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京都産業大学神山天文台観望会で木星と土星を観た! 国内最大級の望遠鏡で星々の迫力を満喫

2022年12月27日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

京都産業大学神山天文台は、大学創設者の荒木俊馬博士が天文学者・物理学者だったことから、創立50周年を記念して建設されました。理学部宇宙物理気象学科の研究活動で使われているほか、一般向けに天文学講座や月2回の観望会を開催するなど、大学と社会をつなげる窓としての役割も担っています。今回は観望会に参加し、常設展示(7月にリニューアルされたばかり!)もあわせて見学してきました。

京都産業大学のシンボル・神山天文台

京都産業大学のシンボル・神山天文台

 

木星と土星を肉眼で観られる感激体験!

まず、荒木望遠鏡(口径1.3mの反射式望遠鏡)を用いての天体観測です。筆者が参加した日は、ラッキーなことに快晴! 滅多にない晴れ具合だとスタッフの方からもお墨付きをいただきました。天文台のドームの真ん中が開いて、荒木望遠鏡が空へ顔を出します。私立大学が所有する望遠鏡では最大、国内全体でも7番目の大きさなんだそう。

 

はじめに観せてもらったのは木星。おぉ! 明るい! 表面に縞々模様があるイメージの強い木星ですが、その模様まで観えて感激です。子どもの頃に百科事典で見ていた衛星写真と同じものを自分の目で観ることができて、予想以上に気分が上がります。

筆者はホルスト作曲の「木星」(平原綾香さんの「Jupiter」でもお馴染みのメロディ)を聴くと、「宇宙から見たらどうでもいいし〜」と悩みごとが吹き飛ぶのですが、実際に観た木星にもそんなパワーを感じました。

望遠鏡を覗いてみると、美しい惑星の姿が!

望遠鏡を覗いてみると、美しい惑星の姿が!

 

荒木望遠鏡が次の星に合わせてゆっくりと動きます。コンピューター上で観たい星を設定すると、その星の位置に自動で望遠鏡が回転する仕組みとのこと。何が観られるんだろうとワクワクしていると、期待を裏切らないアナウンスが……! 「次は土星です!」なんと次も惑星が観られるとは。

 

案内役は、理学部に在籍して木星の研究をしているという学生さん。神山天文台サポートチームに所属する学生さんたちが、受付や案内役など、イベントのスタッフを務めています。学生さんが「土星の周りにある輪っかは何でできているかご存知ですか?」と問いかけると、参加していた子どもたちが口々に思ったことを発して、会場は盛り上がりをみせます。答えは、氷! しかも、大小さまざまな大きさの氷が組み合わさって、あの形になっているんだそう。いざ望遠鏡を覗いてみると、イメージ通りの土星の姿が! 輪っかまでちゃんと観えて、こちらもまた感無量です。

自動で動く望遠鏡の様子を見ているだけでも、物珍しさがあって楽しめました

自動で動く望遠鏡の様子を見ているだけでも、物珍しさがあって楽しめました

 

最後に観せてもらったのは、アルビレオ。夏の代表的な星座・はくちょう座の星です。肉眼で見ると1つの星にしか見えないのに、望遠鏡で観ると2つに分かれて観えるんだそうです。え、どういうこと? 肉眼では2つの星の距離が近すぎて、1つの星のように観えるとのこと。なるほど、荒木望遠鏡で観る意義のある星ですね。どの星を観るかのチョイスにも、工夫が感じられます。実際に観てみると、2つの星の色の違いがはっきりとわかり、とても美しいです。宮沢賢治はこのアルビレオのことを『銀河鉄道の夜』で「サファイアとトパーズ」と表現しましたが、それぞれ深みのある藍色と紅色に輝いていて宝石のように美しく、納得の色味でした。

 

季節によって観える星が変わるのも天体観測の醍醐味。またぜひ別の星が観られるときにこのイベントに参加したいと思いました。

スタンプラリーもあるので、制覇したくなります。スタンプを5個以上集めるとプレゼントがもらえます

スタンプラリーもあるので、制覇したくなります。スタンプを5個以上集めるとプレゼントがもらえます

 

3Dで宇宙を旅して物知りに

次に場所を移動して、「宇宙の3D映像上映」に参加しました。3Dメガネをかけて、プロジェクタに映し出される映像を鑑賞する企画です。会場はごく普通のホールですが、3Dメガネをかけると没入感があり、目の前に宇宙が広がります。神山天文台サポートチームに所属する学生さんが、「1光年」と「1天文単位」の距離感や天の川の正体など、知っているようで知らなかった曖昧な事柄をわかりやすく説明してくれました。

 

とにかく、宇宙がいかに広大か体感できる約20分間の宇宙の旅でした。とくに印象的だったのは、土星の輪っかが横から見ると意外と薄かったこと。「輪っかの幅がここから河原町くらいだとすると、厚さはこの建物くらいです」と身近な例えも交えてくれるので、実感がわきにくい遠い宇宙の話にも、驚いたり感心したりできます。実際に望遠鏡で観て、さらに3D映像とともに解説を聞き、理解を深めることができました。

 

最後は外に出て、小型望遠鏡で木星を観させてもらいました。先に荒木望遠鏡で観てしまったとはいえ、こちらでも十分にきれいに観えて感動します。京都市北部の澄んだ空気も気持ちがいいです。

天文台前広場では3箇所に小型望遠鏡を設置。外の空気を吸いながら夜空を観るのも良いですね

天文台前広場では3箇所に小型望遠鏡を設置。外の空気を吸いながら夜空を観るのも良いですね

 

