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音が決められていない「楽譜」? 京都市立芸術大学の研究会で触れる多彩な楽譜の世界

2024年5月14日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

好きな曲のお気に入りのフレーズを思わず口ずさんでしまうこと、ありませんか。知らず知らずのうちにメロディを記憶してしまっているからですが、曲の最初から最後まで再現となるとちょっとハードルが上がります。そこで頼りになるのが楽譜。楽譜というと五線譜のようなものを思い浮かべますが、それ以外にもさまざまなタイプの楽譜があり、なかには“身体性”を記録する楽譜もあるといいます。

 

楽譜を記す方法についての研究会「タブラチュアを考える~動作が導く音の世界」が京都市立芸術大学芸術資源研究センターのプロジェクト「音と身体の記譜研究」の一環として行われ、会場の京都市立芸術大学に足を運んでみました。

「タブラチュア」とは聞きなれない言葉ですが、楽譜を記す記譜法のひとつで、弦楽器であれば弦をおさえる位置、管楽器なら管の孔、鍵盤楽器なら鍵の番号などを数字や文字、記号で表して、曲の演奏法を示したもの。オルガンや三味線、リュート、ギター、ベース、ドラムなど多くの楽器で使われているそうです。

今回はポピュラー音楽、伝統邦楽、現代音楽、バロック音楽と、時代も地域もさまざまな音楽ジャンルを専門とする講師らが登壇し、それぞれの分野で使われているタブラチュア(タブ譜)を紹介。多彩な楽譜の世界を見せてもらいました。

ギター、三味線、オルガン、……多彩なタブラチュア譜

タブ譜には、例えば下の写真や動画にあるようなギターのタブ譜があります。紹介してくれたのはポピュラー音楽を専門とする岡田正樹先生(芸術資源研究センター共同研究員)。

岡田先生。演奏動画の下にタブ譜が表示されている。

 

弦をおさえる位置が数字で示されています

 

ギターを弾かない私はまったく知らなかったんですが、ギターの演奏には、五線譜ではなくこうしたタブ譜を使うことも多いのだとか。どの弦のどの位置を押さえればよいかが一目でわかり、五線譜よりも弾きやすいため「ひとりで好きな音楽の世界に没入するにも、バンド活動など音楽を通じて他のプレイヤーとつながるにも、タブ譜が支えになっている」と岡田先生。

 

日本の弦楽器ではどうでしょうか。邦楽家で、新作の創作で自ら楽譜を作ることも多いという重森三果先生より、三味線の江戸期以来の楽譜の変遷について実演を交えて紹介してもらいました。

重森先生

 

三味線で弦のおさえるべき位置は「勘所」とよばれ、下の譜面(重森先生の創作曲)では数字で記されています。

重森先生の創作曲『花ふぶき』(部分)。三味線を習い始めて半年くらいの学生のために書かれた練習曲。

 

ギターのタブ譜と似た記譜法ですね。数字で示された勘所は、江戸時代は「い、ろ、は、……」などと呼ばれていたとのこと。

 

三味線の伴奏で物語を語るのが浄瑠璃です。浄瑠璃の語りは仏教の儀式で唱えられる声明の流れにあり、浄瑠璃の節の古典的な楽譜は声明の楽譜に似ているそうです。

 

声明の楽譜(「博士」とよばれる)は下のサイトで見ることができます。

<参考>文化デジタルライブラリーより「博士」(独立行政法人日本芸術文化振興会)

https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc28/kiku/shoho/hakase.html

 

旋律の動きが線の長さや角度によって表されているのですが、仏教の経典を唱えるものであると思うとなにやら深遠な図形のようにも思えてきます。浄瑠璃の楽譜はこの中の「目安博士」という楽譜と似ていて、声明のものより線が短くゴマのように見えるため「ゴマ点」と呼ばれるのだそう。また、よく使われる節回しの名前を書いて演奏法を示す「文字譜」と呼ばれるものもあるそうです。

 

ところ変わってヨーロッパ。バロック期から19世紀の鍵盤音楽を専門とする三島郁先生(芸術資源研究センター共同研究員)からは、オルガン曲などの楽譜を紹介してもらいました。

ギターや三味線の譜面のように線の上に数字が並んだものもあれば、五線譜に似たもの(でもよく見ると、線が2、3本多い)もあり。世の中にはずいぶんいろいろな楽譜があるものだと思います。

三島先生。画面に映っているのは16世紀末のオルガン曲の楽譜(一部)。

音が指定されていない「楽譜」

「これは本当に楽譜なのか」と驚いてしまったのが、現代音楽の作曲家でギター奏者の橋爪皓佐先生(芸術資源研究センター非常勤研究員)から紹介された楽譜です。

橋爪先生はギター奏者として現代音楽の新作を演奏する中でいろいろな楽譜に出会ってきたそうで、紹介してもらった楽譜のひとつは紙に書かれた譜面ではなく、映像でした。画面に人の両手が映し出され、素早くふり下ろされたり、何かをひっかくような動作をしたり。その動きに合わせてギターの音や、板を叩くような音が響きます。

「体の動きだけが指定され、まったく音が指定されていない『楽譜』です」と橋爪先生。

橋爪先生

 

うーん、こんな楽譜があるのですか……。この曲には2つの演奏方法があり、一つは楽譜(映像)を観客に見せ、演奏者は別のモニター映像を見ながら動きをマネして演奏する方法。もう一つは、映像の動きを完全に"暗譜"して、演奏する手の動きを観客に見せる方法です。

橋爪先生が紹介した曲(『どうしてひっぱたいてくれずに、ひっかくわけ?』作曲:足立智美)の演奏風景。“楽譜”が投映されている。写真:京都市立芸術大学芸術資源研究センター

 

