ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2015.12.4
  • author:椎木伶奈

佛大生が挑む日本酒づくりプロジェクトを追う①

大学と酒の関係

“大学が酒をつくる”というのも、今や珍しくない時代。農学部やバイオ系学部を設置している大学が、研究・開発の一環として取り組んでいるケースが多いのだ。ビール、日本酒、ワイン、ウイスキー等々、実にさまざまな大学発アルコール飲料が出回っている。

そして京都市北区にメインキャンパスを構える佛教大学でも、7年前から「酒づくりプロジェクト」と題し、オリジナル日本酒づくりに取り組んでいる。ただし、佛教大学には農学部もバイオ系学部も無い。では、一体誰が何の目的で、わざわざ日本酒づくりなど行っているのか? そのあたりの事情を探りに、京都市北区にある紫野キャンパスへと赴いた。

教育としての酒づくり

対応してくれたのは、「酒づくりプロジェクト」担当の佛教大学研究推進部社会連携課・服部拓也さんと、本プロジェクト参加者の社会学部3回生・渓静香さん。まずは服部さんに、プロジェクトをはじめた経緯を聞いた。

「本学は2004年、京都府の中山間地域である南丹市美山町と連携協定を結びました。現地に宿泊もできる『美山荘』という活動拠点を持ち、学生と教職員は地域調査研究やフィールドワークなどを行いつつ、目の前の田畑でもち米やサツマイモなどを育てる農業体験も行ってきたんです。それが次第に、せっかくなら農作物を使って何か商品をつくれないか? と話が膨らみまして。2008年に、米を使った加工品であり、伝統産業品である日本酒をつくろう! ということになりました」

きっと当時の話し合いのメンバーの中に、相当な呑兵衛がいたに違いない! と思わずにはいられない話の展開だ。酒米づくりは地元農家の方々に指導してもらい、醸造から販売には京都の酒処・伏見にある「招德酒造」の協力を得ることに。そして、田植えから稲刈りまでの本格的な農作業のみならず、酒蔵での醸造、ラベルデザイン、販売プロモーションといった、商品づくりにおける全工程に学生有志が携わることとなった。

佛教大学の酒づくりは研究・開発活動ではない代わりに、学生が伝統産業と企業の経済活動を一から体験できる教育活動であり、地産地消で地域を活性化する社会貢献活動でもあるのだ。

インタビューに答える服部さんと渓さん

インタビューに答える服部さんと渓さん

酒米づくりの舞台となる南丹市美山町の「美山荘」

酒米づくりの舞台となる南丹市美山町の「美山荘」

今年も順調に、絶賛進行中!

「酒づくりプロジェクト」は1年完結型で、まず4月下旬~5月上旬に酒米の田植えを行い、5~6月に草取りをして、9月に稲刈り。その後、11月に醸造、12月に上槽という工程を経て、3月に店頭販売を迎える。参加学生は毎年20名程度で、学部も学年も男女も偏りなく、さまざまな学生が集まってくるという。8年目となる今年も例年通り順調に進んでおり、この取材の時点ですでに稲刈りまで完了。約600㎏の酒米を収穫し、3週間後に醸造を行うという段階まで来ていた。

「私は入学前からこのプロジェクトを知っていて、絶対に参加したいと思っていました。大変そうだけど、その分得られるものも大きそうだなと思って。メンバーは、日本酒好きもいれば、逆に飲めないけど面白そうっていう理由で参加している人もいます。私も始めは、日本酒ってクセがあって飲みづらいというイメージで苦手だったんです。でも、今では日本酒にもいろんな味があるということを知って、その美味しさが分かるようになって、全く抵抗なく普通に飲んでいます(笑)」と、今年の参加者である渓さんは楽しそうに話す。

とはいえ、大変だったこともあるのでは?
「私は農作業の中では草取りにしか参加できていないのですが、これが一番体力を使う作業だったみたいで。稲と稲の間に生えている雑草を、田車という道具を使って取りました。ドロドロで虫もいっぱいいる田んぼに膝までつかる……というだけでも抵抗があったのですが、そんな状況で今まで見たこともない道具を操るというのは想像以上に大変でした」

田車は、昔ながらの手動操作の草刈り機。今はもっと楽な電動の草刈り機が主流なのだが、本プロジェクトでは敢えて田車を使うことになっている。もちろん、“伝統産業を学ぶ”という、教育的観点からの選択である。

晴天のなかでの田植え。学生たちは初めての経験に悪戦苦闘した

晴天のなかでの田植え。学生たちは初めての経験に悪戦苦闘した

田車を使った草取り。ぬかるんだ田んぼの中での作業は想像以上に体力がいる

田車を使った草取り。ぬかるんだ田んぼの中での作業は想像以上に体力がいる

収穫には学生・教職員あわせて11名が参加。黄金色に実った稲穂が美しい

収穫には学生・教職員あわせて11名が参加。黄金色に実った稲穂が美しい


こうした現場作業と並行して、学生たちは毎週ミーティングを行っている。4月~8月は、まずターゲット&コンセプトを相談。毎年同じ酒をつくっているわけではなく、前年の反響やトレンドを踏まえて、見直しを行っているのだ。激しいディスカッションの結果、今年は20~30代の女性をターゲットに、飲みやすい味わいのものを目指すことになった。

そして、9月以降はラベルのデザインを考案。今年はメンバー内で6案に絞った後、10月30日(金)~11月1日(日)に行われた学園祭でアンケートを実施。人気の高かった案をブラッシュアップして、年末・年始あたりに完成させる。その後は、商品のパンフレット制作を行う予定とのことである。

コンセプトづくりからパンフレットの内容まで幅広いテーマについて議論・決定する

コンセプトづくりからパンフレットの内容まで幅広いテーマについて議論・決定する

大学祭でラベルについてアンケート調査。道行く人たちは興味津々で答えてくれていた

大学祭でラベルについてアンケート調査。道行く人たちは興味津々で答えてくれていた

いよいよ醸造へ

ちなみに、酒の銘柄は毎年共通で「佛米!夢乃酒(ぶっこめ!ゆめのさけ)」と決まっている。「佛米」には、佛大生が愛情を込めて企画したという意味と学生らしい勢いが、「夢乃酒」には文字通り、酒をつくりたいと集まった仲間の夢の結晶であるということと、夢に向かって頑張ろうという応援の意味も込められているそうだ。

そんな夢の酒づくりプロジェクトは、前述の通りこの取材の時点で、酒米の収穫とターゲット&コンセプト設定まで完了したところ。3週間後には、「招德酒造」での醸造が控えている。今回、この醸造にも立ち会わせてもらえることになったので、その模様はまた後日、紹介させてもらおう。


続きはこちら!
「佛大生が挑む日本酒づくりプロジェクトを追う②」

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