教育とは科学である。学校と先生の最前線を教えてもらった!
今、教育現場では、科学的な視点がどんどん取り入れられているようです。そんな教育の最前線をはじめ、先生という仕事の魅力について教えてくれる、佛教大学通信教育課程(以下佛大通信)主催の講演会が開催されたのでうかがってきました。
データが学校の勉強にもスポーツにも役に立つ
講演会のテーマは「『先生』という仕事の魅力 —教育学入門—」。講師は佛教大学副学長・教育学部教授の原清治先生です。講演会は、佛大通信の魅力、学校や先生の現状の話からスタートしたのですが、原先生のよく通るバリトンの美声にびっくり。聴講者の間を動き回ったり、身振り手振りを交えたり、テンポも間も抜群なのです。
「先生という仕事もそうなんですが、人前で話す内容はもちろん、話す人間が魅力的じゃないと、聞く側はしんどいですよね。私の話、どうですか? おもしろいでしょ。それは私が魅力的な人間だからです! ハイ、ここ笑うところ」と、ユーモアもたっぷりで、会場は瞬く間に原ワールドに引き込まれていきます。
原先生の話ぶりは、長年の経験によって培われたもので、新米の先生にはなかなかできることではありません。以前の教育現場なら、話し方をはじめ、各教科の指導法は「ベテランの先生の技を見て盗め」でしたが、今、それが変わりつつあります。データ分析などエビデンスに基づく科学的な視点に立った指導法を先生同士で共有・活用するようになってきたのです。
「教育とは科学です」と原先生。内田良先生※が分析された中学・高校の主要部活動で過去に発生した死亡事故のデータを例に挙げ、教育=科学であることを説明します。データによると、主要部活での死亡生徒数が最多なのは柔道部で、亡くなった生徒のほとんどが1年生、時期は4月〜6月に集中していることがわかりました。
※内田良:名古屋大学准教授。著書に『柔道事故』(河出書房新社,2013)など
ここから読み解けることは何か? 原先生の質問に、柔道経験者の聴講者が挙手して「柔道を始めたばかりで、受け身ができていないから」と回答。確かに受け身の習得どころか、それすら知らない初心者をいきなり投げてしまっては大変危険です。
「このデータを取ったことで、はじめにしっかり受け身を教えたり、頭部を守るプロテクターを着けたりと、死亡事故を防ぐために何をすればいいかがわかり、学校現場で対策がとれるようになりました」
また、原先生は、跳び箱を飛べない生徒を飛べるようにするにはどうすればいいのか、できない理由と指導法を科学的に検証した事例も教えてくれました。
「跳び箱の指導が上手な先生と、指導して間もない先生にアイカメラを装着して視線を分析しました。すると、指導歴の浅い先生は飛べない生徒の手をつく位置しか見ていません。一方、指導の上手な先生は手のつく位置や踏み切り板の使い方など全体を見て教えていることがわかりました。これにより、跳び箱を教えるには、どこに注意してどう指導すれば飛べるかがわかってきたのです」
科学の力を身につけた先生が教育と子どもの未来を担う!
科学の力によって改革が進む教育現場ですが、今、大きな問題を抱えています。それは学校の先生になりたい人が減少傾向にあることです。2019年の公立小学校の教員採用試験の競争率は過去最低となる2.8倍だったといいます。
「長時間労働をはじめ、学校=ブラックといったイメージが蔓延していることが原因のひとつです」と、原先生は嘆きます。
先生のなり手が減ると、質の高い先生を採用できなくなり、教育そのものの質が低下しかねません。これは、私たちにとって無視できない問題です。先生たちの指導力を下げないためにも、「エビデンスに基づいた指導」の確立が大切だと原先生は考えます。
筆者はこの講演で初めて原先生に教えてもらったわけですが、おもしろくて吸い込まれるような伝え方、会場からのどんな質問や意見に対しても「それはいいね」と受け止めてくださる姿勢にすっかり魅了され、「こんな先生に出会いたかった」と悔しくなったほどです。
原先生は佛教大学でたくさんの先生の卵を育てていらっしゃいます。原先生のような情熱と、教育=科学の力を身につけた学生さんたちがどんどん巣立っていけば、学校も社会ももっと良くなると思いました。