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AIが導き出す曖昧なファッション表現への回答。ファッションインテリジェンスシステムの仕組みを早稲田大学の後藤正幸教授と清水良太郎さんに聞いてみた。

2023年6月22日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

ファッションの分野では、「カジュアル」「かわいい」「フォーマル」など、さまざまな表現が用いられ、ユーザーは、これらのキーワードを参考に自分に合った服を購入する。しかし、趣味嗜好に大きく左右されるそれらの表現は曖昧性を多分に含んでおり、例えばカジュアルさの度合いや「少しフォーマルに寄せるとどうなるか」などの判断は、個人の感覚に基づいて行われることが定石とされてきた。

 

実際、雑誌やテレビなどのメディアでよく使用される「◯◯系のフォーマル」「カジュアル寄りの◯◯」などの表現は、もともとファッションへの関心が低い人にとっては大きな壁となり、さらにファッションを敬遠する要因にもなりかねない。衣服という日常的に使用するものだけに、手軽にアドバイスしてくれるサービスなりメディアがあれば、例えば「(オフィスカジュアルって言われても)何を着ればよいのか分からない」といったフラストレーションを軽減できるのではないだろうか。

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こうしたファッションの曖昧な表現を機械学習させ、コーディネートのアドバイスや解説を行うAI「Fashion Intelligence System(ファッションインテリジェンスシステム)」(以下、FIS)を研究開発したのが、早稲田大学理工学術院の大学院生で、ZOZO研究所のメンバーでもある清水良太郎さんが所属する研究グループだ。

 

清水さんが所属するのは、機械学習の分野で日本でもトップクラスの研究実績を持つ早稲田大学理工学術院の後藤正幸教授の研究室。後藤教授のバックアップのもと、ZOZO研究所のメンバーとともに開発したシステムについて、後藤教授と清水さんに詳しく話をお聞きした。

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後藤教授(左)と清水さん(右)(本研究成果について発表した『2023年度 人工知能学会全国大会』にて)

 

後藤正幸/早稲田大学理工学術院創造理工学部経営システム工学科教授

専門は、データサイエンス、ビジネスアナリティクス、機械学習、情報統計、情報数理応用。情報数理やデータサイエンスの基礎研究に取り組みつつ、経営工学分野、経営情報分析の広いテーマに取り組む。先進的データ分析モデルを駆使したビジネスアナリティクスを中心に、主にビジネスドメインにおける先進的なAIや機械学習の活用と分析技術の改良を通じて、データサイエンスの高度化に向けた研究に取り組んでいる。

 

清水良太郎/ZOZO研究所にリサーチサイエンティストとして所属、および早稲田大学理工学術院博士課程に社会人ドクターとして在籍中

2019年、早稲田大学大学院創造理工学研究科経営システム工学専攻を修了。株式会社ディー・エヌ・エーでソフトウェアエンジニアとして勤務した後、2021年1月にZOZO研究所に入所。リサーチサイエンティストを務める。2021年4月より早稲田大学大学院 創造理工学研究科 経営システム工学専攻 後藤研究室に在籍し、社会人ドクターとして「機械学習に基づく消費インテリジェンスの獲得とビジネス応用に関する研究」をテーマに研究に取り組んでいる。


ファッションへの苦手意識を克服するために生み出した新たなAI領域

 AIがファッション特有の曖昧な表現を自動で解釈するFISの画期的なシステムは、どのようにして生み出されたのか。研究・開発が始まったきっかけは、意外にも清水さんのファッションに対する苦手意識に起因しているという。

 

「私は昔から服装に無頓着で、これまでの人生、服がダサいと言われ続けてきました。おかげで大学に入ってからは、すっかりファッションを敬遠していました。

しかし、そもそも自分はなぜ、ファッションに苦手意識を持っていたのかということを振り返ると、『オフィスカジュアル』『きれいめカジュアル』『大人カジュアル』など、ファッションを表現するための言葉には曖昧なものが多く、それらが一般的に使われていることに対して気味悪さを感じているという結論に達しました。

それならば、このもやもやした気持ちを自分の研究分野であるAIで解決できないかと思ったのが、研究を始めることになった大きなきっかけです。」

清水さん

清水さん

 