作曲者はもちろん、演奏する人にとっても予測のつかない音楽になりそうですが、弾く人は映像をもとに音の展開を事前にある程度決めて演奏するため、予測はつくとのこと。

 

橋爪先生はこの曲について「楽譜自体が創作のツールとなりうる事例」と説明。「動きの規定はあっても、それをギター上でどう展開するかはギタリストの自由に任されている。現代において作曲と演奏が分業化されている中で、けっこう重要な視点に切り込んでいると思います」。

 

橋爪先生はこうした「動作を規定する楽譜」から生まれる創作に大きな可能性を感じているといい、アイディアのひとつとして「たとえばダンスを視覚的に見られない人が、ダンスを音に変換したものを(ダンスそのものではないにしても)楽しむことができるかもしれない。(体の動きなど)音楽に基づかない表現を音として展開すると、音楽の枠がもっと広がっていくのでは」と話しました。

私は以前ダンスや音楽の即興表現を体験したとき、踊る人の動きに合わせて楽器を鳴らしていて自分でも思いがけない音が出てきたことを思い出し、大いに納得しました。

 

音楽を記録し再現するための楽譜、そして創作を補助するツールとしての楽譜。多彩な楽譜との出会いが楽しく、体の動きを楽譜ととらえる考え方も面白く、音楽以外の表現を音に変える体験をいろいろとしてみたくなりました。

 

3月は女性史月間。ジェンダーの話題を通じて、自分と社会との関係を考える

2024年3月28日 / まとめ, トピック

3月8日は、「国際女性デー(International Women‘s Day)」。女性の権利を守り、ジェンダー平等を実現することをめざし1975年に国連により定められた日で、3月を「女性史月間」としている国もあります。ほとんど0円大学でも、これまでジェンダーに関連するさまざまな話題をお届けしてきました。その一部をふりかえってみます。

弱者が弱者のままで尊重される社会を

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ジェンダー論、女性学といえばまずこの人を思い浮かべる人は多いのでは。現在は高齢者介護も研究テーマとしている上野千鶴子さんの講演レポートです。

「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重される社会を求める思想。弱者の中には、子どもやお年寄り、障害者、そして女が入っている」という言葉に、この思想は性別を問わず、すべての人のものだと気づかされます。

 

記事はこちら!→女性学のパイオニア・上野千鶴子先生が次世代に伝えたいこととは? 東洋学園大学の公開講座をレポート

 

家族の中の見えない関係性

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成人した娘に何かにつけて口を出す母親。年賀状で家族の名前を書く順番はいつもお父さん、お母さん、子どもの順。

「〇〇とは普通こういうもの(でも、改めて考えると何か変)」ということ、家族関係の中でもたくさんあります。長く続いた慣習を変えることには勇気がいりますが、身近なことから変えていくのが最初の一歩。そんな取り組みが紹介されています。

 

記事はこちら!→「家族」の中の見えない関係性を、哲学と社会学で解きほぐす。立命館大学のセミナー「人間関係のデモクラシー」レポート

 

「知ることからしか始められない」~スポーツのジェンダー

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スポーツの世界でもジェンダーの問題に注目が集まっています。こちらで紹介しているのはトランスジェンダーとスポーツをテーマとするシンポジウム。

トランスジェンダーの元アスリートが、好きなスポーツを楽しむこともままならなかった実情を明かし「知らないがゆえに差別や偏見が生まれている。結局知ることからしか始められない」と語っています。

 

記事はこちら!→スポーツにおける多様性とは?成城大学の公開講座でLGBTについて考える。

 

 

 

ジェンダー論やフェミニズムに関心をもつのは性的少数者や女性で、男性は関心も関連も薄い(当事者ではない)という印象をもっていました。

 

「当事者と非当事者、健常者と障害者といった二元論で考えても、どちらかの側面だけにいる人っていない。誰だっていつかは高齢者になるし、事故で車イス生活になるかもしれない。『みんなが多様な人』だと捉えて向き合っていくことが大事」(杉山文野さん / 成城大学の公開講座にて)

ここで語られているさまざまな課題は、社会で生きる(そして何らかの規定や固定観念の対象となる)すべての人に当てはまることなのかも、と感じます。

 

木の音を通して森林と音楽の未来を考える。京都大学生存圏研究所の公開講座をレポート

2024年3月26日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

ピアノやギター、バイオリン。日本の琴や太鼓や琵琶。これらの楽器に共通しているのは、「木」が使われているということ。

なぜ多くの楽器に木が使われ、人はその音を心地よく感じるのでしょう。木の音を通して未来の森林を考えようという講座「⽊の⾳から⼈と地球の未来を考える」(オンライン配信)が京都大学生存圏研究所の公開講座「サステナブルな未来を創る新しい材料のはなし」の第4回として行われ、視聴してみました。講師は森林科学を専門とする仲井一志先生(京都大学⽣存圏研究所特定准教授)です。

楽器の適材適所

楽器の中でもピアノなどは身近で触れることが多かったのですが、何の木が使われているのか意識したことはほとんどありませんでした。どんな木が使われているのでしょう。

講座スライドより。今回の講座では、主にヨーロッパの楽器について紹介されました。

 

ピアノに使われているのはスプルース(トウヒ)、エボニー(黒檀)、マホガニー、メープル(カエデ)など。このほかにも、ギターにはローズウッド、リコーダーにはツゲやサクラなど、さまざまな木が使われています。

こうした木が使われるようになったことについて「もともとは身近で手に入りやすい木を鳴らし、響きのよいものが楽器に使われるようになったのでしょう」と仲井先生。ヨーロッパの楽器はヨーロッパで入手できる木材から作られていましたが、大航海時代の幕開けとともに使われる木材の構成ががらりと変わり、世界中の木が使われるようになります。

 