リニューアルオープンした常設展示にも注目

もう一つの見どころは、神山天文台の常設展示です。1階に展示スペースが設けられ、神山天文台のキャラクター・ほしみ〜るちゃんがお出迎えしてくれました。

神山天文台マスコットキャラクターのほしみ〜るちゃん。LINEスタンプにもなっています

神山天文台マスコットキャラクターのほしみ〜るちゃん。LINEスタンプにもなっています

 

展示されている分光器の説明を読み、とても驚きました。「2014年には、本学の学生が爆発中に炭素でできた分子が生成される新種の新星(※)を発見しています」と書かれています。分光器は光をさまざまな波長へと分ける機械ですが、この分光器を用いて、なんと新しく発見した学生さんがいたんだそう! そんな大学生になってみたかったものです。文学部出身の筆者からすると、勉強している内容のスケールがあまりに大きくて圧倒されました……。

※新星…新しく生まれた星ではなく、急に(爆発などで)明るくなった星のこと。

 

また、小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った貴重なサンプルのレプリカも展示されています。2022年6月に、はやぶさ2のサンプルには、生命の誕生に必要なアミノ酸が検出されたと発表され、このことから「地球外から生命の起源物質が持ち込まれたのではないか」という議論もおこっているそうです。研究の最先端を知る機会にもなりますね。

 

さらに、神山天文台の荒木望遠鏡の仕組みが、模型を用いてわかりやすく解説されています。これらの展示を見たうえで観望会に参加すると、より楽しめると思います。

分光器に関する展示コーナー

分光器に関する展示コーナー

展示を通して荒木望遠鏡の仕組みも学ぶことができます

展示を通して荒木望遠鏡の仕組みも学ぶことができます

 

神山天文台では、ほかにもさまざまなイベントが企画されています。コロナ禍をきっかけに、YouTubeでライブ配信されるようになったイベントもあるので、どこからでも気軽に観望会の気分を味わうことができます。ぜひ宇宙について考えたり、肉眼では見られない星の姿を観望したりして、非日常を味わってみてください。

【京都産業大学 神山天文台YouTubeチャンネル】

楽器を通して時間や地域を越えた旅に出る〜武蔵野音楽大学楽器ミュージアムの楽器コレクション

2022年11月24日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

2021年にリニューアルオープンした武蔵野音楽大学楽器ミュージアムは、昭和42年に日本初の楽器博物館としてオープンして以来、卒業生のネットワークや寄贈品などによって、コレクションが拡大してきたそうです。これまで同大学入間キャンパスにて展示されていた収蔵品も江古田キャンパスに集約され、武蔵野音楽大学楽器ミュージアムが誕生。2022年4月より一般公開が開始されたことを知り、行ってきました。

お出迎えしてくれたのは「東洋と西洋の融合」というミュージアムのテーマに最適な和風の絵が描かれたプレイエル社製のピアノ

お出迎えしてくれたのは「東洋と西洋の融合」というミュージアムのテーマに最適な和風の絵が描かれたプレイエル社製のピアノ

 

楽器を見るだけではなく、楽器の歴史を学ぶ

「鍵盤楽器展示室」「管弦打楽器展示室」「日本の楽器展示室」「世界の民族楽器展示室」の4つに分類・展示されています。

まずは、鍵盤楽器展示室。楽器の歴史や成り立ちに沿って、ピアノの前身・クラヴィコードから進化系のパイプオルガンまで、さまざまな楽器が登場した順に並んでいます。どのような経過をたどって現在のピアノになったのか、鍵盤楽器の歴史が手に取るようにわかります。時代の変化とともに、演奏する場所が宮廷からサロンや一般家庭に変わり、形や音域、音量など、ピアノも変化を遂げてきました。その変化途中のキリンピアノやリラピアノは、とても面白い形をしています!

キリンピアノ(1820年頃、ウィーン) 大型のグランドピアノが増えるなか、家庭用にとコンパクトなピアノが作られるようになりました。グランドピアノを縦置きにしたキリンピアノは、動物のキリンに見た目が似ていることからその名が付けられました

キリンピアノ(1820年頃、ウィーン)
大型のグランドピアノが増えるなか、家庭用にとコンパクトなピアノが作られるようになりました。グランドピアノを縦置きにしたキリンピアノは、動物のキリンに見た目が似ていることからその名が付けられました

リラピアノ(1830年頃、ベルリン) 音楽の神アポロンが弾いていたリラという竪琴が正面に携えられています

リラピアノ(1830年頃、ベルリン)
音楽の神アポロンが弾いていたリラという竪琴が正面に携えられています

筆者が感激したのは、クララ・シューマンが所有していたグランドピアノ。19世紀ドイツを代表する作曲家シューマンの妻・クララは、ピアニストや作曲家として活躍しました。彼女が所有していたピアノは、生涯で2台のみ。その貴重な1台がこちらにあるのです! もう1台は、クララの生まれ故郷であるドイツの資料館に置かれています。

こちらのクララのピアノは、武蔵野音楽大学で展示される前には、2年もの歳月をかけて修復されたそうで、現在は演奏も可能な状態になっています。ちなみに、音色を聴くことができる公開講座もあるそうです。

 

そして、ナポレオン3世の結婚祝いにイギリスのヴィクトリア女王から贈呈されたアップライトピアノにも、目を引かれました。1852年、ナポレオン3世は皇帝に即位し、翌1853年にスペイン貴族ウージェニーを皇后に迎えました。歴史的な出来事を、楽器を通して感じることができて、胸が高鳴りました(※歴オタではありません)。

クララ・シューマン愛用のグランドピアノ(1871年、ドイツ) 現代のサイズでいうと、コンサートホールで使用される大型グランドピアノと同じくらいだそうです

クララ・シューマン愛用のグランドピアノ(1871年、ドイツ)
現代のサイズでいうと、コンサートホールで使用される大型グランドピアノと同じくらいだそうです

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ナポレオン3世の結婚祝いのアップライトピアノ(1853年、イギリス) 足にブドウのような飾りが施されるなど、細部のこだわりがすごい!

