ほとんど0円大学を通じて、大学事情(主に日本)を知っていくなかで、改めて『学ぶ』ことの大切さを実感する筆者。大学でろくに勉強せず、遊び歩いていたがいちおうみてくれ社会人となって早十年。改めて大学について調べだすと「もっと真剣に学んでおけばよかった」と思ったりもするようなしないような。『私と大学』の話は需要がないので、ここら辺にして。遊び歩いた先に行き着いたところがある。それが“ベトナム社会主義共和国”。今回ご紹介する日越大学がある国である。
日越大学を取り上げた理由は、ベトナムで唯一日本が開講から運営まで携わっている大学機関だからだ。日越大学を調べていくなかで「日本の大学機関との違いはないか」知りたくなった。お話を聞きたい方…。すぐに浮かんだのが約4年前ハノイで働いていた際に知り合った日本人研究者日野喜文先生である。
取材を依頼したところ、「私は研究者として日が浅いうえに研究地域がベトナムではないから他の先生を紹介します」と丁重にお断りをいただいた。ふつうは…空気を読むところだが、筆者はどうしても若手で海外へ飛び出しキャリアを模索する日野先生にお話をお聞きしたかった。ということで、ご無理を言って今回オンラインでの取材をさせていただけることになった。筆者がリサーチしたベトナムの大学院事情を踏まえながら、“ベトナムならでは”の大学院事情をみなさんにご紹介したい。
【発見➀】日本とは異なる研究室事情
日越大学内にある図書館。
まずは日越大学の紹介を簡単にしたい。
日越大学は、ベトナム国家大学ハノイ校の7番目の大学として、日越両政府が援助し、日越の架け橋となるグローバルな人材を輩出することを目的として2016年秋に開設された。東京大学や横浜国立大学をはじめとする大学が幹事大学となり、カリキュラムやプログラムを作成している。地域研究、公共政策、企業管理(MBA)、ナノテクノロジーといった8つからなるプログラムは、各プログラムに一大学が幹事大学として協力する体制で修士論文などのサポートまで行っている。
日越大学に在籍する日本の常勤の教員数は現在13名である。日本とベトナムの教員の内訳は、半々であり授業や修士論文の指導はすべて英語で行われている。日野先生が教鞭を執る企業管理(MBA)のプログラムでは、国際ビジネスに求められる経営学全般の知識をはじめマーケティング、経営戦略、日本型マネジメントなどグローバル化に適用するための実践的な授業を行っているという。
それでは本題へ。
まずひとつめの発見!
“大学には研究室は存在しない”
日越大学には各教員専用の研究室というものは存在しない。実は、これはベトナムでは珍しいことではなく、一般的な大学でもプログラムのオフィスや教室、公共の場や指導教員の自宅などを用いて論文の指導が行われる。例えばハノイ国家大学の日本語学科では、教員の部屋はひとつしかなく、学生の指導もそこで行っている。まるで日本の学校の職員室のようだ。
「日越大学の企業管理(MBA)プログラムには研究室はありません。プログラムの部屋はあるので、学生の指導などはそこで行っています。2年次から修士論文の指導が開始されます。日越大学では、役職によって受け持つ学生数に制限があります」。日野先生は現在3名(最大上限数)を担当している。形態としては日本・ベトナム人教員2名体制で論文指導が行われ、各幹事大学(企業管理プログラムは横浜国立大学)へ4ヵ月の短期留学を通じて、日本国内で直接指導を受ける機会を設けている。今年は新型コロナの影響でオンラインでの指導を行っているという。
幹事大学である横浜国立大学にて。左から日野先生、日越大学の企業管理プログラムのディレクター Lien先生、横浜国立大学の長谷部学長、日越大学の専任教員Hanh先生(取材時。2020年10月にFPT大学に移籍)、日越大学のプログラムアシスタントのHuong さん
【発見②】大学院進学者は就業経験を積んだ人が大半?!
ふたつめの発見!
“学生のほとんどが社会人経験がある”
企業管理プログラムの学生の内訳を聞いてみたところ、在籍する学生の大半は、就業経験を積んでいる。修士課程のコースはほとんどの大学でフルタイム(日本でいう全日制の大学)ではなくパートタイム(日本でいう定時制)を採用しており、働きながらや子育てをしながら通う学生が多いという。ちなみに、日越大学の修士プログラムはすべてフルタイムで設置されている。
「今年は、ベトナムにある外国資本の企業で、10年近くマネージャーをしている学生も受け持っています」。学部からストレートに進学する学生は稀で、外資や日系企業などで就業経験を積み、さらなるキャリアアップを目的として、進学している学生が多い。また、博士課程への進学については、文系ではどの分野でも珍しく、理系分野がほとんどだそうだ。
学生の様子について伺ったところ、「学生はとてもやる気があって魅力的です」と率直な感想をいただいた。日本から来たほかの先生たちとも、学生が非常に積極的に意見を言ってくれるので授業をやるのが楽しいと話しているという。
【発見③】「変わる」ことは当たり前
最後の発見!
“日本とは違う『変更』に対する考え方”
日本では珍しいことだが、ベトナムの大学では授業の時間割が数日前~1週間前に変更することはザラにあるそうだ。
「ものごとの進め方は、個人によってまちまちです。どこまでなら許容されるのか、制度的に決まっていないことも珍しくありません。そのため人が変わるとルールも変わり、対応してくれる人が変わると前までOKだったものが次の年にはNGになることも多いです。また、ベトナムでは人の移り変わりも非常に早いです。色々準備をしても次の年にはその人がいなくなり、それが役に立たなくなることもあります」
あと1年少々で企業管理(MBA)プログラムの専門家としての任期を終える日野先生。今計画していることは、その臨機応変な環境においても後任者が持続して継続できるシステムづくりだという。
「現在関わりのある日本の企業と関係継続の構築を考えており、そのためにも来年は企業とMOU(国際交流協定)を結んだり、何らかのかたちで日越大学と企業とのコミットメントを強くしたいです」。任期終了まであと1年少々。日野先生の決意をお聞きすることができた。
いろいろと有意義なお話が聞けましたので、整理してみましょう。
ベトナムの大学院では、➀研究室があるのは非常に珍しい②大学院進学者は社会人経験者がほとんど③日本よりも臨機応変さが求められる環境だということがわかった。③に関しては、ベトナムの社会システムが露呈しているといえるのではないでしょうか。➀と②に関しては、その背景が気になるところ。(次回に続く…?!)
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2020年秋から学部コースも開設するという日越大学。さらに、ベトナムの産学官の科学技術拠点として整備されたホアラック・ハイテクパーク(HHTP:Hoa Lac Hi-Tech Park)のベトナム国家大学ハノイ校の敷地内にキャンパスを建設予定だという。
今回は日野先生のご協力により、日越大学を事例にベトナムの大学院事情について知ることができたました。
「へぇー、はじめて知った」そんな感想がもらえたら…よろこびます。