D-アミノ酸を強化! 関大発の生フルーツ黒酢「ピュアミノセット」
2016年11月4日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく
美容と健康にオイシイ黒酢がさらに進化!?
“お酢は身体に良い”というのは、今も昔も、健康に興味がある人もない人も、誰もが抱いている酢のイメージだろう。私も詳しいことは知らないものの、不摂生が続いた時や体が弱った時には、たとえ気休めでも……と、酢を使った料理やドリンクなどを手にしてきた者の一人だ。
ただ、実際きちんと調べてみると、酢には体脂肪を減らす&溜め込みを抑制するダイエット効果、血流アップによる冷え解消、疲労回復、高血圧や高血糖など生活習慣病の元となる症状の予防・改善など、さまざまな効果が認められているとのこと。やっぱり酢はスゴイのだ。
中でも特に黒酢は、旨味や優れた健康効果の元となるアミノ酸の含有量が多いとあって、2004年頃から起こったブームは未だ健在。黒酢そのものだけではなく、より手軽に摂取できるドリンクやサプリメントなど、さまざまな健康食品が出回っている。
そんな黒酢市場に今年、関西大学発の画期的な新商品が投入された。その名も、生フルーツ黒酢「ピュアミノセット」。なんでも、“D-アミノ酸強化黒酢”を使った、生フルーツ黒酢なのだとか。D-アミノ酸? 強化? 開発者は、化学生命工学部の老川典夫教授。従来の黒酢から、何がどうパワーアップしたのか。早速、老川教授のもとを訪ねた。
時を越えて脚光を浴びるD-アミノ酸
学生時代から、微生物の酵素、とりわけアミノ酸に作用する酵素の研究一筋だという老川教授。早速、今回のポイントとなるD-アミノ酸について説明してくれた。
「アミノ酸には、L-アミノ酸とD-アミノ酸という2つのタイプがあるのですが、一般的にアミノ酸と言うと、L-アミノ酸のことを指します。D-アミノ酸は、これまで自然界にほとんど存在せず、ヒトに不必要な物質と考えられてきたので、表に出ることはまずなかったんです」
昔からずっと存在していたものの、その価値はまるで認められてなかったようだ。
「それが近年、分析技術の進歩によって、D-アミノ酸はヒトの体内のあらゆるところに存在していることがわかりました。そして、脳内の神経伝達や肌の老化防止などに重要な役割を果たしていることが明らかになったんです」
なんと、ヒトには不必要どころか、実はアンチエイジングや美肌に関わる、けっこう大事なものだったD-アミノ酸。科学の進歩を待って、ようやく日の目を見ることになったのだ。
「一方、L-アミノ酸と言えば、食品中の種類と含有量が味覚に大きな影響を及ぼすもの。いわゆる旨味のもととなっています。となると、D-アミノ酸にも同様の関係があるのか? そこで私は、それまで未解明だった食品中のD-アミノ酸について研究を進めました」
身近な食品の中でD-アミノ酸を含むものには、納豆(糸)、リンゴ、ビール、日本酒、ヨーグルト、チーズなどがあるが、老川教授が研究対象にしたのは日本酒。原料が植物性素材の米であることや、製造にさまざまな微生物の作用が関与することで、本研究で得られた知見を他に利用できるからだ。また、原料や製造方法などに多彩なバリエーションがあるため、製造方法と製品中のD-アミノ酸含有量の関係を解明できること、製品に強い着色や臭いがなく官能評価方法が確立していること、日本の伝統的発酵食品であることも、日本酒をチョイスした理由となった。
そして研究の結果、19種類あるD-アミノ酸の内、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸が多く含まれる日本酒は、旨味や総合評価が高いことが明らかに。それは、数ある中でも生酛造りによる日本酒の特徴であり、生酛由来の乳酸菌がD-アミノ酸を生産することが分かったのだ。
「この研究により、それまで科学的には証明されていなかった生酛造りの日本酒の美味しさの要因の一つが、これら乳酸菌の生産するD-アミノ酸の関与であると明らかになりました。そして、D-アミノ酸生成能力が高い生酛由来乳酸菌は、日本酒以外の食品製造にも応用できる、と。そこで、これらの乳酸菌を用いる、D-アミノ酸強化食品の開発を検討しはじめたんです」
日本酒から黒酢へ、広がる研究
時を同じくして、この日本酒とD-アミノ酸に関する研究成果に興味を持ったのが、鹿児島県にある福山黒酢株式会社だ。一般的に現代の黒酢造りは、温度や湿度といった環境を人工的に管理できる工場内で、扱いやすいステンレス製の容器を使い、半年~1年という短期間で行われるもの。しかし福山黒酢は、昔ながらのアマン壺約2万個を使った屋外醸造にこだわり、自然の中で3年以上かけて発酵熟成させる。そんな伝統の製法を守り続けながら、チャレンジ精神も旺盛な同社。宮崎県で行われたD-アミノ酸にまつわるシンポジウムに参加した際、老川教授の講演を聞き、より美味しくて健康や美容効果の高い、新たな黒酢の可能性を求めて共同研究を持ちかけたのだ。
早速動き出した両者。研究の第一歩として、福山黒酢にはD-アミノ酸が含まれており、その生成には微生物が関与していることが判明した。それならばと、これらの微生物を用いて、さらにD-アミノ酸を強化した黒酢の醸造に挑むこととなったのだ。そして、醸造工程で黒酢醪から分離したD-アミノ酸高生産乳酸菌を黒酢仕込み時に添加するという、新たな醸造方法を開発した。
「乳酸菌を使うなんて、一般的な黒酢造りにはタブー。むしろ、繁殖しないようにしていたぐらいですから。でも、この方法により醸造した黒酢の中には、より高濃度のD-アミノ酸が含まれていることが明らかとなりました」
ここに、D-アミノ酸強化黒酢の誕生である。
D-アミノ酸強化黒酢のスゴイところ
老川教授と福山黒酢は約8年間に及ぶ共同研究を経て、今年5月、このD-アミノ酸強化黒酢に各種フルーツを漬け込んだフルーツ黒酢を商品化した。これは、D-アミノ酸の機能性を高めた発酵食品としては最初の例として、注目を浴びている。
従来の黒酢よりも高いアンチエイジング作用や美肌効果が期待できるのはもちろん、より一層コクのある味わいや、まろやかな口当たりも魅力。しかも、本商品に関しては福山黒酢独自の製法で、黒酢の中に生のフルーツを漬け込んでいる点もポイントだ。現在は、ポピュラーなりんご、ブルーベリーと、珍しいいちごの3種類をラインナップ。使用するスイーツはなるべく国産、特に地元産にこだわっているのも、美味しさの秘密である。
そのまま水や炭酸水で薄めて飲む他、ソース感覚でアイスクリームやヨーグルトにかけたり、焼酎などの酒で割ったり、楽しみ方はいろいろ。各種1本ずつの3本セット2,880円(税込)で、関大パンセアンテナショップにて発売中だ。