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教育とは科学である。学校と先生の最前線を教えてもらった!

2020年3月10日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

今、教育現場では、科学的な視点がどんどん取り入れられているようです。そんな教育の最前線をはじめ、先生という仕事の魅力について教えてくれる、佛教大学通信教育課程(以下佛大通信)主催の講演会が開催されたのでうかがってきました。

データが学校の勉強にもスポーツにも役に立つ

講演会のテーマは「『先生』という仕事の魅力 —教育学入門—」。講師は佛教大学副学長・教育学部教授の原清治先生です。講演会は、佛大通信の魅力、学校や先生の現状の話からスタートしたのですが、原先生のよく通るバリトンの美声にびっくり。聴講者の間を動き回ったり、身振り手振りを交えたり、テンポも間も抜群なのです。

 

「先生という仕事もそうなんですが、人前で話す内容はもちろん、話す人間が魅力的じゃないと、聞く側はしんどいですよね。私の話、どうですか? おもしろいでしょ。それは私が魅力的な人間だからです! ハイ、ここ笑うところ」と、ユーモアもたっぷりで、会場は瞬く間に原ワールドに引き込まれていきます。

 

原先生の話ぶりは、長年の経験によって培われたもので、新米の先生にはなかなかできることではありません。以前の教育現場なら、話し方をはじめ、各教科の指導法は「ベテランの先生の技を見て盗め」でしたが、今、それが変わりつつあります。データ分析などエビデンスに基づく科学的な視点に立った指導法を先生同士で共有・活用するようになってきたのです。

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聞きやすくて面白い原先生の話についつい引き込まれてしまう。

 

「教育とは科学です」と原先生。内田良先生が分析された中学・高校の主要部活動で過去に発生した死亡事故のデータを例に挙げ、教育=科学であることを説明します。データによると、主要部活での死亡生徒数が最多なのは柔道部で、亡くなった生徒のほとんどが1年生、時期は4月〜6月に集中していることがわかりました。

※内田良:名古屋大学准教授。著書に『柔道事故』(河出書房新社,2013)など

 

ここから読み解けることは何か? 原先生の質問に、柔道経験者の聴講者が挙手して「柔道を始めたばかりで、受け身ができていないから」と回答。確かに受け身の習得どころか、それすら知らない初心者をいきなり投げてしまっては大変危険です。

 

「このデータを取ったことで、はじめにしっかり受け身を教えたり、頭部を守るプロテクターを着けたりと、死亡事故を防ぐために何をすればいいかがわかり、学校現場で対策がとれるようになりました」

 

また、原先生は、跳び箱を飛べない生徒を飛べるようにするにはどうすればいいのか、できない理由と指導法を科学的に検証した事例も教えてくれました。

 

「跳び箱の指導が上手な先生と、指導して間もない先生にアイカメラを装着して視線を分析しました。すると、指導歴の浅い先生は飛べない生徒の手をつく位置しか見ていません。一方、指導の上手な先生は手のつく位置や踏み切り板の使い方など全体を見て教えていることがわかりました。これにより、跳び箱を教えるには、どこに注意してどう指導すれば飛べるかがわかってきたのです」

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当日、会場には100名を大きく超える聴講者が。原先生のファンという人もちらほら。

科学の力を身につけた先生が教育と子どもの未来を担う!

科学の力によって改革が進む教育現場ですが、今、大きな問題を抱えています。それは学校の先生になりたい人が減少傾向にあることです。2019年の公立小学校の教員採用試験の競争率は過去最低となる2.8倍だったといいます。

 

「長時間労働をはじめ、学校=ブラックといったイメージが蔓延していることが原因のひとつです」と、原先生は嘆きます。

 

先生のなり手が減ると、質の高い先生を採用できなくなり、教育そのものの質が低下しかねません。これは、私たちにとって無視できない問題です。先生たちの指導力を下げないためにも、「エビデンスに基づいた指導」の確立が大切だと原先生は考えます。

 

筆者はこの講演で初めて原先生に教えてもらったわけですが、おもしろくて吸い込まれるような伝え方、会場からのどんな質問や意見に対しても「それはいいね」と受け止めてくださる姿勢にすっかり魅了され、「こんな先生に出会いたかった」と悔しくなったほどです。

 

原先生は佛教大学でたくさんの先生の卵を育てていらっしゃいます。原先生のような情熱と、教育=科学の力を身につけた学生さんたちがどんどん巣立っていけば、学校も社会ももっと良くなると思いました。

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会場に並ぶ、原先生監修の書籍。『新しい教職教育講座 教職教育編』、『新しい教職教育講座 教科教育編』(共にミネルヴァ書房)

 

佛教大学で今後の人生にも活かせる「仏教」の教えに触れてきた!

2020年2月18日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

仏教というと、深く関わるのは法事や葬儀ぐらい。自身の宗派や教えを明確に答えられる人は少ないと思います。そんな仏教について、ゼロから教えてくれる、佛教大学通信教育課程(以下佛大通信)主催の講演会が開催されたので、聴講してきました。

知らず知らずのうち仏教的に生きている

今回の講演会のテーマは「善と悪を見つめる―仏教入門―」。講師は佛教大学仏教学部准教授で、大阪にある見性寺(けんしょうじ)の住職でもある伊藤真宏先生です。

なじみがあるようで実はあまり知らない仏教の教えを、私たちが日々遭遇するできごとを例に、わかりやすく、楽しく解説。その中でも、自分の中にひそむ悪や苦しみに焦点をあてた内容だったからか、聞いていて心がすっと軽くなる気がしました。

親しみやすい語り口が魅力の伊藤真宏准教授

親しみやすい語り口が魅力の伊藤真宏准教授

幅広い年代の方たちが約60名も聴講。仏教への関心、生涯学習への意欲の高さがうかがえます。会場は紫野キャンパスの礼拝堂(水谷幸正記念館)