世界には約7万種の樹木種があり、そのうち楽器に使われている木の種類は約70種類。全体からみるとわずかなようですが、「これほど多くの種類を組み合わせて使っているのは楽器業界ぐらい」なのだそうです。

実際にどのように木を組み合わせているのか、バイオリンを例に見てみると……。

講座スライドより。画像はバイオリンの名器として知られるストラディバリウス。

講座スライドより。画像はバイオリンの名器として知られるストラディバリウス。

 

表板に使われるのはスプルースというマツ科の木(『ハリーポッター』でよく出てくる森林はこの木だそうです)。軽くてよく鳴るという特徴があり、バイオリンは表板から音を広げるため、鳴りやすい性質をもつスプルースは適材です。

裏側や側面に使われているのはメープル(カエデ)で、弦を張った黒い部分はエボニー(黒檀)。エボニーは水分を吸収してもふくらみにくいという特性があり、弦をおさえる演奏者の汗がつきやすいこの部分に適しています。

 

鳴りやすさや硬さなど、木の種類ごとの性質を表したのが下の2つの表(緑枠内)です。

講座スライドより。(枠内緑字は、ほとんど0円大学編集部による追記)

 

表には、クラリネットの管体などに使われるアフリカン・ブラックウッド、バイオリンの表板などに使われるヨーロッパスプルース、マリンバ(木琴)に使われるホンジュラスローズウッドなど6種類の木材の、音速(振動が伝わる速さ)や減衰のしやすさ、硬さなどが示されています。硬くて重く鳴りやすいアフリカン・ブラックウッド、軽くてやわらかく鳴りやすいスプルース、硬くて重いが鳴りにくいエボニーなど、それぞれの木の特徴が見てとれます。

 

「やわらかく、鳴りやすいスプルースは振動を伝える音響材として優秀と言えます。楽器用の木材と言うと硬くて重い木材が良いと思われるかもしれませんが、必ずしもそういった木材だけが楽器に使われているわけではなく、楽器がどのように音を発するかを考えたうえで、それぞれの特徴を生かすよう用途によって使い分けられていることがわかると思います」。適材適所というわけですね。

なぜ心地よい? 木の音色

木の音というと、やわらかみのある、心地よい音というイメージです。なぜ心地よく感じるのかを一言でいうと「木は異方性を持つからです」と仲井先生。

異方性とは聞きなれない言葉ですが、ある方向には強く、ある方向には大きくしなるというように、方向によって強度などが変わる性質のこと。木は森林の中で上に伸びていくため、タテ方向に強い性質があるのはわかりますが、この性質が、木の音色にどう関係しているのでしょう。

講座スライドより

講座スライドより

 

音色は、音が出た瞬間(「ポン」とか「コン」とか)がいちばん大事だと思っていたんですが、仲井先生によると「音がどのように消えていくか」も、非常に重要なのだそうです。

 

音が鳴るとはどういうことかというと、まず振動の入力(木をたたくなど)があり、木が振動し、鳴ります(振動が空気に伝わる)。

振動の大きさは入力したときがピークで、そのあとは減衰していきますが、減衰のしかたに注目すると、木は異方性があることにより振動時の音の損失が大きく、金属などと比べると高音が減衰しやすい性質があります。高音が消え、低音がよく響くと人はそれを「あたたかい音」ととらえ、心地よく感じるのだそうです。

クラリネットとごま油の意外な関係

楽器に使われる木は、当然、どこかの森林で育っているわけですが、これまで楽器と森林とを結びつけて考えたことはほとんどありませんでした。楽器と森林とはどのような関係があるのでしょう。

 

仲井先生によると、全世界の産業用木材(丸太原木)の生産量は年間約40億㎥(人口一人当たりに換算すると0.5 ㎥ぐらい)。消費される丸太原木は数億~20億㎥で、そのうち楽器製作に使われる量は、日本の楽器メーカーであるヤマハの場合、年間約8万㎥。全体からみると大きな量ではありませんが、なんの問題もないわけではなさそうです。

 

仲井先生が例として挙げたのは、クラリネットやオーボエの管体に使われるアフリカン・ブラックウッドという木です。タンザニアの森林で育つ硬く黒い木で、豊かな響きを生み出しますが、生長に時間がかかる貴重材で減少傾向にあり、国際自然連合のレッドリストで準絶滅危惧種に分類されています。

講義スライドより。仲井先生は数年前からタンザニアの森林保全モデル構築などに携わっています。

 

タンザニアでは林業より農業の優先度が高く、意外にも私たちの食卓にも上るごま油ともかかわりがあります。世界有数のゴマ生産国であるタンザニアではゴマが高い値段で売れるため、ゴマの作付面積はここ15年で5倍に増加。ゴマ栽培のために焼き畑が進み、食糧需要が森林を圧迫しているのです。

 

森林資源を楽器にも、他の用途にも使いたい。でも、森林の近くで暮らす人たちの生活も大切です。

「食糧需要との共存がカギの一つ」と言う仲井先生は、「楽器の新しい材料開発や、手に入りやすい木材に置き換えるイノベーションも必要だと思います。ただこの講座では、高品質な木材が育つよう森を適切に管理し、伐採して有効に使い、産業として原産地域に利益をもたらす持続可能なモデルを推奨したい」。

 

木は50年、100年と、人間の経済活動とは異なる時間軸で生長します。仲井先生はタンザニアでブラックウッドの植林も計画的に進めていますが、これが楽器に姿を変え、音を響かせるのは50年以上先のことになります。

調査の様子

調査の様子

(左)育成中の苗木 (右)育てた苗木を植えつけ

(左)育成中の苗木 (右)育てた苗木を植えつけ

 

楽器の材料開発にも携わってきた仲井先生は「楽器の材料という観点でいうと、木は人工的に再現することが本当に難しい。楽器は木材の価値を最大限に高められるものなので、価値のある材料を次世代にも使ってもらいたい。楽器を通して木を見て森を見て、未来の森林を考えるきっかけにしてもらえたら」と語りました。