ナポレオン3世の結婚祝いのアップライトピアノ(1853年、イギリス)
足にブドウのような飾りが施されるなど、細部のこだわりがすごい!

 

ちなみに、ピアノの見方には、いろいろ注目ポイントがあると思います。例えば、昔の人は楽譜の横に蝋燭を立てて明るく灯して演奏していたため、譜面台の隣には蝋燭立てがあります。この蝋燭立てや譜面台が、ピアノによってだいぶ違うので、見比べると面白いです。

 

楽器ミュージアムでは、お気に入りのデザインを見つけてみましょう! 今では黒塗りのツルツルしたピアノが一般的ですが、昔のピアノには1台1台に個性があって、見ていて飽きません。

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個性豊かなピアノたち。お好みの年代や国を探してみてください

個性豊かなピアノたち。お好みの年代や国を探してみてください

 

歴史を学べるのは、ピアノだけではありません! その隣の展示室では、歴史的変遷がわかるように弦楽器と管楽器が展示されています。ハープ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスがずらりと並んでいて、圧巻の光景です。なかには、とても小さな手乗りサイズのピッコロヴァイオリンや、ラッパ付きスケルトンヴァイオリンなど、初めて見る変わり種も。

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弦楽器の展示風景。ラッパ付きの弦楽器は、録音技術がまだあまり発達していなかった時代に、音を集めるために製作されたそう

弦楽器の展示風景。ラッパ付きの弦楽器は、録音技術がまだあまり発達していなかった時代に、音を集めるために製作されたそう

 

木管楽器のコーナーも、フルートやオーボエ、ファゴット、クラリネットが古いものから年代順に並んでいるので、木管楽器がそれぞれどのように進化していったのかを学ぶことができます。金管楽器のコーナーでは、ホルンのご先祖様やセルパンといううねうねした楽器など、見た目がユニークなものが目白押し。セルパンはフランス語で蛇を意味します。見た目がその名の通りすぎますね! 日本における楽器製作のルーツも展示されていて、日本管楽器株式会社によって1936年に作られた日本初のスーザフォーンも見ることができます。

木管楽器の展示風景。各楽器がどのような進化を遂げいていったのか、1列にわかりやすく並べられています

木管楽器の展示風景。各楽器がどのような進化を遂げいていったのか、1列にわかりやすく並べられています

ホルンの先祖である動物の角を使った角笛や、ホルンの前身のひとつであるポストホルン(18〜19世紀に郵便馬車の発着を知らせるために使われていた小型のホルン)も展示されています

ホルンの先祖である動物の角を使った角笛や、ホルンの前身のひとつであるポストホルン(18〜19世紀に郵便馬車の発着を知らせるために使われていた小型のホルン)も展示されています

ヘビのような見た目のセルパン。低音が出せる楽器です

ヘビのような見た目のセルパン。低音が出せる楽器です

 

日本の楽器の美しさに触れられる貴重なコレクション

武蔵野音楽大学楽器ミュージアムのすごいところは、西洋楽器にとどまらず、日本をはじめとする世界中の楽器を見られること。なんと、西洋楽器のコレクションは所蔵品全体の約半分にすぎません。

「日本の楽器展示室」では、まず、歌舞伎の舞台を再現したスペースと琵琶、木魚、三味線などのコレクションが迎えてくれました。

 

1番の見どころは、水野佐平コレクション。水野佐平は、「もっと日本の音楽大学で邦楽を学んでほしい」という強い想いを抱き、邦楽器研究を極めました。戦争中は自身の楽器コレクションを疎開させて守り抜いたんだそう。東は武蔵野音楽大学に、西は大阪音楽大学にそれぞれ寄贈しました。これらは、戦禍を生き延びた貴重なコレクションです。日本の楽器を守り、普及させたい——そんな情熱を感じ、自分も日本人として、もっと邦楽について知りたいと興味がわいてきました。

歌舞伎で使用される楽器を展示

歌舞伎で使用される楽器を展示

日本における琵琶の歴史は7〜8世紀まで遡ります

日本における琵琶の歴史は7〜8世紀まで遡ります

三味線とその材木が並べて展示されています

三味線とその材木が並べて展示されています

水野佐平コレクションの展示風景

水野佐平コレクションの展示風景

 

螺鈿や珊瑚で彩られた美しい飾り箏は、足を止めてじっくり鑑賞したくなります。これらは、嫁入り道具として代々大切に受け継がれてきたものです。製作されたのは、1844年(天保15年)。ピアノの展示でも装飾に注目してきましたが、日本の繊細な細工はまたひと味違っています。楽器との調和も取れていて、ため息の出る逸品です。

 

平安時代〜鎌倉時代製作と推察される笙もとても貴重です。笙やケースに施された竹の絵が美しい! 京都の印籠蒔絵師によって描かれたものなんだそうです。「三味線のストラディヴァリウス」と評される名器も見られて、とても満足して次の展示室へと移ります。

1844年(天保15年)に製作された箏。お花は螺鈿、オレンジ色の実は珊瑚で施されています

1844年(天保15年)に製作された箏。お花は螺鈿、オレンジ色の実は珊瑚で施されています

12〜14世紀に製作された笙。江戸時代の皇族・伏見宮邦永親王の筆によって、ケースの内側に銘「節摺(ふしずり)」と記されています

12〜14世紀に製作された笙。江戸時代の皇族・伏見宮邦永親王の筆によって、ケースの内側に銘「節摺(ふしずり)」と記されています

 

楽器で世界旅行に出かけよう!