幅広い年代の方たちが約60名も聴講。仏教への関心、生涯学習への意欲の高さがうかがえます。会場は紫野キャンパスの礼拝堂(水谷幸正記念館)

 

「まず仏教とは何かというと、仏教の開祖・釈尊(釈迦の尊称)をはじめ、7人の仏が共通して説いた教えで、諸悪莫作(しょあくまくさ)・衆善奉行(しゅぜんぶぎょう)・自浄其意(じじょうごい)・是諸仏教(ぜしょぶっきょう)です」と伊藤先生。難しい言葉が並びましたが「要は、悪いことはするな。心を浄め、善いことをしなさいということ。これって、子どもの頃から教えられ、心がけてきたことですよね。信仰や宗派を意識することはなくても、多くの人が仏教的な生き方を実践しているのです」。

 

教えの文字だけ見ると難解ですが、私たちには仏教の教えが知らず知らずのうちに息づいているんですね。

希望と現実のギャップによる苦しみと向き合う

誰もが仏教的な教えを受けてきた一方、人は悪を犯すこともあります。

 

「遅刻して迷惑をかけたり、あらぬ発言で人を傷つけたりすることも仏教では悪。例えば、旅行の行先を決める際、相手と望む場所が違うとどちらかが我慢し、腹が立つこともあるでしょう。なぜそうなるのか。人は欲望のまま生きているからです。この欲望の渦から出てくるのが“煩悩”。仏教では貪(とん)=欲深さ、瞋(しん)=怒り、痴(ち)=無知を三毒の煩悩といいます」

 

もちろん、何もかもが思い通りにいくことは「まあ、ありませんよね」と語りかける伊藤先生。思わず「そうそう」とうなずいてしまいます。

ホワイトボードを使ったわかりやすい解説に引き込まれます

ホワイトボードを使ったわかりやすい解説に引き込まれます

 

「明日、絶対晴れてほしい予定があるのに天気予報は雨。この欲望と現実のギャップが苦しみであり、釈尊は人生一切苦とおっしゃっています。ただ、天気予報が外れることもあるし、なぜ雨なのかと怒るより、雨ならどう過ごそうかと考える方が有意義ですよね。仏教はこのように起きた現実をいかに受け入れるかを説いているのです」。

 

確かに、思い通りにいかない!とイライラするより、現実を考える方が楽しいと思います。

 

「煩悩や希望と違う現実に対処するために、仏教には五戒という教えがあります。殺生(せっしよう)・偸盗(ちゅうとう)・邪淫(じゃいん)・妄語(もうご)・飲酒(おんじゅ)という戒律を守り、善い行いをしようというものです」。

 

殺生は生きものを殺さない、偸盗は盗みをしない、妄語は嘘をつかない。「邪淫は某芸能人が世間を騒がせているような不倫をしてはいけない、です」とホットなネタも交えた解説に笑いがおきます。

 

「飲酒はお酒を飲んではいけない。これはツラいですね。でも、お酒には薬効もあるので、釈尊は飲酒によって4つの戒律を犯してしまうのなら飲まない方がいいとおっしゃっています」。

 

こういわれると、飲酒はほどほどにと納得できるし、教えの懐の深さを感じます。

 

最後に伊藤先生は仏教との関わり方を現代の風潮を例に教えてくれました。

 

「今、少しでも過ちを犯せば、SNSが炎上したり、謝罪会見が開かれ、殊更に責められたりします。ただ、悪は誰しもに存在し、悪を犯す可能性もある。そうなると立場逆転ですから、人を必要以上に追い詰めるべきではありません。自分の中の悪をみつめ、五戒を守るなど悪に行かないようにする。その方向づけをしてくれるのが仏教です」。

 

伊藤先生のお話はとにかく面白くて、講演はあっという間に終了。その中で、仏教とは苦しみの中で幸せに生きるための方法だと感じました。次に仏教の講演会があれば、ぜひご参加を。

目的は無目的に集まること!? 京大の名物企画「全分野交流会(特別版)」に行ってみた。

2020年1月28日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

「京都のすべての大学から1名ずつ以上は集めて、ミニ『学術の街、京都』を再現してみたい!」

 

わかるようで、わからない。でも、何となくすごく惹かれるフレーズ……。これは、昨年末に開催された、京都大学が主催する「全分野交流会」という学術交流イベントの告知チラシのコピーです。

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チラシに大書された、例のコピー

 

このチラシのデータとともに、「面白いことをやる」と、本イベントの主催者である宮野公樹先生から連絡があり、イベントの内容をうかがいに、そして参加するために、会場となる「Impact Hub Kyoto」にうかがいました。ちなみに宮野先生は、以前、ほとゼロでレポートした「京大100人論文」の発起人。こちらもユニークな取り組みなので、未読の方はぜひご一読を!(記事はこちら

多様な人が学術的な対話を繰り広げる場

まずは宮野先生に今回のイベント開催のきっかけや目的をうかがうと「一度、やってみたかったんです」とひとこと。え、それだけですか?

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京都大学学際融合センターの宮野公樹先生(左)と井出和希先生(右)

 

「全分野交流会は2014年から開催しており、さまざまな興味や関心のある人たちが、目的もなくただ集まることを目的にしたイベントです。今回はこの特別版として、京都にあるすべての大学の関係者を集めてみたいと思って企画しました」

 

イベントの目的もなければ、具体的なプログラムもないとのこと。なんとまぁ大ざっぱな……と思いつつ話しをうかがっていくと、大上段に構える目的はないものの、その裏にはしっかりとした想いがあることがわかってきました。

 

「研究者は、授業や雑務をこなしているとき以外は、すべて研究のための時間だと考えている人が多い。オフがないんです。でも、これだとダメ。異分野と接することで、新たな知識を得たり、自分の考えは狭くないかと内省したりする、そういう時間も必要です。全分野交流会をはじめた理由は、そんな研究者たちと刺激しあう『ヒリヒリとした学術対話』がしたかったからです。大学のため! 学術のため! というより、自分自身がそうしたかったからです」

