先日アップされた記事「京都のこだわり店を学生目線で紹介する『こだわり市場』@京都橘大学」で紹介された、ウエブサイト「こだわり市場」。このサイトは記事にもある通り、京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科で観光学を学ぶ、谷口知司教授のゼミ生たちが制作した、京都のガイドブック「こだわり市場」のウエブ版にあたる。
「こだわり市場」ウエブ版サイトトップ
元となるガイドブックの制作にあたっては、掲載店を探すところから、取材、撮影といった記事づくり、さらには完成後の広報まで、一貫して全て学生自身が行うスタイル。2013年発行の第1号は30店舗、2015年発行の第2号は20店舗、2016年発行の第3号は33店舗が掲載された。そして今年の春に発行された第4号は、過去3冊で紹介した店舗を再取材する形で、計67店舗が掲載されている。
これまでの集大成とも言える一冊を作り上げた学生たちに、制作の苦労やこだわった点などを是非聞いてみたい! というわけで、谷口ゼミを訪ねた。
独自の視点で街の隠れた魅力を発掘し、自分たちの手で発信
京都橘大学現代ビジネス学部谷口知司教授
そもそも本プロジェクトは、9年前に谷口教授が本大学に就任し、自身が担当することになったゼミの1期生と共に、2009年から始めたもの。
「京都の街中を自分たちで歩きながら、一般的なガイドブックには掲載されていないような観光資源を探してみよう! というのが、私から学生たちへ投げかけたお題でした」と谷口教授。
一見楽しそう! と思ってしまうが、舞台は日本が世界に誇る観光地・京都。ある意味、誰もが知りつくした観光地で、まだ誰も知らない観光資源を探すというのは、かなりハードルが高いようにも思う。
「学生たちにはまず、探す際の基準を決めてもらいました。その話し合いの中で出てきたキーワードが“こだわり”。こだわりを持った商品をつくったり扱っていたり、何かしらこだわりが見られる店を探そうということになったんです。基本的に私は見守るのみで、学生たちは自分たちの足で街を歩き、それぞれ隠れたこだわりの名店を見つけてきました」
当初は、現在とは違う形式のサイトを制作し、情報を発信していたそう。そこから徐々に内容や進め方などをブラッシュアップし、冊子制作へと発展していったのだ。
先輩から後輩へと、代々受け継がれ、磨かれるノウハウ
「ゼミには2回生から4回生まで、各学年十数名ずつが所属していますが、毎年ガイドブック制作のメインとなるのは、その年の3回生。今年の春に発行された第4号は、私を含めた15名で担当しました」と言うのは、現4回生の北脇壮馬さん。彼がリーダーとなり、約1年かけて制作したのだ。
京都橘大学現代ビジネス学部北脇壮馬さん
「2回生の時から少しずつ3回生の先輩を手伝う形で、色々とノウハウを伝授してもらいました。店探しの基準や方法は、実際に先輩と一緒に街を歩きながら教えてもらって。職人さんが伝統を守っていたり、唯一無二の技法でものづくりを行っていたりする店はもちろんですが、世間一般の認知度は低くても地域密着型で近隣の人に愛されている店や、長く続いている歴史のある店にも注目。愛される理由、長く続く理由の中に、きっとその店ならではのこだわりがあるはずなので、そこを掘り下げるんです。エリアごとに分担して、とにかく一軒一軒、隅々まで歩いて探しました。実際に見て、話を聞いて、これだ! という店が見つかったら、今度は根気強く掲載協力のお願いをして。全ての店が快く受けてくださるわけでもないですし、理解いただけるまで何度も足を運んだ店も少なくありません」
こうして3回生のサポート役として第3号の制作に携わった面々は、満を持して第4号の制作に取り掛かったのだ。
前号を糧に、最新号こそ最高の出来に
「私たちの代は、これまで先輩方がつくってきた過去3号分のリニューアルを行うことになったので、新たに店を探すことはなかったのですが……。それでも、全ての店に再度掲載許可の確認を行い、了承いただいた店には改めて出向き、再度取材・撮影を行いました。店へのアポイントの取り方、企画書の作り方や電話応対など、先輩に教わった通りにやってはみるのですが、最初は緊張もあって、慣れるまでは大変でしたね」と北脇さん。
ただ過去の記事を流用するのではなく、全て新たな情報に入れ替えるのは、なかなか骨の折れる作業である。
「他にも、第3号から改善すべき点をみんなで話し合いました。例えば、外国人観光客の増加を受けて、第3号は英語の説明文と、所々にアルファベットの読み仮名表記を追加したんです。でも、店名や住所、電話番号などのデータ部分は日本語表記のみ。これでは不親切ではという話になり、第4号ではデータ部分にも英語表記を加えました。あとは、表紙にこの冊子が何なのか一目で分かるよう“京都の大学生が選ぶおすすめ店67選”というキャッチコピーを付け加えたのもポイントです」
2016年版こだわり市場(写真右)と最新のこだわり市場(写真左)
目次と記事部分。適宜英語表記を追加し、わかりやすくしている
現状に満足せず、さらに良いものをつくりたい! という熱い思いと、なかなか的確な改善点に感心しきり。しかも、第3号までは外部のデザイナーに委託していたデザイン作業を、第4号では学生たち自らが行ったそうで、デザインソフトの使い方も一から勉強したという。編集者、ライター、カメラマン、デザイナー、校正……全ての役割を学生たちでこなしたというのには、ただただ驚かされる。
さらに高みを目指して、谷口ゼミの挑戦は続く
完成したガイドブックは、掲載店舗はもちろん、ホテルや旅館などの宿泊施設、総合観光案内所、駅などに設置されている。ちなみに、こうした設置場所への交渉も学生たち自ら行っているそうだ。今後は水族館や動物園などのレジャー施設にも設置を拡大していきたいと、今も広報活動を続けている。
「掲載店舗の方から、配布3日目で冊子がなくなったと補充の依頼をいただいたり、今度はクーポンを付けたいというような提案をいただいたり、反響が大きく驚いています。多くの観光客の方々にこの冊子を見ていただき、隠れた名店を知っていただくことで、京都の観光振興に一役買えると嬉しいです」と北脇さん。
今年もすでに、彼らの後輩である新3回生が動き始めている。谷口ゼミで代々引き継がれる「こだわり市場」が今後どう発展していくのか。第5号を楽しみに待ちたい。