FISの開発研究は2020年に開始されたが、早稲田大学理工学術院とZOZOはさらに時期を遡り、2017年から共同研究を開始している。その背景には、両者が技術の社会還元という目的を共有していたことがある。

「近年、ファッション系のECサイトでもユーザーの閲覧や購買履歴などの情報を元に適切な商品を提案するシステムなど、さまざまな場面でAIを利用した機械学習が導入されています。

ZOZO研究所でも研究成果を実装に結びつけて社会に還元することを最終的なゴールの一つとしており、よりビジネスへの応用を進めたいという目的が、機械学習の実績を持つ大学の研究室と一致していました」

 

とはいえ、今回の研究テーマに至るまでには紆余曲折があった。研究テーマの設定では、既に世の中にある研究にひっぱられがち。どうすれば、これまでにないコンセプトのものにできるか悩んでいたところ、研究室の後藤教授からのアドバイスで、ZOZOグループのファッションに関する膨大なデータを使うことで清水さん自身のファッションに対する悩み・疑問を解決するという研究のビジョンを明確にすることができたという。

AI研究領域のトップランナーが技術を結集。曖昧な表現も理解可能に

FISの研究開発にあたり、データの集積源として使用したのが、ZOZOが提供するファッションコーディネートアプリ「WEAR」だ。

ユーザーがコーディネートの画像に説明文やタグを付与して投稿するアプリで、ここで蓄積されたデータをもとにAIの学習とシステム構築が行われた。

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ファッションコーディネートアプリ「WEAR」のサービス紹介ページよりキャプチャ

ファッションコーディネートアプリ「WEAR」画面(例)

ファッションコーディネートアプリ「WEAR」画面(例)

 

清水さんは「ファッションの分野でAIを利用してシステムを作る場合、ファッションに対する感性が洗練されている方が完成度が高くなると考え、学習させるデータは“量より質”を念頭にデータ選定・抽出にあたりました。

今回はWEARを使用することにより、約2万件もの信頼性の高い投稿データを集めることができ、その結果『このファッションを少しフォーマルにするとどうなるか?』『このファッションは、どれぐらいカジュアルか?』『このファッションのどのあたりが大人カジュアルか?』といった質問に対し、具体的な答えをAIで示せるようになりました」

FISの提案システム(イメージ)。トライ&エラーを繰り返して精度を高めていった。

FISの提案システム(イメージ)。トライ&エラーを繰り返して精度を高めていった。

 

コーディネートへの質問に対し、的確な回答を提示するFIS。どのような仕組みで精度の高い受け答えを実現させているのだろうか。

後藤教授は「たとえば、人の身長が高い、低いというものは順番をつけられますよね。ただ、何センチからは身長が高い、低い、ということが決められているわけではありません。

今回、FISの開発で行ったことも、たとえば服装が『フォーマルか、フォーマルでないか』を決めるのではなく、服装のフォーマルな人の順に並んでもらうことができるようにするイメージです。

そのために、どのくらいフォーマルかを数値で表し(定量化)、人によって多少ちがいはあっても『この辺りが、みんなの考えるフォーマルですね』と、一般の人が合意できるような学習をさせています」

 

ここでいちばん重要なことは、先述のように学習データとして信頼のおけるデータを選定すること。そして、「どのくらい○○か(カジュアルか、フォーマルか、など)」を学習させるための数式の最適化だという。

 

清水さんは「ユーザーの投稿内容を学習し、検索精度などに関して一般的な定量評価を実施するだけでなく、AIの回答のクオリティを上げるため、過去にファッション業界で働いていた経験のある方々などの専門家や、自信がなかったり専門的な知識を持ち合わせていなかったりする非専門家の方々にもアンケートを取るような検証を実施したりもしています。

たとえば、一枚のコーディネート画像には前景(モデルの人物)や背景(建物や景色など)が含まれており、さらにその前景の中には様々なパーツ(帽子、頭、シャツ、腕など)が含まれています。ファッション画像を学習する際は、これらの特徴を詳細に捉えてあげる必要があります。コーディネート画像の特徴を上手く抽出した上で、それらとタグ(「カジュアル」「フォーマル」など)の関係性がどのようになっているかを学習します。