 

講座を視聴後、オーケストラの演奏を聞きに行く機会があり、今まで意識することのなかった楽器の「木」に意識を向けて聞いてみました。一目で木でできているとわかるバイオリンやチェロなどがずらりと並んだステージ。ホールの天井や壁を覆う木の反響板。耳を傾けていると、木や森が音を奏でているような心持ちがして、音楽は自然の恵みでもあったと気づきました。

 

今年の桜はどこで見る? 大学でお花見♪のススメ

2024年3月19日 / まとめ, トピック

そろそろ桜前線のニュースが気になる季節。近所の桜を愛でるもよし、有名どころに出かけるもよし。広い敷地で桜が観賞できる大学キャンパスにも、お花見の穴場的スポットが少なくありません。これまで「ほとんど0円大学」で紹介した大学の桜情報をふりかえってみました。

 

都内屈指の桜の名所・千代田区~大妻女子大学

千代田区が毎年開催している「千代田のさくらまつり」の一環として行われる大妻女子大学の「大妻さくらフェスティバル」。今年のさくらフェスティバルは3月16日に終了し、お花見ができるキャンパス開放が3月下旬に予定されています。キャンパス内のサクラ並木を自由に散策できるようですよ。

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キャンパスの自然を満喫~大阪公立大学

多様な樹木に野鳥、昆虫などの生物が生息する大阪公立大学の中百舌鳥キャンパス。2024年はイベント(「花(さくら)まつり」)の予定はありませんが、みごとな桜並木は訪れる人の目を楽しませてくれそう。同大学の附属植物園(大阪府交野市)では、ヤエベニシダレなど枝垂れ桜のライトアップも予定されています。

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公家のお屋敷と枝垂桜~平安女学院大学

平安女学院大学京都キャンパスにある有栖館。京都御所に近い公家のお屋敷(有栖川宮旧邸)で、毎年春と秋に特別公開が行われる国登録有形文化財です。残念ながら2024年春の特別公開はありませんが、東に面した烏丸通りから、古都の風格のある枝垂れ桜を拝めそう。

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桜とお城と博物館展示~大阪青山大学

キャンパスの中にお城の建物があって、ちょっと驚く大阪青山大学の北摂キャンパス。お桜とお城のコラボは見ものです。建物の中は博物館になっていて、博物館の展示とお花見を同時に楽しめそう。今年は3月下旬に一般公開が予定されています。

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キャンパスの桜を地域の人に開放している大学は多く、皆さまのお近くでも見つかるかもしれません。日ごろのあれこれを忘れ、(アカデミックな場所なので、アルコールはなしで……)春の到来を満喫したいですね。

 

大河ドラマにちなんで特集 「源氏物語」を生んだ時代を知る記事5選

2024年3月7日 / まとめ, トピック

2024年の大河ドラマで注目の集まる「源氏物語」。主人公の紫式部(ドラマの中では「まひろ」)はどんな人生をたどり、やがて「源氏物語」を構想するのでしょうか。

当時の貴族社会は現代とはまったくちがう枠組みの中で動いていましたが、どんな時代や社会が「源氏物語」を生んだのか、今回はドラマの舞台となった平安時代を知る手がかりになりそうな記事を集めてみました。信仰、音楽、衣装など、興味のあるところをご覧になってみてください。

 

信仰と建築

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作者である紫式部の生没年ははっきりとわかっていませんが、40歳くらいで他界したとする説があります。源氏物語では光源氏が40歳で長寿のお祝いをするシーンが登場するなど当時は今よりはるかに平均寿命が短く、死との距離も近かったのではないでしょうか。

この頃さかんだったのが、死んで極楽浄土に生まれ変わるという浄土信仰です。シャカの死後2000年をへると世の中が乱れるという末法思想が広がり、末法の世に入るとされた年(永承7年(1052年))、あこがれの極楽浄土を具現化した平等院鳳凰堂が開創されました。

 

現世と極楽浄土を取り巻く風景はどのようなものか。それを解き明かす講義レポートです。

 

●記事はこちら!京都アカデミアウィークで学ぶ、平等院鳳凰堂「1000年の時空を超える、極楽浄土への憧れ」

 

音楽

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その平等院鳳凰堂の菩薩像がもつ楽器についてのセミナーレポートです。平等院というと純和風というイメージですが、楽器の由来は国際的。楽器をもつ菩薩像の優しい表情にも心が安らぎます。

 

●記事はこちら! → 平等院鳳凰堂に響く天上の音楽を聴く――京都市立芸術大学 オンラインセミナーをレポート

 

衣装

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宮中の人々がまとう華麗な衣装も、ドラマの見どころのひとつ。主人公が舞を舞う場面がありましたが、衣装の重さは相当なもので、見た目の優美さとはうらはらにかなり体力を使いそうです。衣装を着つけたり、糸を染めたり織ったりしていた人たちの存在も感じる展示のレポートです。

 

●記事はこちら! → 千年続く物語――女子宮廷装束の華、京都産業大学ギャラリー企画展をレポート

 

文字

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歌会などで平安貴族がさらさらーっと書いている文字。「何が書かれているのか知りたい」という意欲的な方には、こんなアプリがあります。

 

●記事はこちら! → 大学アプリレビューvol.24 撮影するだけ!いつでもどこでもくずし字を認識してくれるAIアプリ「みを(miwo)」

 

平安京

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VRで平安京の景観を現在の京都によみがえらせるというアプリ。町を歩いていて「このあたり、むかしはどんな景色だったのかな」と思ってしまう歴史好きな方、京都にお出かけになる予定があればぜひダウンロードを。意外な景色が広がりそうです。

 

