ちょっと前の日本やアジアの暮らしが思い浮かび、人間は何千年もの昔からこんな美しいものをつくってきたのかと感動する博物館。子どもも大人も楽しいはずです。
巡って世界の文化に触れる。
天理大学附属天理参考館は、1930年にその前身が設立された。
天理教を世界に布教しようという人々に各国の生活習慣や文化、歴史を知ってもらおうという意図のもと資料収集が始まり、天理大学の前身である天理外国語学校に収蔵された。
天理大学附属となり常設展示を始めてからでもすでに66年という、歴史の古い大学博物館なのだ。2001年に新しい建物に移転して、現在の形になった。
常設展示は、1階と2階が「世界の生活文化」、3階が「世界の考古美術」とテーマ別になっている。
1階の展示は、日本のアイヌに始まって、朝鮮半島、中国・台湾、ボルネオ、バリ、インドなどアジアからパプアニューギニア、メキシコ、グアテマラと、日本に近いところから順に見ていくことができるようなしくみになっている。
世界の生活文化では、近過去というか各地で近代化が進行していく以前の暮らしを垣間見ることができる。
手仕事で作られた生活道具、家の中にしつらえられた祭壇や祈りの道具、村を守る守り神。見たことはないはずなのになぜか懐かしい気がする展示物が次々に現れて、日本はアジアの国だと改めて実感してしまう。
その道具が、暮らしの中でどのように使われていたのかがわかる再現展示が多いのが楽しい。
台湾のコーナー 家の中にしつらえられた祭壇の再現
北京の商店看板を集めたコーナーでは、ろうそく屋、眼薬屋など珍しい看板が。20世紀前半のものだが、すでに現地では失われて保存もされていないため、貴重なコレクションになっているという。
看板コレクション。取り扱う商品をそのまま看板にしてしまう発想が面白い
2階にはブラジル移民の開墾当時の住居が再現されていたり、日本各地の民具やおもちゃが並ぶ。さとうきび絞り器など大物の展示もある。
なかでも、「暮らしの中の交通」コーナーには、1872年の日本の鉄道開業当時の1等切符、明治・大正時代の関西私鉄切符などもあり、鉄道ファンにも喜ばれているという。
文句なく美しい展示物。
3階の考古美術の展示では、日本、朝鮮半島、中国、オリエント、さらに博物館の所在地周辺にあった天理市で最大の遺跡、布留遺跡の出土品が集められている。
重要文化財である古墳時代後期の武人埴輪、重要美術品である古墳時代の鏡や副葬品などに加え、土器、鉄器、青銅器、陶器、ガラス製品はもちろん古代瓦や石棺・石造物までバラエティに富んだ展示。
アジアからオリエントという地域の幅広さ、古代文明から中世あたりと時代的な広がりもある。
専門知識はなくても文句なく美しい。ただじっと眺めていたくなるような展示品にたくさん出会う。
個人的には、中国の唐三彩やペルシアの銀器、地中海のガラス器などが心に残っているが、何度か行けばまた新しい魅力ある展示物が見つかりそう。
博物館らしい静かな雰囲気に包まれて、美しいものに触れる贅沢な時間が過ごせる場所だ。
博物館なんて子どもの頃に学校から見学に行ったくらい、という人にこそ訪れていただきたいのが天理参考館。
学芸員が収蔵品を解説する「トーク・サンコーカン(公開講座会)」や、これまでに民族楽器演奏や土器づくりなど珍しい企画を実施しているワークショップなど、さまざまなイベントもあるので、ぜひホームページで情報収集を。