さらにAI学習で算出された数値と正しい値の誤差を計算する損失関数を、どのようにデザインした上で最適化を行うかが極めて重要です。私は、学習モデルや損失関数のデザインをメインで担当しました」

 

後藤教授によると、この損失関数のデザインというものが「絶妙な職人技」なのだそうだ。

研究成果により、ファッションのハードルを低く

ブラッシュアップを重ね、社会実装への期待も高まっているFISは、今後、ファッション業界全体のサービスを向上させるオープンイノベーションとしての活用が期待されている。清水さんが思い描くFISの進化や展望は、どのようなものだろうか。

清水さん

清水さん

 

「ファッションに関して自分の抱いていた悩み・疑問が、結果的に『曖昧な表現をさまざまな方法で解釈する』という、これまでAIが踏み込んでいなかった領域まで広がったことは驚きであり、うれしい出来事でした。

まずは、私のようにファッションに苦手意識を持っている人に利用してもらい、ファッションへの意識を変えてもらえたらと思います」

「研究を重ねていくうちに、ファッションの定義が感覚的なものだけでなく、数値化できる部分もあるということが分かり、私も長年抱いていたファッションに対する苦手意識を払拭することができて、今でははっきりと『ファッションが好き』と言えます。FISによって今日着る服に迷わないなど、ファッションの悩みを軽減することに少しでも寄与できれば嬉しいです」

 

AIは専門的な情報を学習すると知識が蓄積され、どんどん賢くなっていく。今回は女性のファッションを対象にデータを集積したが、今後は男性やキッズ、シニアなど幅広い層のデータを集積し、よりバリエーション豊かな受け答えができるよう進化させていきたいという。

後藤教授は今回のFISの研究について、「単に手法を開発したというだけでなく、感覚的な表現を数値化し、アプリで活用するという新しい研究領域を開拓した点が画期的」と話す。

FISにより、ファッションへの苦手意識を克服した清水さんの体験は、AIと人間の共存を考える上でも大きな示唆を与えてくれそうだ。

 

本研究は現時点では実用化には至ってはいないが、今後、将来的な実用化を目標にさらに研究を進めていくという。FSIの研究が社会実装され、コーディネートを相談できる日がくることを楽しみにしたい。

 

疑問や違和感を持つことが世界を動かす。哲学がもたらす社会的影響力を大阪経済大学の稲岡大志先生に聞いてみた。

2023年4月6日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

哲学という言葉を耳にすると、どうしても敷居の高さから敬遠してしまう人は少なくないはず。しかし、我々が日常生活の中で当たり前のように思い巡らせている考え方や価値観が哲学から生まれたと知れば、少し身近なものに感じられるのではないだろうか。

 

今、ビジネスパーソンや学び直しを目指す人たちの間で哲学がひそかな盛り上がりを見せる中、最新の研究論文や多様な文化と哲学の接点を見い出し、一般層に向けて哲学の門戸を広げているのが大阪経済大学の稲岡大志先生。約2700年の歴史の中で哲学が人間の生活や社会に与えた影響、哲学を知ることで得られる知的領域の広がりについて話を伺った。

学問の基礎から知的インフラへ。哲学の概念とは?

そもそも、哲学とはどのような学問なのだろうか。その概念についてさまざまな捉え方があると思われるが、中には「答えが出ない命題を考える」という禅問答のようなイメージを抱く人も少なくないだろう。しかし、稲岡先生は、そこにはある種の誤解があると語る。

 

「答えが出ないことというより、『容易に答えが見つからないことについて考える学問』といったほうが、ニュアンスが近いかもしれません。哲学は、もともと物理学や心理学、医学なども含めたあらゆる学問の基礎で、そこから枝分かれして残ったのが現在まで続く哲学。我々の世界や社会を形成するものについて考える学問で、ある疑問が生じたとき、それに対して誤りを見いだし、あり方を考えるということに重きを置いています。自由や義務、善悪、美醜、存在など、日常生活の中で普通に考えていることのパーツは哲学者が考え、作った概念です。人権や国家など、大きなものも含めた知的インフラを形成する役割を担っています」

 