●記事はこちら! → 大学アプリレビューvol.18  AR技術でタイムスリップ!?平安京を歩けるスマホアプリ「バーチャル平安京AR」

 

ドラマではこれからどんな物語が紡がれていくのでしょうか。当時の人々の考え方やくらしを知りながら、稀有な女性の生き方を見守りたいと思います。

 

見た目が派手なだけじゃない! 芸と気配りの宣伝業『ちんどん屋』に大阪大学総合学術博物館で触れる

2024年2月6日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

画像:ちんどん通信社 (有)東西屋のみなさん

 

鉦(かね)や太鼓を「チンチン、ドンドン」と打ち鳴らし、街を練り歩く「ちんどん屋」。音楽や派手な衣装で人目を引き、店のオープンや売り出しなどを宣伝する人たちです。

「映画やドラマの中で見たことはあるけど……」という方が多いかもしれませんが、令和の今も各地で活動しているのをご存じでしょうか? SNSやWebなどさまざまなメディアがあふれる今、昔ながらのアナログな宣伝方法が生きつづけているのはちょっと不思議な気もします。大阪大学総合学術博物館で開かれている『ちんどん屋』展(2024年2月17日まで開催)を見に行き、企画担当の山﨑達哉さん(大阪大学中之島芸術センター特任研究員)の解説を伺ってきました。

時代の激動期、新旧の芸能が集積

ちんどん屋の先駆者があらわれたのは江戸時代末期の大坂。寄席で宣伝用のビラを撒くのが禁じられ、「ビラがだめなら声で」と、売り声の上手な飴(あめ)売り「飴勝」が客寄せを請け負ったのがはじまりだそうです。

 

客寄せの売り声というと、映画『男はつらいよ』で「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又……」と寅さんが朗々と述べるシーンを思い浮かべてしまいますが、「寅さんが自分の商売の宣伝をしているのに対し、ちんどん屋は人の商売の客寄せを請け負っています」と山﨑さん。道行く人の注目を集めるため、さまざまな楽器を使うのも特徴のひとつです。

ちんどん屋で使われる楽器の一部。鉦や太鼓、ちんどん太鼓(中央)など。

ちんどん屋で使われる楽器の一部。鉦や太鼓、ちんどん太鼓(中央)など。

 

もともとは一人で拍子木などを鳴らし口上を述べるシンプルなものだったようですが、後進が続き、そのスタイルは多様になっていきます。浄瑠璃や芝居の口上を語る人、三味線や太鼓など和楽器で楽隊をつくる人、トランペットやサックスなど西洋楽器で楽隊をつくる人。トーキー映画の登場で仕事を失った無声映画の楽士(伴奏音楽の演奏者)、はたまた旅回りの役者や芸人が転身してきたりと、さまざまな人と芸を取り込み、昭和の初めごろに今のちんどん屋の形ができてきたそうです。

展示の映像資料より

展示の映像資料より

 

上の資料では和洋の楽器と衣装が入り混じり、さらに右手のちょんまげ姿の人はだれかを背負っているような芸を披露しています。カオスを感じますが、この混然一体ぶり、江戸末期から昭和にかけての時代の激動を映していたんですね。

 

戦後もちんどん屋は活躍します。メディアの多様化などにより一時は急激に数を減らしましたが、各地で新しい世代の担い手が現れ、街頭での宣伝のほかイベント出演などで活動。年に一度、「全日本チンドンコンクール」も行われています。

 全日本チンドンコンクールPR動画 30秒Ver (youtube.com)

 

ちなみにちんどん屋が演奏する曲は、寄席の音楽や演歌、歌謡曲やJポップのヒット曲、アニメの曲などさまざま。最新のものを常に取り入れるところは、草創期と変わらないようです。

ちんどん屋(的な人)は、海外にも存在する?

以前、大阪の観光地でちんどん屋に出会ったことがあり、日本人も外国人も足を止めて笑顔で見入っていたのが印象に残っていました。日本以外でも、こうした手法で集客を請け負うような人たちはいるのでしょうか。

山﨑さんに聞くと、「ちんどん屋のように街頭で、集客目的で演奏する楽隊の存在は日本以外ではあまり聞かないですね」とのこと。

 

路上パフォーマンスは欧米などで盛んですし、海外版のちんどん屋があってもよさそうなものですが……。では音楽そのものの性質、または音楽のとらえ方のようなものが海外(特に欧米)とは違うのでしょうか?

山﨑さんは「ちんどん屋の音楽は『音楽』というより、『音』を楽しむことに近いかもしれません。もちろん純粋に音楽として楽しむ方も多いと思いますが、遠くから聞こえるお祭りのお囃子などを嬉しく思う感覚に近い気がします。音そのものを聞くことに喜びを見出している方々もいるのではないでしょうか」。

 

なるほど、お祭りのお囃子に近いというのはわかる気がします。私が見たちんどん屋の演奏も人の注意を引きつつ、まるで環境音のようにうまく周りに溶け込んでいました。場所に合わせて音量を調節するのはもちろんのこと、演奏する曲も季節に合うものを選んだり、リクエストに応えたり。街全体の雰囲気をつかみ、目に見えるところ以外の状況にも気を配りながら演奏をしているそうです。

ちんどん屋の未来

多くの宣伝メディアがひしめく中、ちんどん屋はこれからどうなっていくのでしょう。山﨑さんは「ちんどん屋は爆発的に多くの人に届く宣伝方法ではありませんが、地元密着型のお店には効果的です。SNSとも相性がいいので、これからも可能性はあるのではないでしょうか。ちんどん屋は今もあって、だれでも宣伝を依頼できることを知ってほしい」と話してくれました。

 

自分がちんどん屋に出会った体験から言うと、出会うとなぜかうれしくなる存在です。異世界からやってきたかのような外見に、細やかな気配りで人の心をつかむちんどん屋。またどこかで、ばったりと出会いたいものです。

 

年末大特集 2023年 TOP10記事発表

2023年12月26日 / まとめ, トピック

新型コロナが5類感染症に移行した2023年。「3年ぶり」「4年ぶり」という言葉を耳にすることも多く、大学でも対面の活動が本格的にもどってきました。「ほとんど0円大学」でも、昨年より対面イベントや学食の取材が増えたと感じます。そんな2023年によく読まれたのはどんな記事でしょう? 年末恒例の年間ランキング<トップ10>をお届けします。

※年間PV数(閲覧回数)によるランキング

10位|関東学院大学×有隣堂コラボのカフェ「BACON Books & cafe」がオシャレすぎる!