 

さらに、「目的をつくらないことで、参加者それぞれが自身の視点で価値をつくってくれるというのがあります。美術鑑賞みたいなものです。美術品への説明がなければ、それぞれがそれぞれの視点で作品を解釈する。これと同じで、こっち側で目的をつくらないことで、参加者はそれぞれの視点でこのイベントの価値を見つけ楽しんでくれます」

 

うーん、深い。ちなみに「全分野交流会」は、研究者のため、と言いつつも、大学関係者はもちろん、大学と縁もゆかりもない一般の人でも参加が可能です。普段生活しているだけでは、大学の研究者と自由気ままに対話ができる機会なんてそうそうありません。そういう意味では、一般の人にとっても、だいぶ刺激的なイベントなのではないでしょうか。

参加者120名! 会場はまさにミニ総合大学

さて、宮野先生と井手先生への取材が終わり、しばらく経つと「全分野交流会(特別版)」の開催です。今回は京都にある43大学のうち33の大学関係者が参加し、さらに大阪や神戸の大学関係者、公務員や企業人、フリーランスのクリエイターなども参加。なんと、合計すると120名もの人たちがやってきました。明確な目的がないイベントにも関わらず、この動員数は驚きです。しかも、当初の募集人数は70名だったとか。倍近い人が押し寄せたことになります。

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会場はどこもかしこも人、人、人!

 

受付では、全参加者の名前と所属、「こんなことなら私に聞いて」、「あなたの今の問いは」がまとめられたリストを配布。参加者はこのリストを見て、気になる人を探して話しかけることになります。これなら自らの目的にあわせて、イベントを利活用することも容易です。

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参加者たちはリストを見ながら誰に何を話すか思いを巡らす

 

19時からのイベントでしたが、開会の挨拶があるわけでもなく、なんとなく会はスタート。とはいえ、18時半ごろから訪れる来場者も多く、19時にもなると会場はとてつもない熱気でした。

 

19時半ごろに宮野先生から挨拶がありました。形式張ったものではなく、とてもフランクなもの。取材時に語ってもらった、今回のイベント開催理由である「とにかく一度やってみたかったから」も飛び出し、会場は笑いにつつまれます。

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なごやかなムードで行われた、宮野先生の挨拶

 

参加者に声をかけると「人のバリエーションがすごい!」、「専門が高等教育なので大学関係者と話せて刺激を受けた!」、「集まっただけなのに、この満足感はなんなのでしょう?」などなど、たくさんの人が有意義な出会いと会話への喜びを興奮気味に語ってくれました。

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会場のあちこちで真剣な対話が生まれていた

 

過去には、小学生の参加もあったという「全分野交流会」。このイベントがきっかけとなり、共同研究につながった事例も少なくないようです。京大内で開催される「全分野交流会」は月1回、特別版は年2回のペースで今後も開催予定とのこと。アカデミックな世界であったり、「真剣な対話や、本質的な対話」に興味があるなら、目的の有り無しかかわらず、まずは飛び込んでみてはいかがでしょうか? なお、「全分野交流会(特別版)」の様子は京都大学学際融合教育研究推進センターのウェブサイト上で動画を公開中。当日の熱気がびんびんと伝わるので、こちらもご覧ください!(動画はこちら

異論大歓迎!大学の研究にもの申そう!「京大100人論文」

2019年9月19日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

大学の研究には、普段の生活ではまず思いつかないような面白い視点や発想、ハッとする発見や知識が詰まっています。そんな研究に関わる、さまざまなテーマが貼り出され、付箋を使って、ざっくばらんに意見交換ができるイベントが京都大学で開催されました。その名も「京大100人論文」。このユニークなイベントの魅力を知るべく、京大に行ってきましたのでご紹介します。

付箋でコメントのアナログ感も魅力。

「京大100人論文」は、学際融合を目指す京都大学学際融合教育研究推進センターが主催し、異なる分野の研究者が良縁を結んで、新領域の研究を生み出すことを目的に2014年にスタートしました。立案したのは、同センター准教授、宮野公樹先生です。

 

内容は、京大の教員、研究者、学生、院生、職員約100名が「私の研究テーマはこんな感じです」、「こんなコラボがしたい」、「私、こんなことができます」という3項目について、それぞれ120文字程度の文章にまとめて、学会でよく行われるポスター発表のように掲示。そこに、来場者が付箋にコメントを書いて貼りつけていくのが「100人論文」の最大の特長です。

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リラックスできる空間で、誰もが思い思いに研究内容を読みふける

 

今年からは、もう少し詳しく研究内容を語るために「私の研究内容はこんな感じ」を300文字に増やし、研究を表すタイトルとビジュアルを追加。さらに、コラボだけでなく、もっと広く意見を聞いたり、述べたりできるよう、2つ目、3つ目の設問が「こんなことを話し合いたい、教えて欲しい」、「このことなら私に聞いて」にリニューアルされました。

 

会場に入ると、新たに生まれ変わった研究紹介が壁一面に掲示されているのですが、名前や組織名、専門分野はなく、大きく番号のみが研究紹介の上に書かれています。宮野先生いわく、これは「来場者がバイアスをかけずに、本音でコメントできるように」という配慮から。付箋を使うのも「キーボードやスマホで簡単に打たれた言葉の軽さとは違って、肉筆によるリアルさと、わざわざ書いて放つ言葉には重みがある」という狙いがあってのことだと言います。

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参加者は思い思いに付箋にコメントを書き込む

 

研究紹介を理解するのは大変だろうと思いつつ、いざ読んでみると、どれもわかりやすい!文章は簡潔で、難しいグラフや図形などはありません。『ノドの進化:歌うサル、しゃべるヒト』『社会主義でも民主主義でもない、やりがいを引き出す「楽しさ主義」』など、タイトルもキャッチーで、これに添えられたビジュアルも興味を刺激します。また、それぞれの研究紹介に貼られた、色とりどりの付箋に目を向けると、素朴な意見から示唆に富んだアドバイスまであり、こちらはこちらでかなり面白い。「こんな捉え方もあるのか」と、感心するものがたくさんありました。