「世界の民族楽器展示室」に入ると、雰囲気がガラリと変わります。東アジア、南アジア、東南アジア、西アジア、北アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、オセアニアに分かれていて、その地域に行ったような気分を味わうことができます。楽器を通して世界一周できるというのは、なかなか貴重な経験ではないでしょうか。人形や演奏風景の写真も展示することで、イメージが膨らむように工夫しているそうです。

「世界の民族楽器展示室」の入り口。まずは東アジアと東南アジアからスタート

「世界の民族楽器展示室」の入り口。まずは東アジアと東南アジアからスタート

 

見たこともないような不思議な楽器がたくさん! どれも音を出すための楽器ですが、ふんだんに施された装飾に地域ごとの差が表れていて、雰囲気がまったく異なります。目で見るだけでも十分に楽しむことができるのです。

 

まず注目したのは、馬頭琴。教科書に載っていた『スーホの白い馬』に出てきた、あの馬頭琴です! はじめて実物を見ましたが、想像以上に馬らしさ全開。木で馬の頭を形作り、色付けして……ほかの民族楽器もそうですが、本当に手が込んでいますよね。そして、見た目だけでなく、弦も弓の毛も馬の尻尾でできているそうです。

写真23

『スーホの白い馬』なつかしい! 馬のなんとも言えない表情がいいです

『スーホの白い馬』なつかしい! 馬のなんとも言えない表情がいいです

 

ロシアの大きめの弦楽器バラライカ、ウクライナのバンドゥーラ、ノルウェーのヴァイオリンに似たハーディングフェレなど、弦楽器もさまざまな種類が展示されています。アルゼンチンのアルマジロでできたギターもありました。食用にもなっていたアルマジロへの愛着があったのでしょうか。

ヨーロッパの民族楽器の弦楽器コーナー

ヨーロッパの民族楽器の弦楽器コーナー

アルマジロの皮でできたギター。その地域の生活に密着した特徴的な材質が使われているのも、民族楽器の面白いところ!

アルマジロの皮でできたギター。その地域の生活に密着した特徴的な材質が使われているのも、民族楽器の面白いところ!

 

もっとも見慣れない楽器が目立ったのは、アフリカ。とくに、スリットドラムと呼ばれる打楽器と特産物のひょうたんを使った楽器の数々。スリットドラムは太い木を少しずつ丁寧に削って作られたもので、中心を空洞にして、上面に隙間(スリット)が入れられています。叩くときっとよく響くんだろうなぁと、想像が膨らみます。

ひょうたんはアフリカ原産で、食器や炊事道具や衣服など、日用品として多用されてきました。楽器にも利用されていて、木琴や打楽器、マラカスなど、その種類の多さに驚かされました。

スリットドラム

スリットドラム

写真28

ひょうたんの原産地がアフリカとは知りませんでした。世界最古の栽培植物です

ひょうたんの原産地がアフリカとは知りませんでした。世界最古の栽培植物です

 

楽器博物館と聞くと、もしかすると西洋楽器のイメージが強いかもしれませんが、邦楽に特化した展示スペースや民族楽器のコーナーなど、古今東西、あらゆる楽器を一挙に見ることができる貴重な機会でした。ぜひ楽器を通して、時間や地域をまたいだ大冒険をしてみてください。

大学ミュージアムの役割とは?~学内外の橋渡しとなる慶應義塾ミュージアム・コモンズの取り組み

2022年11月8日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

9月2日に慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)で開催されたKeMCo Talk 3「#ちょっとKeMCoまで——大学ミュージアムってどんなところ?」に参加して、大学ミュージアムという存在についてお話をうかがいました。登壇者は、慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師の本間友先生、松谷芙美先生、所員の長谷川紫穂さん、学芸補の山田桂子さん。登壇者と距離が近くて親しみやすい雰囲気のなかで進められました。

いざ、KeMCoについて学びます! 配布された付箋にKeMCoに関する質問を書いて休憩時間に提出し、講演会の後半に質疑応答の時間が設けられました

いざ、KeMCoについて学びます! 配布された付箋にKeMCoに関する質問を書いて休憩時間に提出し、講演会の後半に質疑応答の時間が設けられました

 

大学ミュージアムと美術館の違いは収蔵品の収集方法にあり!

まずは、イベントのタイトルの通り、「大学ミュージアムとはどんなところなのか」をテーマに、深掘りしていきます。今回のイベントは、「大学ミュージアムという存在が一般にはあまり知られていないのではないか」という着眼点から企画されたそうですが、なぜ大学ミュージアムの印象は漠然としているのでしょうか?