はるか昔、著名な哲学者たちが遺した言葉は現代社会にも大きな影響を与えている。こういった哲学者たちが放つメッセージの普遍性は、どのようにして受け継がれてきたのだろうか。

 

「哲学の世界では、さまざまな資料から昔の哲学者たちの言葉を読み解きます。アリストテレスについての哲学書などは著作が現存しないため、彼の学校の講義内容を記録したノートがもとになっています。ニーチェやカントなど、ビッグネームが言いたかったことの解明に加え、その周辺の人たちの言葉を発掘するという地道な研究もあります。しかし、内容のクオリティが低かったり間違いがある、もしくは斬新すぎたという理由で消えていった研究もたくさんあります」 

宗教から理性的思考へ。ヨーロッパ哲学の起源と発展

稲岡先生が専門とするヨーロッパの哲学は紀元前7世紀頃の発祥と考えられる。約2700年もの歴史を持つ哲学の始まりとは、どのようなものだったのだろうか。

 

「哲学が登場する前の古代ギリシャでは、人々は神話ベースで世界を理解していました。しかし、そこに疑問を持ったのがタレスという哲学者。彼は太陽と月に関する観測データから、日蝕のタイミングを予測しました。現代でいう天文学ですが、当時は自然哲学と呼ばれていました。このような日常の観察から仮説を立てていくという考え方の成立がヨーロッパにおける哲学の始まりといわれています。一方で人間は神の存在にすがって生きる儚さから宗教も必要とされ、絶大な力を持ったキリスト教が、教義に反する哲学と対立してきた歴史もあります」

 

ヨーロッパにおける哲学は、さまざまなエポックメイキングを繰り返す中でブラッシュアップされ、多様性を獲得。哲学者の存在も時代とともにアカデミックなものへと移っていった。

 

「神の存在が絶対であるキリスト教に対し、理性的な思考を提示したことも哲学の大きなターニングポイントです。他にも理性を重要視するフランスやドイツなどの哲学に対し、経験を重要視したイギリスの哲学という、両者の対立と統合も重要な出来事です。18世紀頃に大学教授として登用されるようになったのも大きいですね。もともと哲学者は町の物知りな人のような立ち位置で、デカルトはフリーの研究者だったし、スピノザはガラス磨きの仕事をしながら一人で研究をしていたと言われていました。それが、大学という場所を得て専門的な研究が進んだことで社会への哲学の吸収が加速する一因になりました」

“最先端の研究”から広がる哲学の多様性

社会への哲学の発信にも力を入れている稲岡先生は、先日、共同編集者の一人として参加した新刊『世界最先端の研究が教える すごい哲学』(以下、『すごい哲学』)を上梓。国内外の最新の研究論文をもとにした、哲学ビギナーにもやさしい入門書となっている。タイトルにもある「最先端の研究」とは、どのようなものなのだろうか。

 

「先ほど述べたように哲学の研究は、哲学者が遺した資料からその考えを読み解きますが、資料はメモや著書、日記、手紙なども含まれ、その量は膨大です。また読み解く際は、昔の哲学書に注釈をつけるといった形で研究が受け継がれてきました。他方で、過去の哲学者が遺した資料を丁寧に読むことによってではなく、直接哲学の問題に取り組むタイプの哲学研究も行われています 。大学での研究が盛んになってからは、学術論文=最新の研究という風潮になっています。『すごい哲学』は、日常生活ともリンクするトピックベースの論文を紹介することで、哲学を身近に感じられる一冊になっています。最新の研究で興味深いところでは、出尽くしたと思われていたデカルトの新たな書簡がGoogle検索で発見されるといった出来事がありました(詳しくはこの動画を見てください。日本語字幕もあります。https://youtu.be/18TknKGC7tY)。これはアメリカの図書館が資料をデジタル化するためにスキャンし、公開していたものから見つかったもの。将来的にはこういったデジタル技術やAIも哲学の研究に貢献するのではのではと期待されています」

共同編者として携わった『すごい哲学』を手に、「出典に英語論文が多くなってしまったのは今後の課題」と稲岡先生

共同編者として携わった『すごい哲学』を手に、「出典に英語論文が多くなってしまったのは今後の課題」と稲岡先生

 

