京都大学総合博物館は、キャンパスの中を通らなくても入館できるという意味で、一般社会に一番近い大学博物館。しかも、大学博物館の中で日本最大級の広さと日本一古い歴史を持ち、居心地も抜群だ。
約260万点の資料を収蔵
京都大学総合博物館の前身は「京都帝国大学文学部陳列館」といい、1914年に開館した日本で一番古い大学博物館である。
道路に面しており、気軽に入ることができる
研究のために集めた標本や史料を管理し、いつでも参考にできるよう陳列する研究・教育のための施設であると同時に、当初から一般にも公開される“開かれた”大学施設だった。
その伝統は1980年代の建て替え時にも受け継がれ、大学キャンパスを経由しなくても直接外部から入ることのできる門が完成。2000年にはさらに新しい建物が完成して、日本最大級の大学博物館となった。
収蔵資料は現在、約260万点。日本最大の博物館である東京国立博物館の収蔵点数が11万6千点ぐらいだというから、施設の性質が違うのに単純に比較しても仕方がないかもしれないが、まあ驚くべき数字だ。
知への冒険心が高まる展示室
土器コーナーもスケールが大きい
約260万点の内訳は、日本史、考古などの文化史系が約50万点、鉱物や化石、生物などの標本を中心とした自然史系が約210万点で、自然史系は現在も増殖中だという。収蔵品には、国宝・重要文化財や生物の学名の基礎となるタイプ標本など重要な標本が数多く含まれている。
ナウマンゾウとアジアゾウのアゴの骨の化石。「ナウマンゾウ」の命名者は京大の槇山次郎博士だ
知のフィールドを体験
膨大な収蔵品の一部は常設展で見ることができ、展示は自然史、技術史、文化史と大きく3つのゾーンに分かれている。
特長としては、まず、体験的に楽しめる展示があること。代表的なのは、ボルネオ島にある熱帯雨林の森の生態系を総合的・長期的にモニタリングする、京大とマレーシアの共同研究をジオラマで再現した「ランビルの森」。
ランビルの森を再現。上階からも見下ろすことができる
現地では、木の上や木の間でも資料採集や観察ができるよう、40mの高さに300mに渡ってキャノピーウェイという研究用吊り橋が設置されたのだが、館内では縮小サイズの模擬キャノピーウェイを間近で見ることができる。このコーナーでは、熱帯雨林の音が再現されているのもいい。
そのほか、京大の十八番ともいうべき霊長類研究のコーナーでは、天才チンパンジー・アイの知能を測定したテストを体験できるので、ぜひお試しを。
やってみると意外と難しい
また、文化史系ゾーンの考古学展示室には巨大石棺が並ぶコーナーも必見。重要文化財にも指定されている5世紀の大きな石棺の実物が至近距離で眺められる。レプリカじゃないのだ。
5世紀の長持形と呼ばれる石棺。重要文化財に指定されている実物
また、3つのゾーンの中では最も小規模な技術史ゾーンも見逃せない。ここには、旧制第三高等学校や京都帝国大学時代に教材として使われていた、機械のメカニズム模型が展示されている。
メカ萌えの方でなくても、魅力的な機械たちが並んでいる。そばによってじっくり見ないと全体像がわからない、チラ見せ展示ケースに入っているところもいいのかもしれない。
静電誘導を利用して高電圧を発生させるウイムズハースト静電高圧発生装置。
小さな装置がたくさん。実際に動かすことでメカニズムを学べるのが楽しい
技術史ゾーンもそうだが、展示全体からは「研究・教育機関としての歴史」感が漂ってくるのもこの博物館の特色かもしれない。考古学は京大の研究室から始まったとか、学問でなかったところから築き上げた霊長類研究とか、展示パネルを読みながら学問が生まれる瞬間に立ち会った気に少しなってくる。
科学の世界へウェルカム
常設展のほかユニークな企画展や特別展が行われているので、ホームページなどで情報を集めてから出かけてほしい。一般向けのイベントも積極的に行われているが、とくに、子どもたちや高校生向けに知への興味を高めてくれるようなイベントが多い。
なかでも大人気企画になっているのは、「子ども博物館」。大学院生が自分の研究を子どもや一般向けにわかりやすく解説し、化石や標本を触ったり、科学手品やゲーム、クイズなど楽しく体験しながら科学の面白さを感じることができるというものだ。
考古学、地理学、理学、宇宙科学など多彩な学問にふれられる
2016年度からは研究者によるレクチャーの新シリーズとして、京大の研究者を呼んで、研究者ではあってもその分野では門外漢である博物館館長が研究の面白さや可能性を聞き出すという企画もスタートしている。
館内のミューズ・ラボというかっこいい円形スペースで話を聞く某局の「白熱教室」みたいな雰囲気だが、中高生でも十分楽しめるとか。今年度5回の開講で、まだ残りの回もあるので参加してみてはいかがだろう。
ミューズ・ラボで熱い研究トークを聞いてみよう