 

※以降「」はすべて登壇者のコメント

「普通の美術館では、もっと作品の印象が強いのではないでしょうか? 美術館の顔になるような作品・コレクションがある。あの作品を見たいからあの美術館に行こう! と考えますよね。しかし、大学ミュージアムは、コレクションが前面に出ないのが特徴なので、普通の美術館と同じ捉え方をすると、わかりにくくなってしまうのです」

 

たしかに、大学ミュージアムがどのような作品を所蔵しているのか、あまり想像できないですね。そもそも、大学ミュージアムの所蔵品って、どういう経緯で所蔵品になるのでしょうか。

 

「一般的に、美術館にはコレクション・ポリシーがあって、“こういうコレクションを築いていきます”という方針のもと、購入や寄贈の受け入れを検討していきます。でも、大学ミュージアムには、基本的にコレクション・ポリシーがないことが多いです。大学ミュージアムの所蔵品は、大学に多岐にわたる専門領域があるなかで、研究や教育に必要ということで集められたものや、卒業生からの寄贈など、人とのつながりによって蓄積されたものなのです」

 

コレクション・ポリシーの有無は、美術館と大学ミュージアムの大きな違いの一つですね。ここで、大学ミュージアムの課題も浮き彫りになるわけです––受動的に集まったコレクションをどう展示するか?

 

誰かがポリシーをもって集めたものではない、大学ミュージアムの収蔵品をどう見せていくのか、どう新しい文脈を作って展示していくのか。この観点から企画に取り組んでいるのは、大学ミュージアムの特徴でもあると感じました。

トーク会場はエントランスからすぐのロビー。入りやすさ、親しみやすさへの工夫が見られます

トーク会場はエントランスからすぐのロビー。入りやすさ、親しみやすさへの工夫が見られます

 

大学ミュージアムではその大学の研究・教育のあり方やこれまでの歩みがわかる!

普通のミュージアムと違ってコレクション・ポリシーがなく、収蔵品は研究・教育活動を通して集まってきたとのことですが、では、このような収蔵品をもつ大学ミュージアムの特色は、どのような点なのでしょうか。

 

「大学ミュージアムに行くと、その大学で今行われているさまざまな研究や教育のあり方、あるいは、それまでその大学がどういう活動をしてきたのかわかります」

 

ある研究を他学科の教員や学生に伝え、さらに一般のお客さんにも伝えるということですね。まさに学内と学外の両方における橋渡しのような存在となっているように感じました。

 

「展覧会のプログラムは2〜3年前に決める美術館が多いですが、KeMCoでは大学内の動きを見て、柔軟に企画しています。決めすぎないことで、旬のトピックを扱うことができるんです」

 

大学内の旬のテーマを選定するという点においても、その大学における研究の状況が反映されていますね。ただ作品を鑑賞するだけでなく、その大学における研究の動向も感じられるのが大学ミュージアム。新たな視点を学んだので、これから大学ミュージアムを訪れる際にも注目してみたいと思います!

 

「大学だから研究者がいる、学生がいる。語り口をわかりやすくして、若い世代に向けて研究者の考えなどを伝えるよう心がけています」

 

とはいえ、大学の研究分野のなかには、どうしても難しいイメージを抱いてしまう分野もあります。企画展を開催することで、そういった分野を一般向けにわかりやすく伝えることもしているのだとか。こういった工夫や配慮があるのも、大学ミュージアムならではだと感じました。

 

KeMCoが学内の横のつながりを深め、さらに地域との絆も深めていく

KeMCoの新設時の課題・懸念点として、「KeMCoの活動が見えにくい、伝わりにくい」点が挙がっていたそう。学内でさえもKeMCoが何を目指して、どのようなことに取り組んでいるのかなかなかわかってもらえず、情報発信の難しさを感じたそうです。

 

「学内でもお互いに何をしているか全然知らない。慶應の中でさえ存在しているディスコミュニケーションをなんとかしたいというのも、モチベーションになりました」

 

そのため、一般に向けた情報発信を目指しつつ、学内のいろいろな部署との関わりを重視してイベントを企画することによって、学内のコミュニケーション強化にも努めているとのこと。たしかに大学で行われている研究は幅が広くて、自分の専門外のことについてはなかなか知る機会や興味をもつきっかけがないように思います。

それぞれが和気あいあいとKeMCoの取り組みについて語ってくれました

それぞれが和気あいあいとKeMCoの取り組みについて語ってくれました

 

KeMCoでは、開設から1年半で5〜6の企画展を開催しましたが、これまでの展覧会では、すべて大学の収蔵品(慶應の一貫校を含む)を中心に展示してきました。展覧会以外にも、先生やデザイナーと組んでワークショップなどの企画も行っています。KeMCoオリジナルグッズを学生が考えるワークショップや、各研究部門が持っている文化財を写真に撮るイベントなど、ユニークなイベントが目白押しです。いずれもKeMCo外の方たちと協力する貴重な機会となっています。

 

こういった企画に欠かせないのが、学生スタッフから構成されるKeMCo Members(KeNCoM)の存在で、全学部を対象に募集して集まったメンバーが、ポップに楽しめる体験コーナーを作るなど、企画展ごとに活躍しているそう。学生も企画者として参加することによって、専門性と一般向けのバランスを、調節することに成功したのですね。

 

また、企画展「精読八景」では、8つの研究分野(研究所や専攻など)からの展示によって構成されていました。異なる研究室の先生方が、一緒に作品を出すことで、自然とお互いの研究の進捗を話すように! 学内のコミュニケーションの場になっていることを実感し、これを地域にも広げていきたいと感じたそうです。

 