 

来場者に話をうかがうと「ボードのデザインも展示位置も読みやすい」「どれも面白くて、つい読み込んでしまった」と好評。出展した研究者は「たくさんの付箋が貼られていてびっくり。私の研究に興味を持つ人の存在を視覚的に感じられた」と喜んでいました。

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研究内容を表現したビジュアルとキャッチが興味を刺激する

良縁の場より「研鑽の場」の創出を。

「京大100人論文」は、今年で5回目。昨年度のイベントからは40件以上の共同研究が生まれました。たくさんの実績をつくってきているものの、宮野先生はこの結果に満足していません。それどころか、イベントの一番の目的は、共同研究の創出よりも、「研鑽の場を創出すること」だと言います。「イベントでは匿名だからこそ偏見も忖度もない本音の意見を知ることができます。さらに出展者と発言者は、専用の掲示板でイベント後も活発な意見交換を続けることができます。研究者は、異分野と接することで、知らない世界を知り、新しい知識や考え方を得られる。これは自らの先入観や偏見を破壊し、再構築していくことにつながります。時には自分の考えは狭くないかと内省したり、真っ向から議論を挑んだり、分野を超えた学術対話が生まれる。それこそが学問であり、研究や研究者は、これによってこそ磨かれる」と、宮野先生は語ります。

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話し出すと、とにかく熱い宮野先生

東京ドームで『10,000人論文』を。クラウドファンディングも推進!

「京大100人論文」は、宮野先生が運営ノウハウをオープンにしていることもあり、共同研究や異分野融合を図るモデルとして全国の大学に広がりつつあります。

 

「茨城大学や横浜国立大学、関西大学などでは同様のイベントが開催されています。今後は大学だけでなく、自治体や企業なども巻き込んで、いつかは東京ドームで『10,000人論文』を開催したいですね」と、宮野先生は楽しそうに夢を語ってくれました。

 

最後になりましたが、「京大100人論文」では、研究内容や付箋コメントを掲載した冊子制作のためのクラウドファンディングを実施しています。出資すると金額ごとに、支援者として冊子への名前掲載や冊子の贈呈など、さまざまなリターンが得られます。本記事を書いた9月15日段階で、すでに目標金額500,000円を達成しているのですが、興味のある方はぜひご支援ください。

 

来年の「京大100人論文」はどんな進化をするのか、今から楽しみです。興味のある方はぜひ来年、京大に足を運んで、忌憚のない意見を「貼り付け」てください。

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今年の来場者は5日間で534名。短期間ながら多くの人が押し寄せた。当日の様子をまとめた動画はこちら

心を読み解く日本初の学問・帝塚山学院大学「スイーツ心理学(R)」でしあわせに!

2019年5月16日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

大人も子どもも多くの人が大好きなスイーツ。一口食べた瞬間、とてもしあわせな気持ちになりますよね。このスイーツを対象とした日本初の学問が2018年4月より帝塚山学院大学で展開されていると聞き、取材に伺いました。

登録商標取得。心理学ではかつてない着眼点

スイーツを学ぶというと、レシピや商品開発、マーケティングと思いがちですが、帝塚山学院大学のそれは異なります。

学問名は「スイーツ心理学(R)」。スイーツ(甘い食べ物、デザート)を対象とし、心理学の知識や手法を活用して、ポジティブな感情を喚起する仕掛けを考案する、帝塚山学院大学が独自に創造した学問領域なのです。

 

「スイーツ心理学(R)」を設立し、ゼミで教鞭を執っているのが、今回取材に伺った人間科学部心理学科教授・大本浩司(だいもとひろし)先生です。

新たな切り口の心理学。その可能性について話す大本先生

新たな切り口の心理学。その可能性について話す大本先生

大本先生は、産業分野で心理学の知見や手法を活用し、大手メーカーや研究機関などで、音声対話インタフェースのパーソナリティ設定や設計・評価技術、心理学の多様な手法を用いての利用実態調査、UX(ユーザーエクスペリエンス)の分析、開発思想の明確化など、人間中心の機器やサービスの研究開発に携わってきました。

 

そんな大本先生が心理学の学問対象にスイーツを選んだ理由は、「甘いものを食べると脳のエネルギー源になるといった脳科学的な知見はあるのですが、これほど多くの人がしあわせな気持ちになれる物質であるにも関わらず、心理学の学問の中で研究対象として選ばれることが少なく、基礎研究から応用研究まで幅広く取り組むことで今までにない新しい心理学の学問領域を開拓できると考えたからです」といいます。

 

例えば、スイーツをプレゼントされるとうれしい、しかもかわいい箱に入っていたりすると喜びもおいしさもアップしますよね。また、何か粗相があった時、菓子折りを持って謝罪にいきますが、高価なもの、重みを感じるものだと、謝罪の気持ちがより伝わるともいわれています。こういった心理的効果について「味覚だけではなく、社会的な文脈の中でスイーツの効用を明らかにしていく」というのが、大本先生のねらいです。

スイーツでポジティブになれる訳を探求・把握できるように

ゼミでは学生たちがさまざまなスイーツを取り上げ、味はもちろん、パッケージや原材料から受ける印象、食べる前後の感覚・感情などを細かく検証し、スイーツの価値を評価していきます。もちろん、この時、実食が必須で、有名店の高級スイーツが登場することもあるとか。なんともうらやましい限り!学生さんたちも実食はかなりうれしいようで、スイーツは学びのモチベーションアップにも役立っているようです。

ケーキを前に心理評価を行うゼミの様子

ケーキを前に心理評価を行うゼミの様子]

