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  • date:2024.1.18
  • author:ほんま あき

「妖精って何?」佐賀大学・木原先生に聞く、妖精が教えてくれること。

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今回お話を伺った研究者

木原 誠 

佐賀大学 教育学部 教授

文学博士。専門分野は英米・英語圏文学、ジェンダー、社会学、デザイン学などで、現在進めている研究テーマはアイルランド文化・文学。妖精についてはライフワークとして探求を続けている。著書に『イェイツ・コードー詩魂の源流/面影の技法(ファンタスマゴリア) 2019年01月』(‎小鳥遊書房)、『煉獄のアイルランド-免疫の詩学/記憶と兆候の地点』(彩流社)など。『イェイツと夢-死のパラドックス』(彩流社)で第一回日本キリスト教文学賞[研究・評論部門]受賞。

ファンタジー小説や映画ですっかりおなじみになっている妖精。何となく知った気になっているものの、改めて考えると妖精って何?妖怪との違いは?などと疑問が湧いてくる。そこで、妖精学を研究している佐賀大学の木原先生にお話を聞いてみることにした。実際に妖精に出会った経験をお持ちなので、おもしろいお話が聞けるに違いない。

 

妖精とは何か。鬼太郎は妖精で、一反木綿は妖怪?

“妖精”と聞けば、小さくて羽が生えていて…と、ティンカー・ベルのような姿を思い浮かべる人が多いだろう。実際のところ、妖精の定義はあるのだろうか。木原先生は「あくまでも持論ですが」と断りをいれつつ、妖精の定義を話してくれた。

 

木原先生によると、妖精、妖怪、幽霊の違いを考えるとわかりやすいという。幽霊は、憑依することはあるかもしれないが、手を繋いだり一緒に過ごしたりはできないことから、実体として存在していないといえる。それに対して妖精や妖怪については、相撲を取ったり一緒に遊んだりといった話が数多く残っている。現実の世界にいて、触れることができる存在と区別ができる。では、妖精と妖怪の違いは何か?

 

「私は、恋愛対象になるかどうかの違いだと、学生に説明しています」と木原先生。
「妖怪を恋人にしたいかと問われるとNOでも、妖精だったらYESと答える人が多いでしょう。人魚姫を例にするとわかりやすいのですが、妖精ならお互いに恋をしたり、片思いしたりできる。でも、『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる一反木綿や、顔が魚で体が人間の魚人に恋できるでしょうか。つまり、顔をはじめ人間により近いのが妖精ということになります」

 

木原先生は、妖精と妖怪の違いはドキドキ感や人間としての感情を持てるかどうかだと語る。確かに、ペットなら楽しいかもしれないが、一反木綿や魚人が自分の恋人になるのは想像しにくい。ただ、この定義には異論も多く、『ゲゲゲの鬼太郎』の作者である水木しげる氏は妖精と妖怪に差はないという考えだったのだとか。先生の説では、一反木綿や塗り壁は妖怪で、鬼太郎や猫娘は妖精。さらに、砂かけ婆や子泣きじじいも妖精ということになるが・・・。以前、学生から「子泣きじじいも恋愛対象になるのか?」と質問された際には、「若いから疑問に思うだけで、高齢になったら素敵! と思う可能性もある」と返したそうだ。

 

シンデレラの靴が履けないのは彼女が妖精だから

皆さんは、グリム童話『靴屋のこびと』を覚えているだろうか。夜中の間にこびとが靴づくりを手伝ってくれるという心温まる話だ。このこびとは、アイルランドの妖精レプラコーンだといわれている。手伝ってくれるのはありがたいが、レプラコーンは片方の靴しかつくらないという。なぜ片方だけなのか?


「それはシンデレラ仕様だからだと、考えられています。皆さん誤解していますが、実はシンデレラも妖精なんです」と木原先生。妖精は、半身は地上(この世)に、もう半身は天(あの世)にいる存在なのだという。片足だけガラスの靴を履いているシンデレラも、片足は地上、もう一方の足は天と、二つの次元を生きているといえる。誰もシンデレラのガラスの靴を履けなかったのは、妖精の靴だったからなのだ。

 

妖精の本場アイルランドやスコットランドはもちろん、世界各国に妖精にまつわる話が童話や民話として残っている。先生によると、日本の『鶴の恩返し』のツルも、妖精がツルに化けたもの。「ツルは片足だけ地面に足をつけていることが多い。となると、シンデレラの理屈と同じで、妖精ということになります」。

 

先生の話で、妖精の存在がどんどんリアルになってくる。そんな妖精たちは人間と触れあい、さらに結婚したり、子どもを生んだりといった話も残る。「火のないところに煙は立たないというように、実際に人間が妖精に遭遇したのではないか。妖精にまつわる話は、フィクションであると同時に事実でもあったのだろうと思っています」と木原先生。何らかの事実を元に、フィクションとして広がったというのが木原先生の考えだ。