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関東学院大学が横浜の老舗書店・有隣堂とコラボしたブックカフェ。有隣堂の選書チームが選んだ本が並ぶおしゃれ空間で、パティシエが作ったスイーツや良質なお肉を使った料理、さらにクラフトビールなどのお酒も味わえるそう。これはパラダイス。

 

記事はこちら!→ 関東学院大学×有隣堂コラボのカフェ「BACON Books & cafe」がオシャレすぎる!

 

9位|カラフルに光る新種鉱物、実は見過ごされてきた存在だった? 「北海道石」研究チームの石橋隆さんに伺った。

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2023年5月に発見された新種鉱物「北海道石」。紫外線を当てると、きれいな蛍光カラーを放ちます。鉱物の新種とはどういう概念か、なぜこのような色になるのか? 研究チームのお一人に話を伺いました。

 

記事はこちら!→ カラフルに光る新種鉱物、実は見過ごされてきた存在だった? 「北海道石」研究チームの石橋隆さんに伺った。

 

8位|日本最大級の偽文書「椿井文書」とは? 大阪大谷大の特別展で実物を見てみた

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生成AIが一瞬で作る画像や文章に「ここまでうまくできるの?」「著作権はOKなの?」と驚くやら、モヤモヤするやら。一方、こちらは気軽にコピペなどできない時代のニセモノを展示しています。ニセモノと指摘された時の抜け道づくりも、ぬかりなし。

 

記事はこちら!→ 日本最大級の偽文書「椿井文書」とは? 大阪大谷大の特別展で実物を見てみた

 

7位|ピアノは“女子のたしなみ”? フェリス女学院大学でジェンダーの観点からクラシック音楽を考える。

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モーツァルトやベートーベンなど、クラシック音楽の作曲家と聞いて思い浮かべるのは男性ばかり。男性がクラシックの主役だった背景には、どんな理由があったのでしょう。そして今はどうなっているのでしょうか。見過ごされてきたクラシック音楽とジェンダーとの関連に切り込みます。

 

記事はこちら!→ ピアノは“女子のたしなみ”? フェリス女学院大学でジェンダーの観点からクラシック音楽を考える。

 

6位|東京駅直近の博物館「インターメディアテク」で骨格標本作りについて聞いてきた

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東京大学総合研究博物館と日本郵便株式会社が協働運営する博物館、インターメディアテク(IMT)。この一角で骨格標本を製作している中坪啓人さんへのインタビュー記事です。なかなか知る機会のない骨格標本づくりの工程やこだわり、この仕事との出会いまで、くわしくお聞きしました。

 

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5位|東大駒場Ⅱキャンパスに誕生した新たな形の学食「ダイニングラボ・食堂コマニ」

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食材へのこだわりはもちろんのこと、ランチタイムに15分ほどの研究紹介が行われることもあり、居合わせた誰もが参加可能とのこと。一般の人も気軽に参加できる大学ならではの取り組み、とても魅力的です。

 

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4位|“カワイイ”と感じる音がある? 音とイメージが結びつく「音象徴」という現象について、関西大学の熊谷学而先生に聞く

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パ行はカワイイ感じがするなど、音が何らかのイメージを喚起することってありますよね。なぜ音からそうした印象を受けるのでしょう? 音とイメージのつながりについて、言語学の先生にお聞きしてみました。

 

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3位|使い勝手抜群の大阪公立大学のカフェ&レストラン「野のはなハウス」で優雅なランチタイム

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2022年4月に誕生した大阪公立大学内のカフェ&レストラン。運営する社会福祉法人は農業も手がけていて、収穫した野菜がこのレストランでも使われているそう。野菜たっぷりでこのお値段。近隣の方がうらやましい!

 

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2位|珍獣図鑑(18):省エネだけど意外に大胆! ナマコの生き方「なまこも~ど」のススメ

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海の底でのったりと横たわっているイメージのナマコですが、ストレスを感じると自分の内臓すら捨てて逃げるそうです。マネすることはできませんが、ストレス対処の心得として、ある程度参考にできれば……。

 

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1位|中央大学の学食「ヒルトップ食堂」でご当地グルメ・八王子ラーメンを食べてきた!

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いや~、おいしそう。表面に浮いている天かすのようなものは、背脂だそうです。「ヒルトップ食堂」は4階建ての建物で、1階から4階までの全フロアが飲食店。食べ盛りの学生さんの胃とココロをがっちりつかんでいるようです。

 

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*  *  *

 

今年は、学食レポートがトップ10に復活したのが特徴的。学食レポート4記事がランクインし、1位はラーメン! やっぱり食はすべての基本ですね。来年もおいしく食事がいただけますように、そしていろんな活動を楽しめますように。どうぞよい新年をお迎えください!