こうして考察した価値・評価内容を基に心に及ぼす影響を把握するための物差しとなる「心理尺度」を開発・確立することが「スイーツ心理学(R)」の大きな目標のひとつ。

「スイーツに特化した心理尺度を確立できれば、一人ひとり異なり、曖昧だったスイーツが心に作用する影響を明確に把握できることはもちろん、どのような状況でどのような消費者がどのような心的価値を求めているのかを踏まえたスイーツの開発、パッケージデザイン、空間づくりにも活用できるのではないか」と大本先生は期待を寄せます。

学部も人も街も巻き込めるスイーツのすごいポテンシャル

大本先生がスイーツを選んだのにはもう一つ大きな理由があります。

「スイーツは、学部・学科を越えての連携、地域活性化、社会貢献を実現する、非常に強力なツール、コンテンツだからです」。

 

実際、「スイーツ心理学(R)」では他学部・他学科と連携し、地域貢献を目指すプロジェクトも実施。その第一弾が大阪・帝塚山に本店を構え、大学ともゆかりのある老舗和菓子店「福壽堂秀信」とのコラボレーションです。

 

コラボレーションでは「若い人にもっと和菓子のおいしさ、魅力を知ってほしい」という福壽堂秀信の思いを叶えるため、お店がこだわりを持つ自家製あんを題材に、情報メディア学科・佐藤安専任講師がキャラクター「あずきんちゃん」を作成。あずきんちゃんは、“あずき大好き”と、童話の『赤ずきんちゃん』を掛け合わせた造語で、人格心理学が専門の心理学科教授・西川隆蔵先生がキャラクターのパーソナリティを設定。あずきんちゃんのストーリーや世界観を構築するため、おばあさんやオオカミ少年のペロくんも登場。佐藤先生を中心に情報メディア学科の学生たちも協力してアニメーションやプロジェクションマッピングも完成させました。

 

さらに食物栄養学科・福田ひとみ教授と勝川路子専任講師の指導のもと、食物栄養学科の学生が考えたアイデアを基軸にあずきを使った「あずきんちゃんプリン」「あん珈琲ゼリー」「フルーツ羊羹」「学院まんじゅう」という帝塚山学院スイーツを福壽堂秀信と共同開発。商品開発にあたっては、学内コンペが行われ、心理学科の学生も参加したそうです。

4種類の帝塚山学院スイーツが登場する「あずきんちゃん」のオリジナル絵本(4巻完成済み)

4種類の帝塚山学院スイーツが登場する「あずきんちゃん」のオリジナル絵本(4巻完成済み)

全学あげてオリジナルキャラクターやコラボ商品を使い、福壽堂秀信の創業70周年にあたる 2018年11月25日(日)、帝塚山本店にて「あずきんちゃんフェスタ」を開催。食物栄養学科の有志の学生が参加して開発したプリンとゼリーを販売したところ、大行列ができ、あっという間に完売。あずきんちゃんのアニメーションやプロジェクションマッピングも公開し、商品がもつ世界観をさらに盛り上げました。さらに、小さなお子様が「あずきんちゃん」の塗り絵も楽しめるようにしたことで、これまで福壽堂秀信へ訪れることがなかった新たなお客様を呼び込む要因になったのです。

カルシウムやたんぱく質が豊富な牛乳プリンをベースに、食物繊維のあるこしあんをプラスした「あずきんちゃんプリン」

カルシウムやたんぱく質が豊富な牛乳プリンをベースに、食物繊維のあるこしあんをプラスした「あずきんちゃんプリン」

限定パッケージの「もちもちどら焼き」も完売

限定パッケージの「もちもちどら焼き」も完売

学生募集や大学知名度アップの柱にも!

あずきんちゃんのアニメーションや絵本などのコンテンツは、「スイーツ心理学(R)」を広めるため、オープンキャンパスなどでも活用され、「あずきんちゃんプリン」「あん珈琲ゼリー」「フルーツ羊羹」の実食を伴う心理評価についての体験講義も実施。大本ゼミの学生たちは、あずきんちゃんの世界観の中でいただくスイーツの心理評価にどのような影響があるのか、高校生や保護者へのアンケート調査も行いました。これらを基に、ゼミ生の一人、久保真夏さんは卒業研究を実施する予定です。

卒業研究に取り組む久保真夏さん

卒業研究に取り組む久保真夏さん

「産業心理学に興味があったのですが、対象が大好きなスイーツということに惹かれましたね。ゼミでは自分で食べたり、見つけたりしたスイーツを評価して、ゼミ専用のサイトにインスタっぽくアップしたり、心理学の知見を取り入れながら9コマ漫画で紹介したりと、ゼミ課題もおもしろいんですよ」と久保さん。こういった調査・分析・考察・発表のプロセスは「スイーツだけでなく、将来、他の対象にも役立てることができます」と大本先生はいいます。

 

スイーツを食べながら、楽しく学べて、将来につながる知識が身につくなんて、筆者もゼミを受講したい!また心理学には、ネガティブな感情をどう解決していくか考察するというイメージを持っていたのですが、ポジティブな感情をさらに導くという「スイーツ心理学(R)」の明るい学びも素敵だなと思いました。

3月のオープンキャンパスでは特別にスイーツ心理学(R)のブース展開を行った

3月のオープンキャンパスでは特別にスイーツ心理学(R)のブース展開を行った

「スイーツ心理学(R)」が掲げるテーマ《おやつと心の、ふしぎな関係》が解き明かされること、学生さんたちの学びや地域・社会とのコラボレーションによって、しあわせを運んでくれるスイーツがたくさん登場することを心待ちにしています!

今年もかつてないメガネが店頭に! 京都精華大学×眼鏡市場のコラボメガネを発売!