稲岡先生は『すごい哲学』やアニメ・スポーツといった身近な話題を通してライトユーザーに哲学の魅力を訴求している。他にも数学、倫理学などにおける哲学のあり方を独自で研究しており、このような幅広い取り組みは、思い入れが深いというドイツの数学者・哲学者ライプニッツの研究に取り組む中で広がりを見せていったものだ。

 

「ライプニッツは、一般的には微分積分をはじめ、現在、私たちが高校で教わる数学の大半を作った人。それ以外にも外交官や図書館の司書、計算機の発明など、本当にいろいろなことをやっていました。一つのことを突き詰めるのも素晴らしいのですが、僕はいろいろなことに興味が湧くので、そういう人たちの行動が、一見バラバラなようで、実は一貫性を持っているということを見出すのが楽しいです。スポーツに関しては、人類はなぜここまでスポーツに熱中するのか、ファンのあり方や制度といった文化に関心があります。これは領域的に社会学に近いものがありますね。アニメは、ただ自分が好きだからというのが大きな研究理由ですが(笑)、絵や音楽などを含めた総合芸術であり、特に「声がキャラに合っている/合っていない」というような声優の演技に対する評価の内実に大きな興味があります。倫理学は、テレビドラマにもなった漫画『ここは今から倫理です。』がとても面白く、雑誌の取材で作者の雨瀬シオリ先生にインタビューさせていただきました。他にも原田まりるさんの著書『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』なども哲学に触れるきっかけとしてはうってつけで、哲学とエンタメの橋渡しになればと思って授業などでも紹介しています。今の日本で哲学の研究者になるのは、時間やコストの面で考えてもハードルが高いのが実情。しかし、こういった取り組みからライトユーザーを生み出すことができればと考えています」

哲学と現代社会の関係性、示すべき未来とは?

社会や人間のあり方に大きな影響を与えてきた哲学。さまざまな不安要素を抱えた現代においては、どのような存在意義や役割があるのだろうか。

 

「社会不安が起こると哲学が盛んになるというのは、歴史的にも多く見られる風潮です。私たちにとって身近なところでは、阪神淡路大震災やオウム真理教のテロ事件があった1995年は、その象徴とも言える年でした。哲学の分野ではノルウェーの哲学教師ヨースタイン・ゴルデルの小説『ソフィーの世界』がヒットしたのですが、世紀末的な重苦しい空気の中で哲学に救いを求める風潮が特に強かったとのではと考えられます。ただ、こういった社会不安は多かれ少なかれ常に存在するものです。近年の新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナとロシアの戦争、経済の低迷といった問題の中で哲学がどのように人々に影響を与えるのかは、正直、予測ができないですね」

 

稲岡先生には、哲学のライトユーザーを増やしたいという想いと同時に、今後の哲学のあり方について、界隈を取り巻く状況にも変化が必要と語る。

 

「ビジネス本や自己啓発本は一定の周期で大きなブームとなって世の中に新たな価値観や知識を提示します。哲学は、そこからさらに一歩突っ込んだ考え方を示すものなので、さまざまなきっかけで、今よりもっとスムーズに一般層をナビゲートしていくべきであると思います。特に哲学の世界における女性研究者の割合はとても少ないので、あらゆる人々に開かれた学問であり続けるためにも、この比率は少しずつでも変えていきたいですね。実際、最近では哲学の歴史で埋もれていた女性の哲学者の活躍を再評価する動きが出ています。学生やこの記事を読んで哲学に興味を持った人には、ぜひ、日常生活の中における違和感や疑問に反応するという姿勢を大事にしていただきたい。そのうえで抱えている想いを筋道立てて説明するスキルを身につければ建設的な議論が可能になるし、より哲学の面白さが分かってくると思います」

 

哲学は疑問や違和感を議論という形でアウトプットすることで社会に影響を与えてきた。その議論は会社や学校などでいまだに残る絶対服従や封建的な風潮に対して変化をもたらす効果も秘め、時代にそぐわない考え方の改善にも貢献している。「どんな疑問も見捨てない、セーフティーネットの側面もある」とは稲岡先生の言葉だが、哲学が我々にとって身近な救済法の一つであることを知れば、現代社会の中で感じられる生きづらさの軽減にも繋がるのではないだろうか。

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