自慢要素ゼロ、情緒を揺さぶる新感覚のブランディング広報のかたち。
日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第24回目となる今回は、甲南女子大学が発行するWebマガジン「シーソー」を取り上げます。
甲南女子大学は神戸市東灘区に本拠を構える女子大学。1920年に「甲南高等女学校」として創立され、2020年には100周年を迎えました。
甲南女子大学といえば、神戸の街を一望できる立地と、建築家・村野藤吾による白亜の学舎が印象的です。市街地とは違う落ち着いた空気と時間が流れている、独特の魅力をたたえたキャンパス。その空気感を「エモい写真」と「飾らないことば」で切り取っているのが、今回ご紹介するWebマガジン「シーソー」です。
「シーソー」のサイトコンセプトは“曖昧に揺れてる私の、未来を見つけるキャンパスマガジン”。近年さまざまな大学が取り入れている「オウンドメディア ※」的なサイトです。高校生にも身近なモノゴトを話の入り口にして、学生・教員がそのテーマを楽しみながら深めている様子が紹介されています。例えば、「モテるためのメイク」と「私らしいメイク」をめぐる流行の変化を教員が紹介する記事や、K-POPにハマったことをきっかけに学びと将来が広がった学生の話など、興味をもっていなかった話題でもするすると読み進められる記事内容は、さすがとしか言いようがありません。
※オウンドメディア(Owned Media)…「自社・大学等で保有するメディア」の総称。主に自社・大学等で運営・情報発信を行うウェブマガジンを指す
動きのあるデザインは、スマホでも見やすい
甲南女子大学の公式サイトをのぞくと、ほとんどのコンテンツが自学の優位点をさまざまな形でアピールしています。そのなかで「シーソー」だけは、キャンパスと学生・教員の日常の雰囲気、情緒的な価値を伝えることだけに振り切っています。「どうです、すごいでしょう?」という大学のアピール要素を注意深く避け、あえて押し付けないことで、いきいきと「学びを遊んでいる」姿を印象づけることに成功しているように思います。
ことばも写真も、自然なトーンでまとめられている
さらに、キャンパスの雰囲気や情緒を伝えるために、サイトの構造やデザインにも工夫が凝らされています。PC版のサイトは、ページの半分をビジュアル表現に割いてイメージを印象付けていますし、マウスを追いかけるポインターは、クリックできるコンテンツに触れると緑色の丸がふわっと広がる遊び心のある動きをします。また、写真投稿コンテンツには、マスクをした友人が振り向いた瞬間や、電車の窓から差し込む光と陰を切り取った写真などが並び、在学生たちの等身大の日々が浮かび上がります。あくまで雄弁には語らず、自然体の姿で感じてもらって感情を揺れ動かす、新しい広報の形だと思いました。
普段の景色だからこそ伝えられる情感がある