2019年4月16日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

学生が作り上げたオリジナルメガネを実際に販売する日本唯一の産学連携プロジェクト・京都精華大学の「あいうぇあデザインあいうえお」が3期目を迎え、2月25日、全国の眼鏡市場で販売がスタート。学生たちはどんな思いでメガネを作り上げたのか伺ってきました。

芸大生だからこそのセンスが冴えわたるメガネたち。

「あいうぇあデザインあいうえお」とは、2015年に開講した、日本の大学では初となるアイウェアデザインを学ぶ授業。国内トップのメガネ産地・福井県鯖江市にあるメガネフレームデザイン会社・株式会社ボストンクラブとアイウェアデザイン事務所・Sowell Design Office、「眼鏡市場」を展開する眼鏡小売チェーン・株式会社メガネトップ、同大学デザイン学部プロダクトコミュニケーションコースがコラボレーション。「アイウェアデザイン」の授業を行って、メガネの可能性やそのデザインの面白さを感じてもらい、未来の優秀なアイウェアデザイナーの育成をめざすものです。(過去のプロジェクトはこちら、2016年度前編後編2018度

京都精華大学の眼鏡

メガネをさらに引き立てる店頭ディスプレイ。

 

今回は4名の学生さんに集まっていただき、「デザイナー」自らこだわりを紹介してもらいました。

まず、山目篤史さんがデザインしたのは「Craftsman e were」。おしゃれが好きで、メガネもコーディネートの一部と考えているものの、自分のセンスにフィットするメガネになかなか出会えなかったことから、「ちょっと無骨で重厚感のある、メガネをかけているなと実感できるデザインにしました」とのこと。

 

メガネをはじめ、モノづくりに携わる職人へのリスペクトと、いろいろなモノ、コトにこだわる人にかけてほしいという思いから「Craftsman」と名付けたそうで、太めのフレームとテンプルが存在感抜群。アセテートというプラスチック素材のクリアな質感でかけやすさも叶えています。

 

「商品化に向けては自分がカッコイイと思うポイントと多くの方に選んでもらえるポイントを合わせるのに苦労しましたね。とくにフレームのカラーはサンプルを何色見たかわからないくらい、悩みに悩んで選びました」と山目さん。

山目さん

「Craftsman e were」をデザインした山目篤史さん。

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「Craftsman e were」レンズとレンズをつなぐブリッジに光る装飾も目を引く。

 

続いては、話ししてくれたのは本山智美さん。商品名は「ablanda」で、やわらかくなるというスペイン語から名付けたのだそう。「デザインするにあって、女性100人に自分の容姿について街頭インタビューしました。すると、何かしらコンプレックスを抱えている女性が多く、メガネについては、かけていること自体がコンプレックスという声もあったのです。そこで、コンプレックスをカバーし、一段とステキに、かわいくなれるメガネをデザインしました」。

 

その言葉通り、本山さんのメガネはまさにかける化粧品! フレーム上部はブラウンのアイラインを引いたようにくっきりとした目元を演出。下部は淡いピンクのラメ入りで流行の涙袋が完成するのです。「フレームの両サイドをまつげのようにしたこともこだわりです。加工に手間がかかるとのことでしたが、無理をお願いして採用してもらいました」。

本山さん

「ablanda」をデザインした本山智美さん。

雑誌掲載

「ablanda」は雑誌『FUDGE』でも紹介された。

 

次に、伊藤千華さんがデザインしたメガネは、フランス語でウサギの意味の「Lapin」です。「私は目がよくてメガネをかけたことがないので、ファッションやインテリア、コスメからポジショニングマップを作ってデザインの方向性を決定。多くの女性が求めるかわいさを表現するために動物のうさぎをモチーフにしました。いろいろなうさぎの目を絵に起こし、つり目気味なのに大きくて丸い、愛嬌のあるフレームに。甘すぎずかっこよさも感じさせるよう、カラーは黒フチにしました」とのことで、異なるカラーのテンプルを採用することで横から見ると印象が変わることも魅力。「まつげがレンズに当たらないように、鼻が痛くならないようになど、細部まで調整するのが大変で、メガネって、いろいろなことが凝縮されてるモノだなと思いました」。

伊藤さん

「Lapin」をデザインした伊藤千華さん。

SEIKA-301 CLRE

「Lapin」キュートもクールも叶うデザイン。

 

喜田宗二郎秀信さんがデザインしたメガネは、「Craftsman」。昔ながらの職人が使っているような後頭部で止める形状が特徴です。「僕は小さい頃からメガネをかけているのですが、鼻や耳が痛いのが嫌で…。それを解消するために機能性も重視しました。後頭部の形や大きさは人それぞれで、平均化するのが難しかったですね」。喜田さんはどうしてもフレームにメタルを使いたく、自ら削り出したそう。斬新な形状や材料費の面から商品化には至りませんでしたが、「ひとつのモノを作り上げる達成感を得られたし、デザインから商品へとクオリティアップさせていくプロセスと結果を学べたのがよかったです」とのこと。

喜田さん

「Craftsman」をデザインした喜田宗二郎秀信さん。

Craftsman

「Craftsman」メガネは耳が痛い悩みを解消。

 

喜田さんの言葉を受けて、学生の指導にあたるsowell design officeの脇先生は、「メガネだけでなく、どんな商品も多くの人たちが関わり、頭を働かせ、手を動かしと、手間ひまをかけ、情熱を込めていること、それで初めて人に喜ばれるモノが完成することを学んで欲しい。また、メガネの商品化にあたってはデザイナー費も発生しているのですが、自分のデザインへの対価の意味、責任も知ってもらえると、デザイナーとして社会に出たときに役立つと思います」と総括してくださいました。

脇先生

デザイナーの先輩としてもアドバイスしてくれる脇先生。

コラボ授業出身アイウエア・デザイナーが初めて誕生!