 

<ご参考> 過去のランキング

2022年版2021年版2020年版2019年版2018年版

 

阪大ワニカフェで体験! 自分らしい人生を送るための「演劇で考える人生会議」

2023年11月9日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

全人口の4人に1人が70才以上という日本。老いを身近に感じている人は多いかもしれません。

今回注目するのは、人生の「もしも」のときの医療やケアなどの希望を前もって考え、身近な人と共有するという「人生会議」。これを、演劇を通じて考えるという大阪大学発の対話イベント「阪大ワニカフェ『演劇で考えるACP(人生会議)』」が行われ、足を運んでみました。人生会議というテーマに加え、それを演劇で考えるという点も気になります。どんな内容なのでしょう。

 

「阪大ワニカフェ」は、大阪大学の研究者・専門家が地域の方々と対話し、様々なトピックについて一緒に考えるというイベントです。今回参加したのは20代~80代の約30名。ワニは大阪大学のマスコットキャラクターにちなんでいます。

「阪大ワニカフェ」は、大阪大学の研究者・専門家が地域の方々と対話し、様々なトピックについて一緒に考えるというイベントです。今回参加したのは20代~80代の約30名。ワニは大阪大学のマスコットキャラクターにちなんでいます。

カフェの名の通り、参加者にはお茶やコーヒーが振る舞われてリラックスした雰囲気。

カフェの名の通り、参加者にはお茶やコーヒーが振る舞われてリラックスした雰囲気。

「縁起でもない!」波乱の幕開け

この日は寸劇から始まり、ミニレクチャー、演劇の手法を使ったメインワークと対話という流れです。ゲストは劇作家で演出家、京都大学経営管理大学院特定准教授の蓮行(れんぎょう)さんと、蓮行さんが率いる劇団衛星のみなさん。蓮行さんは演劇公演のほか、演劇教育、コミュニケーションデザインの専門家として、企業や学校などで演劇の手法を用いたワークショップを多数行っています。

蓮行さん(中央)。寸劇を演じるのは劇団衛星の黒木さん(左)と紙本さん(右)。

蓮行さん(中央)。寸劇を演じるのは劇団衛星の黒木さん(左)と紙本さん(右)。

 

寸劇はこんな内容です。家で編み物をしている母親のもとに、娘が仕事から帰宅。娘は、職場の人のお母さんが急病で倒れ、人工呼吸器をつけるかどうかなど重大な判断を迫られて大変だったらしいと話し、「人ごとではないから、お母さんにもしものことがあったときのことを話したい」と持ちかけます。

すると母親は「縁起でもない!」と拒否反応。言い合いになってしまい、ついには「もういい! そうなったら、その時に考える、それがお母さんの人生や」「早く寝なさい」と話を打ち切ってしまいます。

 

いかにもありそうな展開に会場は大笑い。ここで演じていた2人はいったん役を離れ、なにやら話し合いをはじめます。「『人生会議』って、人生の終盤のことばかりではなく、好きなことや今大切にしていること、もしものときのことを身近な人に話しておこうってことよね」。

寸劇を演じた二人

寸劇を演じた二人


そして、再び親子の会話にもどります。「今、お母さんの好きなことって何?」と娘に聞かれた母親は、好きな編み物のことや、家族と美味しいものを食べたいこと、これからのことなど穏やかに話して会話が進んでいきます。リアルで自然なやりとりに引き込まれているうちに「へぇ、人生会議ってそういうことか」ということがわかる内容です。

人生の「まさか」に備える

続いてはミニレクチャー。人生会議について解説してくれたのは箕面市立病院 病院長の岡義雄先生です。外科医としてがん患者の治療にあたってきた岡先生は人生会議の大切さを痛感して、こうしたイベントや講座などで人生会議の普及に取り組んでいます。

岡先生

岡先生

 

人生会議はもともとアドバンス・ケア・プランニング(ACP;Advance Care Planning)といい、日本ではより親しみやすいよう、人生会議という愛称がつけられています。

 

人生のもしものとき、例えば手術で救命が困難になったときなど、本人の意思を確認できないまま人工呼吸器をつけるかどうかの選択を家族が迫られるような場合があります。家族の意向で延命したとしても本人はそれを望んでいなかったかもしれず、家族は「この選択でよかったのか」と長く引きずる可能性もあると岡先生は言います。

また別のケースで、ピアノを弾くことを生きがいとしている人が病気の治療によって指のしびれが出るとしたら、生きがいを失うことになりかねません。

「『まさか』はまだまだ先のことと考えがちですが、それは突然やってくること。防災でふだんの備えが大切なように、生きがいや希望すること、してほしくない治療などについてもふだんから身近な人と話して共有することで、望んでいた医療・ケアを受けることができます」(岡先生)。

 

どのような医療やケアを受けたいかは、その人が「どう生きたいか」ということでもあります。そのため人生会議(ACP)で話し合うことは医療のことばかりではなく、生きがいや、その人が大切にしていることなども含みます。

 

配付資料より

配付資料より

 

「行きたいところ、お金の心配、飼っているペットをどうしようといったことなど、お茶を飲みながら気軽に話をしてもらえたら。なにげない日常会話でも、または人が集まるお盆や正月などで話すのもいいですね」。

 

考え方は変わっていくことがあるため、人生会議は一度きりではなく、くり返し話してアップデートすることも大切だそうです。「元気なときから、まずは気楽に始めてほしい」と岡先生は強調しました。

 

配付資料より

配付資料より

 

メインワーク お茶の間「人生会議」

うーん、人生会議ってそういうことだったんですね。理解が深まったところで、いよいよ演劇のメインワークです。

舞台は自宅のお茶の間。家族の一人が「もしものことを相談したい」と人生会議をついて切り出す設定です。

配付資料より

配付資料より

 

配付資料より。ご先祖様は現世の二人には姿が見えないという設定。

配付資料より。ご先祖様は現世の二人には姿が見えないという設定。

 

上の資料のように3人一組で人生会議を行おうという内容。全員が3つの立場すべてを体験できるよう、役を替えながら合計3回行います。

 