「慶應には一貫校がたくさんあるので、大学以外の教育機関と一緒に活動することが可能です。人と人との交流が広がる場となっていて、このような交流の場こそが、コモンズという名前の由来にもなっています。ミュージアムには作品があって、その作品を中心に話題が広がることもあります。人間関係の難しさを作品が中和してくれるように思います」

 

休憩を挟んで、後半は質疑応答の時間です。参加者からさまざまな質問が寄せられ、まさにKeMCoの活動を一般に知ってもらう場となっていました。今後どのようなイベントを企画していきたいですか?という質問が複数人から挙がりました。

 

「地元コミュニティとの関わりを深めていきたいです。例えば、こぢんまりとした、慶應の歴史を生かしたイベントで、大学の授業とも展覧会とも違うものを企画したい。展示作品を囲んで先生の話を聞く夕べのような、少人数でじっくりと濃密な時間を過ごせるようなイベント。親密な会話をすることは、コモンズという名の目的でもあります。一方的に発信するのではなく、人と人との交流を大切にしたいと思っています」

KeMCoの案内表示は、よく見ると、“閉じていない”独特なフォント。みんなが入れるオープンな場所であるようにという願いが、こんなところにも込められています

KeMCoの案内表示は、よく見ると、“閉じていない”独特なフォント。みんなが入れるオープンな場所であるようにという願いが、こんなところにも込められています

 

KeMCoは誰でも入れる交流の場だと知ってもらいたい

講演会終了後、本間先生に改めてお話をうかがいました。今回のイベントは、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

 

「地域の方にKeMCoを知ってもらうにはどうしたらいいかというのをずっと考えていました。慶應の教職員・学生しか入れない場所だと思っていたという声もあって、入り口のところに『お入りください』と書くなど、掲示では伝えているつもりでいたのですが、やっぱりそれだけでは不十分だと思いました。こういうトークイベントを開催して伝えたほうがいいなと思い、企画しました」

KeMCoの入り口には「ようこそ、KeMCoへ。どうぞお入りください」の文字が

KeMCoの入り口には「ようこそ、KeMCoへ。どうぞお入りください」の文字が

 

大学ミュージアムって思っていたよりオープンな場所なんだ! と知ってもらえたらいいですよね。今日のイベントは、思っていたより距離も近いですし、そういった意味でも親しみやすいですね。

 

「場所にも少し工夫があります。KeMCoには教室や会議室もあるので、そちらで開催してもいいのではないかとも思いましたが、やっぱり入り口のほうが入ってきやすいかな? と思ってこちらにしました。あとは、スライドを使って活動紹介などをしてもよかったのですが、向かい合って話をした方が距離感が縮まるのではないかと思い、この形にしました」

専任講師の本間先生。専任講師、特任助教ほか、5名の現場スタッフと事務スタッフ、その他に学生スタッフがいます

専任講師の本間先生。専任講師、特任助教ほか、5名の現場スタッフと事務スタッフ、その他に学生スタッフがいます

 

今後の企画でおすすめイベントは?

 

「2023年1月に、新年の干支であるうさぎの展示を開催することになっています。泉鏡花は、お母さんからもらったうさぎの置物をとても大切にしていて、たくさんうさぎを集めていました。この鏡花のうさぎコレクションと、他にも学内にあるうさぎに関するものを展示します」

 

うさぎだけで一つの展覧会ができるとは! 慶應義塾の収蔵品の幅の広さと豊富さに驚きました。

 

「これから秋冬は展覧会が中心になります。KeMCoを建てるときに行われた発掘調査で弥生時代の竪穴式住居跡が出土したのですが、2023年3月には、その発掘の調査結果を少し工夫した視点で紹介する展覧会も予定しています」

 

地域の方たちも興味を持ちそうですね。

 

「担当の先生方とは、出土した置物や遺構を中心にどんな展示をつくるか相談しています。どこからが遺物? 昨日、私が捨てたカップ麺も遺物になるの? 遺物って何?! を考える展覧会にもできたらと思っています。現代美術のアーティストともコラボレーションしたいです」

 

イベントを通して、大学ミュージアムと普通の美術館の違いや大学ミュージアムの特徴、そしてどのような役割を果たしうるのか、全体的に理解を深めることができました。具体的にKeMCoの取り組みや今後の抱負も聞くことができて、大学ミュージアムの今後の可能性に期待が膨らみます! 大学ミュージアムは、大学の研究に興味をもつきっかけや地域の方たちとの交流の糸口になるよう、学内外の橋渡しとして重要な役割を担っているのです。

 

10月17日からは「大山エンリコイサム Altered Dimension」展を開催。大学ミュージアムをぜひご体感ください!

 

「大山エンリコイサム Altered Dimension」

会期:2022年10月17日(月)~12月16日(金)

月火水= 11:00–17:00、木金= 11:00–19:00 [土日祝休館]

※特別開館|11月5日(土)、12月3日(土)11:00–18:00

※臨時休館|11月7日(月)、12月5日(月)

 https://kemco.keio.ac.jp/all-post/20220820/

「Altered Dimension」展のための試作 ©️Enrico Isamu Oyama Photo ©️Katsura Muramatsu (Calo works)

「Altered Dimension」展のための試作
©️Enrico Isamu Oyama
Photo ©️Katsura Muramatsu (Calo works)

FFIGURATI #314, 2020  ©Enrico Isamu Oyama Photo ©Shu Nakagawa

FFIGURATI #314, 2020
©Enrico Isamu Oyama
Photo ©Shu Nakagawa

日本美術の“美”と“かわいい”が凝縮された東京藝術大学大学美術館 特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」

2022年9月1日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

2022年8月6日から東京藝術大学大学美術館で開催されている、特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」を内覧会でひと足お先に鑑賞してきました!