このコラボレーションでは人材育成も目的にしていますが、なんと山目さんが卒業後アイウエアのデザイナーになることに! 3回目を迎え、初の人材輩出も達成したのです。

 

「入学した時は別分野のプロダクトデザイナーをめざしていましたが、メガネを奥深さ、面白さに魅せられて、4年次の夏休みには鯖江のメーカーで修行させてもらいました。このプロジェクトが僕の将来を決定づけてくれましたね」と山目さん。

 

コラボ授業の仕掛け人である、プロダクトコミュニケーションコース教授・平田喜大先生もこの山目さんの進路決定に大喜び。また、本山さんは高校時代に1期目のプロジェクトについて知り、入学と受講を決めたそうで、「商品化や人材育成・輩出はもちろん、オープンキャンパスで過去の作品を展示するなどして、プロジェクトをもっと広く知ってもらい、入学促進もつなげていければいいですね」と今後の展望を語ってくれました。

授業風景①

何枚も何枚もラフを描いてデザインを固めていく。

授業風景②

鯖江の工場に足を運んで工程や職人技を実感。

 

筆者も目が悪く、メガネが必要ですが、似合わない、かけにくいと不満で、使用は休日や自宅でのみになっていました。ただ、今回、学生さんたちが作り上げたメガネの今までにないカッコよさにビックリ。デザインはもちろんのこと、計算され尽くしたかけ心地の良さも魅力で、「どれもほしい」と思ったのです。みなさんもきっとビビっとくるはず。学生さんの思いが詰まったメガネをぜひ手に取って、愛用してください。

 

人間だけでなく環境の「健康」も担う?食品機能成分を大阪大学で学ぶ。

2019年3月26日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

ワインやチョコレートに含まれるポリフェノール、納豆のネバネバが健康や美容に効果があることはよく知られていますよね。そんな食品の成分をさまざまな領域に役立てる最先端研究を紹介するイベントがあると聞き、大阪大学へ行ってきました。

サイエンスをもっと気軽に、もっと身近に。

参加したのは、大阪大学が市民と大学をつなぐ社学連携、社会貢献の窓口として活動する大阪大学21世紀懐徳堂と、大阪大学歯学部附属病院・大阪大学歯学研究科が共催で定期的に行っている「サイエンスカフェ」です。サイエンスと聞くと難しそうですが、このイベントは「気軽におしゃべり」をコンセプトにミニマムな規模で行われ、先生方が自身の研究をわかりやすく、楽しく解説してくださるもの。

 

会場も大阪大学歯学部附属病院内の実際のカフェなので、おいしい飲み物とスイーツを特別料金でいただきながらお話を聞くことができ、毎回好評なんだとか。今回も性別や年齢を問わず20名以上の参加者でいっぱいです。

会場の大阪大学歯学部附属病院

会場の大阪大学歯学部附属病院

入ってすぐのカフェが会場。気軽に参加できる雰囲気

入ってすぐのカフェが会場。気軽に参加できる雰囲気

 

さて、みなさんのお茶とお菓子の準備が整ったところで、イベントがスタート。今回のテーマは「ポリフェノールのイロハ、教えます。〜食品機能成分の最先端研究」。講師は大阪大学大学院工学研究科・宇山 浩教授です。

 

宇山先生の専門は高分子化学。再生可能な生物由来の有機性資源を原料としたバイオマスプラスチック、微生物によって分解される生分解性プラスチックについて研究しているそうです。

ワインも納豆も。食品の秘めた力を解明、活用。

宇山 浩教授。スライドを使いながらわかりやすく解説

宇山 浩教授。スライドを使いながらわかりやすく解説

 

テーマに掲げられたポリフェノールは、宇山先生の研究でも核となる生物由来の有機性資源のひとつで、地球上のほとんどの植物に存在する苦味や色素の成分。緑茶のカテキン、蕎麦のルチン、大豆のイソフラボンなどもポリフェノールの一種だそうです。

 

「ポリフェノールは紫外線や捕食者からの防衛のために植物自ら産出するもので、抗酸化作用、抗菌・消臭作用、抗アレルギー作用、免疫力向上作用などに優れているのが特徴です」と宇山先生。

 

医薬品や化粧品、食品といったどのアイテムに、どのポリフェノールを効かせるかは千差万別で、同じお茶でも脂肪の燃焼を促進するポリフェノールを配合したもの、脂肪の吸収を抑制するポリフェノールを配合したものと違いがあるとのこと。ポリフェノールの種類や役割を事前にチェックした上で選べば、より効果を得られるんだなと思いました。

 

もちろん、宇山先生はポリフェノールをはじめ生物由来の有機性資源の医薬品や化粧 品への活用にも携わっており、その中で、お話があったのが納豆菌です。

 

納豆は機能性食品として大変優秀。とくにネバネバと糸を引く成分に含まれる「γPGA(ガンマポリグルタミン酸)」は、保湿・保水効果、免疫増強機能などに優れ、抽出・精製すると無味無臭の粉末になるので、汎用性抜群です。

 

宇山先生はこの特性を生かし、アンチエイジング化粧品の開発をしています。実用化はまだですが、加齢と共に減少する肌内部のヒアルロン酸量を増やし、肌のハリやツヤを保てるとのこと!一刻も早く商品となることを願うばかりです。

「自然に還る・消えるプラスチック」を世界中に!