 

アイルランドで出会った妖精がライフワークに

なぜ先生は、妖精は“存在する”と肯定できるのだろう。先生と妖精との出会いについても聞いてみた。19歳のときのイギリス旅行で、アイルランドのダブリンに足を伸ばした先生は、現地の人に「もうダブリンではあまり見かけないが、もっと西に行けば妖精に出会えるよ」と薦められたそうだ。まだ妖精という存在を信じていなかったものの、とりあえずさらに西にあるスライゴへと向かった先生。


スライゴはダブリンの北西に位置する海辺の街

 

スライゴに到着したものの宿もなく困っていたところ、そこで出会ったおじいさんの家に泊めてもらうことになった。その家に、空の鳥かごがあったので不思議に思って聞いたら…。「妖精の家だと真顔で言うんです」と木原先生。「うちは貧乏なのに妖精がぜいたくばかりするので、おばあさんが叱ったところ、妖精が出て行ってしまった、と」。アイルランドでは妖精が身近な存在なのだろうが、それにしてもごく当たり前に、妖精を話題にするのに驚く。日本でも、座敷童に会えるかも知れない宿が紹介されたりするが、そのような感覚なのだろうか。

 

おじいさんから「妖精はイニスフリー島にいる」と聞いた先生は、さっそく島へ向かう。イニスフリー島はギル湖の中にある島で、先生が訪ねたとき、まさに妖精が白鳥の背中に乗るところに出会ったという。「大きさは30cmから50cmくらい。フワッと輝いていました。何か共鳴するものがあって、恐ろしいとは思いませんでしたね。たとえるなら、きれいな女性に出会ったときのようなトキメキ、ワクワク感がありました」

白鳥に乗って移動する妖精がいるとは、想像するだけで神秘的だ(写真はイメージ)

白鳥に乗って移動する妖精がいるとは、想像するだけで神秘的だ(写真はイメージ)


意図したわけでもなく、偶然に偶然が重なってのことだった。この出会いから木原先生は「妖精は一生探し続ける価値がある」と考える。当時は妖精を学問として研究している人がいない中、探検家や冒険家のように、ライフワークとして研究しようと決めたそうだ。

 

最近の日本でも妖精の存在が信じられ、いろいろな目撃談がある。木原先生も、沖縄の大宜味村で妖精が建てた家に暮らしていた人を取材したと話す。また、ドラマ『北の国から』の作者として知られる倉本聰氏は、著書『ニングル』の中で「富良野の森にニングルはいたのだ」と記しているという。なお、ニングルとは北海道の森に住む小さな妖精のこと。

 

日本にも妖精がいるのなら、どうすれば出会えるのだろうか。尋ねてみると「妖精を探すときに注目するのは際(キワ)です」と木原先生は教えてくれた。あの世とこの世の狭間、キワに立つものが妖精だ。夕暮れか夜明け、つまり朝と夜のキワだったり、何らかの狭間で妖精に出会えるという。そういえば、先ほどから登場するシンデレラも、12時という今日と明日のキワで魔法が溶けてしまう。

 

興味深い話も伺った。童謡『かごめかごめ』に「夜明けの晩に鶴と亀がすべった」という歌詞があるが、この一文だけでも3つのキワが含まれている。夜明けという朝と夜のキワ、天と地のキワに存在する鶴、そしてカメは水と陸のキワを象徴する。どこか不穏な雰囲気のある『かごめかごめ』には、もしかすると妖精や異界につながるメッセージが込められているのかもしれない。

 

妖精という異質な存在を考えることで想像力が育まれる

ところで、妖精という存在は人間にとってどのような意味があるのだろう。「信じる人も信じない人もいるだろうが、妖精は人間界と異界をつなぐもの。異界の気配みたいなものを絶えず醸し出してくれている。妖精や異界について考えようとすることで人間の想像力が育まれていくのではないでしょうか」と木原先生。

 

どの国でも「昔は妖精がいたんだけど…」という声を聞いたそうだが、今、妖精を見ることができないのは、私たち人間の想像力が衰えてきているからかもしれない。アイルランドでは、もともと妖精は巨人だったが、人間が敬わなくなったため、どんどん小さくなっていったという説もあるという。大人になるほど、また現代になるほど、豊かな想像力が失われていくということか。見えないものに心を寄せる、そんな余裕があっても楽しいだろうと思う。

 

ちなみに、19歳で初めて妖精に出会った木原先生は、その後、スコットランドなどで2回、妖精と出会ったそうだ。だが、本気で研究を始めると出会わなくなったという。「でも、いいんです。片思いが好きだから(笑)」と木原先生。「妖精学ほど探求していてワクワクするものはありません。死ぬ間際でも考えているだろうし、きっと死んでからも研究していると思います」と、妖精への熱い思いを語ってくれた。


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