宮内庁三の丸尚蔵館が収蔵する皇室の珠玉の名品に、東京藝術大学のコレクションを加えた本展。4つのテーマ「文字からはじまる日本の美」「人と物語の共演」「生き物わくわく」「風景に心を寄せる」に分けられ、82作品が展示されます。

 

アートの中心地・上野で美術館までの道のりも楽しむ

東京藝術大学大学美術館は、東京都台東区上野にあるキャンパス内に位置します。上野駅に降り立ち公園口から出ると、日本有数のコンサートホール、東京文化会館が目前に広がり、少し歩くと国立西洋美術館、その奥に国立科学博物館、さらに進むと東京都美術館、道路を隔てて東京国立博物館……上野恩賜公園や上野動物園も含め、見どころ満載なエリアです。

緑豊かで芸術あふれる美術館までの道のりで、本展覧会の看板を発見! 期待が高まります

緑豊かで芸術あふれる美術館までの道のりで、本展覧会の看板を発見! 期待が高まります

 

そして、東京藝術大学大学美術館にたどり着くまでの道のりでも、すでにアートを楽しむことができます。「芸術の散歩道」として、東京藝術大学美術学部の卒業・修了作品から、東京都知事賞に選ばれた作品が展示されているので、ぜひ美術館までのお散歩もお楽しみください。

「芸術の散歩道」展示作品

「芸術の散歩道」展示作品

 

日本の美術教育の原点に触れられる、美術大学ならではの展示

今回の展示は、序章「美の玉手箱を開けましょう」というテーマから始まり、ここでは、初めて「美術」を学問として捉えた、日本における美術教育最初期の様子を知ることができます。

 

東京藝術大学は、1887年に上野公園に設立された東京美術学校と東京音楽学校が包括され、1949年に創設されました。東京美術学校の設立に大きく貢献し、第2代校長も務め、日本で初めて日本美術史の講義を行ったのが岡倉天心です。本展覧会では、その日本美術史の講義ノートが展示されています。講義を聞いた学生たちは、熱心にメモを取り、清書も残したそうです。実際にノートを目にすると、学生たちの熱意や講義がいかに充実していたかが伝わってきます。

東京藝術大学蔵 岡倉天心(1863〜1913年) 本名は岡倉覚三。東京大学文学部卒業後、文部省に就職したのち、専修学校の教員を務める。アメリカ出身の東洋美術史家アーネスト・フェロノサと日本美術の調査を行い、1886年からは欧米の美術の視察に出向くなど、東京美術学校設立に尽力。美術史家、美術評論家として英文の著作も残した

東京藝術大学蔵
岡倉天心(1863〜1913年)
本名は岡倉覚三。東京大学文学部卒業後、文部省に就職したのち、専修学校の教員を務める。アメリカ出身の東洋美術史家アーネスト・フェロノサと日本美術の調査を行い、1886年からは欧米の美術の視察に出向くなど、東京美術学校設立に尽力。美術史家、美術評論家として英文の著作も残した

 

岡倉は、「歴史は過去の事蹟を編集した記録であるから死物だとするのは誤りで、私たちの体内にあって活動しつつあるのが歴史なのだ」と訴えたそう。これが日本美術史学のはじまりなのです。日本初の美術学校の収蔵品だからこそ、このような“日本美術史の原点”に触れることができます。

「序章 美の玉手箱を開けましょう」の展示風景

「序章 美の玉手箱を開けましょう」の展示風景

『日本美術史』講義ノート (講述)岡倉天心・(筆記)原安民 明治24年(1891年) 東京藝術大学蔵 通期展示 東京藝術大学美術学部の前身、東京美術学校の創立に尽力した岡倉天心による日本美術史の講義を記録したノート

『日本美術史』講義ノート (講述)岡倉天心・(筆記)原安民 明治24年(1891年) 東京藝術大学蔵 通期展示
東京藝術大学美術学部の前身、東京美術学校の創立に尽力した岡倉天心による日本美術史の講義を記録したノート

 

「教科書で見たことある!」重要な作品が目白押し

世代によって多少異なるかもしれませんが、筆者(アラサー)は「教科書で見たことある!」と興奮してしまう作品にいくつか遭遇しました。まず、16〜17世紀に描かれた《源氏物語図屏風》と江戸時代の《源氏物語画帖》。前者は、桃山時代を代表する絵師・狩野永徳の画風を引き継ぐ絵師らが制作したと伝えられているものです。『源氏物語』といったら、まさにこの絵図のような世界観が思い浮かびます。大きい作品なのでダイナミックさを感じますが、細部を見るととても繊細で、じっくり見入ってしまいました。

 

そして、《源氏物語画帖》(伝 土佐光則、宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示〈場面替えあり〉)はとにかく鮮やかで美しい色彩に心を奪われます。『源氏物語』の物語文の一部とその場面の絵画を小型の色紙に描いたこのような画帖は、近世初期に上層階級の婚礼道具の一つとして制作されたそうです。十二単の色合いや柄の一つひとつまで注目したくなります。

 《源氏物語図屏風》伝 狩野永徳 桃山時代(16~17世紀) 宮内庁三の丸尚蔵館 9月4日までの展示 《源氏物語図屏風》展示風景。少し離れて全体を見渡しても、近づいて細部を見ても、作品の素晴らしさが伝わってきます