さて、ポリフェノールや納豆菌の横顔を知ったところで、お話は宇山先生の最先端研究へ。

 

現在、社会にはさまざまな問題が山積していますが、そのひとつがゴミ問題です。特にプラスチックゴミによる環境汚染は深刻化。石油由来のプラスチックは焼却すると有害物質が発生する場合もあり、かといって自然に消滅、分解することもないですよね。

 

さらに、宇山先生は海洋汚染も懸念しています。「海は地球に1つで、世界とつながっていますから、ある国で捨てたプラスチックゴミが違う国に漂着したり、数十年から数百年も漂流し続けたりします」。

今まさに取り組んでいる研究ということで、お話にも熱が入る

今まさに取り組んでいる研究ということで、お話にも熱が入る

 

しかも、この漂流によって劣化、微細なマイクロプラスチックとなることも問題。餌と一緒に捕食した魚の体内に残留、それを将来的には人間が口にすることになる可能性もあるからです。お刺身やお寿司が好物の筆者は死活問題…。

 

そこで期待されるのが、宇山先生が研究している、ポリフェノールをはじめ生物由来の有機性資源を原料としたバイオマスプラスチックや生分解性プラスチックです。

 

例えば、生分解性プラスチックは水と二酸化炭素に分解されるので、環境への負担がなく、ゴミ問題の解決にもつながります。「ただ、世界のプラスチック生産量は年間4億トン、うち生分解性プラスチックは91.2万トンと、全体のたった0.2%程度(2018年)。製造・販売のコストダウン、分解速度のスピードアップといった課題もあります」。

 

しかし先生は「普及にはまだ時間を要しますが、人類や地球の未来のために研究を進めています」との言葉でサイエンスカフェをしめくくりました。

先生のコメントが掲載された記事も配布された

先生のコメントが掲載された記事も配布された

 

身近な食品の効果活用から人類や地球を救う構想まで。理系が大の苦手な筆者も宇山先生の研究の幅広さと奥深さに触れることができ、有意義な時間を過ごすことができました。また、自らが口にする食品、健康、そしてゴミの減量など、見直すべきことがたくさんあることも実感。学びと共に、気づきの機会も与えてくれる大阪大学「サイエンスカフェ」にみなさんも参加してみてください。

 

取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂

龍谷大学農学部から受験生へ。バターナッツかぼちゃのあったかスープで応援!

2019年1月29日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

寒さが厳しく、あたたかいものが恋しいなあと思っていたところ、龍谷大学農学部が新鮮な果物や野菜を使ったジュースを手軽にいただけるショップ「Juicer Bar (ジューサーバー)」を運営する株式会社京阪レストランとコラボレーションして、「かぼちゃスープ」という商品を限定販売するというニュースが飛び込んできました。記者発表が行われるとのことで、お邪魔させていただきました。

土にまみれるのも楽しい! 広大な田畑で、農と食を体験学習

まず、龍谷大学農学部と株式会社京阪レストランがコラボしてスープを販売する経緯をご紹介しましょう。龍谷大学農学部では、滋賀県大津市に農場を構えており、ここを舞台に「食の循環実習」という授業に取り組んでいます。この授業は、農学部にある植物生命科学科、資源生物科学科、食品栄養学科、食料農業システム学科の合同で行われ、農作物について作付けから栽培、収穫、加工、販売、消費、廃棄物の再利用まで一連のサイクルを学びます。

 

そんな実習のスピンオフとして企画されたのが、今回のスープの販売なのだとか。「学生たちが丹精を込めて育てた農作物がどのような商品になり、どんな人に食べていただいて喜んでもらえるのか、体験してもらうことが狙い」と、本企画の中心人物の一人、食物栄養学科の山崎英恵先生は語ります。

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「食の循環実習」は1年後期〜2年前期に実施

バターのようであり、ナッツのようでもある。スープにぴったりのかぼちゃ

農場では米や大豆、小麦、落花生、ナスなどが栽培されていますが、スープの材料として白羽の矢が立ったのが「バターナッツ」というかぼちゃです。日本ではあまりなじみがないのですが、アメリカではポピュラーな野菜で、ナッツのようなコクと風味、バターのようなクリーミーさからこの名前が付いたのだそう。日本で流通している西洋かぼちゃと違って繊維質が少ないので、スープの材料としてもってこい。ビタミンA、C、Eも豊富で栄養満点、抗酸化作用、美肌作用、さらに風邪予防にもなることから、「寒い時期にがんばる受験生を応援する」のにぴったりだと採用が決まりました。

 

さらに、バターナッツは病害虫に強くて育てやすいうえ、「3カ月以上保存可能で流通させやすいことも、今回の企画に適していた」と、実習の指導にあたる植物生命科学科の吉良徹先生はいいます。

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瓢箪のような細長い形が特長のバターナッツ

まるでかぼちゃのクリーム。なめらかさと甘さのハーモニーがたまらない!

さて、龍谷大学農場で育ったバターナッツがどんなスープになったのか。なんと試食させてもらうことに! さっそくいただくと、驚くほどなめらかで、まろやかな甘さ。かといって、しつこさはなく、気持ちまでほっこりとあたたまります。

 

「バターナッツのなめらかさ、甘さを最大限に活かすため、味付けはたまねぎとブイヨンだけとシンプルにしました」と、Juicer Barの商品開発担当者。「私たちが思っていた以上においしいスープができたので、受験生はもちろん、たくさんの方に味わっていただきたいですね」と、山崎先生も太鼓判を押します。

かぼちゃスープ5

おなかも満たせるようにと、ビックリするほど大きなクルトンがゴロゴロ

かぼちゃスープ1

カップのQRコードにアクセスすれば「バターナッツ」の詳細がわかる

頭と心にエネルギーチャージ。がんばれ、受験生!

記者会見では、バターナッツの梱包や出荷に携わった資源生物科学科2回生の中川鮎実さんからも話が聞けました。「『食の循環実習』では他学科や他学年の学生と交流を持てるし、農作物の栽培についてだけでなく、流通や販売など農と食の流れを学べるのがいいですね。今回のバターナッツかぼちゃスープに対して、消費者の方がどんな反応をしてくれるかも楽しみです」とのこと。勉強、試験疲れをこのスープで癒やし、志望校に合格してほしい!と受験生にエールも送ってくれました。

 

龍谷大学農学部では、このスピンオフ企画をきっかけに、外部とのコラボレーションを推し進め、商品を通じて、食・農の大切さを伝えていきたいとのこと。次はどんなおいしい商品が登場するのか楽しみです。

かぼちゃスープ2

スープのできに中川さんも大満足!

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かぼちゃスープは「Juicer Bar淀屋橋店」にて1/28より販売 ※バターナッツがなくなり次第販売終了

 

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