 看護学科 教授
受講料 無料
場所 大阪青山大学 箕面キャンパス
定員 30 名
https://www.osaka-aoyama.ac.jp/community/course_lecture/kokaikoza/

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