登場人物の年齢は各チームでカードを1枚引いて決めます。人生会議を切り出す人は引いたカードの数字の8倍、切り出される人は4倍の年齢というルール。例えば写真(7のカード)の場合、(7の8倍で)56才、(7の4倍で)28才という組み合わせになります。

登場人物の年齢は各チームでカードを1枚引いて決めます。人生会議を切り出す人は引いたカードの数字の8倍、切り出される人は4倍の年齢というルール。例えば写真(7のカード)の場合、(7の8倍で)56才、(7の4倍で)28才という組み合わせになります。

 

ちょっと緊張してしまいそうですが、参加者どうしで視線や言葉をかわすアイスブレークも行われ、和気あいあいとした雰囲気。

1分間の役づくりの後、「ピンポンパンポーン♪」「極楽放送局なんじゃ~。君たちの孫やひ孫が大事な話をしようとしてるんじゃ~」と、思わず力の抜けてしまいそうな蓮行さんのアナウンスでワーク開始です。

はてさて、どんな会話が繰り広げられるのか?

「ただいま~」「今日は何してたの?」。冒頭の寸劇は、このワークのひな型にもなっていたようです。

「ただいま~」「今日は何してたの?」。冒頭の寸劇は、このワークのひな型にもなっていたようです。

 

身を乗り出して真剣な表情で聞き入ったり、笑い声が上がったり。自分自身のこと、身近な人のことを思い浮かべながら、話し合いが進んでいる様子です。

ワーク後は「まさに自分の現実そのままだった」「もしものことがあっても、延命治療などせずに天命を全うしたい」「まだ早いと思っていたけど、準備をしておかないといけないと思った」などの感想が交わされました(中には「じいさんと同じ墓には入りたくない」などの発言も……)。

 

3つの立場すべてを体験した後は「若い方から話を切り出すのは難しいけど、年齢の高い方にとっては身近で起こっていることなので切り出しやすい」「改まってというよりも、日常の延長のような感じで話すと若い人も受け入れやすいのでは」などの声が聞かれました。人生会議をシミュレーションすることで、さまざまな気づきがあったようです。

「介護のことなど、なるべく細かく決めておいた方がいい」など、体験にもとづいたアドバイスも交わされていました。

「介護のことなど、なるべく細かく決めておいた方がいい」など、体験にもとづいたアドバイスも交わされていました。

 

話は尽きない様子でしたが、メインワークと対話はこれにて終了。「今回は三者(話をする人、される人、見る人)のロールプレイング。ぜひ家庭や職場、地域にこのやり方を持ち帰って、やってみていただければ」と蓮行さんがしめくくりました。

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蓮行さん

 

取材前はテーマの内容から「ちょっと重い話になるのでは」と想像していましたが、実際に見てみると率直で前向きに話し合える場になっていて、自分も参加者として話に加わりたいと思うほどでした。

日本ならではの親子関係

この後、質疑応答ではこんなやりとりがありました。80代の両親が老老介護だという参加者から「自分らしい死に方って何でしょうか」という質問があり、「自分の両親には自分らしい死に方を選んでほしいけど、それは子どもの立場からみると面倒なことかもしれない。自分自身は最期まで家で暮らしたいけど、自分の子どもに対しては(自分は)病院でいいと話している。自分らしい死に方と言いつつ、子どもにとって世話のしやすい死に方を選んでいるのではないか」という内容です。

これに対し、もと大阪大学の哲学の教授で現在は「哲学相談おんころ」の代表理事をつとめる中岡成文さんは「日本では自分の意思と誰かの意思とが融合してしまっているけれど、自分の意思の輪郭をもっとはっきりした方がいいのでは」と話し、「子どもに迷惑をかけたくないのはわかるけど、それが子どもにとってもいいことかどうかはわからない。子どもに聞いてみてはどうか」と提案。

別の参加者からも「親の子どもに対する遠慮は愛情からくるものだと思うが、本当の気持ちを伝えてもらった方が娘としては嬉しい」という意見が出ました。

 

また、大阪大学で ACP を研究している大学院生で看護師という参加者は「ACPが発祥したアメリカでは自己決定や自立を重んずるが、日本には異なる親子関係や家族の文化があり、それを切り離して自己決定、自立とは、なかなか言い切れないところがある。日本の文化に合ったACPがあっていいし、子どもに迷惑をかけたくないというのも自分の意思。家族でしっかり話し合って決めていくことが大切ではないか」。

 

親と子それぞれの思い、個人の意思を重視する考え方、さらに日本に特有の親子関係にも踏み込まれていて、とても共感できるやりとりでした。

* * *

 

この日は参加者の意欲の高さに加え、ワークの内容や全体の進行がとてもうまく組み立てられていたという印象を受けました。終了後、蓮行さんにお聞きしたところ、今回はテーマがデリケートなだけに話が深刻になりすぎて参加者にトラウマが残ったりしないよう、寸劇やワークの内容、進行などに細心の注意を払っていたとのこと。人生会議をテーマとした演劇ワークを行うのは今回が初めてで、半年もの準備期間があったそうです。

「演劇は完成した作品を楽しむだけではなく、演劇を作るプロセス自体が今回のような場や教育の場面でも非常に有用」と蓮行さん。そのことが実感できるイベントだったと思いました。

岡先生は「演劇というスタイルがいろんな世代の人にうまくかみ合ったのでは」とふりかえり、「今回のワークを通じて ACP を理解し、少しでもやってみようと思っていただけたら今日の目的は達成されたと思う。ぜひお茶の間に広まってほしい」と語りました。

 

筆者も身近な人の老いに直面する場面が増え、戸惑うことや心配ごとが多くなりました。今、大事にしたいことや、これから先どう暮らしたいかなどについて、気軽に、でも今までよりも少し意識して話してみたいと思いました。

 

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