《源氏物語図屏風》伝 狩野永徳 桃山時代(16~17世紀) 宮内庁三の丸尚蔵館 9月4日までの展示
《源氏物語図屏風》展示風景。少し離れて全体を見渡しても、近づいて細部を見ても、作品の素晴らしさが伝わってきます

 

次に、国宝の《蒙古襲来絵詞》は、鎌倉時代に2度モンゴル軍が日本に攻め入った「元寇」を表した絵巻です。日本史で習ったことを目の当たりにした感覚になると同時に、「元寇」という言葉がそもそも懐かしい! 作者や描かれた背景などは謎が多いそうですが、こうして当時の戦の様子を見ることができる貴重な史料ですね。

 《蒙古襲来絵詞》の展示。教科書で見たときに、元軍の武器「てつはう」や毒矢がこわいと感じたのを思い出しました

《蒙古襲来絵詞》の展示。教科書で見たときに、元軍の武器「てつはう」や毒矢がこわいと感じたのを思い出しました

 

「かわいい」は時代を超えて

「生き物わくわく」では、鳥や犬猫、獅子などさまざまな動物の美術作品が展示されていて、動物好きの筆者はときめきました。作品のジャンルも絵画や木彫り、陶磁などと数多く、多様な角度から愛らしい動物たちを楽しむことができます。

「3章 生き物わくわく」の展示が始まります

「3章 生き物わくわく」の展示が始まります

 

まず心惹かれたのは、明治時代に制作された銅製の《鼬》と明治〜大正時代に制作された牙彫の《羽箒と子犬》。どちらもころんとしたフォルムと、自然体ながら愛くるしい表情がたまりません。《鼬》は、棚飾りとして伝わる明治天皇の御遺品だそうです。

《鼬》明治時代(19世紀) 銅、鋳造、彫金 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 通期展示

《鼬》明治時代(19世紀) 銅、鋳造、彫金 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 通期展示

《羽箒と子犬》明治〜大正時代(20世紀) 牙彫 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 8月28日で展示終了

《羽箒と子犬》明治〜大正時代(20世紀) 牙彫 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 8月28日で展示終了

 

彫刻家・高村光雲の木彫りも見どころの一つ。《矮鶏置物》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、8月28日で展示終了)と《鹿置物》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、8月30日から展示)は、観察眼が鋭く写実的な高村の作品だけあって、それぞれの動物の特徴が細部まで丁寧に表されています。特に《矮鶏置物》は、矮鶏の羽の一枚一枚まで繊細に作り込まれていて、まるで生きているかのような見事さ。ずっと見ていても飽きません。

 

酒井抱一による江戸時代の作品《花鳥十二ヶ月図》は、その名の通り、12カ月それぞれのお花と鳥が描かれた連作です。写真のない時代に、動き回る鳥をここまで精緻に捉えて描くとは……日本の春夏秋冬を感じられ、大変味わい深いです。円山応挙による《牡丹孔雀図》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、8月30日から展示)も、華やかで見応えのある作品です。ほかにも、8月30日からは伊藤若沖の国宝《動植綵絵》の展示もはじまり、《梅花小禽図》、《桃花小禽図》、《向日葵雄鶏図》、《紫陽花双鶏図》など、鳥だけでも見逃せない作品が多数展示されます。

酒井抱一《花鳥十二ヶ月図》江戸時代 文政6年(1823) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 8月28日で展示終了

酒井抱一《花鳥十二ヶ月図》江戸時代 文政6年(1823) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 8月28日で展示終了

 

国宝の《唐獅子図屏風》もさすがの迫力です。右隻は狩野永徳によって桃山時代に描かれたもので、現在は屏風になっていますが、もともとは主人の座の背後を飾る床壁貼付だったそう。そして、屏風となった永徳の作品に添わせるために、ひ孫の常信が補作したのが左隻です。こちらは江戸時代に制作されたので、見比べてみても面白いですね。

狩野永徳・常信《唐獅子図屏風》(右隻は桃山時代(16世紀)、左隻は江戸時代(17世紀)) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 8月28日で展示終了 異なる時代に描かれた同じ題材の作品、しかも作者が曽祖父とひ孫で見比べるというのは、とても興味深いです

狩野永徳(右隻)・常信(左隻) 国宝《唐獅子図屏風》(右隻は桃山時代(16世紀)、左隻は江戸時代(17世紀)) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 8月28日で展示終了
異なる時代に描かれた同じ題材の作品、しかも作者が曽祖父とひ孫で見比べるというのは、とても興味深いです

 

最後に、山口素絢による1792年の作品《朝顔狗子図》を紹介したいと思います。「狗子」とは子犬のことですが、「いぬころ」あるいは「いぬっころ」と読まれていたそうで、しかも江戸時代の子どもたちは子犬を「ころころ」と呼んでいたとも言われています。「ころころ」と思わず呼びかけたくなるような、丸々したかわいい子犬が3匹描かれています。江戸時代の人たちも「いぬころ」と呼んで子犬を可愛がっていたかと思うと、いつの時代も人の心をつかむチャーミングさは変わらないのだなぁ……と親近感を覚えました。

 

難しいことは抜きにして、ひたすら「かわいい!」と楽しめるこちらの展示。時代を超えた普遍的なかわいさに心躍ります。

 

本レポートには紹介しきれない素晴らしい展示もたくさんあり、見応え抜群なので、ぜひ足を運んで実際に「日本美術をひも解いて」みてください。日本美術について、4つのテーマから多角的に理解を深めることができます。

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