徹底した地域志向を人物の声で伝える一冊。
日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第26回目となる今回は、高知県立大学が発行する「Pin+(ピント)」を取り上げます。
女子大学を前身として、2011年に男女共学化して誕生した高知県立大学。「域学共生」という理念を掲げ、地域に出かけ、地域の営みや人々の生活を理解し、課題を分析する実習を全学必修科目とするユニークな教育を取り入れています。この高知県立大学の広報誌「Pin+(ピント)」は、2015年に発刊されて以来、表裏両方を表紙とするスタイルを継続。表面を教員、裏面を主に学生が飾る両A面の表紙で、大学を構成する人の魅力を伝えています。
現時点の最新号は、2021年11月発行のVol.23。今回の巻頭特集は高知をフィールドとした地域志向の学術研究を取り上げています。教員の方々が語るテーマは特別支援教育、福祉、食と防災など、どの地域にも通じる今日的な内容ですが、高知県においてどのような状況であり、何が解決課題なのかを探る内容となっています。
高知県は東京や大阪といった都市部から遠く離れ、山間部が多くを占める地域です。筆者も高知県出身なのですが、人口構成や産業構造などの社会事情が都市部と大きく異なっていることを実感します、一般論が適用しづらい地方だからこそ、地域に根ざした学術研究の重要性は高いと思いますし、その成果を広報誌で発信する意味も大きいと感じます。
学術研究で明らかになった高知県の実情と課題を紹介
「Pin+(ピント)」の後半ページでは、Vol.21から「あの人にピント!」という人物紹介の企画を連続掲載中。1回目はコロナ禍で学びをいかに継続しているか(遠隔授業)、2回目はコロナ禍で学生はどのようにキャンパスライフを送っているか(課外活動)、そして3回目の今号では、コロナ禍に負けず地域活動や実習に取り組んだ4回生の体験談を取り上げています。未だにコロナ禍の先行きが見通しにくい中、学生や教員がコロナ禍の活動を自分ごととして具体的に語っているので、読み物として面白いコンテンツになっていると思います。
学外の関係者からのコメントがリアリティを高める
高知県立大学のサイトにある理念・使命・方針のページを見ると、「地域」というキーワードが何度も登場します。立地する地域にとってなぜこの大学が必要なのかを明示し、その理念に基づく取り組みを学生・教員の言葉で発信する。届けたい相手を明確にして、王道的なアプローチを継続して行っている広報誌だと思います。表紙に教員の写真、裏表紙に学生の写真をレイアウトしているのも、人を通して伝えるという編集方針の表れなのかもしれません。ただ余計なお世話かもしれませんが、表紙に学生をもってくる方が、大学の特性や活気をより印象付けられるのでは…、とも思いました。
教員と学生が毎号両A面の表紙を飾る